しかし、幹部連中から反対の声が上がる。
強行か、歩み寄りか。
社長の決断は如何に…!
とある会社が持つ工場のうち一つに閉鎖の話が持ち上がる。
長引く不況の影響で業績が芳しくない上、工場地帯の湾岸部にある埋立地、その上に出来た工場は経年劣化により地盤沈下を起こしていたのだ。
このまま補修工事を予算をかけてやる位なら、設備もまだ使える今のうちに売却してしまおうという社長の判断だった。
しかし、創業当初からあった工場の閉鎖話に、以前その工場に勤務していた幹部連中より反対の声が上がる。
「高度経済成長期の頃に先々代の社長の命で、どさくさに紛れて工場の敷地内に不法に埋めたあれやこれや。売却したら掘り起こされますぞ」
と社長に意見する。
その会社では代々親会社から社長として任命されて出向される。だから、叩き上げの幹部連中とはいまいち折り合いが悪い。
結局、外様である社長が幹部側に歩み寄る形になり、閉鎖の話が流れる。
あれやこれやを掘り出して処分するにしても処理費用に数千万かかる。かと言って黙って売却したら掘り起こされて違約金やら刑事罰の可能性もある。どうせ数年で任期を終えれば親会社に戻れるし、問題を先送りにした社長の打算も閉鎖を諦めた要因の一つだった。
その後10年くらいは地盤沈下も騙し騙し使い続ける。
それもついにいよいよ限界が見えてくる。
仕方なく、地盤沈下を抑える工事の見積もりを取ったところ、数億かかるとの試算。それすらも恒久的な修繕ではなくあくまで延命工事でしか無い。定期的に工事入れる必要があるのだという。
その工場自体現場でも年間利益一千万にも満たない。
しかも、年々利益は落ちている上、近年では赤字の月も出てきている。
数億も投資するのは割が合わない。
そこでまたしても閉鎖の話が出るが、またしても反対の声が上がる。
前回反対した幹部たちはすでに引退していたが、その幹部の部下だった人達が幹部となっていたのだ。
「高度経済成長の時、我々の元上司が何やら埋めたらしい。それが明るみに出てしまうと会社の存亡に関わるかもしれない。」
結局、閉鎖は流れ、沈下による影響が酷い箇所のみ数千万かけて修繕し、騙し騙し使い続ける。
さらに10年が経ち、前回修繕工事を入れていなかった場所がいよいよ使えなくなる。
閉鎖の話が再び持ち上がる。
その頃には反対していた人達も当時を知る人もいなくなり閉鎖の話が再び持ち上がる。
「以前にも閉鎖の話があったらしいけど、なんか埋まってるからって流れたらしい。詳細知っている人いる?」
しかし、既に当時会議に参加していた人は定年退職して会社にはいない。
進まない議論に退屈したひょうきん者の専務が、
「呪いでも埋まっているんじゃない?お祓いでもしちゃおっか?」
冗談めかして言うと、会議室の役員一同笑いが起きる。
結局、なんだか分からないまま、何も決まらない。
とりあえず工場全体をコンクリートでカサ上げして誤魔化そうという事になった。その方が修繕工事よりも安上がりだったからだ。
それから10年余り、傷んではコンクリートで隠し、水が染み出してはコンクリートで埋めるという急場しのぎでなんとか操業するが、生産能力も売上も落ち、今では赤字の月の方が多くなっていた。
いつまでも小手先の修繕ではキリがないし、徐々に修理が間に合わなくなってきている。何故この工場だけこれ程までにうまくいかないのか。
工場の幹部達が会議室に招集される。
「そう言えば以前も閉鎖の話が出た時、当時の専務が呪いが埋まってるからお祓いがどうのと言ってた聞いたような…」
会議室にいる役員たちが一斉に青ざめる。
早速、祈祷師を呼び、お祓いをして貰った。
そして10年後、工場の半分は海水に侵食されていたが、それでもまだ沈んでいないエリアで細々と製造を続けている工場。
既に修繕は諦め、今は沈むに任せているという。
それでも年に一度、祈祷師を呼んでお祓いを毎年行っている。
工場の人が曰く、
「この地に埋まっている祟り神をお鎮めしている」
との事だった。
それから50年の月日が経つ。
海の中に大きな鳥居が立っている。
今日は年に一度の大祓のお祭り。
鳥居の見える湾岸線には、たこ焼き、綿菓子、ベビーカステラなどなど、いくつもの屋台がところ狭しと出ている。屋台の前には浴衣を着た老若男女が楽しそうにお祭りを楽しんでいた。
その中の一人の老人が、孫であろう小さな子供に
「昔はここは工場だったんだよ」
と教えてあげたが、子供は
「ウッソだー」
と言ったきり、その話には興味はないと言わんばかりに近くにあった屋台のイカ焼きを祖父にねだっていた。