自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第52話 運命の日③

「……朝隈君、何の用だったの?」

 

 もうタツとはつながっていないスマホの画面を眺める俺に、祐奈の不満げな声が降りかかる。顔を上げると、唇を少しとがらせた彼女の顔がすぐそばにあった。

 いつもならドキッとするだろうが、今日の俺は一味違う。あれだけゼロ距離で密着していたのだ。キスだってしたし、少しは耐性がついている。それに、今気にすべきは祐奈との距離じゃないしな。

 

「いや、ちょっとよくわかんないんだよな。一日中くっついていてくれ、だってさ」

「……? どういうこと?」

 

 俺も祐奈も、タツのリクエストに首をかしげるばかりだ。

 

「もう1回聞いてみるか?」

「そのほうがいいかも。意味は分からないけど……重要なことかもしれないし」

「わかった。じゃあ、かけるぞ」

 

 スマホを操作し、タツの連絡先を探す。そして、電話番号をタップしてつながるのを待つこと数秒。タツの声が再び聞こえるようになった。

 

『もしもし、どうかしたか?』

「それはこっちのセリフだよ。一日中くっついてくれって、どういう意味だ?」

 

 祐奈にも聞こえるよう、スピーカーボタンを押す。

 

「あっ、朝隈君? 聞こえる?」

『ん? あぁ、東川さんか。そばにいてくれてるのならちょうどいい。そのままホワイトデーが終わるまでくっついていてくれ。それじゃ——』

「待て待て待て! 説明しろって言ってんだよ、こっちは!」

 

 タツはまたもや早口になって、電話を切ろうとしてきた。モテる癖して会話というものを知らんのか、俺の友達は。

 

『説明……はそうだな。確かにいるか』

「そりゃそうだろ。さすがに意味がわからんしな」

「私も理由は欲しいかな」

『……そうか。すまん、さっき思いついたせいでちょっと興奮していた』

 

 ふぅ、と、タツは小さく息をついて、

 

『運命には運命をぶつけるんだよ』

 

 どこか楽し気な雰囲気も感じる声で俺たちに告げた。

 

「運命には——」

「——運命をぶつける……? ……って、どういうことなの?」

『仲良いな、2人とも』

 

 あれだけ頭を下げた友人の運命の日だというのに、タツはやはり楽しそうだ。こんな時にふざけるような奴じゃないし、笑ってしまうほどこの案が完璧なのだろうか。

 

『つまりだな、運命を利用するんだよ。東川さんの運命を』

「私の、運命……?」

『そうだ。東川さんはこれから先も生き続けるという運命がある。だから、くっついていれば死の運命から宏樹を救い出せるはずだ』

 

 ……なるほど。言わんとしていることはわからなくもないな。祐奈を生かして俺を殺す、なんていくら運命でもかなり難しいだろう。あるとすれば急性の病気くらいだが……俺の体はいたって健康。命に係わる病気の前兆を感じたことはない。

 

 でも……

 

「それだったら他の人でもいいんじゃないか? なんか、人質とか生贄みたいな感じでちょっとな……」

「私は大丈夫だよ? ひろくんを助けるためだったら何でもするから」

『だってさ。宏樹、その言葉に今回は甘えるべきだ。それに、東川さんじゃないといけない理由もあるしな』

「なんだよ、祐奈じゃないといけない理由って。そんなものあるのか?」

 

 疑問が1つ解消されたと思ったら、また疑問が湧いて出てきた。今の話を聞くだけだと、正直な話、今日死なない人なら誰でもいいように思える。

 

『それがあるんだよ。東川さんは……替えの利かない人だからな。なにせ、世界初のタイムマシンを開発した人だからな』

「……あまりの偉業で運命も手出しできない、ってことか?」

『そうだ。ちなみにだが、東川さん。タイムマシンの開発資料とかってどうした?』

「確か……タイムリープする直前に全部消した気がする。悪用されるわけにはいかなかったし」

 

 平然と返す祐奈に、俺は驚きで言葉が出ない。研究なんて小学生の自由研究程度しかやったことないからよくわからないが、その資料を捨て去ることの重さは理解できる。それは、人生を賭して築き上げてきたものを自らの手で壊す行為だ。並大抵の覚悟がないとできるものではない。

 

『やっぱりな。東川さんは世界初にして——世界唯一のタイムマシンを発明した人。こんなにも替えが利かない人間は他にいない』

「待って! それは朝隈君も同じでしょ? 自動車の完全自動運転を実現したんだから」

『いや、俺は違う。俺がいなくても、いつか完全自動運転は完成する。俺はタイムループでその時期を早めたに過ぎない』

 

 少し残念そうな声が電話越しに聞こえる。

 

『でも、タイムマシンは違う。何度ループしても、そんな研究が行われていることすら俺は知らなかった。分野が違うとはいえ、研究開発をリードした俺がだぞ?』

「まぁ……誰にも言わずに1人でやってたしね」

 

 祐奈は澄ました顔をしている。空中でものを話したら下に落ちる、という話を聞いているかのような態度だ。

 どんだけ天才なんだよ、この幼馴染は……。俺、1教科だけでも祐奈に勝ったんだよな? 本当に、二度とない奇跡だったかもしれんぞ。

 

『さっきから黙っているけど……宏樹、東川さんじゃないといけない理由、わかったか?』

「え? あ、あぁ、わかった」

『なら、もういいだろ? 後は2人でくっついていてくれ。じゃあな』

 

 スマホに通話終了の文字が表示される。俺はスマホをしまい、隣にいる祐奈の手に恐る恐るつかんだ。

 

「くっつくって……これくらいでいいのか?」

 

 すると、祐奈はニヤリと笑った。なんだか嫌な予感がする。

 往々にしてそういった予感は当たるもので、俺の手を振りほどかないまま立ち……俺の膝の上に座ってきた。そして、手を祐奈のお腹の方に回す。ベッドに座りながらではあるが、これでバックハグみたいな体勢の完成だ。

 

「どうせくっつくなら、これくらいでしょ?」

「いや、さすがにくっつきすぎ——」

「私、ひろくんに生きていてほしい。だから、出来ることは何でもする。絶対離れないように密着していたいんだよ。……ダメ?」

 

 ……そんなことを言われて断れるわけない。恥ずかしいのは我慢するしかないか。まぁ、ここは俺の部屋。誰かに見られるわけでもないしな。

 

「わかった。じゃあ、これでいこう」

「やったー!」

 

 膝の上で飛び跳ねる祐奈。重くはないが、着地の衝撃で地味にダメージが蓄積してるからやめてくれ。

 

「でも、くっつくだけだと暇だね。外には出られないし、こんな状況じゃ、勉強もできないし」

「あー、じゃあ、ゲームでもするか? 祐奈は最近やってなかっただろ?」

「おっ、いいね! いい感じに時間を潰せそう!」

 

 時間を潰す、ねぇ……。そんなことを言っていられるのも今のうちだ。

 祐奈は俺と関口の勉強を見なきゃいけなくてゲームをやれていないかもしれんが、俺はたまにやってるんだ。継続は力なりとも言う。ブランクがある祐奈に負ける道理など、1ミリもない。

 

 ——さぁ、2勝目を取りに行こうか。

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