自称・未来人の幼馴染   作:千夏ケイ

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第55話 運命の日⑥

 映画の開始から数時間。膝の上に祐奈が座っている俺の目の前では、ちょうどラストシーンが流れている。

 主人公がヒロインに告白した後、返事も聞かずに顔を近づけていき……唇が重なる前に映画が終わった。

 

「……毎回思うんだけど、最後どうなったかは見せてほしいよね」

「いや、これだからいいんじゃないか」

「えぇ……? 結果がはっきりしていないのはちょっとムズムズするんだけど……」

 

 それは、祐奈が研究者だからじゃないか? わからないけど。

 

「あのな、結果なんてわからなくても、過程で人は楽しめるんだ」

「うーん……?」

「告白が成功したかどうか。キスをしたかどうか。色々ストーリーが考えられるしな」

 

 だからこそ、この映画の結末を考察する人は今でもたくさんいる。

 告白には成功したけど、キスはしていないという人もいれば、フラれたけどキスを強行し、主人公は逮捕されたなんて考察をしている人も見かけた。

 半分冗談もあるだろうが……他の人の考察を見るのはなかなか面白い。こういうのは、結末がぼかされないとできないことだ。

 

 ちなみに俺は告白が成功し、キスもした派の人間だ。最高のハッピーエンドこそこの世の至高だからな。

 

「……そっか。じゃあ、例えばなんだけどさ——」

「……ん?」

「私がひろくんからの告白に返事をしなくて、ずっと保留し続けていてもいいと思う?」

「それは話が違わないか……?」

「大枠は同じだと思うよ。どっちも結果がわかっていないんだし」

 

 ……納得はできない。絶対この2つは同じ話じゃないと思う。

 でも、祐奈に引き下がる様子はなさそうだ。だとしたら……答えは1つしかない。

 

「……嫌だな」

 

 告白の返事がもらえない。それは、次に進めないということを意味する。

 成功したら恋人関係に進むし、フラれても吹っ切れて次の恋へいけるようになる。

 返事がもらえなければ、それができない。あまりにも残酷な仕打ちだ。

 

「でしょ? だから私はちゃんとひろくんとは付き合えないって言ったんだよ」

 

 俺が入院中の話か。確かに、事故のせいでその場で返事を聞くことはできなかったが、返事を催促したらすぐにフラれたな。

 

「あの時、私は保留にすることもできたよ。だって、ひろくんが好きなのに、付き合いたいって思っているのに、それでもフるなんておかしいし」

「……確かに。ってことは、俺は次の恋に進めってこと?」

 

 俺がそう言うと、祐奈は後ろを振り向き、頬をつねってきた。

 

「そうは言ってない! 恋人関係になる怖さがなくなったら付き合うって言ったでしょ?」

 

 そして、目線を落とし、

 

「それとも、こんな面倒な女……ひろくんは嫌……?」

 

 震えた声で、ポツリと呟いた。

 

「もし、嫌になってたら言ってね。ひろくんが誰と付き合うのかを決めるのは、ひろくん自身——」

「嫌になんてなってない」

 

 消えていきそうな祐奈の声を遮る。

 

「祐奈が嫌になってるなんてありえんだろ。そんな人と俺の好きな映画を共有するわけない」

 

 映画は長い。始まったら、休憩なしで数時間ぶっ続けだ。そんなのを嫌と感じている人と一緒に見られるわけがない。

 

「……そっか、ありがとう」

「どういたし——って、んんっ……!」

 

 お礼を言おうとした瞬間、顔を上げた祐奈に唇を奪われた。

 

「ふふっ、ビックリした?」

「……するだろ、そりゃ」

 

 キスは本当に、何度やってもなれない。世の恋人たちはこんなものを日常的にやっているのか? 心臓が飛び跳ねて、最後には気が狂うぞ、こんなの。

 ほら、その証拠に今もぐうぅ……って心臓の音が聞こえている——

 

 ……ん? ぐうぅ……?

 

 この音、もしかして心臓じゃなくてお腹の……?

 

「……夜ご飯、食べよっか」

 

 思わず、お腹を見た俺に、祐奈の言葉が降りかかる。

 顔を見ていないからわからないが、きっと生暖かい目線で見られていることだろう。

 

「仕方ないよ、男の子だもんね。お昼ご飯がパンだけだと足りないよね」

「ま、まぁ……な」

「でも、ごめんね。ずっとこうしていなきゃいけないから、ご飯は作れないや」

「まぁ、火を使うのも危ないしな」

 

 それが原因で火事になったら目も当てられないし。

 

「カップラーメンがあるから、それでも食べるか」

「そうだね……うん、そうしよっか」

 

 家には電気ケトルがある。火を使わなくても、お湯は沸かし放題だ。

 そして、そのお湯だけで食べられるものといえば、カップ麺。お湯だけであれほどまでにおいしいものが出来上がるのは、もはや人類の英知と言っていいだろう。

 

 祐奈にバックハグをしたまま立ち上がり、キッチンへ行く。ケトルに水を入れ、スイッチを付けた。

 

「そういえば、俺はいつ死んだんだ?」

「……正確な時間は覚えていないけど、お昼ぐらい……だったかな」

「ってことは、少なくとも太陽は出てたんだな?」

「うん、そうだね。水族館に行くときだったから……って!」

 

 どうやら祐奈も気付いたらしい。目線がキッチンの窓に行く。

 その窓に映る光景は黒。太陽の光など感じない色だ。

 

「どうやら、1週目よりは長く生きたみたいだな」

「…………ほんと、だね……!」

 

 再び、祐奈の声が震え始めた。

 

「でも、安心はできないよな。タツの話だと、俺はどのループでも死んでたらしいし」

「……確かに、ね。時間帯まで、は、わかん、ないし……!」

 

 祐奈のお腹を締め付けている俺の手に、何かが零れ落ちた。

 

「でも……でもっ! ひろくん、夜まで生きていてくれた……っ!」

 

 ふと、俺の腕にかかる重みが増す。どうやら、祐奈は立っていられないようだ。

 まぁ、こういう時に支えてやるのが男ってもんだ。崩れ落ちないように、祐奈を支える。

 

「夜まで、じゃないな。俺はこれからも生きるつもりだ」

「……そっか、そうだよね。ひろくんは生きていてくれるよね……!」

「もちろん。運命なんてわけわからんものに殺されてたまるかってんだ」

 

 運命の定め、なんてどうでもいい。そんなものに振り回されたくない。

 

「……あ、じゃあ、あの飲酒運転の人はどうなったのかな……」

 

 しばらくして、涙をようやく止めてくれた祐奈がそう呟いた。

 

「飲酒運転……って、あれか。1週目で俺が死んだっていう」

「そう。ひろくんを奪った忌々しい飲酒運転。あれがあるから、私はずっとお酒を飲まなかったんだよね」

「いや、お酒は悪くないだろ。使う人が問題なのであって」

「それは違うよ! アルコールはとても依存性が高くて——」

「っと、飲酒運転がどうなったか調べるんじゃないのか? 1週目と同じようにやってたなら、夜のニュースにあるだろ」

 

 長くなりそうなので、飲酒運転の話題で祐奈の気をそらす。アルコールの危険性はまた今度にしてくれ。

 

「あ、そうだった。じゃあ、テレビで見よっか」

「その前に、お湯沸いたみたいだぞ」

 

 ケトルを見るとすでに電源が切れており、お湯が出来上がったことを教えてくれていた。

 

「そっか。じゃあ、カップラーメン食べながら見ようよ」

「そうするか。お腹空いたし」

「ふふっ、さっきお腹鳴らしてたくらいだもんね?」

 

 肘で脇腹を突いてくる祐奈。とてつもなく恥ずかしい。

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