Fate/Grand Order Relief   作:コードs³

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スマホから執筆するには限界がありますわ。




「フォウ……? キュウ……キュウ?」

 聞き馴染みの無い、小動物のような鳴き声が鼓膜を揺らし、意識が戻る。どうやら寝てしまっていたようだ。

 (ここは……というか、何があったの? 確か……)

 散り散りになってしまった記憶を手繰る。遅くとも、取り逃がさないように、手許へと寄せる。

(……確か、東京駅で待ち合わせしてた。立香と買い物し

 て、そこで偶々止まってた献血の車が目に留まったん

 だ。それから……)

 記憶はそこで途切れていた。

でも彼女自身、何があったのかは大体理解ができた。

きっと、悪い大人に誘拐でもされてしまったのだろう、と。それにしては、拘束された感触などは無いのだが。

(……少し怖いけど)

 恐る恐る、少女は目を少し開ける。

 ずっと目を閉じていたからか薄らぼんやりとした視界には、今までの人生で見たことの無い、イヌともウサギとも付かないような動物と、見知らぬ人の足が見えた。

(誰、というかあの生き物は何?)

「フォウ! フー、フォーウ!」

 目の前にいるか弱い生き物に意識がある事に気づいていないのか、はたまた、ただただ無視しているだけなのか定かでないものの、その小動物は頬を舐めた。

だか、その音は少女の隣から聞こえてきた。

少女は靴へと向けていた目線を横に移す。

 すると、そこには……

(……え)

 朱色の髪を右纏めにし、見たことの無い格好をしている友人の姿があった。

 それを観測した瞬間、意識が途端に覚醒する。

「んっ……んん……」

 どうやら友人も気が付いたみたいである。

「………………あの、」

 先程、視線を向けていた方角から声が掛かる。その声はどうやら少女のものであるようだが、然程聞き馴染みのない言語……英語によるものだった。

「起きてます。起きてますから……少し待って下さい。

 ほら、立香ちゃん、起き上がって」

 少女は英語でそれに応答し、起き上がる。

そして目を半開きにした友人に右肩を貸してやり、立ちあがらせる。とはいえ、彼女の背は友人のそれよりも低いがために、些か無理があるような姿であったのだが。

「はい。それで、何でしょうか?」

「いえ、それ程では無いのですが……」

 目線を上に向ける。

 少女は眼鏡をかけた右目を紫色の髪で隠し、いかにも『研究職に就いています』といった制服に身を包んでいた。

「あの、所で何だけど…」

少女の右側から声が掛かる。藤丸立香の声だ。

「貴方は誰? というか、ここは一体何処?」

当然の疑問である。彼女からしてみれば、起きたら見知らぬ施設の景色の中に、友人と知らない人物がいるのだから。

紫髪の少女は戸惑いながらもそれに答える。

 「ええと、先ず、ここは正面ゲートから中央管制室に

 向かう通路です。より大規模に言うと、カルデア正面

 ゲート前ですね」

「……カルデア、ですか」

「はい。ここはアナウンスにもあったように、

 人理継続保証機関 カルデアですが」

(……アナウンス、なんてあったっけ?)

 少女の疑問を置き去りにして会話は進む。

「それで、わたしが誰かということなのですが……すみま

 せん、難しい質問なので、返答に困ります。

 強いて言うならば、名乗る程の者では無い――とかでし

 ょうか?」

訝しげな顔をした二人を見た彼女は、慌てて弁明する。

「あっいえ、名前はあるんです。ちゃんと。でも、余り

 口にする機会が無かったので、印象的な自己紹介が出

 来ないというか……」

目の前の少女は、すっかり困ってしまったようだ。

だが、『余り口にしない』というのに、少し引っかかりを覚える。人間社会に照らし合わせると、自己紹介は出来て当たり前のことだろう。それなのに、余り口にしないというのは不自然だ。……ただ、彼女の身の上を殆どの人物が知っているなら、成り立つ話であるのだが。

そうして少女の脳裏に疑問を浮かべていると、

「それなら、ここで自己紹介しちゃおうよ。

 名前だけでもいいからさ」

 絶好のタイミングを逃したくない立香から声がかかる。紫髪の少女は一瞬、ポカンと気の抜けた様相を呈していたが、手首に着けた時計を確認すると、

「はい、名前だけでしたら構いませんよ。

 所長の説明会が始まるまで時間が有りますから」

そう言った。

「分かりました」

「それじゃあ、まずは私からね。私の名前は藤丸立香。

 で、隣の子は繰入繻霞(くれいり しゅか)って言う

 の。それで、君の名前は何て言うの?」

「……マシュ。私の名前はマシュ・キリエライトです。

 どうぞ、私の事はマシュと呼んで下さい」

 三人は氏名だけの自己紹介を終えると立香は

「マシュ……うん、いい名前だね」

そう頷いて、日本語でポツリと呟いた。

後半の言葉は誰にも気付かれることのないまま、施設の静寂に飲まれて掻き消えた。

 

 それから一息置いて、紫髪の少女は会話を再開する。

「どうあれ、質問宜しいでしょうか、先輩方。

 お休みのようでしたが、通路で眠る理由が、ちょっと

 硬い床でないと眠れない性質なのですか?」

「いえ…気が付いたら、ここに」

直前までの記憶を持ち合わせていないため、繻霞はこう返答せざるを得ない。

「というか、私達はここで寝ていたの?」

「はい、すやすやと。

 教科書に載せたい程の熟睡でした」

「ええ〜、そういうの耐えられると思っていたんだけど」

 びっくりとした感じで立香が言う。

「……フフッ」

思わずマシュが笑みを漏らす。

「あ、笑ってくれた」

嬉しげに立香も笑う。それに釣られて、繻霞も微笑む。

そうして、いつの間にやら打ち解けた少女達が会話していると、

「フォウ! キュー、キャーウ!」

 さも『自分のことも紹介して!』とでも言いたげな鳴き声が聞こえる。下に目を向ければ、リスの様なウサギのような小動物がしきりにジャンプしていた。

 どうやら三人のやり取りに疎外感を抱いていたのか、存在感をこれでもかと示している。

「……失念していました、貴方の紹介がまだでしたね、フォウさん」

 そういうと少女は小動物を抱きかかえ、彼女らに見えやすい様にする。

「コチラのリスっぽい方はフォウ。

 カルデアを自由に散歩する特権生物です。

 わたしはフォウさんにここまで誘導され、お休み中の

 先輩方を発見したんです」

立香はその可愛らしくも奇妙な生物を見つめ、そして

「そうなんだ…ありがとうね、フォウくん」

 感謝の言葉を伝えた。

「フォウ。ンキュ、フォーウ!」

それに気恥ずかしさを覚えたのか、フォウは足早にこの場を去っていった。

「あー、行っちゃった」

「また何処かに行ってしまいましたね。

 あのように、特に法則性も無く散歩しています」

惜しむように二人は小動物の去っていった方向を見つめている。

「不思議な生き物だね、彼は」

「はい。わたし以外には余り近づかないのですが、あち

 らの先輩は気に入られたようですね」

 と、立香の方を向いて少女は次の言の葉を吐き出す。

「おめでとうございます。カルデアで二人目のフォウの

 お世話係の誕生です。」

 マシュはパチパチと手を叩いてその誕生を祝福した。

 

 それと共に、誰かの足音が廊下の先から鳴っている。

(……革靴の音?)

 繻霞が音について思案していると、その音の主が廊下より姿を現した。その風貌は柔らかな印象を人に与え、緑色の服はかつての英国紳士を思わせる高貴さを湛えている。癖毛のある長い茶髪は不快な印象を受ける事なく、寧ろそれこそが自然であるようであった。

「ああ、そこにいたのかマシュ。だめだぞ、断りもなく移動するのは良くないと……」

 恐らくは廊下の先にある、中央管制室からやって来たのであろう紳士は、マシュに親しげに話しかけた。

「おっと、先客がいたんだな」

そう言うと紳士は二人の少女を見つめ、それから言葉を紡ぐ。

「君たちは……そうか、今日から配属になった新人さんだ

 ね。私の名前はレフ・ライノール。ここで働かせてもら

 っている技師だ」

 紳士。もとい、レフは続ける。

「君たちの名前は、何と言うんだい?」

「藤丸 立香と言います」

「私の名前は繰入 繻霞です」

「ふむ……」

 二人の名前を聞いたレフは何かを考えていたようであったが、瞬時にそれを取り止めて言う。

「ああ、どこかでその名前を見たことがあったと思った

 んだが……そういえば、君たちは召集された48人の内、

 残った二人の適正者じゃないか。

 ようこそカルデアへ、歓迎するよ」

どうやらその48人の中に、或いは施設の従業員の中に該当する名前がいるのかを思い出していたようだった。

「あの、少し質問があるんですが」

それを受けた繻霞が控えめに手を挙げ、レフに質問する。

「適正者って、一体何の事を指しているんですか?」

 『適正者』と言うのだから何らかの基準以上のを持っているのだろうが、そもそも二人がここに来てからの何もかもが意味不明である。 

「ああ、それか。適正者が何かについては所長から説明

 があるから、それを聞けば良いと思うよ」

「……分かりました。ありがとうございます」

繻霞の望んでいた回答とは少し違っていたものの、『件の所長の話を聞いてみればいいだけだ』と納得し、少女は素直に引き下がった。

「そうか。他にも分からない事があったら、私やマシュ

 に遠慮なく聞いてくれ」

 レフの話は続く。

「君たちは一般公募だったと記憶しているんだが、訓練

 期間はどれくらいだい? 一年か、半年か。はたまた

 最短の三ヶ月?」

 二人に訓練期間等というものがマトモに無いことをレフは知らない。二人が模擬戦闘の指揮のみの初心者とその記憶すらも無い未経験に限りなく近しい存在である事を。だから二人はこういうしか無いのだ。

「「…………ご想像に、お任せします」」、と。

「おや、早くも競争意識に目覚めたのかな? 他のライ

 バルたちに向けて情報は隠匿するのかい?」

 レフ・ライノールは気づいていない。二人が隠匿した所で意味の無い程の経験しか持ち合わせていない事に。二人が気まずい感情を抱きながら、無表情を貫いている事に。

「……レフ教授。二人の訓練期間はたったの数時間レベルです。単に恥ずかしがっているだけでしょう」

(普通に分かってたのね、彼女)

 そう、普通に分かっていたのである。

ただの技師であるレフが知らないのは、仕方のない事なのだ。……だとしても、マシュがそのことを知っているのは少しおかしいのだが。

「おや、それは……そうか、数合わせのために緊急で採用

 した一般枠があった。君たちはそうだったのか……申し

 訳ない。配慮に欠けた質問だった」

 レフはそう謝罪した。

 これもまた仕方の無いことだろう、恐らくは。

 少し沈んだ場の空気を感じとった紳士は強制的に話題を転換させる。

「けど、一般枠だからって悲観しないでほしい。今回の

 任務は君たち全員が必要なのだから」

 だが、出てきた話は随分と怪しいものだった。何の説明も無しにここへと放り込まれた二人の内心には、一般的観念から見ると、不信感が生まれている……はずなんだがな。片方は目をキラキラと輝かせ、もう一方は何も疑う事なくその話を聞いている。逸脱してんなぁ、常識から。

「魔術の名門から38人、才能のある一般人から10人。

 何とか48人のマスター候補を集められた。

 これは喜ばしい事だ。神秘の薄れた2015年において霊

 子ダイブの可能な適正者全てをカルデアに集められた

 のだから」

ここで一旦、レフの話は終わった。

二人は何も知らないながらもその内容を噛み砕いて、どうにか理解した。どちらも一般の者とは違って、経験が深いのだ。

「それで、彼女たちとは何の話をしていたんだい?

 マシュ。君らしくないじゃないか。以前から面識があ

 ったとか?」

「いえ、先輩方とは初対面です。この区画で熟睡してい

 らしたので、つい」

 実際、二人ともマシュとは初対面である。 

「熟睡していたのか、ここで」

 レフにはその現象に覚えがあるのか、何かを思い出している。

「……ああ、さては入館時にシミュレートを受けたね?

 霊子ダイブは慣れていないと脳に来る。シミュレート

 後、表層意識が覚醒しないままでゲートから解放され

 てここまで歩いてきたのだろう。一種の夢遊状態だ」

 シミュレート。立香はそれに納得した様子を示したものの、受けた覚えの無い繻霞は顔に出していないが少々困惑しているようだ。レフは目を常に細めているからなのか、その様子に気付くことなく話を進める。

「それで二人が倒れた所に丁度、マシュが声を掛けたん

 だろう」

 そう言うとレフは少女達の身体をまじまじと見つめる。その目に邪気は籠っておらず、医師の診察を思わせる雰囲気を漂わせている。

「……見たところ異常は特にないが、万が一というのもあ

 る。正直医務室に送っていきたいのは山々なんだが」

 紳士は息を吐き、話に一区切りつける。

「済まないね、もう少し我慢してくれ。時期に所長の説

 明会が始まる。私も、君たちもそれに出席するように

 言われている」

「所長、ですか」

 繻霞の口から零れ落ちた言葉にレフが応える。

「ああ。実の父親から職務を引き継いだ、ただの少女だ

 よ。そうだとしても、ここカルデアの責任者にして、

 特務作戦の司令官だ」

 言葉の節々から、所長と呼ばれる人物への想いが見て取れる。二人はまだ知らないながらも、その人物が善いヒトであることが理解できる。

「君たちは一般公募で来た新人だけど、もしかしてパンフレットしか見たことが無い?」

 パンフレット何て物があるか定かではないが、二人はそれすらも見たことが無い。半ば誘拐同然でここまで来たのだから。

「パンフレットがあるんですか?」

「……もしかして、見たことがないのか?」

 意外そうにしてレフが答える。

「はい。気が付いたらここにいたので」

 当然であるかのように立香が言う。

「(説明すらも受けていなかったのか……)

 ……そうか。それなら、私と副所長、そして所長の三人

 で作成した物がある。一般用と魔術師用の二つがある

 が、一般用でいいかい?」

「お願いします」

「それなら、自室に置いてあるから作戦が終わった後に

 でも、二人分持っていってくれ」

「わかりました。終わったら2人で見ようね、繻霞」

 欠片も翳りを見せぬ太陽の笑みに、繻霞は思わず目を細める。

「うん」

そのまま微笑み、笑顔のお返しをする。

「それで思い出したのですが、所長のプロフィールは一

 般公開されていませんでしたよ、レフ教授。先輩方と

 所長に接点はありませんし、そもそもアニムスフィア

 という名に敬意を示すのは百年以上の家系を持つ魔術

 師だけです」

「そうだったな。それならば、次いでに魔術師用のも持

 って行きなさい。彼女の人となりは知っていて損はな

 いから」

「重ね重ね、ありがとうございます」

「いや、いいんだ。所長の人となりを知らなくても、マ

 スターとしての仕事に影響は無い。でも、君たちには

 所長のことを知っていて欲しいと思ったんだ」

 ただのエゴだけどね、とレフは笑う。

「とはいえだ、些細な事で目をつけられては仕方がな

 い。もうすぐ、所長の説明会が始まる。新人へのパフ

 ォーマンスもあるが、特務作戦の概要も説明される。

 だから、マシュ。君も参加するといいよ」

 そういうと、レフは来た方向へと戻っていった。

「それではマシュさん、中央管制室まで案内して下さい」

「はい。私について来て下さい、先輩方」




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