童貞死神のスローライフ計画書(改)   作:はちみつ梅

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第十七話 春だよ!全員集合!

 瀞霊廷に満開の桜が咲き誇る。

 

「うらーらーかにー 春の光が 降ってくるー」

 

 懐かしの曲を口ずさみながら、俺は瀞霊廷内で美味いと評判の甘味処にたどり着いた。

 いい日だ、本当に今日は。

 

「九条くーん! こっちこっち!!」

「遅いじゃないか」

 

 俺は遅刻癖なんてないというのに、何だったら十五分早く来たのに……。なんでみんな俺を遅刻常習犯扱いするのか。君達が早すぎるんだよ。

 

「桃ちゃん! 吉良!!」

「えええ!! 髪の毛どうしたの!」

「ん? 伸ばしてる」

 

 随分と俺の外見的特徴が変わったことに二人は口をあんぐりあけている。俺としても久々に見た二人の顔は、三年前と比べて少しだけ幼さが消えていた。吉良はさらに湿っぽい雰囲気になってて、桃ちゃんはさらに可愛くなっちゃって……

 

「九条君?」

「あ、ごめん。なんでもないよ。恋次は?」

「阿散井君、初日から呼び出し!! 入隊式でいびきかいて寝たんだよ!」

「あれは流石の僕も庇いようがなかったかな……」

 

 困ったように笑う二人を見て、俺はふぅっとため息をついた。なにやってんだか。まあ恋次らしいな。

 あれ? 入隊式でいびきかいて寝た? 僕も庇いようがなかった? 

 

「え、三人とも同じ隊なの?」

「うん! 五番隊だよ!!」

 

 桃ちゃんが……五番隊、だと……?? 

 え、ごめん、ちょっと待って。

 五番隊? 藍染隊長の隊? 

 

 みんなすっかり忘れているかもしれないが、俺達は仲間であると同時に聖杯戦争のライバル同士でもある!! 

 

 ……これは、藍染隊長!? 職権乱用なのでは!? いくらなんでもそれは酷すぎる!! 大人げないぞ! 藍染隊長!! 

 

 いや、まて、本当に藍染隊長の職権乱用か? あの人はそんなことをするような人ではないはず。正々堂々戦ってくれるはずだ。

 ここはきっと俺の考えすぎで、きっとみんなは藍染隊長に憧れて選んだんだ。

 分かるぞ。俺もそうしようとした。叶わなかったがな。だが結果良し。

 

 しかし分からん。恋次は藍染隊長に憧れてそうな雰囲気なかった。ツンデレか? 

 

「恋次も? なんで? あいつ鬼道得意になったの?」

「違うよ! あのね、藍染隊長が「隊の異動希望はいつだって出していいから、同級生で最初はいた方が研鑽し合えるし、気が楽なんじゃないか。……ってのは建前で、人手不足で困っているから、ぜひ優秀な三人を確保したいという僕の勝手な我儘さ」って言ってくれたの!」

 

 桃ちゃんに続くように、吉良が得意げに前髪を弄る。

 

「ふふん。僕たちの評判は届いていたようだよ。なんたって、二回生から六回生までの間ずっと、首席から三番手までが僕らだったからね。とはいえ、各隊の呼び込み活動に藍染隊長が直接きてくれるだなんて思わなかったけど」

 

 直接勧誘……だと!? 

 

「やっぱり職権乱用じゃねぇか!!! 」

「「く、九条君!?」」

「あ、いやごめん。なんでもない」

 

 霊術院を卒業するのは三月。隊の希望届は二月末までなのだが、二月に一週間程度、各隊で霊術院に赴いて「俺達の隊は楽しいよ、おいでよキャンペーン週間」みたいなのがある。

 大学で入学式が終わった後にいるじゃん、サークル勧誘隊が。あれだよ、あれ。

 

 本来は、前年度に入った一年上の先輩たちがやるし、席官や隊長が赴くなんてことは滅多にない。

 それを藍染隊長が直接やっただと!? 

 

 しかも三人でおいでよ。なんていう建前を駆使して、桃ちゃんの警戒心や「なんでアタシだけ直接声かけて貰ったんだろう」という僅かな疑念さえも払拭する高等テクニック……

 

「なんてスマートなんだ……」

 

 そうか……藍染隊長……俺とは童貞の歴が違うってか……

 

 だがしかし、藍染隊長。俺の上官舐めんなよ! 京楽隊長だぞ! 京楽隊長であれば、そんな建前やら実力評価なんてものすっ飛ばして「君の笑顔が毎日隊舎にあるだけで、それだけでボクは満足さ。君は不満かい?」とストレートに君が欲しい発言をするだろう! 

 

 藍染隊長!! 

 俺と貴方は結局、同じだ!! そうやって「下心満載で近づいたと思われたくない」「実は桃ちゃんのいい匂いに今にも死にそう」という事を必死に隠している。

 

 それが童貞!! いい顔して、相手を安心させ、結局喰らう事が出来ない!! 夜中に桃ちゃんが勇気を出して自室にやってこようと「寒いだろ、服着てなよ」って自分の上着とか渡して……襲うタイミングを悶々と考えている内に女の子が寝てしまう。それが童貞が童貞であるが由縁!! 

 

 

 読める!! 藍染隊長の行動の全てが分かる!! 

 

 

「夢みたいだったなぁ……あの憧れの藍染隊長に声掛けてもらえるなんて……」

「僕もだよ」

 

 だがしかし、悔しいことに桃ちゃんはその第一歩目である誘い込みに見事に落ちてしまった。

 それを可能にしたのは「あの日の憧れ」と「隊長羽織」。アイテムが強すぎるぜ……

 

 とはいっても普段はこない隊長が来たら、疑う人は疑いそうだけどな。その疑問はまたもや桃ちゃんが解決してくれた。

 

「浮竹隊長も来てたんだよ!」

「本当に?」

「そうそう! 浮竹隊長は毎年来てくれてるらしいんだけど、「藍染を誘ったら来てくれたぞ! 誘ってみるものだな! ははは!!」って笑ってたよ」

 

 桃ちゃんは意外にも物まねが上手だと思う。浮竹隊長、凄く言ってそう。いや、俺も会ったことないから知らないけど。

 

 虎徹四席に瀞霊廷で会うたびに話を聞いていたから、俺の中の浮竹隊長像が「頭に氷水袋を乗っけながら皆にお菓子を配る病弱でヨボヨボのじぃさん」なんだけど。

 

「何はともあれ、浮竹隊長の気まぐれな誘いがなかったら、こうやって三人一緒になることなかったかもしれないよ。奇跡って本当にあるんもんなんだね」

「ほんとだね……吉良君」

 

 吉良が嬉しそうに微笑んでいて、桃ちゃんは期待に満ちている目をしていて……ああ、やっぱ新入隊生ってキラキラしてんなー。っとジジ臭い事を思ってしまった。

 

「阿散井君は、どこだっていいって言ってたからさ。ついでにってかんじだったよ」

「まあ、あいつはそうだろな」

「君の噂は聞いてるよ。鬼の八番隊部隊長……ってね」

「やめてくれよ、吉良。俺は優しい方だ」

 

 俺は席について適当に茶を頼んで、憧れに近いような目を向ける二人から目を逸らした。

 

「お陰様で、第五部隊に派遣されるって決まった新人が、初日から泣いて異動届けを出す始末だ。変な噂はやめてほしいなぁ」

「事実だろう?」

「……さあな」

 

 そんな事言われても自分では分からない。俺は前任者の方が良かったと言われないために必死なんだ。

 あの人が作り上げてくれたものを壊さないように……

 

「九条君……君、大丈夫かい」

「大丈夫だよ。俺は俺なりにもがいてるところ」

 

 恋次はいつ来るだろうか。いや、あいつは来ないかもしれないな。

 そんな事を考えて窓の外を見ていれば、人混みの中から赤い髪が揺れているのが見えた。

 

「恋っ……げぇ……」

「どうしたの?」

 

 恋次は来た。カモがネギを背負ってきたみたいに背後に藍染隊長を引き連れてな。

 窓越しに俺と藍染隊長の目が合い、ニコリと微笑まれる。

 桃ちゃん達も気がついたようだ。

 

「えええええ!!!」

「ど、ど、どうしてっ!!」

 

 急に恋次と共に現れた藍染隊長に二人の動揺が一気に高まる。

 そんなのお構い無しに藍染隊長は俺らのいる店の中に入ってくるじゃないか。よくみれば、恋次は随分と不機嫌そうな顔をしているし。

 何があったんだ? 

 

「お、お、お疲れ様です!!」

「ど、ど、どうされましたでしょうか! も、もしかして阿散井君がなにかっ……」

 

 二人の声が完全に上擦っているのを見て面白かったのだろう、藍染隊長はクスクスと笑う。

 

「阿散井君が君達の場所が分からないみたいだったからね」

「店の名前だけ言われても行けるわけねーだろ」

「だから連れてきてあげただけだよ」

 

 ニコリと笑う藍染隊長に軽く会釈をし、俺は恋次の頭を掴みながら作り笑顔を浮かべる。

 

「恋次……てめぇ初日から自分の所の隊長に迷惑かけてんじゃねぇぞ」

「あん?」

「まあまあ、二人とも。久々の再会なんだろう? 喧嘩は良くないよ」

 

 藍染隊長に止められ、ハッとする。

 そうだ。桃ちゃんがいる手前、俺は好感度上昇を狙わなければならない。ガキの喧嘩を優しく止めてくれるなんで……くぅ、藍染隊長の方にまた一ポイント追加だ。

 

 俺の心の葛藤をつゆ知らず、恋次はドカッと席に座った。

 

「大体、俺は別に甘いもの好きじゃねぇってのに……」

「茶を飲め、茶を」

「涼介、てめぇの奢りだろ?」

「当たり前だよ。護廷十三隊に入ったばかりの子から金をむしり取ることなんてしない」

「なにカッコつけてやがる。先輩ヅラしやがって」

「お前はなにそんなにカリカリしてんだよ」

 

 俺と恋次の会話を桃ちゃん達はニコニコしながら聞いている。五年半ぶりくらいの会話だもんな。そりゃ嬉しいに決まってるよな……

 

 俺も内心めちゃくちゃ嬉しい。

 

「……似合うじゃねぇか、死覇装」

「るっせ」

 

 恋次はそっぽを向いてしまったが、少し照れているような表情をしていた。俺たちの会話なんてこんなんで十分だ。

 

 ……そんで、なんでまだ藍染隊長がいるんだ。

 気を使え、気を。同期四人集合、もうここはあんたのフィールドじゃねぇ!! 

 

「そうだ、九条君。今度、阿散井君達が入る部隊と合同訓練でもどうだい?」

「決定権は京楽隊長ですよ?」

 

 五席の席が空白の今、京楽隊長が五席の任務を兼任してくれている。

 

「まさか。部隊の決定権は君だろう? 九条部隊長」

「よくご存知で……流石です」

 

 ……バレた。例外が一つ。俺の部隊だけが俺の権限で動かせる。

 今までは五席から指示が出て部隊長が俺らを動かすっていうのが基本だったが、今は毎日山のように来る討伐依頼を俺が隊首室に赴いて、受ける受けないを選抜する。

 他部隊との合同訓練のスケジューリングも俺が勝手にやっていい。

 

「でも、俺の部隊と五番隊では系統が違いすぎます」

「だからこそだよ。普段と違う訓練を積ませることは大きな経験になるからね」

「了解です。後日日程表送ります」

「助かるよ。あ、お礼と言ってはなんだけど、特別演習場の使用許可を出そう。場所は五番隊になってしまうけど、構わないかい?」

「え! 刀部屋いいんですか!?」

「もちろんさ。流石に最悪の事態を避けるために、僕が管理人として見ていないとダメだけどね」

 

 

 特別演習場。通称―刀部屋。

 まあ、書いて字のごとく、始解と卍解の使用が認められている鍛錬場で、基本は隊長権限でしか使用許可が降りない。

 

 まじか! なんでそこまでしてくれるんだ? 

 え、ていうか俺の部隊の訓練に桃ちゃんを入れる? 無理無理無理無理。

 

 なんでわざわざ……何のために……

 ……は!!!! 

 

 桃ちゃんの汗!!?? 

 

 そこまでは追った事がなかった!! この人、桃ちゃんの汗がみたいだと!? その為に俺の部隊を使うと!? 

 

 奥手すぎる、さすがの俺でも引くくらい奥手だ!!! 

 

 そして恐らく、自分のせいで汗と泥まみれになったんだと桃ちゃんに思われないように自分の訓練ではなく、俺の部隊をクッション代わりにつかっているのか!? 

 

 なんてこった! こじらせ過ぎて頭がどうにかなっちまってる!! 

 

「三席の岩和君の部隊に配属予定だから、よろしく頼むよ。九条部隊長」

「岩和さんのですか! 俺、鬼道習いたいです!」

 

 五番隊岩和三席。鬼道を得意とし、人に何かを教えるということに特化した人だ。霊術院の教員も兼任しているため、俺達は霊術院時代から流石に知っていた人物でもある。いずれは学長になるんじゃないかとの呼び声も高い人だ。

 そんな人のところで教えを乞うなんて、桃ちゃん達はあっという間に強くなっちゃうんだろうな……。

 

「僕はあくまで見ているだけだから、君の好きにするといい。彼にはそう伝えておくよ」

「ありがとうございます!!」

「……すまない。実は少し嘘をついてしまったよ。阿散井君の案内半分、君と仕事の話をしたいと思っていたから丁度いいと思ってしまったんだ。折角の集まりに水を指してしまってすまないね。じゃあ僕はこれで」

 

 そう言って藍染隊長は店を出ていってしまった。

 くぅ……仕事が出来すぎる。

 嘘は嘘で貫き通せばよかったのに、最後まで疑惑を残さないためにわざわざ自分から自白しただと!? 

 

 好感度爆上がりじゃねーか!!! 

 

 やはり初めから恋次を連れてくるだけじゃなくて桃ちゃんの汗の獲得もかねていたということか……。

 

 何もかもが計算高い男!! 伊達に俺の何倍も何十倍も童貞守り抜いてきただけある……。

 

 負けねぇ……ならば、俺がやるべきことは一つ!!! 

 

 桃ちゃんに汗をかかせない!! 

 藍染隊長!! 合同訓練楽しみにしててください!! 貴方の思惑をへし折りましょう!! 

 

「九条君? 大丈夫?」

「へ、あ、大丈夫だよ。流石に死なないと思う」

「……え?」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、桃ちゃんだけじゃなく吉良と恋次の顔も青ざめた。

 

「あ、いや、大丈夫だからね!? 桃ちゃんに怪我させようとした瞬間殴り飛ばすから安心して!!」

「それじゃ訓練の意味が無いだろう、九条君……」

「吉良には十本勝負でもしてもらおうかな!」

「ひ、酷いじゃないか!!」

 

 うるせぇ! 吉良!! お前に桃ちゃんの傍は渡さねぇ! 嘘だ!! 三年間桃ちゃんの事見ててくれてありがとう!! 

 

 俺達は時間が許す限り、話尽くして……空白の三年間だったというのに、一回生の頃と何一つ変わらずひたすら笑いあった。

 

「あ、そろそろ戻るわ」

「僕達は今日までは休みだから、この後も瀞霊廷を見て回ろうと思う」

「そっか、楽しめよ! また非番が合う日は遊ぼうな!」

「もちろんさ!」

 

 俺が先に席を立って、会計をしようとした時。

 

「あら、お代は先程の隊長さんから既に頂いてますよ」

「なん……だと……!?」

 

 藍染隊長……やっぱ貴方は凄いです……。

 

 俺がトボトボと店を出た時、バチンと誰かに背中を叩かれた。

 

「なーにまた犬みたいな顔してんのよ、涼介!」

「乱菊さん……」

「午後からアタシの部隊と合同でしょ? 一緒行きましょ!」

「了解っす。あ、また買い物したんですか? 持ちますよ」

「あら、ありがと」

 

 相変わらず俺は乱菊さんの荷物持ち担当。全然嫌じゃないけどね。

 

 

 ***

 

 九条が去った後の甘味処にて。

 

「九条君、綺麗な人と歩いてたねー」

「あれは……十番隊の副隊長かな?」

「知ってるの? 吉良くん」

「男なら誰でも……いや! 違う! なんでもないよ!」

「そっか。やっぱり吉良くんは物知りだね!」

「あ、当たり前だろう?」

 

 吉良と雛森の会話が終わるよりも早く、恋次は席を立った。

 

「阿散井君?」

「合同までにもっと強くなるぞ、涼介に負けてられっか」

「……はは、君達らしいね」

 

 出ていく恋次を見送りつつ、二人も遅れて店を出る。

 

「阿散井君! 藍染隊長に迷惑かけちゃダメだよ!」

「わーってるよ! 俺はああいう教師みてぇな奴が苦手なだけだ!」

「もう……大丈夫かなぁ……」

 

 八番隊第四部隊と五番隊三席第一部隊の合同訓練。

 吉と出るか凶と出るか……知るのは神のみぞ。

 





水魔ちゃん

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