自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第46話 変わる、運命の輪

 久しぶりの授業が終わった。

 放課後のクラスメイト達はそれぞれの時を過ごす。本を読んで時間をつぶす人もいれば、教室の入り口で遊びの誘われ待ちをしてソワソワしている人もいる。無論、こういう人たちと俺はあまり関わりがない。俺、ぼっちだから。

 でも……入口に固まられるのはちょっと困るな。これでは帰れない。押しのけて帰ることも可能といえば可能だが、出来るのとやれるのは違う。あの人だかりの中に突撃する勇気なんて持ち合わせてはいないのだ。

 

「宏樹、久々の授業はどうだった? ついていけてないんじゃないか?」

「ふっ、あまり俺をナメるなよ。俺はしっかりと理解できたぞ」

「ま、まじか……あの宏樹が……」

 

 そんなことを思っていると、タツが声をかけてきた。こいつはあそこでたむろしている奴らと違って、放課後の遊びも苦労しないタイプ。だから、こうして俺に話しかける余裕があるのだろう。

 しかし、タツは俺のことを永遠の馬鹿だとでも思っているのだろうか。あのってなんだよ、あのって。いくら友達とはいえ、ひどくないか?

 ついていけていないと勘違いしている宏樹にとってはかもしれない残念が、それは違う。約1ヵ月も先生の話を聞けていなかったのだし、当然何もわからない……なんてことはなかったのだ。

 

 なぜなら——

 

「祐奈がしっかりと教えてくれたからな、受けてない分の授業内容はほぼ完璧といっていい」

「……なんだ、東川さんか」

「おい、それはどういう意味だ」

 

 タツは俺の追及には何も答えず、目をそらした。

 目をそらすだけで何も言葉は発していないが……こんなの誰でもわかる。沈黙こそが答えということだろう。祐奈が教えたのならついていけているのも納得、じゃねぇんだよ。失礼だな、全く。

 

「にしても、ひどい事故だったんだって?」

 

 ついでに話まで変えてきやがった。バカにしたことを謝ってないくせに。

 ……まぁ、タツは数少ない友人だし許してやるか。俺が友達多かったら明日の朝まで絶交するところだったぞ。

 

「そうだな、車に轢かれたんだよ。よく生きてたなって思うよな」

「車に、か……それって確か……」

 

 眉をひそめたタツに俺は頷いて答える。具体的なことは何も言っていないが、恐らく運命の日のことだろう。クラスメイトが周囲にいる状況では言えないし、こうしてぼやかすのも当然だ。

 

「そうか……。よし、宏樹。ちょっと付き合ってくれないか?」

「わかった、どこに行く?」

「屋上は……文化祭じゃないから使えないし、踊り場にしよう。そこならあまり人もいないしな」

「了解。じゃあ、行こうぜ」

 

 すでに帰宅の準備は終えていたので、俺は荷物を取って立ち上がる。入り口にはまだ人がいるが……1人じゃ勇気が出なくても、2人ならいける。そう感じた俺は入り口までタツと一緒に行く。

 

「すまん、ちょっと通してくれ」

「え? あぁ、ごめん。邪魔になってたな、俺たち」

「俺も通るぞ」

「……? おう」

 

 俺にだけ謝らないのはなぜだろうか。おう、の一言で済ませやがったぞ。クラスの人気者とぼっちの圧倒的クラス内格差を感じる。

 しかし、あの人だかりが2つに割れ、そこを進むのは気分がいいな。この程度で気分が良くなるのだから、海を割ったモーセはどんな感じだったのだろうか。脳汁がものすごい量出たのかもしれない。

 

 そんなこんなで、俺たちは教室から出て、踊り場へと向かった。

 

 

 ♢

 

 

 踊り場の壁に俺たちは寄りかかる。

 人が少ないだろうというタツの読み通り、誰かの足音すらも聞こえない。ここならどんな話をしても大丈夫だろう。

 

「宏樹、正直に言う。俺はお前が助からないと思っていた」

 

 開幕早々、タツがとんでもないことを言い出した。あまりの言葉の鋭さに様々な感情が一瞬で貫かれ、ただ茫然としてしまう。

 

「友人として……本当に申し訳ない」

 

 タツが深々と頭を下げる。固く握りしめられた彼の手からは後悔の念が感じられた。

 こうして初動で誠心誠意の謝罪をされると……こっちは怒るに怒れなくなってしまうな。……ま、最初から怒る気はなかったんだけど。

 

「頭を上げろ、タツ。お前の気持ちはなんとなくわかるから」

「……俺は友人失格な考えをしていたんだぞ?」

「いいから、ほら。さっさと上げろって」

 

 それでも頭を下げたままのタツ。さすがにこの体勢では話が進まないので、頭をつかんで無理やり上げさせる。

 

「おいおい、そんなに眉をひそめてたらせっかくの顔が台無しだぞ」

「…………」

「イケメンに生まれたんだから、それを汚すようなことはするな」

 

 顔を上げさせたタツは、教室の時よりも眉にしわが寄っていた。ここまでひどいと、跡がつかないか心配になるレベルだ。

 

「……タツがそう思うのも無理ないと思うぞ。だって、タイムループしているんだろ? それも、何回も」

「……あぁ、そうだ」

「そして、その全てで俺は死んでいた。この予想は違うか?」

「……………………」

 

 答えは沈黙。口にしたくないだけで、俺の予想は正しかったようだ。

 なんとなく、そんな気がしていた。もし、俺が助かるとしよう。その場合、何度もタイムループを繰り返しているタツがいるなら、わざわざ祐奈がタイムリープしなくたっていいはずだ。

 だが、現実は違う。祐奈はタイムリープをして、俺を助けようと必死になってくれている。つまり、タツは俺を助けられない、ということなのだ。

 

「でもさ、タツは俺と友達になってくれた。死ぬって思いながらも。どうして友達になってくれたんだ? タツにとって、死人と会話しているようなものだろ」

「宏樹との会話が楽しかったから、だな……。たまに突拍子もない考えをするし、一緒にいて飽きないんだよ」

「じゃあ、それでいいじゃないか。限られた期間内だけの友人関係、なんていくらでもあるだろ。それがちょっと早いだけで」

 

 例えば、中学。勉強にそこまで追われなかった中学時代の俺にはそこそこ友達がいた。でも、彼らとは今連絡を取っていない。最後に話してからまだ1年も経っていないのに、疎遠になってしまったのだ。

 こんな感じで、期間限定の友人なんてこの世にはたくさんいる。例え、それが死別だろうと関係ない。

 

「むしろ、そっちの方が嬉しいよな。死ぬことが分かっていながらも関わってくれるんだから。それほど俺に価値があったってことだよな」

「……まぁ、そうだな。何度ループしても、宏樹と過ごす1年間は楽しかった」

 

 何度死んでも、俺の友人になってくれる。これだけでいい。死ぬと思っていた、なんて最早どうでもいいのだ。

 

 …………あれ、死ぬと思ってた……?

 

「なぁ、話は戻るけど……死ぬと思ってたってどういうことだ? なんで過去形なんだ?」

 

 まだホワイトデーは過ぎていない。死の運命を避けられているかどうかはわからないのに。

 

「……それはだな、お前の事故が関係している」

「クリスマスに轢かれた事故が、か?」

「あぁ、そうだ。お前の事故を聞いた瞬間、俺は思ったんだ。宏樹は死んだんだなって。下手に運命を変えたせいで死期が早まったんだなって」

 

 確かに……そうか。運命は悪い方向に変わることもある。俺が海で溺れたことなんてその良い例だろう。本来経験しなくてもいい死の危機に陥るなんて、悪い変化以外何物でもない。まぁ、この出来事自体も運命を変えている、という解釈もできるけど。

 

「でも、宏樹はこうやって生きている。どういうわけか、ケガの治りも早かった」

「だな。どっちも奇跡的だ」

 

 あれだけ跳ね飛ばされて生きているのも、治療期間が半分になるほど傷が早く癒えたのも、全てどうやっても説明できない奇跡のようなもの。これはこれで、そういう運命だった、と言うしかないことだ。

 

「だから、俺は思ったんだ。もしかしたら、って」

「そうか、それは嬉しいな。俺は死ぬつもりないし」

「だろ? そこで、だ。俺はこのもしかしたらを絶対に変えたい。宏樹、俺に協力をさせてくれ」

 

 タツが手を差し出してくる。こんなの、俺の回答は1つしかない。差し出されたタツの手を、俺はしっかりと握った。

 

「んなもん、ダメなんて言うわけないだろ」

 

 祐奈と違ってごつごつとした手だが、そこには確かな力強さがある。

 タツが正式に助けになってくれたことで、死の運命を回避するために必要な何かが解き明かせたらいいな。

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