Fate/Grand Order Relief 作:コードs³
掴みからして名作でしたわ。
ああいう小説が書きたい人生です。
というわけで、プロローグはまだ続きます。
主役の登場まで、もうしばらくお待ち下さい。
「ふう……ギリギリ、間に合ったね」
「そうだね」
「ですね」
説明会が開始される直前、中央管制室へ早足で駆けてきた少女たちが入場する。入口周囲の人物は彼女らの方向を向いたが直ぐに正面へと向き直る。
「えーっと、先輩方の番号は……一桁台、ということは」
「最前列ってことね。わかってる。それじゃマシュ、ま
た後で。さっ、行こう」
マシュを入口付近に置いて自分たちの席へと急ぐ。席に名前は印字されていないが、それを気にする時間も無い。結果立香が左、繻霞が右の椅子に座った。
二人が着席してから一分も経たない内に、少女が壇上へ立つ。白髪に橙色の瞳、ツンケンとした攻撃的な雰囲気を周囲に纏う彼女が、恐らくカルデアの所長。その人なのだろう。その左後方にはレフと二人の男が立っている。片方はレフの話で断片的に語られた副所長なのだろうが、もう一方の男性は医療スタッフのような格好をしている以外の情報が無い。
「時間通りに、全員揃ったようですね」
壇上から凛とした声が掛かる。
どうやら、説明会が始まったようである。
「特務機関カルデアへようこそ。所長のオルガマリー・
アニムスフィアです。貴方たちは各国から選抜、或い
は発見された稀有な才能を持つ優秀な人間です」
「才能とは――」
「――以上で、説明会を終わりとします」
その言葉を皮切りに、周囲に満ちていた緊張の糸が解れる。長い説明会が終わったのだ。
「ふわぁ……校長先生の話よりも短かったし、興味深い話だったけど、それでも長い話は退屈だよ」
欠伸しながら言う繻霞に、眼から欠片も眠気を感じさせない立香が答える。
「あの人と比べない方がいいよ。十分どころか二十分超
えてもまだ話し続けるなんて、そうそう出来るもの
じゃ無いから」
「それもそうだね」
遠い日本にいるであろう、毛の薄い母校の校長を想
う。何をしているのだろう? 育毛でもしているのか?
そう考えが飛んでいると、立香から声が掛かる。
「それじゃ、私はこれからマシュに医務室まで連れていって貰うけど、繻霞も一緒に行く?」
「いや、私は止めておくよ。頭も身体も、特に異常は無
いから」
「むぅ」
「むくれたって仕方が無いでしょ」
「そうだね。じゃ、行ってくるよ」
立香はそう言って、壁際に立っていたマシュへと近づいていった。
「はぁ……何事も無いと良いけどなぁ」
そう杞憂する繻霞の膨らみの皆無な胸元には、黄緑色をしたペンダントがかかっていた。
――立香Side――
「そういえばさ、マシュ」
「何でしょうか、先輩」
医務室へと向かっている最中、立香はずっと疑問に思っていたことをマシュへとぶつける。
「どうして私達のことを、名前じゃなくて『先輩』と呼
ぶの?」
彼女らとマシュは今の所、然程親密ではない。とはいえ、名前を知ったのであればそれで呼ぶのが自然だろう。ということは、マシュのしていることは少し不自然である。
「それは……私の出会ってきた人の中で、最も人間らしい人達でしたから」
立香はそれを聞き、納得したような表情を浮かべる。先程出会ったレフ・ライノール、所長であるオルガマリー・アニムスフィア、そして説明会にいた殆どの人間。その誰もから、人間味を感じれていない。
いや、彼女だけはそう取り繕っているだけであろうが。
「あー、分かるかも。あそこに居ただけで皮膚がピリピ
リとしてたから」
そう立香は言うものの、実際の所は空間全体が神経質になっていた節がある。そうなるのも無理の無い説明会だったのだが、だとしても敏感になる事はない。
「……着きました。ここが医務室です」
マシュが目的地へと着いた事を知らせる。自動ドアが動き、件の医務室の中に入る……だが、誰もいない。
「アレ? てっきり、所長の後方にいた医療スタッフの
ような人がいると思っていたけど」
「いえ、確かにドクターはここにいる筈なのですが……」
二人して首を傾げる。医療スタッフは特務作戦のために出払っているようであり、責任者もそこにいるだろう。だが、確かにあのポニーテールの人はあの空間から出ていっていた。その確信が二人にはある。
「ふーむ」
立香は何かを探し始めている。何かを辿るかの様に、気配を手繰り寄せる様に、ある人物の存在を探る。
「……あっち、かな?」
ピッ、と人差し指をある方向へと向ける。
「行ってみようか、マシュ」
「は、はい!」
指がナビの役割を果たし、足は自然とその所在地へと向かう。入り組んだ道を最短距離で進み、ついに辿り着いた。
「フォウ、フォウ!」
瞬間、フォウが立香の首元へと飛び掛かる。そして猫のように巻き付いた。
「わ、猫みたいだね」
「フォーウ!」
『ボクは猫なんかじゃなーい!』とでも言うかの様に、立香へと吠える。リスだなんだといわれるのは良いが、猫と呼ばれるのは我慢ならなかったようだ。だとしても、耳元で吠えるのは辞めて欲しいものだが。
「ここは……先輩方の部屋ですね」
「どうしてこんな所に居るの……?」
疑問に思いながら自動ドアを開ける。そこには、スマートフォンで何かを見ながらケーキを頬張る男がいた。
「やあ、マシュ。それと……君は?」
「…………何をしているんですか、Dr.ロマン」
Dr.ロマンと呼ばれた男は、そう言われると女性の声がするスマホの電源を落としてポケットに入れる。
「何をしているって……ここでサボっていたんだ」
堂々と宣言されるとびっくりすらしない。
ただ呆れの感情が漏れ出るのみだ。
「……ドクターも作戦に抜擢されなかったんですか?」
「うん。副所長から、『新人たちの育成の為にも、責任
者である君は出張らなくていい』と直々に言われたか
ら。ドクターも、ってことは君もか?」
「はい、私の場合は辞退という形ですけど」
立香はそうなった経緯をロマンに説明する。
マシュはその話をする前に管制室に帰っていった。
『私はこれから準備がありますので、これで』
と言い残し、小走りで。
「なるほど……その繻霞君は辞退しなくて良かったのかい?」
「繻霞は大丈夫、だと思います。自分の身体の事は、自
分自身が一番知っているでしょうから」
「そうか、そうだな。……取り敢えず、横になっていなさ
い。ボクの事は人形とでも思ってさ」
立香はそれに従い、フォウを抱き締めながらベッドに横たわる。フォウは最初脱出しようともがいていたが、
次第に諦めたのか立香の抱き枕に徹していた。
目を閉じて、今日、今までに起こった出来事を思い出す。
模擬戦闘で出会った三人、マシュ、レフ教授にオルガマリー所長、Dr.ロマン。そして繻霞。走馬灯の様に、瞬く間に過ぎ去っていった忘れ難きことの数々。
その全てが過ぎ去った後の最奥で、『何か』を見た。
ベッドから跳ねるように飛び起きる。
胸に抱いていたフォウはそこに居らず、温もりのみが残っている。
「ハァ、ハァ……ふぅ、」
何か、悪い夢を見ていた気はする。だが、思い出そうとしたとて、その全ては泡沫のように消え失せている。
深呼吸を一つして、周囲を見渡す。
Dr.ロマンはイヤホンをして誰かの配信を見ている。随分とそれにお熱なようで、立香が起きたことにさえ気づいていない。フォウはその横で悪い顔をしながらその配信を見ている。心底呆れ、軽蔑した表情を浮かべている。可愛いマスコットらしくないぞ、フォウ君。
「ねー、ドクター」
出来うる限りの平常心で、勘付かれることが無いように……今までのように、ロマンへと話しかける。
「うわぁ!?」
椅子から崩れ落ちそうになるくらいにびっくりしているロマンは体勢を立て直すと、イヤホンを外して訊き返す。
「それで、なんだい?」
「いや、誰の配信を見ているんだろうって」
そういい、立香はロマンの持っていたスマホの画面を指差す。そこには、白髪の女性とシスター服の女性の立ち絵が表情されており、今は雑談をしているようであった。
『そういえばさー、アイリス君。最近はなにをしたんだ
い?』
『最近ですか。最近だと、友人達と一緒に富士山まで登
山しましたね。四人でちゃんと準備して、夜明けと同
時に頂上に着いたんだ。……これが、その写真だよ』
そういい彼女は写真を配信に貼り付ける。その写真は素人目に見ても素晴らしいものであり、その朝日が眩いばかりに光輝いている。
『ほう!』
白髪の女性が感嘆した声を発し、コメント欄もそれに熱狂しているのか瞬く間に過ぎていく。
「……彼女達の名前は?」
「ああ……左の女性はマギ・マリで、右の女性は藤色アイリスというんだ」
「その右の女性……それは、わたしの」
続きを言おうとした時、照明が消える。
「なんだ? 明かりが消えるだなんて、何が――」
ドカン!!
爆発音が鳴る。規模からして、被害は甚大であろう事が理解できる。
「嘘でしょ……」
立香は理解した。
あの悪夢が正夢になってしまった事を。
――繻霞Side――
「へくちっ」
「だっ、大丈夫?」
「平気平気、立香が多分噂してるだけだから」
二人の少女が話をしながら服を着替えている。
片方は繻霞であるが、もう一方は眼鏡を掛けて肩ほどまでに伸ばした黒髪の少女だ。
「それにしても、どうしてこの服が正式な戦闘服何だろう?」
繻霞は半分下着姿のまま、それをピロピロと動かす。オレンジ色のそれは特段露出が高いわけでも無いが、身体にピッタリとフィットする様になっているが為にボディラインが分かりやすくなっている。
これが合理的な衣服であることは理解している。
だとしてもこの服を設計した者はとんでもない人であろう。
「そういえば、貴方はどうしてカルデアに来たの?
言い辛いようだったら言わなくてもいいけど」
唐突に繻霞が少女に声をかける。
「わ、わたしですか……?」
「ここにはわたしと貴方しかいないでしょう?」
しどろもどろになりながら、少女は話し始める。
「そういっても、わたしには特に無かったんです。特に刺
激がある訳でもなく、ただなだらかに生きていただけ
だったんです。だから、こんな与太話のような提案を
受けて、ここ迄来たんです」
そう言い終わると同時に両者の着替えが完了する。
「それでは行きましょう、珠佳さん」
「は、はい」
珠佳の手を握り、繻霞は管制室へと向かう。
………………言いづらいったらキリが無いな。
「全員揃ったわね」
二人が管制室に到着してから時間が経たない内に、所長から声が掛かる。緊張を押し込んだような声だ。
「これより、ファーストオーダーを開始します。
各自、割り振られたコフィンへと入りなさい」
その声を聞いた47名の適正者と、それを支援する者たちが弾かれたように行動を開始する。
「現地で会えるといいね」
「……そうだね」
繻霞はゆっくりと歩いてその筒状の物体の中へと侵入する。内部は余り窮屈じゃないが、それはただ自分の体躯が貧相なだけであることに気づき、溜息をつく。
『オイオイ。溜息なんてついて、運が逃げていくぞ』
一人しかいない密室に、二人分の声が木霊する。
普通ならば、腰が抜けるような怪奇現象だろうが、繻霞は慣れきったように、それと会話を始める。
「そう言われたって、ねぇ」
『やっと誰にも観られないとこに来たんだから、
少し位話させてくれ』
「……そうですか」
『それにしても、長かったな。十年そこらだったが、や
っと味気の無い風景からオサラバだ』
「でも、貴方たちは知っている出来事でしょう?」
『そうだ。だから、結局はそのまんまさ。未知からある程度
見知った光景に、な』
「……苦しくはないのですか」
『苦しくなんかはない。虚無ではあるがな。ゲームで言
う所の二週目、三週目といったのと同じだ。違う所は
完全に同一だなんてのは殆どあり得ないことだが。
でもその違いというものに、俺等は価値を見出すのさ』
「嘘でしょう。流石にわたしは騙せませんよ」
『ハハハ、バレテーラ。でも苦しくは無いのは本当さ。
俺の上司は喜んでそうしたが、実際に俺も業務をして
みて苦痛だなんてのは感じなかった』
「貴方方の頭のネジが、ただ外れているだけでは?」
『そうだな。そうに決まっている。本当に』
「否定はしないんですね」
『そりゃあ、真っ当な意見はちゃんと聞かなけりゃいか
んだろ。封殺なんてしたら今後の改善なんて出来やし
ない』
「なら、彼女の意見も聞いたらどう?」
『ああ。彼女……呵々石 珠佳の言っていた、刺激が少な
いってのは課題、課題なんだがな……。如何せん、時代
が変わると、今度は過剰に供給されるようになるんだ
よなぁ。だから今のが一番良い塩梅となってるのさ』
「そんなものなのね」
『そんなものさ』
ここで、一旦会話が途切れる。話し疲れた訳でもなく、ただ、その時を待っているだけだ。
ドカン!!
身体の奥底までに貫かんとするばかりの衝撃と共に、少女の意識は一時的に途切れた。
次回、主役登場!
今回から雑談をここに置いていきます。
呵々石 珠佳(かかいし しゅか)というのは後々書こうと 思っていた物でナレ死に近い形で退場する予定の魔術師でした。
しかし、繻霞と一般適正者との接点を持たせたいのに名前が思い付かなかったが為、名前を奪われました。
悲しいね、バナージ。