Fate/Grand Order Relief 作:コードs³
今回の教訓とさせていただきます。
奇襲
「先輩。起きて下さい、先輩」
声とともに身体が揺すられる。
だが繻霞は起き上がらない。というか、レイシフトの余韻で少し気分が悪い状態なので休んでいたいのだ。
「……起きているのは分かってますから」
「バレてましたか」
「これで二度目ですからね、わたしだって学習してるん
ですよ」
「ハイハイ、分かっています」
繻霞は起き上がり、一つ伸びをする。
「んんっ。――って、凄い格好だね、マシュ」
目を開けた繻霞の前には、十字と円形の盾を合わせた奇妙な形をしたラウンドシールドを右手に携えて、年頃の少女がするには露出度の高い衣服を纏った紫の乙女――マシュがいた。
「余り、言及は避けていただけると……」
頬を少し赤らめ、マシュは恥ずかしがる。彼女自身、この姿に変貌したのは想定外であったようだ。
「いえ、今はそれよりも、周りをご覧下さい」
繻霞はくるりと一回転しながら周りを見遣る。
骨、骨、骨。
どこを見たとて骨で出来た兵士がいる。
二人は特異点に着いて早々に五十体程の敵に囲まれてしまっていたのだ。
「……えーっと、はろー?」
「GAAAAAA!!」
目の前にいたモノへ、愚直にも対話を試みた繻霞への返答は、剣による斬り上げだった。骸骨兵士にはどうやら血も涙もないようである。
……いや、骸骨だからそのどちらも、元々持ち合わせてないのか。
「先輩!」
盾で咄嗟に兵士を殴打したことにより狙いが逸れ、間一髪のところで繻霞は攻撃を喰らうことなく済んだ。
「ごめんね、油断してたよ」
「謝罪は後にして頂けますか? まずはこの状況を打破
するのが先決ですので」
「――そうだね、これを切り抜けてからにしよう」
二人は軽く会話を済ませ、目の前の状況に集中していく。
「先輩……いえ、マスター。指示を」
「出来る限りの支援をするから、マシュは暴れて兵士の
包囲網を崩壊させて。ある程度経ったら合図をするか
ら、それからは各個撃破に切り替えよう」
「分かりました。キリエライト、吶喊します!」
マシュが全速力で駆け出し、正面の集団へ突っ込んでいく。それだけの単純な行動で二、三体の骸が靄へと変わり、前線が崩れる。
戦場に一瞬開いた隙を見逃す程、彼女は優しくない。
「『全体強化』」
マシュの身体へ魔力が駆け巡り、満ち渡る。
「はぁぁっ!」
一時的に増強された身体能力を元としてラウンドシールドを力任せに振り回し、周りの兵士を骨片へと変換していく。
「GIGIGI!」
骸骨を4分の1程靄に変えた頃。
マシュのことをそれは明らかに無視し、後方にいる少女へと向かい始めた。
どうやら指揮者を先に倒すべきと判断したのか、単純に弱そうな少女から殺そうと脳の無い頭で考えたのか、繻霞を最優先で排除しようとしているようだ。
突き刺さる様な殺意を向けられながらも、少女は至って冷静に礼装を待機状態に移行させる。
兵士が繻霞へと飛びかかった瞬間、礼装が起動する。
「『オーダーチェンジ』」
殺到して来た集団の最後方の兵士と位置が置き換わり、無傷で窮地を脱することに成功した。
そしてそのまま拳銃の形にした指をその集団に向け、更に礼装に刻まれた魔術を行使する。
「そして、『ガンド』!」
指先から稲妻が飛び出し、集団の動きを一時的に止める。
「後は各個撃破でお願い」
「了解しました」
後は、マシュによる骸骨粉砕ショーが一分程巻き起こっただけであった。
「――ふう。少し不安でしたが、何とかなりましたね」
「うん。着いて早々に襲われるなんて思って無かったけ
ど。」
それはそれとして、と繻霞はそこで一旦言葉を区切る。
「マシュのその姿と力について、聞いてもいい?」
「はい」
マシュの了承を得た彼女が、いざ質問しようとした時
『こちら管制室、応答せよ』
繻霞の左手の甲から立体映像が飛び出し、空間から音声が響いた。それは説明会で会ったオルガマリー・アニムスフィア、その人の姿であった。
「こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライトです。
現在、特異点Fにシフト完了しました」
「Dチーム、繰入繻霞もいます」
二人は所長に着いてからの事象を報告する。
『(……コフィン無しで良く成功したわね……)
……了解しました。繰入繻霞、貴方を正式に調査員に任
命します』
「ありがとうございます」
そういうと、繻霞はマシュの耳元に口を近づけてコソコソと話して始める。
(……マシュ、これって光栄なことなんだよね?)
(はい。それはとっても)
『聞こえてるわよ、二人とも』
こそこそと話していようが、通信しているということは至近距離に当人がいるようなものである。
そりゃあ、話している内容は聞こえるであろう。
「……オルガマリー所長。わたし達は無事ですが、藤丸立
香さんと珠佳さんの方はどうなっているのでしょう
か?」
一息置いて、マシュが二人の安否について所長に質問する。
こちらはマシュが居たからどうにかなったものの、あのシスターだけであの大群から二人を護りきれるのかは未知数なのだから。
『藤丸立香と呵々石珠佳、両名とも生存しているわ。
バイタルも安定しているからきっと敵性生物とは遭遇
していないのでしょう』
「――良かった」
「そうですね、マスター」
口から飛び出た安堵の言葉にマシュも同意する。
胸を撫で下ろした様子の二人にオルガマリーから声がかかる。
『ところでマシュ、説明はしたの?』
「丁度、しようとしていた所です」
しようとしていたということは、奇妙な姿に変容した事と力についての事だろう。
『そう。繰入繻霞、これは貴方にとっても重要なことで
す。だから、ちゃんと聞くこと。いいわね?』
「分かりました、所長」
繻霞は背筋をしゃんと伸ばし、二人の話すことを真剣に聞き始める。
『今回、カルデアには特異点Fを解決する為にサーヴァン
トが既に召喚されていました。そして先程の爆破によ
って、パスが破壊されて消滅する運命にあった。
そうでしょう? マシュ』
「はい。その時に、英霊としての能力と宝具を譲り渡す
代わりとして、特異点の原因を排除する契約を彼は持
ち掛けてきました」
『貴女はそれを引き受けて、その英霊と融合したという
ことね』
(カルデアの六番目の実験、人間と英霊の融合。
……まさか、成功するだなんてね)
内心そう思いながら、更に続ける。
『繻霞。右手の甲に令呪が刻まれているでしょう?
確認しなさい』
「分かりました」
繻霞が右手を確認すると、紅い紋章が確かに刻まれていた。どうやら蜘蛛と盾が融合したかのような紋章になっているようである。
「……確かに、ありました」
『ということは、二人の間で正式にマスター契約が交わ
されたようね』
「わたしがマスター、ですか」
『ええそうよ。貴女がマシュのマスターなの』
「そうか。そうなのか……」
噛み締めるように繻霞が脳内でその言葉を反芻する。
その様子を横目に、オルガマリーはマシュへと質問する。
『マシュ。英霊と融合したのなら、貴女の中にその英霊
の意識が有る訳?』
「いえ。戦闘能力を託してわたしの中から彼は消滅しま
した。真名を最後まで告げないままに。
ですので、わたしは自分が何の英霊なのか。
この盾がどのような宝具であるのか。
今の時点では何も判明していないのです」
ここでマシュは区切り、所長に質問を飛ばす。
「オルガマリー所長、彼について何か知っていません
か?」
彼女は本作戦の総司令官だ。であるのならば、
『……ええ、知っているわ。彼が何者であるかも。
ですが、今は教えることが出来ません』
「……どうしてでしょうか?」
『一つ。真名を教えなかったということは、当人にとっ
てその行動が重要であった可能性があるために、疎か
に伝えるのはリスクがあるから。
もう一つは、そのサーヴァントの素性を私は何も知ら
ないからよ。』
「所長でさえも?」
横から繻霞が口を挟む。
総司令官である彼女が知らない情報があるなんて事はあってはならないはずだ。であるのに、さも当然であるかのように話すのは違和感がある。
その当然の疑問を晴らす為に、所長は口を開く。
『ええ。それは前所長である父上……マリスビリー・アニム
スフィアと副所長であった神幸縷々。そして極少数に
よって行われたからよ。その内容についても箝口令が
敷かれていたから、私は知らないという訳なの』
「そうなんですか……あの人が」
『そうよ。といっても、今その内容を話せるのは彼一人
ね。前所長は死んでしまってるし、後の少数について
も爆発に巻き込まれてそれどころじゃないでしょうか
ら』
「とにかく、後であの人に聞きに行こう。六人で」
『そうしなさい……。って、私を巻き込まないでくれ
る?』
「バレましたか」
『バレるでしょう……っと、そろそろ通信が切れそうだか
ら、二人へ最後に伝えておくわ』
そういうと、所長はある方角を指差す。
その方向を見ると隕石でも落ちたかようなクレーターが存在している、世にも奇妙な場所が視認できる。
『ここから二キロ程の場所に、周辺で最も霊脈の強いポ
イントが存在するのが確認されたわ。そこでなら長時
間の通信も可能に――』
そこまで言って通信は切断された。
予備電源に切り替えたとて、ここまでの長時間の通信は無理があったのだろう。
「それにしても、酷い光景だね」
通信が断絶されてから少し経った後のこと。
目に映る範囲全てが火に焼け焦げ、市街地と呼ぶには言い難いほどの廃墟と化した街を二人は眺める。
今更だが、繻霞はここ――冬木にはかつて訪れたことがある。確か、冬の時期であっただろうか。街並みをただただ歩いていただけだったものの、その記憶は依然として色濃く残留している。
それを元に推測すると、確かここには日本屋敷があったはずだ。
『だな。特異点とはいえ、こうも紅いものを見続けるの
も気が滅入るが』
どこからともなく男の声が聞こえる。
「……先輩、今の声は?」
『――あ、やべ』
しくじった、といった声をそれは漏らした。
発生源は繻霞の胸元にかけられたペンダントからであり、そこから声を発しているようである。
「仕方ない」
誤魔化すのも面倒だろう、と匙を投げた繻霞は胸元に輝くペンダントの説明をし始める。
「このペンダントは一種の魔術礼装の様なモノで、親が
持っていたのを譲ってもらったんだ」
「先輩は一般枠でしたよね? ここまで高度な魔術礼装
を所有する方々ならば魔術師枠で採用されていたので
は?」
『あー、それなんだが。あいつら、繻霞の両親はカルデ
アに娘を送ることに難色を示していたんだよ、そもそ
も。だからあの時、東京で遊んでいた二人に偶然を装
い、勧誘してきたんだろ』
「……そうなんですか? 先輩」
「実は……」
繻霞はカルデアに来るまでの一部の記憶がないことを、一人と一つに説明する。
『おま、んな重要なことは早く言え!』
「そうですよ先輩!」
「聞かれても無いことを言うのは何か違うでしょ
う!?」
そんな風にやいのやいの二人と一体が騒いでいると、遠くから誰かの足音が聞こえてくる。
またあの敵だろうかとも考えたが、それにしては足音が大きいし、重量がかかっている。
恐らく敵などではなく――
「……やっと見つかりましたぁ……」
――生存者、或いはレイシフトしてきたマスターだろう。
涙目になりながら、やっとの思いで二人を探し出したのであろう珠佳の姿を見上げながら、ペンダントの中の存在はそう考えていた。
作者が次回もしかしたら暴走するかもしれません。
クロスオーバータグが着いていたら暴走しています。
大体1400字程を加筆しました。