Fate/Grand Order Relief 作:コードs³
ハイブリッドアサシン、脱落。
『アサシン 呪腕のハサンの反応 消失。マシュ達が倒しきったようね』
二人がアサシンを追い掛けてから三分程経った頃、オルガマリーからマスター達にそう伝達された。
それを受けた二世は漸く胸を撫で下ろした。何せ、自身の宝具が何者かに破られ、アサシンの逃亡を許してしまったと判断していたのだから。
ふぅー、と息を吐いて独り言を呟く。
「それにしても、だ」
そう、それにしても、だ。
何故アサシンに察知されたのか、分かっていない。
ベースキャンプに張られた結界が完璧な状態である事は確認していた。魔力の漏れも確認できないことは分かっている。
であるなら、どうして察知された?
「……不明な点が多いな、全く」
葉巻があったら煙を溜息とともに吐き出していそうな程、二世には訳が分からなかった。
並外れた神秘であっても〝解体〟してきた略奪公であれど、情報が錯綜するこの特異点には匙を投げつけんばかりだ。
だから、二世はそれを放棄した。
現状を打破する方が先決であり、事実の追求を二の次へとしたのだ。
溜息ひとつついて、二世は目を開ける。
相も変わらない炎に包まれた市街地であり、視界の端には軽くブラインドが敷かれている。
そこからマスター達の声が聞こえる。どうやら交換していた礼装を元に戻しているようで、少し色っぽい声がしたりしなかったりしていて凄く居た堪れない。
「………………」
二世は再び目を瞑った。
現実に目を向けたくないからでなく、都市の熱気に当てられてしまったがためだ。
そう、けして視界の端のそれを認識したく無いという訳では無いのだ。けして。
(早く戻ってきてくれ……二人とも)
星も見えない、黒煙で覆われた空に二世はそう願った。
一方その頃、彼女らはというと
「あ、あの……アリスさん。少し待って下さい」
ズンズンと、脇目も振らずにマスターの下へと帰還せんとするアリスに、そう声が掛かる。マシュ以外の誰でもない声だ。
別段、マシュの息が上がってしまって休憩を求めているわけでなく、取り付く島もないアリスに何度も声をかけていたのだ。
「……何でしょうか」
これ以上言われても仕方がない、といった様子でアリスは後ろを振り向き、足を停める。
マシュとの距離は無いに等しく、彼女の息が上がっている訳でもなし。
であるなら、私になにか訊きたいことがあるのだろう。
そう、アリスは感づいていた。
そして、彼女の予想通りにマシュはそれを発した。
「あのサーヴァント……呪腕のハサンと、あなたは言いましたよね」
「ええ、確かに。そう言いましたが」
アリスはそれに首肯する。否定する理由もなく、沈黙する意味も有りはしないから。
マシュはそれを確認した後、なにか深刻なことでも話すかのようにして口を開いた。
「どうして、それを知っていたんですか。あなたは召喚されて間もない筈。私たち(カルデア)でさえ、この特異点について知っていることは何も無いのに」
彼女の発したそれは、アリスにとって致命的なポイントだった。
どうして知っていたのか。
これが聖杯によって喚び出されたのなら、特異点の知識を知っていてもおかしくない。
だが、彼女の召喚はカルデア式によるものだ。
であるなら、この特異点についての知識は無い筈なのだ。だというのに、彼女はアサシンの真名を看破し、対策を採れる程の知識があった。
この事実から考えられるのは、2004年の戦争についてアリスはまだ知っていることがあると思われるということだ。
「………………」
アリスは口を開かない。
それが図星であるかのように、黙秘している。
「教えて下さい、アリスさん」
彼女は懇願する。現状を深く理解している者からの、智慧を享受したいが為に。現状を打開するための情報を得たいが為に。頭を下げてまで、それを求めるのだ。
「…………ふぅ」
溜め息をつき、アリスは〝しょうがないな〟といった表情を浮かべる。
秘するように言われた訳でもないが、かといって今開示するには情報が重すぎる。
であるから、アリスはおおっぴろげに話すことをしなかった。だが、庇護にある彼女から求められたのならばそうする他が無い。
「良いでしょう。ですが、彼等にも話さないといけないので……」
「はい。あちらについてからでいいのでお願いします」
マシュは再度、ペコリと頭を下げる。感謝の感情を隠すことなく、その人へと向けるのだ。
「……それでは、早く帰還しないといけませんね」
それを受けたアリスは、何の素振りも見せることなく足を進める。常人よりも、サーヴァントよりも早足で。
その速度は、数秒目を離したマシュの視界から消え去る程の速度だった。デミ・サーヴァントになり、身体機能が大幅に成長したマシュの視界から消える程のであるのだから、その速さは推して知るべしだ。
「そうですね……って、置いて行かないで下さい!」
マシュは元いた場所へと疾走する。
異邦の大地を踏み締め、地表を軽く破壊しながら、アリスを追いかける。
だが、アリスに追いつくことはなく、結局一人で到着することになった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
土煙を立たせながら、息も絶え絶えにしてマシュは帰ってきた。既にアリスは帰還しており、何ならみんなと一緒に茶をしばいていた。
何処にでも有るような麦茶であるが、この熱気に包まれた特異点だ。幾ら礼装で軽減されているとはいえ、気分的には水分が欲しいもので。
お腹を下さない程度に冷やされているそれは、マスター達の渇きを癒し、熱量を下げる。
それを見てマシュは少しピキッっと来た。表情には出ていないものの、内心何故か少しイラッときたのだ。
四人は他愛の無い話をしながら、今後のことについての方針を確かめ合っていた。
その集団から外れ、一人黙々と麦茶を飲んでいた
「おかえりなさい、マシュ」
彼女が帰ってくるタイミングを推し測っていた繻霞は、ジャストタイミングとでも言いそうな雰囲気でマシュへと駆け寄る。
「今戻りました、マスター」
「ほら、これを飲んで落ち着こう」
そういうと、繻霞は片手に持っていたコップをマシュへと手渡す。
マシュは薄紫色のそれを眺め、一息に飲み干す。躊躇う事無く、ゴクゴクと。
「……マシュは、麦茶を飲んだことあるの?」
マシュがタラリと口の端に流れるそれを手で拭うのを隣で眺めながら、繻霞は質問する。日本人でないマシュがそれを知っているのは少し違和感があるからだ。
彼女は一息つき、それに頷く。
「……はい。検診の後に、副所長が時折持ってきて下さるんです」
副所長、神幸縷々。色々とゴタゴタしていたから忘れていたが、そういえば彼は日本人だ。
であるならばマシュが知っていてもおかしくない。
「そういえば、ルル副所長は日本人だったね……」
ズズ、と麦茶を啜りながらしみじみと呟く。リラックスしている訳でもないが、緊張の糸が解けている為に素が露呈しているのだ。
「カタカタ」
骨と骨から軋みあう音が横から聞こえる。マシュにしては少し違和感があるが、それに繻霞は気付いていない。
「マシュもそう思うよね……」
「……マスター、私はこっちですよ」
繻霞が声のした方を向けば、アリスから麦茶のお代わりをしてきたマシュがコチラへと歩いてきているのが確認できる。
それなら、横にいるそれは?
「……じゃあ、あなたは誰?」
繻霞はゆっくりと首を動かし、その方向へと目を向ける。そこには――
「カタカタ」
歯と歯を震わせ、右手を上げている。そして愉快なパーティーハットを深くかぶっている骸骨が居た。
「………………」
「カタカタ」
二人との間に沈黙が生まれる。
いや愉快な骸骨はカタカタ口を動かしているから沈黙と言うには意味が通らないのだが。
「………………」
「カタカ「南無三!」
繻霞は礼装による魔力ブーストを受け、それを一気に蹴り飛ばす。空中でクルクルと回転しているそれに向けてガンドを乱射、そして落ちてきたそれの中心部分へと右の拳を叩きつけた。
愉快な骸骨はそのまま愉快な紅い粉末へと変貌した。
「…………」
「……マスター」
じっ、と自分を見つめる二本の視線が突き刺さる。心配しているというか、気にしているかのような視線だ。
繻霞はくるりと身体を反転し、瞬時にマシュへと接近する。
「何も無かった、いいね?」
圧を込めてはいないが、迫力を込めている。
それに抗う術は、無い。
「はい、理解しました」
元よりそのつもりでいたマシュはそう言って口を噤んだ。
「それでは、調査再開としよう」
遠くから声がする。二世の声だ。
「早く向かおうか、マシュ」
「そうですね、マスター」
二人はコップを片手に持ち、四人の方へと走っていった。
グッバイ愉快な骸骨。
また会う日まで