おやすみ、灰かぶりの眠り姫。   作:彩白 莱灯

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第13話

 そんなこんなで数日だ。短期間にたまたま出会うことがあれば、それも、周りに知り合いがいない状況であれば、なんとなしに打ち解けるのも早く。最初は他人行儀だった辛城も今ではタメ口になることもある。多少の遠慮は感じるものの、はっちゃけるイメージのほうがない。

 

 

「英語と国語は全然大丈夫そうだね」

「うん。結構自信ある」

「よかった。見るとは言ったけど、そこまで得意じゃないんだ」

「それでも教えられるほどの理解力は十分すごいよ。……えっと」

「一石」

「そう、一石くん」

 

 

 このやりとりは何度目だったか。最早お家芸のように繰り返されるこれも、二人だけのコミュニケーション。

 達成感と喉で弾ける炭酸が、身と心をリフレッシュさせる。

 

 

「来週はもうテストだね」

「うん」

「できそう?」

「……絶対とは、言えないけど」

「多少でも『普段と違う』と思えたらいいんじゃないかな」

「……はい、せんせー」

「うむ」

 

 

 おちゃらけて、時間が来た。週末はお互い自主学習。これは自分のため。自分の逃げのために辛城を利用したと思わせないために。辛城のせいとしないための、自分への喝。

 これで自分の成績が下がったら辛城に申し訳ないし。

 ……自己評価の保身に走っているというのは、自覚がある。けど、やることはやっている。できる限りをやっている。自分も、相手も後悔しないための最善だ。それはきっと悪いことではないはず。

 もし辛城が土日もやりたいと言えばもちろん受け入れる。けれど、彼女はしなかった。少し考えてから「わかった」と言っただけだった。

 ……ちょっとだけ、空洞。平日はほぼ毎日やっているし、別教科も必要だし。

 彼女も一人の時間が欲しいだろうし。

 ……なんて。自分以外の理由をつらつらと並べているなあと、呆れ。

 

 

「じゃあ、お互い頑張ろう」

「うん。頑張ろう。ありがとうね」

「どういたしまして。じゃあ」

「気をつけてね」

 

 

 家の扉の隙間から顔を覗かせ、小さく手を振る。鏡合わせのように返して、同時に小さく笑う。扉が閉まったのを確認して、前を向いた。

 夜は多少涼しさを感じる。鈴虫はまだ鳴いていない。

 夜の音が好きだ。川の連続音。車の地面と擦る低い音。風が吹けば話し声に聞こえなくもない木の葉の擦れる音。煩わしいとは思わない、程よい騒音。

 何を見るでも、何を気にするでもなく、ただ自分に入ってくるものを受け入れる。こんな余裕はいつぶりだろうか。

 家に帰れば、「最近遅いね」と母親が聞いてきた。「塾で追い込んでる」と返せば、少し困ったように笑って「そっか」と言った。

 

 

「お弁当作ろうか?」

「……いいよ。帰ってきてから食べる。準備も片付けも自分でするよ」

「そう。気をつけるのよ」

 

 

 自宅の食事は薄味だった。揚げ出し豆腐だからこんなもんなのかな。二人で食べているときは、濃いものが多いかもしれない。

 

 

 ・♢・

 

 

 テストを受けた。

 難易度的にはどうだろう。個人的にはそこまででもないと感じた。学校のテストでそう感じたのは……久しぶりかもしれない。数日間、学校からの帰りは足が軽かった。充足感。充実感。達成感。もしかしたらそれは浮力と同義なのかもしれないと、ふわふわした頭で考えた。

 テストは四日間で十二教科。受験に使う五教科以外はノー勉でいけると先生ですら言っていた。結果が出るのは次の週。本日金曜日から三日間、特に目の前の彼女にとっては緊張の日々。

 

 

「では、自己採点会を始めます」

「ヨロシクオネガイシマス」

 

 

 緊張しているのか、いつもより固い口調の辛城。表情は暗く、顔の半分が見えないほど俯いている。テスト疲れもあるだろうし、今日はお互い休もうと言ったのだが、彼女の強い希望で今日となった。

 辛城曰く「不安でしょうがない」と。気持ちはわかるし、不安が解消されるのならばということで了承した。

 

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