おやすみ、灰かぶりの眠り姫。   作:彩白 莱灯

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第30話

 テストは意地で受けた。さすがにテスト期間は刺激(イジメ)はなく、ひたすらシャーペンを手や太腿に刺してしのいだ。

 正直しんどい。けれどまだ夢の世界に引きずり込まれるわけにはいかない。誰かといればなんとか、という気持ちが大半。結果が気になってしょうがないももちろんありつつ、彼に声をかけた。

 家で自己採点会。といっても、先生である彼が確認するのを私がじっと待っているだけ。それでもいい。彼が、誰かがいてくれるだけで、一人でいるよりも眠りの誘惑に戦う理由になる。

 

 

 ―― ……以前のようにはしない。絶対に。

 

 

 眠りはしないけれど、戦い続けた瞼を労わるために目を閉じた。それを見られないように両手で顔を覆った。

 彼には伝わっているだろうか。私の眠気が。私の葛藤が。私の限界が。

 伝わっていないだろうな。伝わってほしくないもの。

 気付いてほしいような、ほしくないような。気付かれたら頼ってしまう。今でも頼ってしまっているのに、一度間違えてしまっているのに。自分が自立しているためにも自分を追い込まなければ。

 大丈夫。私は大丈夫。

 私は一人でも……まだ大丈夫。

 

 

「全部の点数出たよ」

 

 

 瞼が起きてくれた。眠気からくる低い声が、点数の詳細を訪ねる。

 

 

「…………どうですか」

 

 

 結果、私は突っ伏した。このまま眠ってしまいそうになって、声を出すことで耐える。

 赤点は微妙なラインだった。平均点次第では大丈夫だろうと言ってくれた。まだ望みがあるだけでも上々か。

 そして彼はやはり優秀だった。すごいな。どれだけの努力をしているんだろう。

 自分の曖昧な出来に申し訳なさが募り、同時に体の眠気も限界が来て、床に蹲った。彼は必死に起こそうとする。本気で心配してくれる。有難さも、申し訳なさも、両方。

 お互いのためということで、採点後は早々に解散になった。

 私が鍵をかけた玄関扉の内側で倒れた。

 

 

 ・♢・

 

 

「玲良ちゃん!」

「っ」

 

 

 揺れと声と痛みで目が覚めた。霞む視界の先に誰かがいる。音が籠っていて聞こえにくい。

 

 

「目が覚めたのね。アタシよ、大家のおばあちゃんよ」

「……ぁ」

「声が出ない? 待ってね、飲み物よ」

 

 

 口元に何かが触れた。これはもしかしたら飲み物だろうか。細長いそれをストローと考えて、咥えて、なけなしの筋力で吸い上げる。ちょろちょろと少量が口の中を湿らせる。

 

 

「氷にする?」

 

 

 吸わないで自然と解ける氷は有難い。

 全力で小さく頷けば、唇にひんやりしたものが触れた。震えながら開けば、小さい氷が入ってきた。じんわりととけて口の中の温度が下がる。喉を通って胃に流れているのがわかる。

 

 

「何があったのか聞きたいけれど、まずは休んでね。体調を見て病院に行きましょう」

 

 

 何かやわらかいものをかけられた。

 足音からして大家さんはベッドの傍から離れていった。

 頭がぼーっとする。もしかしたら熱があるのだろうか。

 今日は何日だろう。どれほど寝てしまったのだろうか。

 大家さんはどうしてきてくれたんだろう。

 

 

「……てすと、の、けっか……」

 

 

 霞む目を擦って、何とか視界を合わせる。私の部屋ならばこの角度で電子時計があるはず。おおよその位置に視点を向けて目を凝らす。

 

 

「じゅうがつ、ふつか……?」

 

 

 自己採点会から一週間以上経っている。もう回答用紙の返却も終わっている……。

 どうだっただろうか。彼の優しさに応えられただろうか。

 気になる結果の傍ら、動かない体がもどかしい。目を擦った後の手が顔の横で横たわっていた。額に手を当てればひどく熱い。熱があるのは確実だ。でも咳は出ない。喉は乾燥してるけど痛くはない。

 水分とって休んで、治ったら学校に行こう。結果を聞いて、彼に報告しなきゃ。

 心に刻んで目を閉じた。今回ばかりは眠ってしまうことに対抗心を抱く元気もない。

 

 

 ・♢・

 

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