おやすみ、灰かぶりの眠り姫。   作:彩白 莱灯

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第22話

 そして。高校三年生、二十歳になってしばらくした頃。彼に会った。

 いつも通り付き合いの浅い男といたとき。なぜかこちらを見つめる男の子がいた。

制服を着ている。私の通う学校の子だ。同級生?私のことを知っているのだろうか。……どちらでもいっか。

 

 彼を初めて認識したとき、学校とは違う姿をしていた。

化粧をしないで、髪を解かさないで、無香料の消臭剤をかけまくっている普段。

 夜の間だけは、化粧をして、髪を巻いて、香水をつけて。一言で言うと『趣味じゃない格好』。

 それもこれも私のため。私に刺激をくれる、このよく知らない男をその気にさせるため。学校でのみすぼらしい姿とは全く違う。

 だから――

 

 

「あのさっ」

 

 

 ―― 勘付かれるとは、思わなかったな。

 少なくとも、学校での私に話しかけてくるとは思わなかった。

 明らかに動揺している。今までは見ているだけだったはずなのに、昨日の今日で声をかけてきた。

 なにか気付いたのだろうと思う。だからといって何も変わらない。

 ……学校を退学になることは、避けたいけれど。

 留年した方が刺激を得られることはわかっている。けれど、いじめてもらえるかはわからない。そうでなければ苦痛と無駄なだけ。だから留年は避けたい。学力はギリギリでたもっている。出席日数も多少は余裕がある。なにより、いじめられないと、眠ってしまう。

 

 私は、他人の悪意に依存しなければ生きられない。

 余計なことを言うようなら釘を刺さないと。幸い、声をかけてきたのはその時ぐらい。あとは見ているだけ。

 そう、それでいい。あなたは何もしないで良い。それが私のためになる。

 

 

・♢・

 

 

 ばしゃ。

 頭から白い液体が垂れてくる。脳天がほんのり暖かい。そして生臭い。牛乳だ。

 耳障りな笑い声が、鼓膜を刺激し、意識を覚醒させる。

ああ、そう、これ。私が欲しいのはこれ。眠らせないで。叩き起こして。あなたたちが楽しく私を苦しめる。お互い、良い関係ね。

 

 

「……あ? 何」

 笑い声が静まった。目覚ましを切った後は意識が落ちやすい。

なんなの。何があったの?眼球だけ動かして、周囲を探った。

 

 

「え、あ、いや……」

 

 

 ……また、この子。納得のいかなそうな、バツの悪そうな顔でこちらをみる男の子。そういえば、名前はなんだっけ。

 気圧されて離れていったけれど、やっぱり、釘を刺しておいた方が良いかもしれない。それなら、ハッキリさせるために夜に会ったら言おうか。「私の安寧を奪わないでほしい」と。

 だからあの夜に、私から声をかけたのに。

 

 

 「駅の時計台に来て」

 

 

 本名を呼ばれて、一瞬反応してしまった。それはまずい。それは良くない。夜の私は「トオル」なの。昼の私を持ち込まないで。

 苛立ちの裏側に感じる恐怖。

 やばい。最近、刺激を得ても足りなくなってきた。気を抜けばすぐに奈落に落ちてしまいそうな恐怖感。男が手を引いて話しかけてくる。適当に相槌を打って、解散して、拾いに行かないと。呼び出した手前、今日カタをつけないと、次何をしでかすかわからない。

 

 

「じゃあな、また来週」

「うん」

 

 

 人混みの中。用が済んだ男は、器用に人を避けながら消えていく。最後まで見届けることなく踵を返す。

 時計台。早く合流して、帰らなければ。今日は多分、寝てしまう。寝る前の準備が必要だ。数日間の念のための排泄に耐える環境と、起きたらすぐに脱水を解消できるようにしないといけない。じゃないと、もし起きた時、動けない可能性が高い。

 眠い頭だった。いつもより雑談が多くて冷静に考えられなかった。必要ないのに、いつもと同じところで解散してしまった。

時計台から遠い。駆け足。疲れてしまうだろうが、歩いていたら寝てしまう。合流することを優先した。

 見当たらない。人が多い。どんな服をしていた? 制服? 暗くてよくわからない。眠気で視界が霞む。

 

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