Fate/Grand Order Relief 作:コードs³
感想、コメントを残して頂けると幸いです。
起
人を飲み込み、生きて返すことの保証がされない、まるで地獄の門のようなゲートの前に、少女が立っている。
着用しているのは謎の男から手渡され、着用して欲しいと懇願された白色の制服。
どうにかならなかったのか胸部のベルトは。
どうにもならなかったんだよ機能美だからね。
「それにしたって、説明さえも無しに強引に連れてくる
なんてひどい人だよね」
あの人に余裕は無かったんだろうけど。
目の前のタブレット端末を見ながら少女はそう呟く。
事前説明も無しに、誘拐同然で連れて行くような程に切羽詰まった状況だったのだから、仕方の無いことであるのは理解しているのだ。
だとしても何かしらの説明を求めていいだろうと、少女はそう思った。
「……多分、これに触れれば良いんだろうけど」
そういい、少女はそれに手を密着させる。
軽妙な音声が鳴り、それから二、三秒たった頃、スピーカーからアナウンスが独りでに鳴り始める。
『ーーー塩基配列 ヒトゲノムと確認。
ーーー霊器属性 善性・中立と確認。
ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。
ここは人理継続保証機関 カルデア』
(へえ、ここはカルデアって云うのか……
それに、人理継続保証機関? ってのは何だろう?)
少女の疑問を置いて、機械的にアナウンスは進む。
いや、アナウンスに人間性を求むべきじゃないのは理解しているのだが。
『指紋認証 声紋認証 遺伝子認証 クリア
魔術回路の測定……完了しました』
(魔術回路とかそういうのって、ファンタジー小説とか
ライトノベルだけじゃなくて、実際にあったんだ)
『登録名と一致します。
貴方を霊長類の一員である事を認めます。
はじめまして、貴方は今日 最後の来館者です。
どうぞ、善き時間をお過ごし下さい』
(……繻霞は、これを通ったのかな)
少女は共にここへと招かれた親友へと思いを馳せる。
黒い髪にパッチリとした目、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせる女性なのだ、彼女は。
『……申し訳ございません。
入館手続き完了まであと240秒必要です。
その間、模擬戦闘をお楽しみ下さい。
レギュレーション:プロフェッショナル
契約サーヴァント:セイバー アーチャー ランサー』
(……え)
レギュレーション:プロフェッショナル。
プロフェッショナルの意味は専門的な、専門家の。
とどのつまりは高度な訓練をされた者への難易度である。
少女が困惑するのも仕方が無い。
本来ならば初心者に課されるべきでない課題だ。このアナウンスを流している者は人の心が無いのだろう。
……或いは少女に対して明確な殺意や敵意があるのか。
『スコアの記録は致しません。
どうぞ気の向く儘に、自由にお楽しみ下さい。
英霊召喚システム フェイト 起動します。
240秒の間、マスターとして善い経験ができますよう』
シニアと比べて一分の延長は果たして温情か悪意か。
それを聞いたが最後、少女の意識は完全に暗転した。
目が覚めると、少女は草原にうつ伏せの状態になっていた。
先程まで、自分は雪の積もった場所の建物の中にいた筈だ。
だと言うのに、顔に当たっている草の感触も、身体に吹きつけるそよ風も、まるでそこに存在しているようである。
むくり、と少女は草原からゆっくり起き上がり、そのまま周囲を確認する。人影の無い、見渡す限りの草原が何処までも広がっており、気味が悪い。
「ここは?」
少女の声に応答は無い。というか、先程まで人が存在していなかった草原で応える存在がいる方が怖い。
「……不具合か何かなのかな、一向に誰も来ないし」
模擬戦闘が始まる事なく、ただ草原にポツンと立たされた少女はそう言った。
それがフラグだったのか、それを起点として目の前に三名の男女と、岩石でできた人型の構造物……ファンタジー小説でしか見たことがない、ロックゴーレムが召喚された。
「ロックゴーレム、か。ライトノベルでしか見たことが
ないけど……こんなのが現実にもいたの?」
動揺した様子もなく、冷静に状況を理解していた少女の後頭部へと拳が迫る。ロックゴーレムがいつの間にか少女の近くにもう一体生成されていたのだ。
「あ――」
少女はこれまでの人生を思いだしていた。幼少の頃から今に至るまでの走馬灯が脳内を駆け巡る。
(ごめんなさい)
後悔で満ちた末期の言葉が零れる前、
ガキィン!!
「……え」
「危ねえな。唐突に出てくんじゃねえよ」
直撃すれば重傷で済まないであろう攻撃は少女まで届くこと無く、槍の穂先で留められている。気がつけば、薄着の槍兵がいつの間にか少女の近くまで接近していた。
アレが直撃していたら――
そう思うと、ゾクリとした怖気が少女の背筋を伝う。
「遠慮無しかよ。ここで脅威を排する予定だったか?」
「プロフェッショナルなんて難易度にする位なのですか
ら、その予定だったのでしょう」
「人の心とか無いのか?」
「そもそもアレは人間じゃないでしょうに」
「そうだな」
やけにラフな格好をした女性と黒色の着物を着た男性が、軽口を叩きながらもう一体のロックゴーレムへと攻撃を始める。
「おーよしよし。俺等が来たから怖がんなよ、嬢ちゃん。こっからは一方的な戦いになるだろうから」
「怖がってなんかいません!」
「いや、どちらにしろ嬢ちゃんにトラウマを植え付けちまったら、こっちが絞られるんでな」
一方、少女を抱えてもう一体のゴーレムと向き合っている槍兵は、会話しながらそんなことを言う。
「誰に?」
「嬢ちゃんが知っているやつにだよ」
「だから誰?」
「だから――うおっ!」
隙を晒し過ぎたからか、はたまた焦れて早まったのか、ゴーレムはある行動に出た。
身体を目一杯に丸め、コチラに突っ込んできたのだ。
自身の質量を活用した攻撃をするとは、ゴーレムにしては頭がいい。
とはいえ――サーヴァントにその攻撃は悪手だ。
隙を晒して、壊してくださいと言っているようだ。
「とはいえ――」
少女を抱えたまま、槍兵は横に飛ぶ。少女を抱えたまま、ダッシュは出来ない。そうしてしまえば気絶してしまうだろう。
それ程までに彼の疾走は疾い。
ならば――
「速度が足りないな」
――槍を思い切り投擲する。
これに尽きるのだ。
音も無くゴーレムへと飛んでいった槍は、動きの止まったそれの中心部分へと深く、深く突き刺さる。
ゴーレムはビクリとも動かないままに、一分未満の生を閉じた。
「おっ、あっちも終わりそうだな」
よっ、と瓦礫と化した元ゴーレムから槍を回収した槍兵は、そう言って少女にそちらを見るように促した。
剣士が岩石でできた体躯へと飛び掛かる。
それを撃ち落とそうとゴーレムが右腕を振り上げ、そこへと矢が射掛けられる。
動きを僅かに留めるだけで終わった攻撃だったが、剣士がそれを蹴飛ばすには十分以上の猶予を生み出すに至る。
空中で行われたそれはかなりの威力を減衰させていた。それでも尚、その巨体をよろめかせ、動きが一時的に止まる。
その隙を見逃す程、彼らは優しく無い。ゴーレムの中心部分……核へと矢が射掛けられると同時に、剣士が吶喊する。
矢よりも疾く突っ込んてきた男の動きを警戒して、ゴーレムは両腕で自身の心臓を庇う。
剣士の持っている武器は刀だ。普通ならば、斬れないどころか折れてしまうだろう。だが、彼らはサーヴァントだ。
一般の常識は通用しない。
斬
庇った腕諸共、一刀両断されたゴーレムが虚構の草原へとズレ落ちる。
「ま、ザッとこんなものだろう」
「にしたって、時間を掛けすぎでしょう。全力を出さないなんて非効率的じゃない?」
「観られたくなんて無いからな、幾ら何でも」
「それはそうだけど……」
「あの、」
一仕事を終え、やいのやいのと口論に発展している彼らに少女から声をかける。
「……何でしょうか」
「貴方たちは何者でしょうか」
彼女の問いは至極真っ当なものであった。
知らない場所に、知らない人、空想だけの存在が現実にある事実。コミュニケーションが取れるのであれば、聞きたくもなるであろう。
「何者か……ですか。何とも答えにくいことですね。
何者でも無いというのが一番適していますが……」
何処かで聞いたことのある、デジャヴ感のある応答に少女は所在の無い疑問を感じる。
それをどこかに押し付け、少女は口を開く。
「取り敢えず、名前だけでも良いので。お願いします」
「……リリア。リリア・ライラックです」
「倉間 誠司という」
「鑑夜 鸞迦だ」
「私は藤丸 立香って言います」
四人は口々に自身の名前を名乗る。
上から順にアーチャー、セイバー、ランサーだ。
「ありがとうごさいました。
リリアさん、誠司さん、鸞迦さん」
少女……立香は三人に感謝を伝え、頭を下げる。
(少しこそばゆいですね……)
(だな。その位で良かったというべきだろう)
(ファミ◯キ下さい)
(ネタに走るんじゃねーよ、コメディアン)
(そうですよスペランカーのランサー)
(俺に対してだけ酷くねぇかお前等)
(何してるんだろう、あの人達)
それを受けて少し頬を緩ませている三人を、ただただ眺めているだけの立香であった。
それから時は過ぎ、三人の身体から光が漏れ出す。
シミュレーターに設定された240秒の制限時間が切れようとしているのだ。
「そろそろお別れですね」
「上司に宜しくと言っておいてくれ」
「また会った時はよろしく頼むぞ」
「また、ですか?」
「……ああ」
別れの言葉を言い合っていた中、鸞迦の失言へと質問した立香に、苦々しく顔を歪ませた誠司が応える。今、彼は(コイツゥ……)といった感情を抱いているだろう。
RTA走者でも無いのにガバをし、チャートを崩壊させた彼のカバーをする様にリリアが言葉を発する。
「私達はまだ生きていますから、また貴方と会えるかも
しれないですから」
「そうなんですか。じゃあ、また会った時は挨拶しませ
んか?」
「ええ、構いませんよ」
「指切り……はしませんよね?」
「したいのであれば、どうぞ。ご自由に」
そう言って、彼女は右手の小指を立香へと差し出す。
立香はその指を自分の小指に絡ませ、お呪いをかける。
「「指切りげんまん、嘘付いたらはーり千本飲ーます。
指切った」」
そうして二人の間で契約をした瞬間、そこで彼らの姿は掻き消えた。
『模擬戦闘はこれで終わりです。
入館手続きも完了しましたので、目の前のゲートを通
り入場して下さい』
そのアナウンスがあった直後、辺りに広がっていた草原が掻き消えて、無機質な施設が広がる。
それは先程まで立っていた場所であることに気がつくことに、そう時間は掛からなかった。
「さて、と。入場、しますかぁ……」
身体を伸ばしながらゲートに近づき、立香はカルデア内へと漸く入場することができた。
「立香、久しぶり」
「十分ほどしか経ってないじゃん、久しぶりというには
短すぎるよ」
「あはは。それならお疲れ様」
「お疲れさま」
(あ。マズ、イ)
親友に会えたことによって緊張の糸が解けたのか、立香はぱったりと床に倒れ伏した。
『立香ちゃん! おーい!』
そうして、またも立香の意識は闇へと落ちたのだ。
さあ、始まりますよ。エミュレートが。