「口紅?うーん、もらっても使わない、かもな?」
ステイゴールドのトレーナーは彼女に口紅を贈りたいと申し出たが、もらったのはあまり乗り気ではない返事だった。
「本当は、顔にあれこれ塗るのは少し苦手なんだ。ウイニングライブの間は仕方ないけどな。」
「そ、そうか・・・。」
しょんぼり肩を落としたトレーナーに、ステイゴールドは理由を聞く。
「どうした?あんたが、藪から棒にそんなこと言い出した理由は。」
「その、口紅を送る意味って知っ
てる?」
「いや、知らないな。」
「キスしたいとか、仲を深めたいとか。もっと大事にしたいとか、そんな感じ。あーあ、これを口実にステゴとキスしたかったのにな。」
トレーナーが軽い調子で思惑を暴露すると、ステイゴールドの顔から余裕ある表情が消えた。
「私に″そういう″経験は一切ない。」
いつもゆったりと揺れているウマ耳がピタリと止まり、ウマ尻尾も心なしか元気がない。
「え、マジ⁈」
「こんなことで嘘をついても仕方がないだろう。単純に遊べる相手だと思ったのか?」
「いやいや、ステゴが好きだからに決まってるだろ!そうか、そうなのかー。」
ニヤつくトレーナーの様子にジト目でふてくされるステイゴールド。
「悪かったな、どうせ私はそういうのに縁がないさ。」
「そんなことない!だって、いつも他のウマ娘達に慕われているじゃないか。」
「敬愛や親愛は、男女の愛とは全く別物。今までにそんな物好きはいない。」
「それ絶対違うって!マジ無自覚なのヤバすぎる。ステゴ、大好きだよ。」
率直に気持ちを打ち明けられて、ステイゴールドは目線をそらして照れた様子を見せた。
「あー、まあ、な。私も、あんただったらいいかもな?それなら、なし崩しにするんじゃなくて、きちんと″手順″を踏んでもらえないか?」
「そうだね、一生に一度のことだし。プランは俺に任せてくれる?」
「ああ。楽しみにしてるよ。」
ステイゴールドとトレーナーの約束の日。
「こういう服は、ちょっと恥ずかしいんだがな」
トレーナーが事前に送っておいた淡色のワンピースを着て、薄化粧に送られたサーモンピンクの口紅をつけて照れくさそうにしている。
「いやいや、マジで可愛いよステゴ。一緒に歩けるなんて嬉しすぎる!」
「そうか?じゃ、行こう。」
差し出された手を握り、二人は歩き出す。
夕暮れの緑豊かな公園に来たトレーナーとステイゴールド。
彼女は広々としたウマ娘専用レーンを見て目を輝かせた。
「なあ、ちょっと走ってきてもいいか?」
「ああ、好きなだけ走ってこいよ。」
風を切って走り出したステイゴールドのタイムを、息するように計測する。
ワンピースの裾がひらめくにも構わず、楽しそうに自由に疾駆する。
「やっぱり外で過ごすのは気持ちいいな。」
「ステゴ、現役時代のタイムと遜色ないぞ?」
「馬鹿言うな。もう″終わった″んだ、ターフでの旅はな。」
「そうか・・・」
そんなやりとりをしている二人に、警察官が近づいてトレーナーに話しかけてきた。
トレーナーといのくつかのやりとりをして警察官は去っていった。
「一体何だったんだ?」
「俺が不審者に間違われたんだよ。ステゴが未成年に見えたんだろう」
「そうか。その、すまん…。」
「いやいや、想定内だし?」
「マジか。」
「またステゴ無自覚してる。そのためにこれを持ち歩いているんだ。」
トレーナーが見せたのは、あの有馬記念勝利後に出走者全員で撮った記念写真だった。
「ああ…。」
ひどく遠い目をして写真を見つめるステイゴールドのウマ耳はうなだれ、ウマ尻尾の動きが止まる。
「この間、スズカが子供ができたってハガキをくれてさ。スズカ似のかわいいウマ娘を抱っこしていたよ。フクキタルも占い師やりながら神社を切り盛りしているし、ブライトものんびりだけどメジロの再興に尽力してる。他のみんなもそれぞれ輝いている。私は、こっちに来れて本当に良かった…!」
「別世界ではそうじゃなかったのか?」
それには答えず、ステイゴールドはトレーナーの胸に顔を埋めた。
「悪い、ちょっとだけこうさせてくれ…。」
隠れたステイゴールドの表情はわからない。
トレーナーは何も言わず、ステイゴールドの肩を抱いて気が済むまで好きなようにさせていた。
まもなく日は落ち、街は宵闇に包まれた。
その後二人は、賑やかなレストランに入って食事を楽しむ時間を持つ。
「たまにこういうのも悪くないな。」
「いつも蕎麦だのBBQだのだからな。それはそれでうまいから困る。」
「ははっ、違いない。」
なごやかな雰囲気の中時はすぎていった。
「綺麗だ・・・!」
ホテルの窓から見える見事な夜景に,目を輝かせ心奪われるステイゴールド。
二人でベッドサイドに、隣り合わせに座って眺めている。
「今日は私を″普通″のウマ娘として扱ってくれたのはよくわかったよ。だけど、あんたのあしらい方がとても板についていて、なんだかもやもやする。」
「もしかして、妬いているのか?」
いたずらっぽく尋ねたトレーナーの言葉に、ステイゴールドは真顔になって顎に指を当てて考え込んだ。
「そうか、これが嫉妬なのか…。」
「ステゴの焼き餅とかご褒美なんだが。今の俺にはステゴしかいないぞ?」
「過去は消せないからどうにもならない。が、これからは同じ旅路を歩んでくれるか?」
「もちろん!」
トレーナーに肩を抱かれて、ステイゴールドの夕闇を溶かした目が潤む。
「今だからいうが、あんたには、感謝しても仕切れない」
「ん?」
「私一人だったら、私は別世界のステイゴールドの旅をただなぞるだけだっただろう。それはそれで悪くなかったかもしれないが、スズカはきっと走れなくなっていたし、ブライトやフクキタルも今のようには元気でいられなかった。
黄金世代や覇王世代、新時代との再戦もできなかった。それを打ち破れたのはあんたがいてくれたからこそなんだ。」
「そうか。ステゴ、結婚してくれ!」
「またいきなりだな。だが私にとって、あんた以外の道連れなど考えられない。」
小柄なステイゴールドの肩に手を回して、トレーナーはキスをした
ウマ耳は微かに震え、ウマ尻尾は落ち着きなくパタパタしている。
トレーナーから顔を離したステイゴールドはぼそりと呟いた。
「味がしない・・・」
「はははっ。ファーストキスの感想がそれとはステゴらしい。俺は食い物じゃないぞ?」
笑い出したトレーナーに釣られてステイゴールドも笑い出す。
「あはははっ!」
「あっはっはっは!」
ベッドの上でお互いひとしきり笑い転げた後、ステイゴールドは目尻に浮かんだ涙を拭った。
「あんたとの旅は退屈しなさそうだ、これからもよろしくな。」
「よろしく。ステゴ、大好きだ!」
その後のことは、二人の心のままに。
(それ以降のページはナイフで切りとられている)
公式で破壊力高い肉食系ボイスをお出しされてしまった後でアレだけど、書いてしまったものは仕方ない。
私性合な方にお楽しみいただければ幸い。