自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第45話 久しぶりに登校したら、後輩が現れた

 2月に入り、驚異的な回復力で傷を癒して退院した俺は、久しぶりの通学路を歩いていた。学年末試験のことを考えると憂鬱だが……帰ってきたな、とも思う。死んでしまえば登校すらできなくなる。朝の通学路をダルそうに歩く一歩は、生きていることを証明する一歩でもあるのだ。

 

「大丈夫? 重くない?」

「大丈夫だって、もう治ったんだから」

「本当に? 辛かったら持ってあげるよ?」

 

 隣にはもちろん祐奈がいる。ちょっと過保護すぎる気がするけど、まぁ、祐奈は目の前で轢かれるところを見てたしな。仕方ないのかもしれない。

 

「いいって。逆にこれくらい持たないとリハビリにならん」

「……そう」

 

 どうしよう。なんかしゅんとしてしまった。これは……もしかして頼られたかった、とか?

 ……なにか持たせてあげるか。

 

「あっ、じゃあさ、これお願いできる?」

「ひろくんの、スマホ……?」

「ポケットに入れていると歩きづらくてな、邪魔だから持っててくれ」

「……! うん!」

 

 嘘である。ポケットにスマホが入っていたところで、邪魔になんかならない。それに、もし邪魔なら通学用のカバンに入れればいいだけの話だ。わざわざ誰かに持たせる必要はない。

 

 だけど、ここは祐奈の要望に応えるため、俺はポケットからスマホを取り出して渡す。新しく買ったスマホケースについてあるお揃いのキーホルダーが揺れている。受け取った瞬間、祐奈の花が咲いたかのような笑みを見せてくれた。

 ……これを見ると、嘘をついた罪悪感とかはどうでもよくなるな。それに、今までも人を傷つけない程度の嘘はたくさんついてきているし。罪悪感、なんて今更過ぎる話かもな。

 

「あ、先輩っ! おはようございます!」

「おはよう……って、関口!? どうしてここに?」

「翼ちゃんの受験はもう終わったからね。学校も自由登校になったんだよ」

「あー……確かにそうだったかも……?」

 

 少し先の角から突如として現れた私服の後輩に驚いてしまった。彼女が着ているフリフリのスカートはやはり短め。大寒の時期だから寒いだろうに……。そういえば、前に祐奈が女の子のおしゃれは我慢の連続って言っていたな。ここまで我慢しなくてもいいと思うが。

 

 そんな短めのスカートのことなんか気にしていない、という感じで関口が走ってきた。あの病室での一件もあって、揺れるスカートに目がいってしまいそうだ。でも、ここは何とか抑える。今は隣に祐奈がいるのだ。変態だとか絶対に思われたくない。

 

 ……いや、もう手遅れか。クリスマスデートの勝負下着と匂い好きという話でもう変態とか思われてそうだ。俺もタイムリープ出来たら……なんて、無理か。これは俺の本能なのだから。本能は何度やり直したって変わらないだろう。

 

 雑念が入ってしまったな。2人にバレる前に心を落ち着けないと……!

 

「心頭滅却、心頭滅却……」

「祐奈先輩もおはようございます! で……先輩はどうしちゃったんですか? なにやらブツブツ言ってますけど」

「翼ちゃんが短いスカートをフリフリさせたからね。必死に落ち着こうとしているんじゃない? 興奮しちゃったのが私にバレないように」

 

 バレてんのかい。ならもう意味ないじゃん、これ。

 

「あ、あー……そう、ですよね。えへへ……。大丈夫ですよ、先輩。私のせい、なんですから」

「……? 翼ちゃんのせい? なにかあったの?」

「あのですね、病室で1回だけスカートをたくし上げちゃいまして……。それがミニスカートだったので多分……」

「おい、それ言っちゃうのかよ!」

 

 興奮、という言葉に顔を赤くした関口がとんでもない暴露をしてくれやがった。口止めとかはしてなかったけど、恥ずかしすぎて関口もそうそう口外できないと思っていたのに。不意打ちに弱すぎやしないか?

 

「ふーん……そんなことしてたんだ、私が知らないところで」

「あぁ、いや、違……わないけど! でも、違うんだ」

「いいよ? 別に。翼ちゃんとなら良いって前言ったじゃん。……私だってそんなことしてないけど」

 

 嘘つけ。どこも良さそうに見えないぞ。フグみたいに頬を膨らませて、唇を尖らせている奴のどこが大丈夫なんだ。

 

「あぁ、でもですね! 先輩が止めてくれたので痴女にならずには済みましたよ!」

「…………たくし上げた時点で痴女じゃないの……?」

「そ、そうかもです……。ごめんなさい……」

 

 不機嫌そうな祐奈からの冷静なツッコミが光る。実際その通りだしな。下着が見えようと見えまいと、たくし上げた時点で痴女でしかない。これを機に反省してほしいところだ。

 

「祐奈……」

「ふんっ、ひろくんなんて知らないっ!」

 

 何とかして機嫌を取ろうと、とりあえず話しかけてみたが……これはちょっと時間かかりそうだな。それでも隣を歩いてくれるあたり、俺のことが嫌いになったとかではなさそだけど。

 

「もしかして、私……何かやっちゃいました?」

 

 やってるよ。ものすごく。

 

「いや……大丈夫。関口はそのままでいてくれ」

 

 まぁ、今回のことは不問にしてあげよう。こういうところもこの後輩のかわいさだし。先輩として、見ていて飽きない。

 

「そういえば、入試の手ごたえはどうだったんだ?」

「あ、聞いちゃいます? 完璧ですよ、完璧! あれは絶対合格してますねっ!」

「まじか! そりゃ良かった! ずっと頑張っていたもんなぁ」

 

 夏休み中だけでなく、学校が始まってからも俺の部屋で関口は勉強を頑張っていた。俺が知っているだけでもものすごい勉強量だったはず。結果は量で決まるわけじゃないが、量がなければ結果はついてこない。その努力が報われそうで本当に良かった。

 

「でもっ! これは教えてくれた先生のおかげでもあるよな! な!?」

 

 関口にアイコンタクトをする。当然、不機嫌な祐奈を何とかするためだ。そうじゃなくても、彼女は関口の勉強にずっと付き合っていたのだ。今回のことが無くても、褒められ当たり前だ。

 

「そ、そうですよっ! 私、祐奈先輩がいなければここまでは無理でしたし! 本当にありがとうございますっ!」

 

 どうやらアイコンタクトは伝わったみたいだ。関口もフォローしてくれた。

 

(どうだ……?)

 

 ちらりと祐奈の顔を覗いてみると、彼女はかなり絶妙な表情をしていた。怒った表情なのは変わりないが、唇の端が少し上がっていたり、鼻が大きくなっていたりなど、顔のいたるところから嬉の感情を感じる。

 そんな喜怒哀楽のうち2つが同居している表情に、俺は思わず笑ってしまった。

 

「あー! 人が怒ってるのに笑った!」

「ごめんごめん。でも、祐奈は素直だなって思ってさ」

「褒めてるのかけなしているのかわからない!」

 

 祐奈の手に力が入る。俺のスマホを持っているんだからやめてほしい。それに、またそっぽむいちゃったし。せっかく関口が協力してくれたのに、もったいないことをしたな。

 

「あれ、そのスマホ……祐奈先輩のですか?」

「ん? あぁ、祐奈が持っているやつか。あれは俺のだけど、どうした?」

「えっ、そうなんですか? スマホケースは違いますけど、あのキーホルダーがついているから祐奈先輩のものかと……」

 

 確かに初見じゃわからないよな。ただ祐奈がスマホケースを変えただけに見えるのもおかしくない。

 でも、俺はあえて祐奈と同じスマホにキーホルダーをつけることを選んだ。その方が心のつながりを感じられるから。

 

「実はな、あのキーホルダー。俺が事故に遭ったとき、握りしめていたやつなんだ」

「……それにしては、どこにも傷がないですよね?」

「凄いよな。俺の身体はボロボロになったのに」

「ですねー……まるで、2人一緒だから守られたみたいで素敵です」

 

 2人一緒だから守られた、か。そう聞くとなんだかこのペアキーホルダーが凄いものに思えてきたな。ペアとくっついていると守られるなんて、カップルにうってつけじゃないか。それに、その効果は俺の事故で実証済みときた。これはものすごい縁起ものだぞ。

 

 まぁ、俺はフラれたんですけどね!

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