Kancolle BlackOPS After War 作:岩波命自
店の中は賑やかだった。ジャンクフードとスマートフォンを片手に楽し気に会話する女子高生達。呼び出し番号を読み上げて、注文の料理が出来上がった事を知らせる店員。そして店内の天井のスピーカーから流れる愉快でポップなBGM。静寂と言う概念とは全くの無縁の喧騒に包まれたジャンクフード店の店内は、概ね隣の席の客同士の会話すら殆ど聞こえなくなる位に音に満ちていた。時間帯は夜の八時を過ぎた頃だが、店に入る客は後を絶たない。
そんなジャンクフード店の店内の一角のテーブルで、グレイッシュピンクのポニーテールの女性と、黄緑色のボブカットの女性がハンバーガー等の料理を食べ終え、一見するとくつろいでいる様に見える姿勢である人物を待っていた。
「彼女は信頼出来るのか?」
黄緑色のボブカットの女性、かつては松型駆逐艦娘の一人であった竹が、自分の上司であり、チームリーダーである元青葉型重巡艦娘の青葉に尋ねる。
「そりゃあもう。化石時代からの付き合いです」
ふふっと微笑を浮かべて青葉は答える。二人とも深海棲艦との戦争が集結し、戦後の軍縮で艦娘と言う兵科職が廃止されてから艦娘と言う職を辞して久しいが、未だに人としての本名ではなく、艦娘だった頃の艦名で呼び合う仲だった。
青葉と竹が会話を交わしている時、ジャンクフード店の入り口のドアが開き、魅力的だが目つき、顔立ちには修羅場を多く潜り抜けた者の証を宿した女性が入って来た。コツコツとパンプスの音を響かせながらまずカウンターに行き、コーヒーを頼んでSサイズのカップを店員から受け取った女性は、青葉と竹の姿を店内に見つけると、迷う事無くそちらへと歩いて行った。
「青葉」
足柄は古い戦友の名を呼ぶ。私服姿だが、足柄は鷹舞市の警察署長を務める退役艦娘の警察官だった。艦娘時代は勝利に拘る勝気な女性だったが、今は警察官として、一つの警察署を預かる警察署長として、その役職にふさわしい落ち着きを纏っている。私服なのは理由があっての事だった。
「足柄、協力に感謝しますよ」
古い戦友の持つコーヒーカップが置ける場所を作ってやりながら、青葉は足柄に礼を述べる。その風景は単なる退役艦娘同士の再会の場とは言い難い雰囲気と、会話の内容だったが、店内の客達や店員は三人に視線すら向ける事も無いし、意識の中に入れた様子すらなかった。それは青葉と竹、足柄にとって大変に好都合だった。
「目標には近づけるのか?」
低い声で問う竹に、足柄はコーヒーを一口飲んでから店内に軽く視線を向けた後、青葉と竹にしか聞こえないトーンで答えた。
「バークは部屋にいるが、取り巻きがそこそこ居て警備が硬いわ。一五分、いえ二〇分程度なら部下を遠ざけておく事が出来るわよ。戦力は充分?」
「問題ありません。足柄、また会えて良かったです」
そう青葉が返すと足柄はコーヒーを飲み干してゴミ箱へカップを捨てると店を出て行った。
「行きますか」
そう言って青葉は席を立つと竹と共に手早くハンバーガーの包装紙やジュースのカップをゴミ箱へ捨てて、店を出た。
店を出て二人は数百メートル先の角を曲がって路地裏へと向かう。人気の殆ど無い暗い路地裏に止めてあるバンから燃える様な赤い髪の女性、元陽炎型駆逐艦娘の嵐が降りて来て、バンの後部のドアを開けた。
「パーティーグッズは用意してある。好きなのを取ってくれ」
「言う程沢山ありますか?」
迷う事無くMP9サブマシンガンを武器ケースから取り出しながら、青葉は嵐に言う。竹は武器ケースに並んだ数丁の銃器を見てどれにしようかと暫し迷った末、MP7A2を手に取った。嵐は迷う事無くSIG MPXを手に取る。三人の銃にはサプレッサーが装着され、マガジンにはサプレッサーと消音性の観点で相性の良い亜音速弾が込めてあった。
それから三人はそれぞれのサブマシンガンにあった予備のマガジンを収めたチェストリグを身に着けると、準備を終えた。プレートキャリアやヘルメットなどと言う重装備は用意していない。これから大勢の市民がクラス町中で大規模な市街戦をする訳ではないからこれくらいで充分だ。
「なあ、あんな小悪党を生かして置いていいのか?」
マガジンチェックしながら嵐が青葉に聞く。
「小悪党で戦闘力も実質ゼロなのは間違いないですが、持っている情報に大いに価値がある相手です」
「〈シャドウ・ルーク〉の仕事が今じゃ木っ端な悪党相手とはなあ」
些か残念がる様に竹が呟く。
そうこうしている内に三人は一つの家の前に辿り着く。家の中からは近所迷惑など考えても居ないであろう、パーティー中らしい騒ぎの声と派手なBGMが聞こえて来る。これだけ騒げば近隣住民の一人や二人が苦情を言いに来そうであるが、都合のいい事に周囲は空き家が多かった。
「足柄の時間稼ぎは一五分が限界だと思って動きましょう。それまでに奴を捕らえて情報を引き出します」
MP9のセーフティーを外した青葉はそのまま周囲をクリアリングしつつ、家の周囲の壁に沿って進み、入り口の脇で止まって柵の門の向こう側の様子を伺う。どんちゃん騒ぎに夢中で、青葉達に気が付いた様子はない。
「素早く片付けます。手下は殺しても構いませんが、目標を殺したらミッションはおじゃんです」
既にスタンバる竹と嵐に念を押してから青葉は門を開けて中庭へと進入する。薄いレースカーテンの向こうで、騒がしいパーティーをする「目標」が取り巻きと共にいた。三人が中庭に出て、照準を合わせている事にこの段階になっても気が付いた様子はない。
能天気な連中だ。ヤクザでももう少し注意は払うのに、と内心呆れながらも青葉は竹と嵐に聞こえる声で、艦娘だった頃に何度も何度も戦場で口にした号令を発した。
「打ち方始め」
サプレッサーと亜音速弾で減音された銃声が三つ鳴り響く。窓ガラスが割れ、中にいた「目標」の取り巻き達が脳天を撃ち抜かれ、胴体のバイタルの重要個所を射抜かれ、パーティー会場を赤く染め上げていく。一瞬で取り巻き全員が死んだ「目標」が窓の外を見て、SMGを構える青葉たちと目を合わせるや慌てて逃げだす。
「追え!」
かつて艦娘艦隊を率いていた艦隊旗艦の時の癖で言いながら、青葉は竹と嵐と共に「目標」の後を追う。階段を上って二階へと逃げる「目標」が、恐らく用心棒らしき手下に足止めを指示する声が聞こえて来る。
ダッシュで追いかけず、足止め担当の用心棒に警戒しつつ青葉達も階段を上る。足元と二階を瞬時に確認して進む青葉の前に、用心棒が姿を見せる。何処から入手したのやら、トカレフを持って待ち構える用心棒に容赦なく9mm弾を撃ち込んで瞬殺しながら逃げる「目標」を追う。
足止めにもならない用心棒が死亡したのを見て、慌てて「目標」は二階の窓を体当たりで強引に突き破ってベランダに出ると、パルクールで屋根伝いに逃げていく。
「逃げようたって無駄なんだよ」
三人揃って艦娘時代に鍛えた軽い身のこなしで同じようにパルクールで障害物を乗り越え、隙間を飛び越えながら「目標」を追う。
途中、「目標」が他の空き家等に潜伏していた手下を呼んだのだろう。武装した何人かの男たちが暗い屋上で青葉達に銃撃を浴びせる。サプレッサーなど用意していない手下達の派手な銃撃音が響く中、青葉、竹、嵐は物陰に隠れて銃撃をやり過ごし、相手がリロードするタイミングを見計らって間合いを詰めると、ロックされていない方向から飛び出し、9mm、4.6mmを撃ち込んで射殺していく。手下も決して素人ではないのだが、所詮は銃器が扱えるようになっただけ程度の日本人でしか無く、艦娘時代の経験に、今の仕事に就くにあたって受けたCQBの技術がある青葉達の相手では無かった。
足止めを任されていた手下の殆どを壊滅させた青葉達は再び逃げる「目標」を追う。居住者の居ない空き家の屋根の上を駆け、この先はもう屋根伝いの逃げ場がないと言う所へ出たところで最後の抵抗が来る。三人の手下が銃撃して来るが、三人は遮蔽物に隠れてやり過ごす。その間青葉はリグからフラッシュバンを手に取り、ピンを抜くと手下と「目標」の方へと投げた。
耳を聾する爆音と閃光が走り、瞬間的に手下と「目標」の視界、聴覚を奪う。銃器を持った手下が一瞬怯んだ隙に、青葉、竹、嵐は一挙に王手をかけ、残る手下を無力化した。青葉は敢えて一人だけ、MP9の照準をずらして致命傷を外し、「交渉材料」として残しておく事にした。
「嵐、出番です」
青葉はそう言ってMP9をリロードしながら嵐が「目標」、ショーン・ヘンドリクセンを取り押さえるのを見守った。
「おい、待て待て待て。話し合おうじゃ……」
「俺らは話し合いに来たんじゃない。吐き出させる為に来たんだ」
その一言の後、一発殴打の音が聞こえる。尻餅をつくヘンドリクセンの胸倉をつかんで嵐は屋上のへりに彼を押し付ける。
「さて、話して貰おうか。バークは何処にいる?」
「お、俺はあの女の下っ端の下っ端だ! 何処にいるか知る訳無いだろ」
「貴方、立場が分かってないようですね?」
そう言って青葉は敢えて射殺しなかった手負いの手下のうなじの襟を掴んで、屋上から放った。放った先は、建物四階分の高さ。空挺部隊の隊員なら、受け身や鍛えた体躯でけろりとした顔が出来るだろうが、素人にとっては只の死へのダイブでしかない。呻き声を上げて手下が高さ二〇メートル程を自由落下し、鈍い衝撃音を上げて現世から消える。
息を呑んで手下が階下で身動き一つしなくなるのを見て、ヘンドリクセンの顔に恐怖が被さる。そして恐らく一般人女性とは違う髪で分かったのか、青葉、嵐、竹の旧職を口にする。
「あんたら。艦娘だろ!? 正規軍人なら法律くらい守れよ」
「法律なんぞ知りますか。同じ法律の外に生きているくせに」
半分呆れながら青葉は言った。軍縮で多くの艦娘が職を失って、再就職支援で新しい職場に就いている事も知らない程、「おめでたい人間」かコイツは?
「よ、他所の島で商売したのが悪いってのか?」
「おい、下の奴の所に行きたいか?」
論点をずらそうとするヘンドリクセンに更なる恫喝を入れる嵐が、コンクリートと服の擦れる音をわざと鳴らしてじりじりと屋上のへりから押さえつける男の身体を宙空へと押し出す。
「ま、待て、彼女は鷹舞空港だ! ああ、旧鷹舞空港の方だ! 半島の先っちょにある廃棄された方の!」
「ほう。で、何を今度は運ぶ気で?」
目的地が分かった後は補足情報だと青葉は質問を重ねる。
「し、知らない! 本当だ! 肝心なところは俺には分からない暗号でやり取りしてた! 信じてくれ、本当だって!」
「暗号ね。なら解読に必要なモノも持ってる筈ですね?」
青葉はヘンドリクセンの上着を探った。サイドアームのP226を額に突き付けるのは忘れずに。
探った上着からは財布とスマートフォン、手帳、それと意外にも男性の手持ちとしては珍しいハンカチが出て来た。手帳を手に取り、ページを開く。乱数表がびっしりと書き込まれていた。
青葉は嵐と竹に頷くと、最後の質問を向けた。
「アカウントのパスコードは?」
「て、手帳に書いてある!」
これ以上は本当に分からなさそうだった。
「どうする、青葉」
「離してやって構いません」
「了解」
嵐は言われた通り、ヘンドリクセンの身体を掴んでいた手と足を離した。支えを失ったヘンドリクセンの身体が、最後の断末魔と共に階下に消えて行った。
「これで一人片付いた……」
そう呟きながら青葉は自身のスマートフォンを手に取り、〈シャドウ・ルーク〉の仲間に連絡を入れた。
「……鹿島? バークの居場所が分かった。旧鷹舞空港です。ヘンドリクセン? 離してやりましたよ。大体青葉達の二〇メートル下に居ます。もう彼が仕事沙汰で終われる事は無いでしょう。ええ、こちらの方で解雇してやりましたよ。仕事場からも現世からも」
鷹舞市に展開する元艦娘特殊作戦部隊〈シャドウ・ルーク〉のメンバーにとっては、実に他愛の無い相手との仕事だった。国際的な違法武器取引のバイヤーであるジャクリーン・バークを始末せよ、と言うのが今回の作戦内容だった。他愛の無い相手だが、さりとて無視も出来ない相手である。旧鷹舞空港で取引、横流しされる武器、弾薬が結果として反政府活動に流れるのだから、増える一方でしかない禍根は立つべきであった。
バンの元へ引き返す青葉達は倒したヘンドリクセンの手下の持つ武器を確認し、写真に収めて戻った。
「古くなって来たとは言え、こんな奴らが公的機関にしか売っていない筈のMP5を持ってるとはな」
足でひっくり返した手下の遺体から、ヘッケラー・&・コッホのMP5サブマシンガンを手に取って、竹が呟く。
「それだけ、軍や治安機関からの横流しも増えてるって事です。速めに対処しましょう」
遠くで銃声を聞きつけたのか、或いは通報を受けたのか警邏パトカーが走って来るサイレンが聞こえて来て、青葉は足早に二人を連れて現場から離れた。
二時間後。
鷹舞市のある鷹舞半島の先にある旧鷹舞空港は、深海棲艦との戦争で海岸部が危険と判断されて以来、放棄された日本の沿岸部にある交通機関の施設の中では最大級の規模を誇る空港跡だった。空港と言っても、格安航空会社の小型ジェット機が乗り入れられる程度の滑走路と施設で、羽田や成田の様な巨大空港とは比べ物にならない程小規模ではある。
その滑走路を見渡せる高台において、青葉、嵐、竹はヘンドリクセンを襲撃した時とは別の比較的重めな装備に着替えて待機していた。目標は武器取引のバイヤー、ジャクリーン・バークの始末。これにかかる手段は問わない。
鷹舞市と言っても、今「鷹舞市」と呼ばれているのは「新鷹舞市」と呼ばれる方であり、本来の「鷹舞市」は旧鷹舞空港の手前、鷹舞半島の大半を占める廃市だった。廃棄された理由は旧鷹舞空港と同じだ。深海棲艦との戦争が終わって以来、再開発の機運が高まっているが、今はまだ人っ子一人いない廃墟の街である。
その様な経緯もあり、旧鷹舞空港でのバーク一味の「仕事」は市民に気取られる事なく進んでいた。今旧鷹舞空港の滑走路に駐機されている輸送機も、C-130輸送機だから仮に飛んでいるのが見られたとしても、一般市民からは軍の輸送機が飛んでいた程度の認識にしかならない。
「右に三人、ライフルで武装してる。左手の管制塔跡の屋上に二人。警戒はしていない、煙草吸ってサボってる」
「管制塔屋上の二人の得物は?」
監視ドローンで偵察する嵐が空港跡を確認して回る中、その傍らで竹がM700スナイパーライフルを構えて、滑走路上の輸送機を注視していた。
「スナイパーライフルは無いな。護身用らしきMP5は持ってるけど、あの距離からここを見つめるは無理だろ」
二人の背後で葉っぱが擦れる音がして、聞き覚えのある足音と共に青葉が戻って来た。
「パトロールはクリア。様子は?」
「バークの姿が見えない。ガセ情報だったんじゃないのか?」
やや不満気に言う竹に青葉は答えず、竹がM700のスコープ越しに見つめるC-130について聞く。
「輸送機の方は?」
「見ての通り、ランプを下ろして木箱を運び込んでる。俺の記憶と軍での経験が間違ってなければ、ああ言うのは軍需品を積んでる筈だ。輸送機のシリアルナンバーも照合したけど、海洋戦争で失われた機体の番号を流用してる。SIFコードまでどうしてるのやら」
三人の揃った深い溜息が吐かれた時、自動車が空港の滑走路に向かって走って来る音が聞こえて来た。
嵐が即座にタブレット端末を操作して、ドローンのカメラを車の方へ向ける。
「どうです?」
「四人乗りの乗用車が一台。中に三人乗ってる。運転手は男だけど、後部座席の二人はよく見えない」
「何か情報が聞き取れるかもしれない、聴音出来る?」
「やってみよう」
青葉が見つめる中、嵐はタブレットを操作し、ドローンに装備された指向性マイクを車に向け、集音に務める。青葉と嵐、竹が装備するヘッドセットから車の後部座席の会話が聞こえて来る。ただ、車の走行音も相まって明瞭な声として拾えて無かった。
やがて乗用車が止まり、一人が後部座席から降りて来た。そこでようやくマイクが声を拾う。
≪でもあなたには別の案件が。彼に気に入られたわね? ライバルは潰しておく≫
刹那、降りた人物から破裂音に似た発砲音が響き、マイクをつんざく。減音機能で青葉達の鼓膜が破られる事は無かったが、一瞬の怯みは起きた。
「どうなってる!? 車内の仲間を撃ったぞ」
ヘッドセットを抑えながら嵐が呻く中、タブレット端末を奪い取る様に掴んだ青葉がやはり鼓膜に入った銃声に顔面をしかめながらも、ドローン映像を確認する。乗って来た乗用車に残っていた二人を拳銃で銃撃した人物を確認すると、スーツ姿の女性だった。高い足音と共に輸送機に向かって歩いて行く。
タブレット端末の画面の端で自動的に音声認証を行っていたアプリが、「Complete」の表示を見せ、スーツ姿の女性がターゲット、ジャクリーン・バークであると回答を出す。
それでも青葉達は目視でのターゲットの顔の確認に拘った。声が一致しても、AIの勘違いかも知れない。
M700でスーツ姿の女性を捉えた竹がスコープのレンズ越しに女性を追う。作業を行う男たちに指示を出しながら、輸送機のランプを昇り、振り返って追って来た男と相対し会話し始める。その振り返った顔を竹は確かに捉え、嵐もまた、ドローンのカメラで女性の顔を確認した。
「ターゲット、ジャクリーン・バークで間違いなし」
「よし、竹。一発で決めて下さいよ」
「了解、任せとけ」
竹はM700のスコープを見つめ、レティクルをバークの頭に合わせる。息を軽く吸って、呼吸を止め、手振れを抑えると引き金を引いた。
薬室で薬莢の中の装薬が発火し、銃身を通って銃口を、そしてその先のサプレッサーを抜けて発射された銃弾が竹の合わせたゼロイン通りに飛び、バークの前に立っていた男の後頭部を綺麗に射抜いた。
「やっば! ゼロイン間違えた!」
「馬鹿野郎!」
ゼロイン調整のミスで着弾点がずれ、バークの部下の後頭部を撃ち抜く事になった竹が痛恨のミスに顔面を歪め、嵐が小声で怒鳴り、青葉が天を仰ぐ。
「プランBです、突入します!」
HK416A5を手に、青葉は狙撃地点の前に広がる斜面へと身を滑らせる。それに続いて同じHK416を手に嵐と竹が続く。
目の前で部下の後頭部が吹き飛んで、脳漿をぶちまけたのを見たバークは直ぐに狙撃されたと判断したのだろう、緊急発進を命じられた輸送機のプロペラが回転し始める。
滑走路の傍へと斜面を滑り降りて来た青葉達に気が付いた部下達が、各々銃器を手に迎え撃つ。滑走路の至る所に置かれていた武器コンテナや木箱を盾に、バークの部下達がリロードを挟む隙をついて、青葉達は前進し、バークの元へ向かう。
ホロサイトを覗き込みながら、照準を合わせた敵に銃弾を撃ち込み、一人ずつ撃破していく。青葉は得意のスライディングを決めて、相手のヘッドラインより下から奇襲を仕掛け、MP5を持つ敵のバイタルにセミオートで三発撃ちこみ、立ち上がるついでに右足で蹴倒す。
セミオートで三点バースト撃ちを一〇回繰り返して一〇人を無力化、ないし撃破するや、即座に空になったマガジンを捨て、新しいマガジンにリロードする。頑張れよ相棒と肩を叩く様にボルトリリースボタンを叩き、新たな初弾を薬室に送り込む。
「青葉、左だ!」
竹が叫び。青葉は即座に左手に射線を向ける。二人がM16を手に腰だめで撃ちながら走って来る。武器コンテナの陰に身を隠し、反対側から身を乗り出して素早く三点射を二人に撃ち込む。
滑走路上で青葉達が前線を押し上げていくと、C-130が出力を上げ、ゆっくりと滑走を始めた。
「逃げられる!」
悪態を交えながら青葉は滑走を始めるC-130を見つめた。今直ぐにでも近くのトラックに飛び乗って後を追いたいが、C-130の離陸滑走距離から言って、間に合いそうにない。機内の貨物も少ないから輸送機は直ぐに空へ上がってしまうだろう。
「奥の手がある!」
嵐が叫び、再びドローンの操作を行っていたタブレット端末を取り出し、上空を漂っていたドローンに指示を出す。少量だが威力は充分な爆薬を仕込んであったドローンが輸送機目掛けて急降下していく。青葉と竹は、嵐がドローンを輸送機に直撃させるまでの間、空港のあちこちに散っていたバークの部下への対応に当たった。
ドローンのカメラを見ながら、コックピット目掛けて急降下させ、外し様の無い距離でディスプレイに表示される「Detonation」を押す。
「じゃあね~」
片目でウィンクしながら嵐が押した起爆コマンドに合わせてドローンがコックピット上部で爆発し、強引に機首上げを行っていた輸送機が、何者かに強引に地上へ押さえつけられた様に機首を滑走路へ叩き付けられる。火花と破壊音を上げて、破壊された機首を基点に輸送機の機体がつんのめり、左右両翼で回転していたプロペラが滑走路のアスファルトを抉りながら折れ曲がる。
爆破が一瞬の内なら、輸送機が離陸不能の大破に陥るまでも一瞬だった。金属が擦れる甲高い音と大量の火花を上げて輸送機が滑走路上にへたり込む。
襲って来るバークの部下を返り討ちにした青葉達が、奪ったトラックで大破した輸送機の元へ駆けつけた時、機内からよろよろした足取りでバークが降りて来た。
タイヤを鳴らして停車するトラックから飛び降りた嵐と竹が即座にバークの元へ駆け寄り、竹がHK416の銃床でバークを殴り倒す。
「何か言い残して置く事はありますか?」
P226をホルスターから抜き、チャンバーチェックをしながら青葉はバークに尋ねた。大して言い残して置く事もあるまい、精々青葉達への恨み節くらいだろうと思っていた青葉に、バークは殴打の跡で歪む顔に、不気味な笑みを浮かべて言い放った。
「彼の計画は既に始まっている。どの道、彼を止める手は無いわよ」
「彼って誰さ?」
素朴なまでの疑問をぶつける嵐に、バークは声だかにその名を叫ぶ。
「タケハヤよ! 彼の計画は止められない!」
驚く三人……驚き方は三人同士で違ったが、を前にバークは高笑いを始める。
「彼の計画が、人類を律する! 狂ったパズルを元に」
一発の銃声が鳴り、眉間を撃ち抜かれたバークは後頭部から地面に斃れた。
「高雄が知りたがりそうな話です。生存者を集めて、尋問に入りましょう」
引き金を引いたP226にセーフティーをかけてホルスターに戻しながら青葉は嵐と竹に言った。普段滅多に怒りをその顔に浮かべない青葉が珍しく静かな怒りを浮かべていた。何かその怒りに歪む表情の裏に、知るものがあるのだろうと嵐と竹は感じたが、その場で詮索はせず、生存者の捜索にかかった。
バークは死んだが、完全に射殺せずに転がして置いた部下達が滑走路の至る所で呻きながら横たわっている。情報の山と言えるだろう。