東の空が紅黄色に染まる現象である朝焼けを背景にし、俺は学園内の敷地を軽いランニングで駆け回る。ここ最近の日課として、日の出の少し前から走ることにしていた。体力錬成を目的とした運動でなく朝焼けの風景を見るための運動。この美しい風景に心奪われてしまい、心に刻み込むだけではなくカメラで写真に納めることも始めた。
「カァー♪」
風景を楽しむためのランニングは、今まで一人だけだったが昨日から仲間が1羽加わっていた。
昨日カラスに提言したあとカラスは飛び去っていき、拒否されたのだと思い込んでいたところ、今日俺が目覚めるとカラスが窓ガラスを嘴で、コンコンとつつき俺を外で待っていたのだ。
俺が地を走るのに対し、カラスは羽を大きく空に広げ漂うようにして空を飛んでいる。俺達の距離はそこまで離れてはおらず、俺の少し上空を飛んでいるだけ。飛んでいる最中カラスは意気揚々に鳴き声を挙げ、喜んでいるように見える。
ランニングを終えるとカラスはまた再び空の彼方へと消えていった。一日中一緒に居るわけではなく、こうして外で俺が動く時のみついてくるようだ。図書館で働いている時は何処で何をしているかはしらないが。
部屋に戻り、汗を流すためにシャワーを浴びる。ささっと洗髪と洗顔を済ませ、時間に間に合うように着替え朝食を摂る。その際に備え付けられているテレビの電源を入れ、朝のニュースに耳を傾ける。
日常生活に慣れてきたわけだが、改めて今の自分を省みてみると俺も普通の人間なんだと実感する。オリムラやオリムラ弟達と同じ普通の人間。自分が他者より優れているとは決して思ってはいなかった。それでも少なくとも何もしていない者とは違う人種だとは思っていた。
コロコロと考え方が変わり矛盾しているかもしれないが、ここではそれが許される。ここではゆっくり自分や回りを見詰めることができる。
そろそろ時間か.....
時計の針はまもなく7時30分を指そうとしていた。トースターを全て口に放り込み、服装を整え部屋の鍵を閉め働き場へと向かう。
途中で何名かの生徒とすれ違い、その度に注視されている。どうやら本格的に俺のことが広まりだしているのだろう。利用者が増え出しているのもその影響なのか? 俺は自分の容姿に関心などない。容姿を気にする必要などなかったからだ。だからこの世界で雑誌やテレビに映っているイケメンとかいうものはよくわからない。何を基準で言っているのか、そもそも何故イケメンがちやほやされているのかもわからない。
元の世界ではそういったことが一切なかった。強い者しか生き残れず、生き残った者達だけが種を残せた。容姿や技能云々ではなかった。
「おはようレイヴン」
図書館には既に女が来ており、せっせと掃除を始めていた。女の挨拶に返事を返し、俺も掃除機を手にし掃除を始める。
「掃除機の使い方覚えたんだ」
バカにし過ぎだ。こんなもの一度使えば使い方など直ぐに覚えれる。ISやACの操作に比べれば雲泥の差。
しかし、ISは兎も角としてACとはもう何ヵ月と離れてしまっている。元の世界に戻った時に操縦が満足に出来るのだろうか。操縦法を忘れたわけではないが、判断や回避能力が劣っているのではないのかと不安にはなる。こんにACと離れて生活することなど、ACを手にしてから一度もなく、一度も訪れないと思っていたからだ。
無い物ねだりをしてもしょうがないが、やはり俺はACの方がISよりも馴染みがあり、愛着も多少ある。まぁ、こんな世界にACなんて現れた暁には世界は大混乱するだろうな。
ヴヴヴヴ
「レイヴン、貴方のタブレットがなっているわよ」
委員会の連中から渡されていたタブレットが初めて鳴っていた。『業務』連絡があるときのみ連絡が入ることになっていたが、余りにも平和すぎて呼び出しなどこないのではないのかと疑っていたところだ。
『おはようごさいますレイヴン。急なのですが、出撃が委員会から通令されました。至急ヘリポートまで来てください。直ぐに出発します』
了解の二文字で返事をし、タブレットの通信を終了する。
「何かあったの?」
事情を知らない女には適当なこといって休暇扱いにしてもらったほうが、都合がいいだろうな。
女には適当に母国の家族が危篤と、ありきたりな説明をする。100%嘘だと見破られるが、つきやすい嘘としては一番だ。
「そう.....わかったわ。元々ここは私一人で切り盛りしていたから、今さら一人になってもやっていけるわ。向こうには何日間滞在するの?」
作戦次第だから明確にはわからん。多く見積もって5日ぐらい休暇扱いにしてもらおう。作戦の概要もまだ説明を受けてはいない。日本国内での作戦ならばいいが、日本国外となると移動だけで1日かかる国もある。そこでの作戦になれば、5日が妥当なところか。
母国の家族が危篤とは言っていたが、当然元の世界でも俺に家族はいない。いないというよりかは知らないと言った方が正しいだろう。物心つく頃には一人だった。それまでの記憶がない。
この世界での俺の設定は、母国が内紛状態の中東。近日内紛が終結したということ委員会と口車を合わせてある。偽の国籍に、存在しない家族も全て揃っている。
「5日と言わずに一週間ぐらい向こうで過ごしてきていいわよ」
疑うわけもなく女は俺の嘘を信じ、5日ではなく1週間もの休みを与えると言ってきている。休みが増えたところで、本当に休めるわけではないのだが、女から言ってきているのだからお言葉に甘えさせてもらおう。
「体には気を付けなさいよ」
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「お待ちしておりました。ヘリに乗ってください。作戦の概要説明は移動中に行います」
ヘリポートは学園の敷地の外れに設備されており、普段はお偉いさん連中が視察するときにしか使われていないらしく、そこを俺達専用に借り受けている。
ヘリポートに着くと、俺以下5名はヘリに搭乗済みでオペレーターが俺を向かい入れてくれた。オペレーター誘導の元ヘリに乗り込むと、搭乗口の片隅にノワールが仰向けに寝かせられていた。その反対側にメンバー全員が騒音防止のヘッドフォンとシートベルトを着けた状態で座っていた。俺もオペレーターも空いている席に腰を掛け、ベルトとヘッドフォンを装着する。
「ヒヒヒ、平和な一時は堪能出来たかね?」
ヘッドフォン越しでも人間の声は聞こえる仕様のようだ。ギヨームの下衆な笑い声と性根の腐ったような台詞が懐かしく感じ、あのぬるま湯の生活から一瞬で元の俺に切り替えさせた。スイッチが入ったことで、今このときまでのことを一旦全て忘却させる。
オリムラ・ヤマダ・女共・オリムラ弟・カラス・慣れた日常生活と和んでいた自分の全てをだ。
「久々に会ってみたら初対面の時に比べ、覇気が感じられなかったから、骨抜きされすぎて腰抜け野郎かと思いましたけど、その心配はなさそうすっね」
ゲラゲラと他のメンバーに釣られ笑い始める同僚達。一般人にしてみれば、ここの連中に酷く嫌悪感を孕むだろう。そんな連中に囲まれるのが偉く落ち着き、哀愁さえも抱く。やはり俺の居場所はここなのだなと、思わざる得ない。
「それでは概要を説明します。今作戦ではある人物の抹消をお願いします。その人物はかつて中東に巻き起こった『アラブの春』の再来を謳い、非常に不安定な中東に更なる混乱を招き入れている筋金入りのテロリストです。此方がその人物の資料となります」
手渡された資料に目を通す。ソコには目標の詳細が記入されており、ターゲットは中東の各政権の中心部となる政庁を無差別に攻撃しているようだ。なんでもターゲットは長く続く中東の小競り合いにより故郷を潰されたようだ。その後軍のISを奪取し、有志を集い現政権を武力による打倒で一から民主国家を作り直そうとしている模様。成る程.....革命家か。
「ターゲット達酔いすぎています。これ以上彼等を野放しにしておけば遠くない未来に、かつての中東に逆戻りしてしまいます」
ズキン.....一瞬脳に電流が走った時のような痛みに見舞われる。痛みだけではない.....何かを忘れている.....何かを繰り返そうとしている。そう気がしてならない。
「安定期を迎えようとしている世界という大木に、腐った枝など必要ありません」
.....思い出せない。何処かで.....遠い何処かで同じことを.....似たようなことを俺はしていた気がする。
「状況は既に出来上がっています。後はあなたの活躍次第です。レイヴン宜しくお願いします」
"アマジーグ.....?"
一同を乗せたヘリは学園から遠く離れた異国の地へと向かっていた。そこに待ち受けているのは、果てしなく続く戦いの連鎖を引き起こすモノと清算すべきモノである。
・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
学園での風景とは180°変わった殺風景且つ荒廃した大地に佇むIS。土壌は渇き、瓦礫とかした建築物からは人間が生活をしている様子が感じられない。日照りが体を照らすが、ISの機能により熱と紫外線は遮断されている。
渇いた地に植物・動物といった生命は何処にも見当たらず、360°全周が先の見えない地平線と、終わりのない破滅を表現しているようだ。
『まもなくターゲットは作戦エリアに侵入します。ターゲットはこれまでに目まぐるしいまでの戦果を上げていることから、幾らあなたと言えど正面からの戦闘は無謀です。よって闇討ちを挙行します』
..............................。
『ターゲットは常に単独で行動。これには自分自身を陽動にすることで、他のメンバーからの注意を反らしています。ターゲットの存在がテロリスト達の全てであり、意思の象徴と言っても過言はありません。逆をつけば、彼女を除けばテロリスト達は烏合の衆に過ぎません。制圧は容易です』
寝てもいないはずなのに、瞼を閉じれば脳裏に夢のようなビジョンが再生される。今この状況と似たような立場で繰り広げられる空しい戦闘。それを俺はここで再現しようとしている。
.....惑わされるな。こんなものまやかしだ。俺は俺だ。何時までもこんなものに振り回される俺ではない。
自分で道は決める。例え同じ過ちであろうが関係ない。
『.....来ました!』
ターゲットを乗せたトラックが作戦領域に侵入した。作戦開始だ.....哀れだなお前も.....
トラックに対してクアッド・ファランクスと呼ばれる大口径のガトリングガンを構え、容赦なく引き金を引く。
高速回転される8連装の銃口から、高速で無数の凶弾が獲物に風穴を空け30秒も経たない内にトラックは穴だらけになり、無慈悲な攻撃がトラック内の全ての生命を奪ったであろう。
爆発し、ひっくり返ったトラックの煙から影が一つ。どうやら仕留め損ねたようだ。
「闇討ちだと.....? 姑息な.....!」
爆煙から現れたISは大地に降り立ち、操縦者が此方を睨み付ける。褐色の肌をした女の黒い瞳が俺をじっと捉えている。
トラック周辺を見ても死体が見当たらない。本当に単独で動いていたようだ。トラックの運転手もこの女で、操縦者もこの女か。
女の機体は焦げたオレンジ色のようなカラーリングに、両手にハンドガンが握られている。近距離による高速戦闘が売りなのだろう。近距離戦に取り回しの悪い大型火器は不要。
両手で握っていたガトリングガンを放り投げ、代わりにショットガンを装備する。
「ここまで来て、むざむざと殺されてたまるか!」
女のISが中に舞い上がり小刻みに空中を駆けていく。女が舞い上がるのに合わせて俺も機体を走らせる。
ブースターにより砂塵が巻き起こり、地面すれすれで滑空する機体は空中から放たれる弾丸を、機体を左右に滑らせることで回避。姿勢を変え、バック走の体勢で滑り、付近の瓦礫を蹴りあげることで推進力として利用し、宙を舞い敵ISに引き金を引く。
俺が宙に常に上がらないのは、飛ぶことより大地を駆けることに慣れているからだ。
「散弾ごときでは.....!」
ショットガンが命中するも、やはり散弾ではISに大したダメージを与えられず、特に怯む様子もなく反撃を始める。
二挺のハンドガンから連続で放たれる弾丸が的確にショットガンの銃口に吸い込まれ、ショットガンが内部から爆散。的確な射撃に被弾に怯まないことから、相当実戦経験が豊富なようだ。手数の少ない武器で相手の戦闘力から奪っていく。資材が乏しいテロリスト達ならではの武器に戦闘スタイルだ。
生憎ラファールは火薬庫に相応しいだけの武器の許容量がある。武器が破壊されようがどうということはない。
ショットガンを直ぐに捨て去り、新たにライフルを取り出す。相手が的確に武器を破壊してくるのならば、ハンドガンの射程範囲外からの射撃に切り替える。無理に相手に合わせる必要はない。
再び地に降り、残骸の影からライフルによる射撃を始める。止まることはなく常に影から影に移動し、敵の反撃を残骸を盾にすることで防ぐ。
「闇討ちだけではなく、こそこそと逃げ回ることしかできない臆病者なのか!」
俺のプライドを逆撫でして逆上させるのでも狙っているのか? 残念だが、戦闘中にプライドなどに縛られるような柔な戦闘をしてきたわけではない。勝てばいいのだ。過程などどうでもいい。結果が重要なのだから。弾薬費・機体の破損は加味するがな。
女がここまで生き残れてきたのは、なまじIS操縦者の女共のプライドが高く、その隙を突いてきたのだろう。武器破壊にしても、そんな繊細かつ考え抜かれたことをまともな操縦者達がするとは思えない。これは学園で見た勝手な偏見だがな。
「くそ.....なぜ落ちない。今までの奴等とは違うのか」
次第に焦り出す女。ここまで長期戦を迎えたことがないのか。
ハンドガンにリロードをする合間にミサイルを発射するも、ノワールのミサイル迎撃ミサイルにより相殺される。
今作戦に合わせて事前にノワールには、ミサイル迎撃装置を装備済みである。情報が筒抜けになった時点で女は終わっていたのだ。女の手持ちの弾薬もそらそろ切れる。無理に戦闘をすることもない。相手の弾が切れるのを静かに待つだけ。そう静かにな。
「大した忍耐力だ.....これまでの奴はストレスで自分から自滅するような奴ばかりだったが、敵を見謝ったな.....」
笑止。この程度の弾丸行き交う戦闘でストレスを感じるなど笑われてしまう。
「私は立ち止まるわけにはいかないのだ.....故郷のためにも.....無惨に散っていた者達のためにも、必ずやり遂げなければならないのだ」
死期を悟ったのか? それとも苦し紛れに同情でも煽り、あわよくば見逃してもらう魂胆か? 甘いな。女の境遇や身の上話なのどに興味など微塵もない。俺は淡々と依頼をこなすだけさ。
終局は呆気ないものだ。女のISの弾薬がゼロになったことで、この戦闘の勝者が決定した。後は女を始末するだけ.....
「私も解っていたさ.....こんなことに意味はないと。こんなことをしても何も変わらないのだと.....だけど止められなかった。止まらなかった」
ISの機能を停止させ、ゆっくりと降りてくる女。
ライフルをしまい。右腕前腕部にパイルバンカーを装備し、女の前まで機体を進ませパイルバンカーを振りかぶる。
女は逃げも隠れもせず、覚悟を決めたように佇みその時を迎える準備をする。
「殺してきたんだ.....殺されもするさ」
"恐れるな.....死ぬ時間が来ただけだ"
躊躇いもなくパイルバンカーが女の体を貫き、命を刈り取る。このパイルバンカーはギヨームがオリムラの零落白夜を参考に、同系統のエネルギー無効化攻撃を実戦向けに造り出したもの。オリジナルと違い、このパイルバンカーはノワールのエネルギーを消耗しない。完全無欠のパイロットだけを殺す兵器。
表の世界や競技では間違いなく禁止兵器に指定されかねない代物だが、バックには委員会にここは戦場だ。ルール等は関係ない。
『お疲れ様ですレイヴン。作戦は終了しました。他のメンバー達も次々に制圧されていっています』
"或いは.....お前も.....いずれ....."
女の散り際の断末魔にそう聞こえたような気がする。その瞬間俺の頭を激しい頭痛が襲う。体験したことのない痛みにその場に蹲ってしまった。
『レイヴン!? どうしたのですか!?』
異変に気付いたオペレーターが俺の身を案じるが、問題ないと返事をし痛みに耐えながら立ち上がる。
何の痛みだ.....何故悲しくなる.....何故『後悔』しているのだ俺は!!
得たいの知れない感情が込み上げてくる。
"国家解体戦争" "アナトリア" "フィオナ" "ジョシュア" "リンクス" "レイヴン" "レイレナード" "アレサ" "リンクス戦争"
身に覚えのない単語と映像が痛みと共に流れ込んでくる。左手で顔を抑え強く圧迫し、痛みを紛らわせようとするが意味はなく、同時に吐き気も模様してきた。必死に吐き気を抑えながらノワールを動かし合流ポイントまで向かおうとするが、体が思うように動かない。
『.....!? レイヴン! 気を付けてください! 何かが急速に接近してきています!』
痛みに悶えながらハイパーセンサに反応がある場所に向く。僅かに目に写し出されたのはISをも越える速度で接近する『黒い巨大な機体』だった。
あっという間に距離を縮めた黒い巨大な機体を目にした俺はまずそのサイズに驚いた。ISを優に越えるその大きさは10Mどころではなかった。軽く20Mぐらいある文字通りの化物である。サイズだけではなく機体から発せられる歪な空気は周囲を飲み込む勢いで侵食し、圧倒的な恐怖を抱かせる。
初めて俺が恐怖をした。かつてもこの機体よりも巨大な兵器を破壊してきたが、それら無人兵器より圧倒的な威圧感が俺の体を震わせる。
見た目がACに酷似しているが、俺の知っているACではない。それに何処かで見たことのあるような感覚だ.....そうだ、夢の中で出てきたAC達と似ている。それでもそのACより一回りも大きい。
『レイヴン! その未確認機は危険です! 直ぐに撤退してください!』
これは神の裁きなのか? 俺を殺すために神が送り込んだ使者なのか?
頭痛と吐き気は失せたが、この未確認機を前にしたらそれすらも可愛く思える程の恐怖に体が一歩も動かない。
《00-ARETHA》
ノワールのハイパーセンサには何故かこの巨大な兵器の名前が表示させれていた。
タイラントことこの機体の登場DEATH☆
サイズとか武装とかISにはなっていないオリジナルです。
ただの無理ゲー。
AC風の追加ミッションでいうと。
《エリアから脱出せよ》