おやすみ、灰かぶりの眠り姫。   作:彩白 莱灯

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第16話

 俺も甘く茶色いものを胃に注ぐ。

 

 

「受験までのスケジュールはどんな感じなんですか?」

「塾は週四で通うことになってる。模試は十二月まで、月二か三で何かしら受ける予定。来年の一月には共通テストだけど、二月もいくつか受験する」

「受験生って大変ですね……」

「辛城も今の学校受験してるじゃん。推薦だったの?」

 

 

 進学はしないと言っていた辛城だったから、少し詳しく説明した。それが彼女には想像よりも衝撃があったよう。高校受験はしているはずなのに。

 なんの気無しに過去のことを聞いてみれば、辛城の目は光を飲み込んだ。

 

 

「……いえ、一般試験です」

「一緒だ。独自の問題で大変だったよね。その時と同じだよ」

「そっか。もう覚えてないや」

「まじか」

「うん。過去の大変だったことは反省と結果を除いて忘れる主義なの」

 

 

 そんなに大変な受験期だったのか……。

 今の辛城の成績を考えればギリギリだったのかもしれない。それはもちろん言わないが。

 それから、辛城との勉強会は塾の日を除いた週一から三回行う予定となった。

 俺の自習がてら、辛城の勉強を見る。期限は一月まで。ギリギリのことを辛城は心配していたけど、俺が強く希望した。

 

 

「前の週には予定を決めてもいいですか?」

「うん、いいよ」

「直前に来れなくなってしまった場合は連絡してください」

 

 

 お互いに共通のカレンダーアプリを使って、予定を書き込むことにした。塾の日は決まっているが、模試の日は違う。そうはいっても週末が多いので、予定は立てやすい。辛城にも予定があるだろうから、俺はできる限り早めに入れることにした。

 途中まで一緒に帰り、分岐点。「またね」と言い合って、背中を向けた。チラリと振り返れば、黒いフードをかぶった背中が小さくなっていく。何に急かされるわけでもないが、視線を戻して足早に家路についた。

 

 

「ただいまっ」

 

 

 母親の声が家の奥から聞こえるが、階段を駆け上がる音にほとんど掻き消えた。

 部屋に入ってはすぐにスマホを開いた。

 

 

 ・♢・

 

 

「模試を返す。これが共通試験前、最後の結果だ。各々、再来週の試験までにどこを詰めるか、しっかり確認するように」

 

 

 塾の先生の念押しが重くのしかかる。受験生の俺たちにとっては昼も夜もなく、ハロウィンもクリスマスも、三が日でさえあってないようなものだった。

 今日は一月三日。本番まであと二週間。志望校はすでに決まっているとはいえ、今回の模試の結果は試験へのモチベーションに大きく関わってくる。

 一人ずつ、名前を呼ばれて受け取りに行く。緊張で表情が硬い奴。ほころぶ奴。険しくなる奴。曇る奴。たぶん、いろんな顔があるだろう。それは想像でしかないけれど、想像に容易い。

 いつ自分の名前が呼ばれるか。それは何かの儀式の前のような緊張感がある。まるでよくないことをやってしまった時のような。決して、学校集会で表彰されるときのようなものではない。むしろそれだったらどんなにいいか。皮肉すぎて笑いも起きない。

 俺が表彰されたことはあっただろうか。思い出せない記憶を、あたかも実際にあったかのように考える俺は妄想癖だろうか。

 

 

「一石」

 

 

 呼ばれて、真っ白になる。ただただ今までぼーっと眺めていた様子に紛れるよう、行動を真似してみた。席から立って、先生の近くまで行き、差し出された紙を両手で受け取る。中身は見ずに着席する。そして……恐る恐る、少し厚い紙を開いて、カラフルな面に書かれた文字の意味を読み取る。

 

 

「……ははっ」

 

 

 笑みは乾いていた。固い何かで殴られたような衝撃が、顎から頭に向かって稲妻のように駆けた。ただただ他人事のように書かれた評価が、俺の心臓に纏わりついて、締め上げて、血液に混ざる。

 

 

「……再度言う。各々、再来週の試験までにどこを詰めるか、しっかり確認するように」

 

 

 ・♢・

 

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