とある荒地で旅人が道端に突っ立っていた一人の男に目をつけた。というよりも逆にその男に目をつけられた、と言ってもいいのかもしれない。その旅人━━━エイビスは流れの商人であった。辺境の村々を周り商品を仕入れそれを宮都で売り捌くのが彼の日常であった。ところが仕入れを終え宮都を目指す旅の途上哀れにも野党に出くわし商品を目敏く奪われ護衛にも逃げられ日々の食事にも事欠き最近はで夜露を啜る有様であったからさていよいよどうしようもない。
どうしようもないのでこのまま野垂れ死ぬ前に教会で故郷に残してきた父母に親不孝を許してもらおうと手紙を書くのに使う羊皮紙とインクを恵んでもらおうかと算段をつけていたところその不思議な男と出会うことになった。
はじめエイビスはその男を幽霊か何かとだと思わざるを得なかった。なんと言おうか全身が病的に白いのだ。髪から靴まで全身が目が痛くなるほど白い。旅をするものは得てして旅塵に塗れ、遠方よりこの地を訪ねる人にはまず初めに身体を清めてもらうことをもてなしの第一原則とするこの地方では考えられない出で立をしていたからだ。これにはさしもの自他共に中堅どころの流れの商人を認めるエイビスでも肝を潰した。馬から驚いて落ちそうになったがその白い男もどうやらその様子に驚いたようで慌てて支えようとしてくる。「おでれーた、幽霊でないのか、もしくは俺の幻覚ではないのか」と疑っていたエイビスも落ちる瞬間視界の端でいよいよその男の存在を認めるほかない。とにもかくにも悪いやつではなさそうだとほんのちょっとだけ安心しながらエイビスはその男の慌てた声を聞きながら意識を手放した。
エイビスが気がつくとあたりはもうすぐ日暮かと思うほどに日が傾いていた。周りを見渡してみると真っ白な男が所在なさげに座っていた。こうしてみるとまるで蜃気楼のような感じがするなぁ、と思いながら男に話しかける。「さっきは悪かったな。姿を確認するなり倒れちまってよ」言い終えてエイビスはしまったと感じた。少々驚かされてぶっきらぼうな喋りになってしまったのではないかと。白い男はこう返した。「いいえ人を助けるのは人として当然のことでしょう。大したことではありません。むしろこちらが助けていただいたようなものです。」はて、このような物言いをするとは一体何事なのだろうかとエイビスが思案するまもなく男はこう続けた。「こう見えてもどうやら記憶喪失というやつらしいのですよ、私。どうかここがどう言った場所なのか教えていただけませんか。」エイビスも生来人のいいやつであったから困っているなら助け合いと言わんばかりに説明を始めた。