なりやまない歓声と熱狂に包まれる会場。朝日が昇ってまもないというのに、大勢の人間が一ヶ所に集まり騒ぎ喚く非日常なシーン。目の前で繰り広げられる『試合』に送られる賛辞であり、『似た』兵器を扱っていた者としての立場から言わせてもらえば、滑稽以外の何者でもない。
人殺しの『道具』を扱っての『試合』に、何故熱くなっているのやら……理解に苦しむ。道具を使っての『ごっこ遊び』に何の意味があるのか? これはこの世界の人間と俺の価値観の違いか? だとすれば、この世界の人間も狂ってるな。試合をする方も、観戦する方も。
多くの命を摘み取り、蹂躙してきた俺が言えたことではないが、俺にはこの世界の人間の考えが理解できない。重複するが、一体何の意味があるのか?この試合で何を勝ち取るのか?生か?名誉か?金か?領地か?……どれも違う。只の無意味な行動でしかない。まぁ、俺も人のことは言えないけどな。
娯楽の一種として手汗握る刺激に興奮するのは不思議なことではなく、人間としては当たり前の感覚。
ただそれも弁えていればの話し。娯楽を日常と錯覚すれば非日常の対応が困難になってくる。娯楽は娯楽。娯楽が全てに通ずるわけではないのだから。
「不満か?」
不満?見当違いも甚だしいな。所詮は他人事。それに対して不満などあるはずもない。俺にはただ解らない、理解できないだけだ。こんな茶番劇を繰り広げる意味が……
茶番劇事態に意味は無さそうだが、茶番劇の戦闘行為そのものは参考にはなる。IS同士の戦闘を第三者視点で眺められるのは、貴重な体験だ。俺自身の戦闘に何らかのヒントになるやもしれん。
アリーナ上空で交戦する二人に視線を移す。あの高度での戦闘は俺には不向きかもしれないが、ISでの移動術や姿勢制御は少なくとも俺よりは上かもしれない。特に青色の機体の少女は落ち着いた動きで、白い機体を牽制し続ける余裕がある。射撃も正確だ。あれほどの余裕をもって戦闘を行えればどれだけ楽なことか。
「ふ、興味津々じゃないか」
戦闘にはな。俺の実力は決して高くはない。武器の性能と機体に助けられている節が多い。自分より実力が上の人間の戦いに興味がいくのは自然な成り行きだ。特にあの青色の機体から分離している小型の自律兵器は気になる。
「どうだ? 戦ってみたくなったか? お前が良ければエキシビションとして試合を組んでやっても構わないが?」
馬鹿を言うな。世間に二人目など発表すらしてにいのに、いきなり二人目が表れれば注目の的になってしまうではないか。それに俺の機体の構成はここいいる連中とは一世を風味させてある。必要以上に手の内を明かしたくはない。それに他人の戦闘で熱くなるなど下らないことだ。
「この場を借りての発表で一躍有名になれるぞ?」
何度も言うが、そんなものに興味などない。面倒事ばかりが押し寄せてくるのが関の山。俺にはもう、委員会という雇い主がいる。それだけで十分だ。
必要以上なことは不要。肩書きも、権力も、地位や名声や富など全て不要。戦える場と機会さえ設けてもらえれば文句など言わない。思うように生き、思うように動く。
「個人的には、この学園で私の愚弟と仲良くしてもらいたくてな」
愚弟?あの白い機体に乗っている男のことか。今アリーナで戦闘を繰り広げているのが、オリムラの唯一の肉親で、弟のオリムラ イチカ。ISを男で唯一扱えるイレギュラーな存在。国からは専用機を与えられ、学園に身を置くことになっている。体のいいモルモットが良いところの可哀想な奴だが、以前食堂で擦れ違った際に何かを感じた。何かを秘めている。直感だがそう思った。
オリムラが言うには、周りが全員女であるこの学園に在籍する男の俺を利用したいようだ。子守りなど俺の柄でもない。丁重に断らせてもらう。
「そうか、残念だな。お前が世間話できる相手を紹介してやったつもりだったのにな」
必要とあらば此方から接触するだけだ。今はその必要はないと判断しているだけだ。一応名前と所属するクラスとやらは覚えておこう。どうせお前も俺のことを伝える気なのだろう。
十中八九オリムラは、俺のことを伝える。それもほぼ100%にな。オリムラが俺をどうしたいのかは知らないが、ゆくゆくは気軽に外部の情報を得れる相手が必要不可欠となってくる。あの六人でも事足りるが、俺達とは別の立場の人間の話も重要だ。
『{これであの武器は使えねぇだろ}』
オリムラの機体が対戦相手の機体に組み付く。先程から手を焼いていた自律兵器を完封するべくして組み付いたのであろう。
対戦相手に組み付いてしまえば、攻撃時に自分諸と攻撃することになってしまう。そんな間抜けな事象はいい笑い話。オリムラの対策の一つとしては間違ってはいない。通常ならばな。
『{ふっ、甘いですわよ}』
組み付かれていようが、自律兵器はお構いなしに射撃を始める。オリムラのあては外れたみたいだ。機械によるワンパターン兵器ではなく、オリムラを撃つ際に自分にも被害が出ないように場所を考えていることから、対戦相手本人の思考制御なのだろう。
にわかに信じがたいが、そのような兵器が存在しているのだと素直に認識したほうが余分な混乱を生むこともない。
『{何っ!?}』
衝撃で組み付きをほどいてしまい、離れたオリムラを今度は対戦相手の方が足で踏みつけライフルを突き付ける。
形勢は完全に逆転。オリムラを撃ってしまえば試合は終了なのだが、余裕なのか遊んでいるのか対戦相手は突き付けるだけで悦に浸っている。
『{これで終わりにするか、続けるか選ばして差し上げます}』
『{そんな決定権がお前にあるのか?}』
『{口のききかたに気を付けていただきましょうか}』
『{ちぃ!}』
「{織斑先生! 織斑君が!}」
緑色の髪をした女教師がモニター越しの映像を見て叫ぶ。映し出されていたのは、あの白い機体が爆発に包み込まれる映像であった。
決着でもついたのだろう。会場の雰囲気や青色の機体のパイロットの勝ち誇った顔を見れば、白い機体が受けたダメージは深刻なものだと予想できる。試合のルールは先にシールドエネルギーが尽きた方の敗北。白い機体はあのミサイル攻撃でエネルギーが尽きたことになる。
「{機体に救われたな}」
ただ一人オリムラだけは白い機体の敗北を悟っていなかった。
「{これは……!?}」
爆風の中で浮かび上がる一つのシルエット。そのシルエットにに誰もが目を疑った。完全に敗北が決定したであろう対戦相手の姿であったのだから。先程までの白い機体とは形状が少し異なっているその機体の全容を、爆風が晴れると同時に鮮明に捉えることができた。彼も他の連中と同様に、白い機体に目を奪われていた内の一人であった。
なんだあれは?
空中に佇む白い機体とパイロットは、何事も無かったかかのように平然としている。そこも驚くポイントではあるが、観客や俺や教師が一番驚かされたのは何と言っても白い機体の変化である。マシーンが変化するなど聞いたこともない俺の常識からしてみれば、それは信じられない光景であった。堪らず俺はオリムラにアレの詳細を聞いていた。
「最適化とIS形態移行だ。形態移行は簡単に言えば進化。最適化はISが操縦者に合わせてハードウェアを形成し、表面装甲などといった姿形を変えるものだ。つまり織斑は今まで初期設定で戦っていたわけだ」
進化だと? 有り得るのか? そんな兵器が……?
『うぉぉぉぉぉ!』
『ッ.....!』
性能が格段に上がっている.....動きもまるで別人のようにキレが良くなっている。ビットやらよりも速く先に動き射撃モーションに入る前に撃墜していた。
あれがオリムラ弟の戦闘スタイルなのか。高機動軽量型の近距離特化型の機体を更に操縦者に合わせ、サポートしている。
全てのビットをレーザーブレードで破壊したオリムラは、手薄となった女の懐まで再接近した。接近させまえとレーザーライフルで迎え撃ってていたが、複数のビットと比べ単調な軌道で予測が可能なライフルだけでは、ビットを攻略したオリムラ弟には容易いだろう。
『イ、インターセプト』
『遅い!』
接近を許した女は緊急手段用のナイフのようなブレードを取り出すが、判断が遅かったのか取り出す頃にはオリムラ弟のレーザーブレードが眼前に迫っていた。
大どんでん返し。正直終始押されていたオリムラ弟が勝つなど予想外だったが、ISとやは自己進化をし強くなっていくことが判明しただけ有益な時間となった。
今回のように突然の変化で急激に性能が上がられては厄介どころの騒ぎではない。戦場で合間見えるときは、進化される前に叩かなければならなくなった。悠長に戦っていたら取り返しのつかなくなるなんて笑えない。
しかし、全てのISが自己進化で性能が上がるのならば俺が使っているラファールにもその可能性があるわけだな。
《勝者セシリア・オルコット》
はっ?
待て待て、なんだそれは? 何故勝者があの女なのだ? オリムラ弟の攻撃はどうなった?
「白式のエネルギーが先に切れたんだ。織斑の使っている武器は特殊でな、エネルギー無効化攻撃と呼ばれる単一能力の零落白夜」
エネルギー無効化とやらの意味は大体予想できる。が、それなら尚更オリムラ弟の勝ちではないのか?それなのに何故オリムラ弟のエネルギーが先に切れたのだ? 全くもって納得がいかない。
「あれは自身のエネルギーを消耗して発動する謂わば、諸刃の剣。僅かな使用でも膨大なエネルギーを消耗してしまう。今までの戦闘で消耗しきった状態でそんなものを使えば直ぐにエネルギー切れになってしまう」
役に立たない能力じゃないか。単体の戦闘では先ずつかわれないだろう。複数人のそれこそあの女のような支援機無しでは現実的には実用されない。
「戦場での戦闘の話しか?」
それ以外に何があるというのだ。長時間の戦闘など当たり前のことであって、こんな試合とは訳が違う。移動から弾薬の節約に敵と遭遇するタイミングと、敵の増援など複数の不確定要素が予測される実戦でそんな機体が役に立つわけがない。
「.....そうだな」
尤もエネルギーが切れたらそれで試合終了の時点で、実戦など視野に入れていないのだろう。シールドエネルギーが切れたら自分を守るものが絶対防御やらだけになって、操縦者が危険に晒されるだけだろ。戦場では常に危険に晒される。保身は大切だがそればかり考えていてはダメだと言っているだけだ。
試合が終了したことで、この場に俺がいる必要もなくなったわけだから自室に戻ることにした。何かあれば騒ぎになるだろうし、委員会からも連絡が入る。
基本的に俺の行動は縛られてはいないのだから、教養以外では何処にいようが勝手。その旨を伝え俺はアリーナを後にした。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
その晩俺は夢を見た。不思議な夢だった。自分の知っているようで知らない内容。
『私を追っているらしいな.....誰であろうと私を越えることなど不可能なのだ』
『奴がお前の敵? 直ぐに戻ってこい話がある』
場所や状況は馴染みのない光景だが、去っていった機体と佇む機体には馴染みがある。正確に言えば形状や大きさ・武装などは見覚えはなかったが、それは紛れもなく『AC』だった。
俺の知らないAC.....何故それが夢に現れたのか.....理解できなかった。
この夢には一貫性がなかった。気が付けば次のシーンへと状況が進んでいた。
『企業.....AC.....そしてレイヴンズ・ネスト』
『全ては私が造り上げたもの.....』
『荒廃した世界を.....人類を再生する.....それが私の役目』
『力を持ちすぎた者.....秩序を乱す者.....プログラムには不要だ』
状況が全く掴めない。一体俺は何を見ているのだ? 一体何を見せられているのだ? これを見せているのは誰だ? こんなものを見せてどうするつもりなのだ?
更にシーンが飛んだ。今度の内容は先程までの無機質な空間ではなく、砂漠のど真ん中。内容に繋がりが見られそうにない。
『いかん! そいつに手を出すな!』
また俺の知らないAC.....いや、アレはACなのか? 四脚ACは衆知されているが、あの機体はACとは別のナニかに見える。
滑走してきた四脚のナニかを撃退したAC。パイロットが誰なのかわからないが、ただ者ではないのは確か。
『オマエモ.....ドミナント.....』
砂漠のシーンで見た四脚の機体だろうか? 四脚ではなくなり二脚の人型に形を変えている。砂漠では何も言葉を発していなかったが、カタコトながらも砂漠で四脚を撃退したACに対して『ドミナント』と告げ、消滅した。
ドミナントという単語にも聞き覚えがないが、青色のナニかを破壊したACの操縦者にはどこか親近感がある。夢なのにまるで現実での出来事のようであり、その場に俺が存在しているようだった。
だからこそ俺はこのACのパイロットを感じることが出来るのか。このパイロットだけではなく、最初に見たACのパイロットにも同じことが言えた。
わけがわからない。夢にも自分にも。どうして俺はあのACのパイロット達を感じることが出来るのか。
この先も続くのかと思えば夢はここで途切れ、俺は朝方に目を覚ました。鏡で自分の顔を見ても窶れた様子も焦った様子もなく、普段の俺のままだ。
ただ違ったのはあの夢の内容を鮮明に記憶していることだ。ゆめなど大抵は大雑把にしか覚えていないもので、ここまでリアルに体感するものじゃない。
元の世界にいるときもここに来た時も、あんな夢など見たことなかった。昨日が初めての経験だ。これだけで終わりそうにない。何故か知らないが、まだこの夢は続きそうだ。
どういった路線にしようか悩んでいたら、こんなぶっ飛んだファンタジー内容になりました.....
これが果たしてナニを意味するのやら.....