おやすみ、灰かぶりの眠り姫。   作:彩白 莱灯

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第11話

 公式帳をめくりながら、何度目かの問題に挑む。初見ほど遅くはないものの、けれど時間はかかる。テストは有限だ。時間内に解けなければ、途中点すらももらえない。

 

 

「辛城は計算問題はできるから、そこにまず全力を注ごう」

「うん」

「文章題と図形問題はもう直感で。解けそうだと思ったらまずやってみる。止まったら別の問題をやって」

「わかった」

「で、文章題は求められてるものを理解する。それを文字において、文字を含めた式を作るってして。余計な接続詞とかの文章を黒塗りするとか、括弧で囲ってするといいよ」

「う、うん」

 

 

 とにかく時間がない。

 今は九月上旬。前期期末試験は下旬。後期中間試験が十二月。

 ……そして、大学受験が二月。

 請け負ってしまったからには中途半端に辞めることは許されない。思ったよりも重かった責任が、肩を重くする。でも、請け負ってよかったこともあった。

 

 

「今日の小テスト、よかったね」

「……うん、久々にいい点数取れたよ」

 

 

 学校で目線は合わなかったが、気にしていたらしい。

 最近芳しくなくて悩んでいた数学のテストで、ようやく、久々の満点を取れた。余裕も自信もなかった。終了間際で気付いた計算ミス。嫌な汗をかいたことを思い出す。

 

 

「辛城と勉強するようになったから、かな」

「……なんで?」

「俺も、基礎ができてなかったんだと思う。成績が伸びなくて、焦って応用ばっかりやってて、でも解けなくて、小さなミスに繋がっていった。教えながら、俺も基礎を学び直してるんだ」

「ふぅん、そっか」

「うん。だから、ありがとう」

 

 

 ――この機会をくれて。

 

 

 もちろん、今の成績でも医学部は遠い。医学部に受からなければならないなら、今こうしている場合じゃないかもしれない。だけど、この時間はとても自分のためになっている。

 勉強しながらも半開きで眠そうな目。何日か連続で見ていると、ちょっとずつ差違がわかるようになってきた。今日は多分、そこまで眠くはないだろう。

 

 

「こちらこそ、ありがとう」

 

 

 勉強のためにと用意されたココアが、部屋と腹を満たす。

 考えていたよりも、この空間は居心地がいい。塾よりも学校よりも、家よりも。それはきっと、自分のことじゃないことを考えているからだとわかっている。辛城の頑張りを見て、自分も頑張っている気分になっているだけ。たとえそうだとしても、ちょっとした結果がいい色を出している。きっと、自分のためにもなっている。たぶん、全部が無駄なわけじゃない。いい寄り道だ。そう言い聞かせて、問題に挑む辛城を見つめる。

 辛城の家で勉強するようになってから、数日。ふと疑問に思うのが、今でも夜中に男と歩いているのか、ということ。それがどちらだとしても俺から言えることはない。言える立場じゃない。気になるけど、つっこんじゃいけない気しかしない。だから、最初の夜に言われた言葉についても聞けないでいる。そんなことを考えていたら、背もたれがわりのベッドが存在感を濃くした。

 ココアの甘味とともに飲み込む。

 

 

「っそういえば、他の教科は本当にいいの?」

「うん、たぶん。わからないけど」

「一応見ようか? それか、ほぼ確実に出る問題だけでも教えるよ」

「あ、それは嬉しい。是非」

 

 

 問題傾向を把握するのは大切だ。

 正直、俺のヤマカンは半分以上は当たる。赤点を取らないように、ということなら十分な割合だろう。

 

 

「じゃあ明日は数学以外で。これ解けたら今日は帰るよ」

「頑張る。ちょっと待ってね」

 

 

 勉強会をするようになって思ったこと。辛城は、思ったよりも普通だった。勉強が極端に苦手とか。あんまり食事をとらないとか。一人暮らしとか。人の名前を覚えるのが苦手で、俺の名前もたまに忘れてしまうとか。

 本当にただの、ちょっと大人びて不思議な雰囲気のある、普通の女子高生。最初は不気味に思っていた目とか髪も、話をしてみればいつのまにか気にならず。むしろ学校の誰よりも話しやすい。

 

 

 ・♢・

 

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