「書…書類…片付かない…」
あまりに大量の書類を前に私は苦戦を強いられていた。
そして、そのまま…おそらく私は眠りについたのだと思われる。
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「先生…起きて下さいよ」
声?一体誰が…
しかし、その声の主は意外にもすぐに分かった。
「はぁ…まったく、起きないなら起こすまでです!」
そういって声の主は私の体を大きく揺さぶった。
「ケ…ケイ?」
「ええ…先生が起きないので、起こしにきてあげたんですよ。感謝したらどうですか?」
「ありがとうね。ケイ。」
「ところで、どうして君がここに?」
そう言うと、ケイは首を傾げた。
「どうしてって…私と先生は同棲しているんですから、当たり前では?」
「どう…せい?」
ケイの口から同棲なんて言葉が出るとは思ってもみなかった私は、口を大きく開けて硬直した。まるで石像のように。鋼で出来た鎧のように。
「わかりやすく固まらないでもらえますか?」
「ケイ…同棲ってどういうこと?いつから君はここに住んでいるの?」
「混乱するのも無理はないかもしれませんね。私が同棲始めたのはつい最近のことですから。」
「具体的に言うと?」
「ざっと三ヶ月前です。」
「なるほど。それで…私とケイはどこまで行ったの?」
「どこまでとは?」
「またまた~とぼけちゃって~」
「か…揶揄わないで下さいっ!」
「私と先生は…//」
彼女は頬を赤らめている。
普段よりの恥じらいの表情とはベクトルがまた大きく異なっているようにも思えた。
それに対して、私は目の輝きをより一層強める。
「か…体を交わすところまで…//行きました…///」
意外にも関係は深いようだ。
「そうなんだ…もしかして、やりづらい?」
「いえ…そんなことはないですよ。むしろ、ここまでの関係だと後に引き返す方が難しいでしょうから」
「それもそうだね。じゃあこれからもよろしく(?)」
「こちらこそですよ。よろしくお願いしますね」
早速、朝食にしようとケイが言うので炊事場へ向かった。
「先生は味噌汁を温めておいて下さい。私はおにぎりを握りますから。」
「こうやって、ちゃんとした手が使えるようになって嬉しいですね…//やっぱり、あの時強く言っておいて正解でした。」
「あはは…リオは落ち込んでたけどね…」
「またリオの話ですか!あの人、センスが壊滅的なんですよ!」
「そ…そこまでにしてあげて…」
「先生に言われたら仕方ないですね?今回はここら辺で許してあげます!」
ケイと一緒に朝食を準備してる…これは、夢?それとも、現実?
「どうしたんですか?先生」
「ああ、いや…なんでもないよ」
「ふ~ん…他の生徒のこと…考えたんですか?」
「そ…そんなわけ…」
「まあ、先生のことですし…ろくでもない妄想をしていたのでしょうね?」
「えぇ…普段の私どう思われてるの…」
「そりゃあ、『変態アシナメヒナスイ耳もふり先生』だと思ってますよ!」
「うっ…否定できない…」
「否定できないのもどうかと思いますけどね」
「仰るとおりでございます…」
そんな会話をしながら朝食を準備し、席につく。
朝食を済ませると、ケイが話を切り出した
「先生」
「ん?どうしたの?」
「今日は、アリスたちに会いに行ってみませんか?」
「いいね、久しぶりにミレニアムに行きたかったし」
「じゃあ決まりですね!」
私達はシャーレを後にし、ミレニアムへと向かった。
「この電車…各駅ですね」
「快速の方が良かった?」
「いえ、先生と長旅ができるので私はこっちの方が嬉しいです…って、今のは聞かなかったことにしてください!!」
「ふふっ…やっぱり、ケイちゃんはかわいいね」
「誰がケイちゃんですか!!」
そんなこんなでミレニアムに着いた
「ケイ!会いたかったですよ!」
「アリス…心配させてしまいましたか?」
「少し寂しかったです!でも、今ここにケイがいるので今はもう寂しくありません!」
「アリス…」
「ううっ…アリスぅ…良かったよぉ…」
「えぇ…なんなんですか、貴方は…いきなり泣き出したりなんかして…」
「だってぇ…アリスとケイが一緒になれて…うぅ…ぐすっ…」
「この変人は放っておきましょう。さあ、アリス!ゲーム開発部に急ぎますよ!」
「アリス!ケイからのクエストを受けました!早速ミッション開始です!」
ということで、ゲーム開発部部室
「ケ…ケイ?どうしてここに来たの?」
「モモイ。調子はどうですか?捗ってますか?ゲーム開発」
「ケイちゃん、お姉ちゃんはね…昨日締め切りのシナリオ原稿を今日必死で仕上げてる最中なんだよ」
「それは、いけませんね…モモイには『名も無き神々の力』が必要なようです…アリス、手伝って貰えますか?」
「はい!ケイの役に立てるのなら!」
「ありがとうございます…アリス。それでは、そこのブラウン管から撤去しましょう」
「ちょっと待ってよ!私に『名も無き神々の力』を与えてくれるんじゃなかったの!?なんでブラウン管を撤去してるのさ!?」
「良いですか、モモイ。貴方は気の散るの物があるとそちらに逃げてしまうでしょ、なのでなるべく気の散らないよう『名も無き神々の力(物理)』によってこの問題を解決してあげているのですよ!感謝したらどうですか!」
「うぅ…ケイ…ひどいよぉ…」
「悪いのは締め切りに間に合わせなかったお姉ちゃんが悪いんだからね!」
「ミドリまで…」
「こればかりは、擁護のしようがないね…ごめんモモイ…」
「先生にも!?」
モモイにはどうやら味方はいなかったようだ。
「アリス、今日はありがとうございます」
「いえ!ケイに会えたので嬉しかったです!」
「アリス…また近いうちにお邪魔しますね」
「はい!アリス達はいつでも大歓迎です!」
「私からも、ユズによろしく伝えておいてね」
「はい!アリス、クエストは必ず遂行します!」
「頼もしいですね。次会える日を楽しみにしていますよ…アリス」
「アリスも…アリス達も楽しみにしてます!」
こうしてミレニアムを後にした。
「先生、もう夜遅いですし…どこかよってご飯にします?」
「そうだね…そうしようか。ケイは何が食べたい?」
「ふふっ…私はいいんですよ。先生が好きなのにしてください。」
「じゃあ、いつものところにしようか」
「それが良いですね。行きましょう」
行きつけのファミレス
「ここ…こないだアル達と来たよ。アルが美味しそうに食べてるとこ…可愛かったなぁ…」
「また、他の女の話ですか…ボソッ」
「ん?なんか言った?」
「なんでもないです!」
「えぇ…なんで怒ってるの…」
「怒ってないです!さあ!入りましょう!席が埋まってしまいますよ!」
「でも、まだ席余裕ある…」
「なんか言いましたか」
「いえ…なんでもないです…」
「全くもう、貴方って人は…釣った魚を甘やかして…」
(なんか似たような言葉をどこかで聞いた気がする…)
席に着く二人
「ケイから頼んでいいからね」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ケイかわいい…ボソッ」
「なんですか?ちらちらと…気持ち悪いですよ」
「うっ…そんなストレートに言わなくても…」
「貴方にはこのぐらい言わないと通じないでしょう?」
「そんなことないよ…」
「はい!先生、メニュー表です!」
「ありがと、ケイ」
少しの静寂に包まれる店内
目の前の彼女はその静寂を嫌ったのか、私に話を持ちかける。
「あの…先生は、怖くないんですか」
「唐突だね…」
「変なことを聞いているのは十分承知の上です。」
「私より貴方は体の造りからして大きく異なります。なのに貴方は無茶をする…それって、なにか理由がないと為し得ないことでしょう?私はそのことについてずっと疑問に思っていた。だから聞きたくなったのだと思います。」
「理由か───『理由』なんて無いんだよ。ただただ体が動いちゃうんだ」
「理由になっていませんよ」
「そうかもね。でも、少なくとも私には誰かを守ることに『理由』なんて要らないと思うんだ」
「そうですか───変な人ですね」
「そうかな?普通じゃない?」
「まあ、もともと私はアリスを守るために生まれてきたんですけどね」
「たしかにそうだね。でも、今はどう?」
「今…ですか?ふふっ…そうですね。『姉妹』ですね」
「どうして『姉妹』?」
「なんとなくです。どちらが姉でも構いませんが…アリスとでないと成し遂げられないことが多いですし、一心同体ってやつですね」
「ケイ、私はね二人のこと…キヴォトス一の『姉妹』だと思ってるよ」
「ふふっ…それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味だけど?」
彼女は、私の言葉にひどく嵌まったようでなかなか笑いが収まらなかった。
ケイとの時間…大切にしていきたいな…とこの時、改めて感じた。
いや、そう決めた。
シャーレ 休憩室
「ケイも早く寝てね」
「分かってますよ。少なくとも貴方よりは無茶しませんから」
「どっちもどっちじゃない?」
「そうかもしれませんね…これでは、またアリスに心配を掛けてしまいます」
「お互い気をつけないとだね」
「ですね…おやすみなさい、先生」
「おやすみ、ケイちゃん」
「全く…誰がケイちゃんですか」
彼女は微笑んで言った
真冬の冷たい風がシャーレの防弾ガラスを掠めていく───────────────────
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目が覚めると朝になっていた。
机上には大量の書類
(朝か…)
ふと、忘れていたことを思い出す
今日は、ケイが初めての当番に来る日だ
こうしてはいられない!と私は準備を急いだ。
彼女がこの執務室のドアをノックするのはあと少しだ。
夢を繋ぐもの
────────────────────────完