《死にゲーマー》 死んだら終わりのSAOへ巻き込まれ……   作:NEAR LIGHT

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六話 クソゲーはクソゲーとして楽しい

 

吹き飛んだディアベルさんにしばし意識を取られたが、今助けるべきはより多くのプレイヤーだ。ディアベルさんの方にはキリトが向かったのを確認してさらに加速。

 

冷たく選び取る冷静な思考ながらも敵を倒し切る攻撃性を潜める激情を、その両方を刃に込めて。範囲攻撃を喰らったプレイヤーに追撃を仕掛けるボスとの間に二本持ちで割り込む。

 

「させるかよォ!!」

 

仮想世界の身体能力とステータスを存分に利用し、右足を強く踏み込み二刀の短剣を肉体を中心として回転しながら宙へと舞う。

 

「そのデカッ腹、削り取ってやる…!!」

 

一回転。

 

物理エンジンが織り成す遠心力を制御し、回転は追従する短剣の軌跡を作り二閃。ボスに赤い斬撃跡が二本刻まれる。

 

二回転。

 

斬撃の速度は衰えず刃は更に深くボスへと食い込み精度を上げた斬撃は、先のダメージよりも多くのダメージを与えた。

 

三回転目を放ち、回転はようやく停止する。

 

最後の三回転目はこれまでよりも、より強くより速く敏捷よりも僅かに低いだけで比較的高い筋力ステータスで短剣を全力で振り抜く。

 

「GAAQQ…!?!?」

 

「ハッ!してやったぜ…!!」

 

HPバーの一割を単独で削るに至った回転斬り。

 

三秒足らずで終わった一連の斬撃は俺のスタミナ値を大きく消費するものでも無い。。

 

当然と言えば当然、俺はただ物理エンジンに従って高速スピンをしながら剣を振り回していただけだからな。

 

だからこそ、次の行動へと即座に移れる。

 

「死にゲーマーの底力、見せてやる」

 

 

 

一般人は何やら勘違いしているかもしれないが、死にゲーを専門にして遊ぶいわゆる死にゲーマーは‪全員が全員、ゲームが上手いという訳では無い。

 

よく動画サイトで見る裸攻略やらノーダメ攻略やらは幾度もの死亡回数で覚えた攻略法の一環であり、敵の攻撃を初見で全て見切るなどという頭のおかしいプレイングは、”‬‪一部の極まった変態”‬のみに許される極芸だ。

 

俺は断じてそんな変態では無い。でもゲーマーならば、誰かの神がかったプレイングを見て真似したくなるのは自明の理だ。

 

ボスの行動パターンは取り巻き処理中にだいたい覚えた、SAOの自由度と回避特化のステータスなら………今の坂本 美月(サカヅキ)なら行ける。

 

 

 

「GGG…!!」

 

低く唸るボスの振るう大刀の袈裟を狙う斬撃を屈んで避け、切り返しの横薙ぎを前へ進みながらジャンプでかわし、連撃を喰らわせる。

 

一番恐れるのは初見殺しでは無い、初見殺しなど出されたらどっちみち死ぬから考えるだけ無駄だ。恐れるべきは、敵の攻撃が認識出来ないことだ。どんなに遅い攻撃でも、見えなければ当たってしまう。

 

ならばこそ、俺はボスの体を踏み付け十分な間合いから、ボスの全体像を捉え攻撃パターンを判断し回避する。

 

「す、すげぇ………」 「全部避けてるぞ……」

 

そうだ、全部避けてやる。なんなら攻撃のチャンスがあるなら、他の奴が復帰して来る前に倒してラストアタックボーナスを掻っ攫ってやる。

 

ボスが大刀を鞘も無いのに抜刀の位置で構えた。

 

あれはディアベルさんをヤったソードスキル……ッ!!

 

予測出来る刀の軌道を思考、弾き出された結果から、左手の短剣を投げナイフとして投擲。

 

投擲したものの投げナイフとしての役割は求めていない。求めたのは短剣のソードスキルを発動可能にするためだ。

 

「GQQGAAA…!!」

 

ボスは投げナイフを受けながらも柱で弾き回るように柱を飛び移り、上段からのソードスキルで俺を襲う。

 

俺も下段からの切り上げソードスキル リバースウィングで短剣を振り上げる。

 

下段から大刀と真正面から向き合う短剣は、認識するのも不可能な僅かな時間拮抗し、その威力を相殺することで決着した。

 

「まだ練習足りなくてパリィとまで行かねぇがよォ……

 

……防御には十分だなァ!!」

 

俺の数倍の巨体を使って大きく振るう大刀は、ソードスキルで何度も俺を打たんとする。対抗して俺も、リキャストタイムが極僅かの短剣ソードスキルで相殺し続ける。

 

「ハハッ…!!存外俺もやれるじゃねぇか!心残りはこれはクリップにしてネットに公開出来ないことだな!!」

 

ソードスキルの回転率の差で徐々に押して来た俺はボスの獲物を上へと大きく弾くと、全力でボスに肉薄し、肩付近に刺さったままの二本目の短剣を掴み取る。

 

棒高跳びのハードルを飛び越えるような放物線を描き、そのままボスの肩に登って両方の短剣で片目を捉える。

 

「仮にも天才クリエイターに作られたゲーム、部位破壊も当然あるよなァ!抉ってやんよォ…!!」

 

「GAAA…!?!?!?!」

 

振り落とされる前に片目に差し込んだ短剣を念入りに動かす。目論み通り、裂響を上げ片目から赤いダメージエフェクトのポリゴンを吹き出すボスのHPは更に減って、スリップダメージで継続的にも削れている。

 

「…とおぉ!?」

 

小柄な俺の体の腰から下を掴んだボスの手は大きく振るわれ俺を投げ飛ばす。ブレる視界に回転する上下、シャッフルされる重力に吐き気ヲを覚えながら、思考は決して止めない。

 

武器の保持は二の次だ、今は受け身を取ってなんとしても即死を避ける……!!

 

最初は地面と熱烈なキスをしなくて済んだが、二度目三度目は地面をバウントして飛びの悪いボールのようになってようやく停止する。

 

「…あっッぶねぇ!マジでミリ!マジで死ぬとこだった……」

 

自分の一ミリ程度残ったHPバー、体中が訴える痛みの代わりに感じるフルダイブVRの痺れ、あともう一バウントでもしてたらお陀仏だった。

 

やはりミリ残しは素晴らしい、敵がしてくるとブチ切れそうになるが。

 

「おい」

 

「ん?わっ…」

 

投げ渡されたのは上等な回復ポーション、投げたのは攻略会議でほんの少し言葉を交わしたエギルさんだ。

 

「ありがとう、アンタの活躍のお陰でレイドが瓦解するのを防げた。アレが無かったら攻略どころでは無かった」

 

「ポーションあざっす。あとお礼なんていいですよ、誰かに死なれると目覚めが悪いからやったまでです」

 

「だが、救われた者が居るのも事実だ」

 

「だったら…」

 

ポーションを一口で飲み干し再びボスへと向き直る。

 

今はキリトとレイピア女子、他のプレイヤー達がボスを囲んで次々とスイッチしダメージを与えている。

 

「お礼はボスを倒してからです、今言ったら死亡フラグでしかないですから」

 

「ふっ、それもそうだな」

 

交わした言葉は多くない、それでも互いが何をすべきか理解している。エギルさんは両刃の大斧を構え、俺は落とさなかった短剣を構え、共にボスへと向かう。

 

「あと敬語は無しにしよう!ここまで来たらマナーを考えてる思考回路も惜しい!!」

 

「分かったサカヅキ!死ぬんじゃねぇぞ!!」

 

「死亡フラグつってんだろ!!」

 

マルチをやることもあるが死にゲーと言えば基本一人。それが今は数十人の仲間と一緒に肩を並べて戦っている。

 

なんとも悪くない気分だ。

 

「代わるぞキリト!!」

 

「サカヅキ…!分かった、スイッチ!!」

 

「そらァ!!」

 

全速力の俺の運動エネルギーとソードスキル エレメンタリィエッジを掛け合わせ、ボスの脇下をニアミスしながら一閃。

 

「オラァっ!!!」

 

エギルさんも続いて大斧からの大上段。仰け反るボスに全プレイヤーが一斉にソードスキルを叩き込み、見る見る内にHPバーは一割程度に。

 

このままやれる、誰もがそう思った時、ボスは大きく飛んだ。

 

「コイツまた…!」

 

ディアベルさんをやったソードスキル。発出しで無いが故に対策も割れている、全員が後ろへ飛んで回避へと移る。

 

「ここで殺し切るぞキリト…!アスナ…!!」

 

「…!?了解だッ!!」

 

ここで俺と呼び止めた二人は引かない、あまりに突飛な俺の提案にも二人はすぐに了承してくれた。

 

明らかに避けた後に袋叩きにした方が良い状況。

 

俺の死にゲー五十七カ条その三、『ヒットandアウェイに徹して決して欲張らないこと』をフル無視してるが関係ない。

 

あえてここで決める合理的理由、いくらそれを並べたところで変わらない理由がある。

 

 

楽しむこと。

 

 

俺は一撃でも貰えば本当に死にかねないこの状況で、いやこの状況こそを楽しんでいた。リアル過ぎるスリルと自分が攻撃を見切っていることの高揚感。

 

頭がおかしいと傍目から言われるし、俺もそう思う。それでも言わせてくれ。

 

ゲームは楽しむために存在している、と。

 

「俺が隙を作る!お前らが決めろ!!」

 

返事を聞く前に短い助走から全力で飛び、ボスの振り下ろす大刀へと迫る。

 

ソードスキルを発動した大刀と振り上げる短剣が触れ体ごと下へ押し込まれる瞬間、狙って二連撃ソードスキル バイパーバイト の一撃目で誘い込んだ大刀を大きく弾く。

 

これまでと違う耳心地が良い金属音を放ち大刀と短剣は火花を散らす。

 

「ハハッ!このゲームのパリィ、掴んだぜ…!!」

 

「ハァァァッ…!!!」

 

「ヤァァァァ…!!」

 

満を持してキリトの上段突進ソードスキル ソニックリープ が

 

アスナの中段突きソードスキル リニアー が

 

パリィされ俺の下へ落ちて行く無防備なボスを完成に捉え切り裂き始める。

 

そこにバイパーバイトの二連撃目がボスの背中を襲う。上下からのソードスキルの挟み内にボスに為す術など無く。

 

短剣 直剣 細剣

 

俺とキリトとアスナはボスのHPが削り切れる確信を持って刃を振り抜いた。

 

着地する俺達、ボスも頭から着地した。それは、HPが無くなりポリゴンとなり散る寸前のボス。

 

次の瞬間、ボスは煌めく寒色のポリゴンとなって消え、ボスが居た位置より少し上に『Congratulations』の文字が浮かぶ。

 

今ここに、SAO第一層ボス攻略は成し遂げられたのだ。

 

「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

「しゃぁぁぁぁ!!!!」

 

それぞれが上げる勝どきの歓声、俺も混じってガッツポしながら喜びを噛み締める。

 

いやホントに俺よくやったよ?

 

一人でボス抑えて体力三割削ってラストアタック決めて、この活躍具合いは本になっても良いレベルだろ。

 

というかなれ、具体的に言うとSAOがクリアされるまでの経緯を本にして俺の紹介を半ページくらい書いてくれ。

 

「おーいサカヅキ!こっち来いよ!」

 

キリトとアスナがエギルさんと話している。何故かアスナはこちらをジッと見ている、何だよそんなに見てもボーナスはやらねぇぞ。

 

「今行くよ!ちょっち待ってくれ!」

 

その前にゲームの醍醐味である戦利品確認タイムだ。

 

ラストアタックは同時攻撃でもボーナスが貰えるっぽいな。さてさて記念すべき初めてのボーナスの確認をさっそく……

 

「なんでや!!!」

 

プレイヤー達の和気あいあいとした戦勝ムードと、俺のウキウキお楽しみ戦利品確認タイムがぶち壊しだ。

 

予想通りというか案の定というか、声の主はキバオウだった。

 

「なんでや…!なんでお前、ディアベルはんを見殺しにしたんや!?」

 

姿が見えないと思ったらやはり死んでいたか。あまり関わり合いは無かったが………良い奴だった、人を率いてこのゲームをクリアしようとした。英雄なり得る人間だった。

 

戦勝ムードから一転、プレイヤー達がざわめき始めた。キバオウが感情的に訴える度、プレイヤー達のヘイトはキリトに集まってしまう。

 

キリトが人を見殺しにする筈が無い、だが他の有象無象からしたら……

 

「好き勝手言いやがって…」

 

SAOはHP上限以上のダメージを受けると、メーターが振り切るように回復しても無駄な状態となる。

 

それを知らずにコイツらは……!俺もそろそろ我慢ならねぇ爆発しちまっても良いよなぁ?

 

「おいクソの有象無象…」

 

「アハハハ!!!」

 

「キリト……?」

 

柄にもない高笑いに俺やアスナが目を剥いたのもつかの間、キリトはそれから高らかに語った。

 

キリトの人となりを知らぬ奴が聞けば自己中のクソ野郎、少しでも知っている奴が聞けば無理して悪役を気取ろうとするガキが見透けてしまう。

 

「な、なんや、それ!!そんなの、チートやないか……!?」

 

「そ、そうだ……チーターだ…βテスターのチーター…ビーターだ!!!」

 

「……ビーターか。良い呼び方だな、それ。

 

そうだ。俺は『ビーター』だ。これからは元βテスターごときと一緒にしないでくれ」

 

らしくないセリフにわざとらしい口調、そういう事かよ。

 

こいつは選んだ。この場の憎悪を自らへと一点に集め受け切り、俺達に被害が及ばせないことを。思い付いても実行は出来ない、悪魔的な選択をキリトは選び取った。

 

ここでキリトに喋らせておけば、俺は余計な追求を受けずにキリトだけが憎悪の的となってくれる。俺やアスナは攻略を成功に導いた人間として讃えられ、キリトはアイテムに目が眩んだ悪役となる。

 

損得感情で言えばそれがベスト。

 

それを承知で、俺も『選択』をする。

 

「全くだなぁ!ザコと一緒にされたら、俺の功績に泥を塗られちまうよ!まぁ?泥程度で霞む功績じゃないが!」

 

「なっ…!サカヅキお前…!!」

 

「やっぱりお前もグルか!わいは最初から怪しいと思っとったんや!!」

 

「おーおー、負け犬の声は良く通るなぁ?」

 

何だよキリト、そんなにビックリして。俺が利己的で損得だけで動く人間だと思ってたか?

 

少し違うね、俺は自分の機嫌も含めた全ての損得を含めて動く人間だ。

 

だから嫌いな奴にはデメリットを許容出来るなら、トコトン言ってやり。好きな奴には手を貸すことで気分が良くなるから、大概の状況で力を貸す。

 

 

この場合、嫌いな奴はキバオウで好きな奴はキリトだ。

 

 

「ふざけるな!!あんなにボスと戦えたのも、お前はボスの攻撃パターンを知っとったからやろ!抜け抜けと言いおって!」

 

「勘違いすンじゃねぇぞ姫プ野郎、俺はパターンなんて一ミリも知らねぇよ!ただ単にゲームが上手いのと、お前らが散々ボスと戦ってくれたお陰でパターンを覚えたんだよ!」

 

「もう許さへん…!ここで殺してやるわ!!ボーナスと金を置いてくなら見逃して…」

 

「二秒で矛盾してんじゃねぇよ!結局はアイテム目当てか?情けねぇー!姫プ野郎の言う事は一味違うねぇ、同じ男とは思えねぇよ!!

 

それにな……」

 

キバオウや他のプレイヤー達に背を向けながら、見せ付けるようにラストアタックボーナスの装備を名前を確認せず装備する。現れたのは上半身を覆う緋色のポンチョタイプの装備だ。

 

「今の俺は最高にノッてるんだ。今から十人抜きなんて軽く出来るぜ?」

 

脅しをかけてキバオウの動きを止める。

 

振り返る流れでハラリとポンチョをはためかせ歩いて行く……

 

 

 

 

円状の螺旋階段を登って行き、気付けば俺は第二層に到達していた。

 

今更だけど言い過ぎた。キバオウには足りないくらいだが、他のプレイヤーからも恨みを買ったよなぁ……俺闇討ちとかされるのかなぁ……?

 

「はぁ……あとが怖いなぁ………」

 

「俺を庇った癖に、後からそういう事を言うのか?」

 

遅れてやって来たキリトが言う。

 

「バーカ、庇ったんじゃえねぇ。俺がムカついたから言っただけだ」

 

「はいはい、そういう事にしといてやるよ。俺は結果的に助けられただけで、お前はしたい事をしただけ。それで良いな?」

 

「なんかガキ扱いされてる感じがする……」

 

下層に繋がる階段から風が吹き抜ける。まるで俺達の背を押すように、このデスゲームをクリアしろと言わんばかりに。

 

「…………助けられたのは、これで二回目だな」

 

「ハッ!………助けられたと思うなら、貸しにしとくぞ。俺は自己中だからな。さっさと行くぞ」

 

「あぁ……!!」

 

 

しみったれた言葉なんて聞きたくない。誰の言葉でも同じだ、だから………これ以上このゲームでしみったれた奴が増える前に、全クリしてやる。

 

 

 




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これ以降の構想はあるのですが、いかんせんフワッとした構想なので一応ここまでの短編という位置付けにしておきます。
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