「『更識』の者から報告が届いた」
「ACは手に入れたが生産は不可能か」
「概ね予想通りだろう」
怪しげな場所での怪しげな一団の密会は最早お決まりと言っても過言ではない。
ACがIS学園に出現してから既に2日が経過していた。世間一般には公開されていない情報であるが、事実上の支配者である彼等にはどんな些細なことも筒抜けである。
「ISが誕生してから10年が経った。ISならば或いはと考えていたがISだけでは力不足であった」
「我等が結成されたのも無駄足であった」
「だがそこにACが現れてくれた」
「ISとAC……この二つがあれば可能であろう」
何かを企んでいる。誰の目にも明らかである彼等の会話の内容は当然外部には漏れることはない。今回の会話は単なる身内同士での打ち合わせ。彼等の目的を知る人間は彼等を除いては誰も存在しないだろう。
「久々に『奴等』を動かすか」
「元よりそのつもりだ」
「前回の強奪からいつぶりか?」
「約半年だ」
「痺れを切らす頃合いだろう」
きな臭い感じを漂わせるこの会話に対する彼等の意図又は心理は果たしてなんなのか……
「平和なこの世界の存続の為に」
「全ては『始まりのための終わりに過ぎない』」
◆ ◆ ◆
「もぉー! なんなのよこの人だかりは!?」
図書室の出入口の外にできている人だかりに女性は頭を悩ませていた。集まっている人間全員がレイヴン目当てだろう。
襲撃から2日経った今日。学園は全校集会を開き諸々の事情を全て打ち明けた。レイヴンが異世界人であることとその技術によって造られた兵器がACであると。
生徒からすれば突拍子の無い戯言に聞こえるかもしれないが、襲撃の一件でACが白日のもとに晒されてしまったことで現実だと認めざるおえなくなった模様。
何故生徒達がこんなにも集まっているのかというのは、正直レイヴンにもわかっていないようだ。もしかしたら珍しいもの見たさで集まっているのかもしれない。
「随分と落ち着いているのね。貴方の身の上を聞いたときは驚いたけど、よくよく考えてみればISを動かせたりこの世界の知識や道具の存在を知らなかったのも頷けるわ」
ISが何故扱えるのかということは、異世界人ということでこの世界の男として枠組みされていないという陳腐な発想からきていることになっている。この世界の男とレイヴンは造りが違うというのが彼女達の見解だ。
「にしても、この溢れんばかりの子供達をどうするかを決めなくちゃ。流石に一度にこの人数を一斉に入れる訳にはいかないわ」
ほぼ全校生徒が押し掛けてきている。僅かな休み時間だというのに、もう少し貴重な時間の有効利用の仕方を学んだらどうなのだ。
「あら? 自分から出ていくの?」
今ここで追い返しても放課後や明日明後日と、同じように押し掛けられても困る。此方から出向いて早々に終息させるのがいいだろうとレイヴンは考えたのだろう。徐に足を扉まで運び静かに取っ手に手を掛けた。
「あっ! 出てきたわよ!」
扉を開けた瞬間に一斉に詰め掛けてくる生徒達。歩いてもいないのに後ろから押され、どんどん図書館から離されていく。そして狭い通路だというのにレイヴンを中心に輪を形成し、四方八方から質問攻めが始まる。
「異世界ってどういうところですか?」
「やっぱりドラゴンとかいるのですか?」
「あのACっていう兵器は誰でも扱えるのですか?」
「どうやって世界を渡ってきたのですか?」
「彼女とかいるのですか?」
「向こうの世界に帰りたいとは思わないのですか?」
一度に質問されても全てを捌ききれるわけがないのだが、生徒達はレイヴンのことを一切考慮していない。それに質問の内容をレイヴンは答えようとはしない。殆どのことは文面でオリムラ チフユに通してある。知りたくばそちらにいけと目で訴える。
「は~い、どいたどいた。IS学園新聞部ですけど学園を窮地から救ってくれたヒーローから一言お願いします」
人混みを分け奥からカメラとメモ帳を持った眼鏡を掛けた生徒が一人やってきては、いきなりカメラのフラッシュが光った。
無許可でいきなり写真を撮られたレイヴンは少し顔をしかめた。更には自分がヒーローと言われて疑問符を浮かべている。 どうやら生徒達の目にはレイヴンがそんな風に映っているようだ。 だとすれば見当違いも甚だしいとこだ。そんなデマを囃し立てられ勝手にレイヴンを祀り上げたところでなんになるのだろうか。
「ふむふむ、ヒーローは無口と」
こればかりは喋らないレイヴンが悪いのかもしれない。
「出来ればACを背景としたツーショット写真を撮りたいのですけど?」
そこまでしなければならない義理は無いのだが少し考える素振りを見せるレイヴン。
「お近づきの印としてこれを贈呈しますから」
ヒソヒソと耳打ちをしレイヴンのポケットにナニかを忍ばせる生徒。レイヴンが確認してみると学食1ヶ月無料というチケットが入っていた。
『……一回だけだな』。と思ったであろう。
見合う見返りを用意されては断りづらい。それは断じてチョロいわけではない。傭兵として、それに見合うだけの報酬を用意されればどんなことでもやるというレイヴンの気質の問題である。
「おぉ! ツーショットOKなのですね!」
事件後保管されていたACだが、大きさの関係から保管場所の確保が困難になったため、外に野晒しの状態で置かれている。気軽にACに近づけるということで生徒側からも喜ばれている。
「学園のヒーローとその相棒のツーショット写真。これは次の記事の一面を飾る一枚ね」
どうもこの学園の生徒達はお気楽な楽天家が多い様子。ACを学園のヒーローとしてモニュメントとして見ている。
ACとレイヴンがヒーロー。思えばそんな扱い一度も受けたことが無いレイヴンは少し戸惑っている。傭兵やレイヴンやリンクスなど企業の手先。社会のはみ出し者。良いようには思われていなかった。都合の良いときだけおだて、不要となれば直ぐに切り捨てられる。
別にレイヴンは憂いているわけではない。全員自ら望んで選んだ道。それが常であっただけのこと。
「貴様ら何をしている? とっくに授業は始まっているぞ。さっさと教室に戻れ!」
「やばっ!」
「もうそんな時間?」
蜘蛛の子を散らすようにバラける生徒。時間の経過を忘れる程に気をとられていたようだ。ACはレイヴンにとっては当たり前の日常風景の一部だが、ここの生徒はそうではない。ましてや異世界の物となれば興味の対象としての魅力が絶大。未知との遭遇は誰しも心が奪われてしまう。
「全く餓鬼共ときたら……しかし、存外甘い男なのだなお前は」
同じ台詞を言われたことがあるとレイヴンは感じた。リンクスなどやっていれば時には甘くもなり辛くもなる。時と場合による本人の匙加減。
「ACの左腕や武器についてはもう少し掛かるとのことだ」
グラインドブレード使用時の副作用で左腕は勝手にパージされる。修理すれば使えないこともないが、こちらでは修理ようのパーツや手に入らない。つまり一から造らなければならないのだ。
「お前のチームの技術者と学園のメカニック志望の生徒並びに教員が急ピッチで作業に励んでくれているが、どうしても時間は掛かってしまう。その間に不測の事態が生起したのならば今の状態で出撃してもらうかもしれない。現状でまともにACに対抗できるのはお前のACぐらいしかない。対AC戦のマニュアルも当分先になる。それでもサポートてして出はするが期待はしないでくれ」
その程度のことは何度も経験しているレイヴン。味方に裏切られたり、作戦内容に捏造があったり、作戦そのものが罠であったりといろどりみどり。
「すまないな。お前の負担が大きくなってしまう」
謝られるようなことでもないのだが、正面から謝られたことのないレイヴンには貴重な体験である。レイヴンにとってはそれが当たり前。逆に言えばそのぐらいのことを乗り越えれなければ生き残れない。
「生徒達はお前を物珍しいものを見るように見ているだけだ。真剣に相手にするだけ無駄な上に後悔することになるかもしれないぞ」
レイヴン自身も自分のことをそこら辺に転がってそうな石ころのようなありきたりで、ありふれた存在に近いと思い込んでいる。故にそんな風に見られているというだけで感激ものである。
「話は変わるが、前回の襲撃の件だがあの無人機はお前だけを狙っていたように見えたのだが、狙われる心当たりは?」
学園側は襲撃機が無人機であったことまでたどり着いていた。総じてこの世界の技術者達も優秀なのだろう。それはさておき、狙われる心当たりがないかと聞かれ考え伏せている。あるといえばあるが、ないといえばない。狙われることなどしょっちゅうだった。それこそ本当にしょうもない理由から来るものあれば、先を見越しての危惧から来るものまで。
「しらを切るつもりなのか、それとも心当たりがないのかは知らないが、この先もお前を狙って連中が現れる可能性がある。それを周りが知ったときお前はどうなるのだろうな?」
わかりきっている癖に白々しい態度をとるオリムラ チフユに対して不快感を示す。
「何にせよお前はこの先どんどん居場所が狭くなってくる。今でこそ報道機関などといった所には臥せれているがいつまでもつかわからん。委員会の老人共も胡散臭いからな」
警告してくれているつもりなのだろう。レイヴンは身を案じてくれていることには感謝の気持ちを感じているであろう。だが残念なことに彼に決定権も選択肢もない。つまるところ彼は流されるしかないのだから。
「では私は失礼する。それと弟が何かとお前のことを知りたがっている。もしかしなくとも熱烈なアピールやコミュニケーションをするだろう。あの歳だ色々と憧れを抱いては妄想に走ることもある。その時は適当にあしらってくれ」
◆ ◆ ◆
「それでなんですけど」
彼女のいうことは少しばかり過剰ではないのかと軽く見ていたレイヴンだが、あながち間違ってもいなかったと納得していた。
昼休みになり、手にいれた学食1ヶ月無料チケットを使用するべく食堂に来たまでは良かった。この時も終始注目の的だったが、誰も近付いてはこなかった。それもそのはず。先客既にいたのだから。
食堂に着いて程なくしてオリムラ イチカが声をかけてきていた。なんでもまた昼食を共にしたいと。そのときに代表候補生と一緒に礼を言いたいと。乗り気ではなかった彼だが、オリムラ イチカがどれだけ自分に幻想を抱いているのかと確認するためやむ無く同行する。
そして現在に至る訳だが、意気揚々に喋るオリムラ イチカ。レイヴンとの温度差が激しいのだが、当の本人は気にする素振りが一切ない。
「2日前はありがとうね。お礼というわけじゃないけど今度酢豚でもご馳走するわ」
「鈴の酢豚は旨いですよ。実家が中華料理店なだけはあります」
期待に胸を膨らませている。ただ飯にありつけるのだから。
「それならば私からも……」
「あんたは止めなさい」
何故かイギリスの候補生には止めが入る。
「酷いですわよ!」
「犠牲者を出さないためよ」
「化学兵器を出すわけではありませんわ!」
「化学兵器でもないのに犠牲者が出るあんたの料理はおかしいのよ。必殺料理人ね。暗殺にはうってつけだから転職したら?」
「なんですの!? 必殺料理人って……! 転職なんかもしませんわよ!?」
年がら年中元気な二人に苦笑を見せる。元気の源は一体どこからきているのかと首を傾げているが。
ワイワイと団欒する一方で浮かない顔をする生徒が一人いた。シノノ タバネの妹だ。いつになく暗い顔をしてはレイヴンと目を合わせようとしない。
この顔、この表情には覚えがあるレイヴン。それは恐怖を抱くときだ。実に対照的である。候補生とオリムラ イチカに比べればシノノ妹はレイヴンを恐れている。そんな風に見えてならない。
「実は今日礼以外にも聞きたいことが逢ったんでよ。それはズバリACのことです」
やはり来たか。オリムラ チフユからも適当にあしらってくれと言われていたレイヴンだが、どうするべきかと悩む。
「間近で見ていたのですが凄いですねACって。俺でも操縦できるのですか?」
操縦程度ならば経験を積めば誰でも出来ることだから凄い特技でもなんでもないことを理解できるのはこの場ではレイヴンだけ。
「そういえばACってあれだけぶっ飛んでいるのにずっと地面にいたわよね。どうしてISみたいな飛ばないの?」
「飛ばないのではなく、飛べないのではないのですか?」
ズバリ、イギリスの候補生が当ててくれた。その通り。飛ばないのではなく飛べないのだ。ACは。
「それも変な話ね。あれだけの超技術の塊が空を飛べないなんて」
「考えられるとしたら、飛ぶ必要がなかったのでは? 元の世界ではISよりも優れた航空能力を有するものや、優れた対空兵器があったとか?」
面白い具合に議論を交わす二人の候補生。しかしその議論に明確な答えはない。ACが飛べようが飛べなかろうがそんなことはレイヴンや彼の世界にとってみれば気にするような大した問題ではないからである。考えるだか無駄なのだ。
「尚更謎ね。それだけ技術力があるのならば対抗手段ぐらい講じれるのにね」
「そればかりは向こうの世界の方に聞かなければ……見た限りでは航空機ではなく戦車といった陸戦兵器の発展のようですから……」
イギリス候補生の考察に成る程と改めて納得するレイヴン。実際彼もそこまでAC関連や兵器事情に関心を寄せていなかったが、イギリスの候補生の考察を聞いて少しばかり関心を得たようでもある。
「どうしたんだ箒? 浮かない顔をして?」
ここでようやく普段とは違う友人の異変に気付いたオリムラ イチカが声を掛けた。
シノノ ホウキは終始無言で箸を進めている。オリムラ イチカの声に気付き慌てて箸を止め彼の顔を見るが、視界にレイヴンの顔が入るや否や顔を再度伏せる。
「済まない。私は先に失礼する」
最後まで昼食を食べきることなく逃げるように食堂から立ち去ってしまった。
「どうしたのでしょうか?」
「たまに箒って突拍子もなく行動するからね」
「変だな?」
友人であるにも関わらず友人の反応の心理を見抜くことのできない三人。唯一理解できているのはレイヴンただ一人である。理解できているというよりかは直接的な原因でもあるからである。当事者は大抵目撃者達よりも過敏且つ鋭く他の者の感情を察知しやすい。
忘れられがちだが、2日前には死者も出ている。レイヴンのチームの人員であって学園の関係者でもないが、それでも死者であることに変わりはない。
その事を立ち去っていった彼女は誰よりも自分のことのように痛感しているのだ。決して他の生徒達が何も感じていないわけではない。ただ彼女は誰よりも真っ当な反応をしている。
人の死に初めて直面し、恐怖の権化と言える存在をあろうことか瞬時に撃破したレイヴンを恐れている。彼女の中でレイヴンは恐怖の対象として捉えられてしまったのだ。
人の死そのものにはレイヴンも思うところはある。表に感情には出していないが彼も人の子人間。無感情そうに見えるが彼にも歴とした感情は備えられている。大胆でもあり繊細でもある彼もまた人よりも気難しいのである。
「箒のことは後で俺が聞いてみるよ。それよりレイヴンさん。貴方に聞きたいことがあるんです。どっちかというとこれが本命なんですけど」
少し照れ臭そうに頭を掻きながら苦笑いするオリムラ イチカ。
「俺も貴方のようになれますか? 貴方のように強い存在になれますか?」
若干恥ずかしがりながらでもあったが、その目は真剣だった。思春期の男子ということもあり強さに憧れを抱くことは自然である。ましてや自分の前に圧倒的ともいえる強さを見せつけた人物がいるのならば尚のこと。期待の眼差しで見詰める少年の目は輝いている。
しかし、レイヴンは問いに対する答えが見つからず困惑している。彼の言う『強い』が何であるのかと思っているからである。ただ単に敵を倒すためだけの強さなのか。過酷な状況下でも自分を保っていられる精神的な強さなのか、それら全てを踏まえたものなのか有限なれど無数に近い概念的な質問であるからだ。人によって強さの考え方は違う。またレイヴン自身自分が強いとも思ったこともなく、強さとは何なのかと考えたこともない。
ここで素直に彼に自分の考えを告げれれば良いのだが、如何せんレイヴンも人付き合いというのは苦手であり口をつぐむだけ。
「俺も強さなんて漠然とし過ぎていることはわかっています。けど、俺は貴方のようになりのです」
彼の言う強さはレイヴンのような存在になりたいのだというらしい。確かに漠然としているが、先程よりは答えやすくなっている。だがそれでもレイヴンは何も答えない。否、答えようとしない。
レイヴンが何を思い伏せているのかは残念ながら見透せない。
「何でもいいです。どうすればいいのか教えてください」
頭を下げる少年に頭を上げさせる。何か答えてくれるのだと期待していたが、顔を上げた少年の前でレイヴンは首を横に振るだけだった。そして昼食をとり終えた彼は無言で席を立ち図書館まで戻ろうとする。
「俺、貴方の背中を追います」
人目も気にせず大胆な発言に周囲がそわそわするが、レイヴンは少年の顔をちら見しては直ぐに振り返りそのまま歩き出した。
「最後に一ついいかしら? アンタの世界は崩壊していたって聞いたけどそんな世界にも希望ってあるの?」
この問いには振り返りもせず歩く足も止めようとしなかった。
少女の質問の意図は不明だが、レイヴンの中にはある考えが一つだけ浮かんでいた。
『始まりの為の終わりに過ぎない』と。
如何でしょうか?お気づきの方もいらっしゃるかと思います。そうです。今回は黒い鳥の視点で彼の心情等を明確に記載していません。三人称で進めてみました。
書いている段階で、黒い鳥は喋らないのに心情や考え方を書くのはどうかと思ったからです。喋らないのならばほとんどのことを謎に包ませ、三人称から結果だけを反映させるべきではないのかと言う考えに至りました。
読者の方に黒い鳥がどういったことを考えているのかは丸投げですが、AC主人公のあるべき姿なのだと勝手ながら思っております。どうしても主人公というのは作り手の好みに染まってしまうので……
とはいっても試験的な取り組みなので、反響次第です。コロコロと手法などが変わっていますが、私自身が未熟者の若輩者なのでこういった試行錯誤を繰り返しています。
後書きに書くのも此方の方が活動報告よりも目を通しやすいと思ったからです。
長くなっていますが、原作キャラ達に少し手が加わっていますが基本私はアンチにはしないです。勿論ご都合主義も基本考えておりません。やむなしの展開ではあるかもしれませんがそれ以外はないです。
好き嫌いがわかれるかと思いますが、どうかご容赦のほどを。
ここまでの話では黒い鳥の心情を書いていますので、それは参考程度に。
あっ、あといい忘れていましたがシーン切り替えの記号も新しくしてみました。