魔法科高校のサーヴァント   作:綾辻真

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今回も少し長くなりそうなので、前後編に分けさせていただきます。


後日談4『二騎目の英霊召喚』(前)

真夜と【偽物(フェイカー)】のちょっとした『いざこざ』はあったものの、それでも九島との邂逅は一段落を迎え、その場にいた全員は真夜の部屋から応接室へと戻って来ていた。

四葉のメイドが淹れてくれた紅茶を飲んで一息ついた九島は、対面に座る元造と真夜、そして真夜のそばに佇む【偽物(フェイカー)】へと視線を向けて口を開いた。

 

「……いやぁ、今日はご無理を言って申し訳ありませんでしたな。元造殿、真夜さん」

「いえ、大したことではありませんよ」

「私もです。本日はわざわざお越しくださり、ありがとうございました」

 

元造と真夜が続けてそう言い、九島はそれを聞いてフッと小さく笑って見せる。

しかし、そこでそのやり取りと見守っていた【偽物(フェイカー)】が唐突にその会話に割って入ってくる。

 

「――それで、そろそろ()()()()()の方を聞かせてもらっても、いいかな?」

「【偽物(フェイカー)】……?」

 

九島にはなった【偽物(フェイカー)】のその言葉に、いまいち意味が理解できずに真夜が不思議そうな顔で【偽物(フェイカー)】を見上げる。

その視線を受けてフッと口角を上げた【偽物(フェイカー)】は九島に視線を固定しながら言葉を続ける。

 

「……ただ僕という存在を見物に来ただけじゃない。もちろん僕という脅威を『見極めに来た』という目的もあっただろうけど……それを踏まえた上で、キミは僕と真夜(マスター)たち四葉家に()()を持ち掛けに来た。……違うかい?」

「……いやはや、参ったね。さっきの私に対する観察眼と言い、古代の神造兵器というのは人の心が読めるのかね?」

「まさか。今のところ、僕にそんな機能はないよ。……ただの過去の経験則(メモリー)からくる単なる予測の範囲内さ」

 

九島の言葉に【偽物(フェイカー)】がそう返したタイミングを見計らって、元造が九島に声をかける。

 

「九島先生?」

「……すまないね、元造殿。……先も言ったように、今世界は四葉に文字通り釘付けの状態だ。そこな【偽物(フェイカー)】……英霊(サーヴァント)の登場によって世界のパワーバランスは日本の……正確には四葉の方へ大きく傾いている現状だと言っていい。このままでは世界は四葉を敵とみなし……最悪、徒党を組んで四葉の放逐を強行しても不思議ではないだろう。……だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――!まさか、九島先生……!」

 

そこで、九島が何を言いたいのかを察した元造は、目を見開いて九島を凝視し、その視線を一身に受け止めた九島は静かに頷いた。

それを元造の隣で見ていた真夜は、未だに話の内容の理解が追い付けず、視線が元造と九島の間を行ったり来たりする。

そんな真夜に【偽物(フェイカー)】はいつもの穏やかな顔でゆっくりと解説した。

 

「つまり、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……()()()()()()()()()、ね」

「えっ!?」

 

偽物(フェイカー)】の解説でようやく理解した真夜は驚いた顔を九島に向ける。そんな真夜の前で、九島の言葉は続く――。

 

「……もちろん、今提供を行うのは日本と同盟を結んでいる国だけです。日本に友好的な国々にこの技術を……英霊を提供すれば、パワーバランスを回復するだけでなく、国と国との結びつきもより強固なものになるでしょう。さらに、【偽物(フェイカー)】の能力を見ても英霊の力は国益にもつながります。うまくすれば国々をより豊かに繁栄できる英霊を呼ぶことが出来るかもしれない」

「……なるほど。各国間の結びつきをより盤石にするだけでなく、英霊たちの力でそれらの国々を繫栄させることが出来れば、大きな恩を売ることもできる。……そういう事ですね?」

 

あまりにも英霊(サーヴァント)を国益のための『道具』としか見ていない元造と九島のその『大人』な会話に対し、未だに精神が子供で二人とはまた()()()()で【偽物(フェイカー)】のことを見ている真夜にとっては全く面白いモノではなく、思わずムッと険しい顔を浮かべる。

そんな真夜を宥めるように、【偽物(フェイカー)】は彼女の肩にそっと手を置く。

 

「落ち着いて真夜(マスター)。……英霊()達のために怒ってくれるのは感謝するけれど、キミの先生の言い分にも一理ある。英霊という存在が世界に知られてしまった以上、それを無かったことには出来ない。かと言って、そんな規格外な存在とそんな存在を召喚できる技術を一国が……ましてや一家族が独占するにはあまりにも危険すぎる。……()()()()、世界の命運を好き勝手出来る究極の秘密兵器を手に入れてるものだからね。だからこそ、この召喚技術を各国に提供、分散させることで周囲の国々が四葉に向ける危険視の度合いを出来るだけ下げようって魂胆なのさ。……四葉の人間を世界の敵意、悪意から守るための対抗策としてね」

「…………言いたいことは、何となく分かるけれど……。けど、それでも……やっぱり、面白くない……」

 

偽物(フェイカー)】の言葉を聞いてもそれでも納得しきれずにムスッとしたままそう呟く真夜に、【偽物(フェイカー)】は苦笑を浮かべる。

そんな真夜と【偽物(フェイカー)】の横で思案顔を浮かべながら元造が九島に向けて口を開く。

 

「……貴方の言いたいことは理解しました。しかし、分かっているとは思いますが『それ』にはリスクも伴います。この英霊召喚の技術を同盟の国々の中だけとは言え広めてしまえば、自然と敵対している国々にもその情報が漏洩する可能性も高まります。……人の口に戸は立てられませんよ?」

「ええ、分かっております。……しかし、これほどまでにとんでもない魔法です。その仕組み(カラクリ)もそれ相応なはず。……この魔法について、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………」

 

九島のその指摘に元造は黙り込み、それを肯定と受け取った九島は言葉を続ける。

 

「ならば、その秘密と英霊召喚の生みの親という立場を利用してその魔法の最高管理者という地位を手に入れればいい。四葉の許可なく英霊召喚は行えないという『事実』を世界に広め、四葉の管理下のもとに英霊召喚のシステムを運用するのです」

「……『世界に広める』というと、やはり……」

 

真剣な顔でやや前のめりになってそう尋ねる元造のその視線を受けて、九島はニヤリと笑って見せる。

 

「それはもちろん――」

 

 

 

 

「――実演(デモンストレーション)、ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

――九島烈の来訪から翌日の昼過ぎ、真夜は姉の深夜とともに自室で午後のティータイムを楽しんでいた。

真夜のそばにはいつものように【偽物(フェイカー)】が佇み、周囲には四葉のメイドたちが数人控えている。

 

「――それで、九島先生が提案したって言う『実演』の詳細について、その後何か連絡があったの?」

 

紅茶とともに出されたクッキーをポリポリと食べながら、深夜は正面に座る真夜に唐突にそう尋ねた。

真夜は何故か()()()()()小さくため息を一つつくと、そばに立つ【偽物(フェイカー)】に向けて目くばせをする。

その視線を受けた【偽物(フェイカー)】はその手にあらかじめ持っていた小型のノートパソコンを真夜たちの座る円形テーブルの上におくと、パソコンを開きその画面を見えやすいように深夜の方へと向けた。

画面には見知らぬ男性の顔写真とその男性のプロフィールが映し出されている。

そのプロフィールを読む深夜に向けて真夜が口を開く。

 

「……つい、一時間ほど前に九島先生がお父様に送ってきた『実演』の詳細資料よ。()()()()()()()として選ばれたのは、USNA(北アメリカ大陸合衆国の通称)の政府で官僚をしているその一般男性。魔法師でもなければ四葉(私たち)とは縁もゆかりもない人間よ」

「ふぅん……私たちの知らない人を選んだのは、『やらせ』の可能性を疑われないため?」

「間違いなく、そう。対象の男性とは実演当日まで四葉の人間は接触はおろか連絡すら一切禁止だって。……日時は一週間後、場所はUSNA国内のとある郊外。その日までに()()はしっかり終わらせておくようにとの先生からのお達しよ」

「……同盟国とは言え、海外に行くんでしょ?……大丈夫?」

「『元老院』の方は九島先生が事前に根回しをしてくれてたみたいで許可は下りてる。日本とUSNA政府との政治的交渉もすでに済んでいて、そっちの方もOKだって」

「……違うわよ」

 

唐突に深夜の声のトーンが落ち、目の前に座る真夜()の顔をじっと見る。その顔に浮かぶ表情は大切な家族の身を案じる姉の顔そのものだった。

 

「向かう国が違うとは言え、()()()?台北と似たような目に遭わないとも、限らない」

「あ……」

 

深夜のその指摘で何を言いたいのかを察した真夜はハッとし、それと同時に台北で受けた辱めと恐怖の記憶が脳裏を一瞬フラッシュバックする。しかし――。

 

「――大丈夫よ、深夜」

「!」

 

直ぐに姉を安心させるかの如く、柔らかいほほ笑みを浮かべる真夜。その笑みに一点の曇りがない事を察した深夜は目を見開く。

そんな深夜を前に、真夜は視線を深夜から自身の真横に立つ存在へと移し、そのモノを見上げる。

やがて、そのモノと視線が合うと真夜は笑みを深くしながら静かに言葉を続けた。

 

「今の私には【偽物(フェイカー)】がついてるから」

 

真夜からのその言葉と視線を受けて、【偽物(フェイカー)】の方もいつものように穏やかに笑みを返す。

そんな妹と英霊のやりとりをみた深夜はポカンとした表情を浮かべると、やがて無意識的に今の本音を()()()()口に出していた。

 

「……うらやましい」

「え?」

「あぁ~いいなぁ~!真夜ばっかりズルい!私も英霊(サーヴァント)ほしい!」

「ちょ、ちょっと深夜。英霊(サーヴァント)は物じゃないのよ」

「あ、うん……まぁ、分かってはいるけどぉ~……」

 

先程までの令嬢としてのマナーは露ほども無く、テーブルにだらしなく突っ伏した深夜は駄々をこねた子供のごとくそう喚いて見せ、それを見た真夜は呆れと困惑を混ぜたような表情で深夜を窘める。そして【偽物(フェイカー)】は終始困ったような笑みを浮かべるのみであった。

やがてほほを膨らませながら深夜は突っ伏していたテーブルから顔を上げる。

 

「もぅ……何で()()()()()()()に選ばれたのが私じゃなくてその官僚なの?……って言うか、その男も政府の命令とは言えよく受け入れたわね。何が呼び出されるのか分からないっていうのに」

「ああ、その事なんだけどね」

 

ふいに深夜が疑問に思ったことを口にし、それを【偽物(フェイカー)】が律儀に返答する。

 

「実を言うと呼び出す予定の英霊は()()()()()()()()()()()()()()。そのための触媒もUSNA(向こう)で用意するみたいだよ?」

「え、そうなの?……ちなみに、どんな英霊を呼ぶ予定?」

 

偽物(フェイカー)】からのその言葉に、深夜はさらに質問を重ね、それに今度は真夜が答える。

 

「うん……それがね、呼び出す予定の英霊(サーヴァント)は――」

 

 

 

 

 

 

「――■()、『■■■■■■■』なの」

 

 

 

 

 

 

真夜から呼び出す予定の英霊の真名を聞き、深夜は驚きに目を丸くする。

 

「うっそ、神様じゃない……。そんな凄い存在、本当に呼び出せるの?」

「当日は僕が『聖杯』として呼び出す予定なんだけど、流石に僕だけじゃ特定の『神霊』を意図して呼び出すのは難しいね。……でも大丈夫だよ。そこの問題解決は既に考えがあるんだ」

「ふぅん……。でも何でその英霊を呼び出そうと思ったのかしら?」

 

偽物(フェイカー)】がそう言って深夜がまたもやそう問いを投げた瞬間、真夜の顔が先程と同じように()()()()()()翳りを帯びた。

そんな真夜の様子の変化に怪訝な顔を浮かべる深夜。そんな彼女の前で真夜はその理由を口にする。

 

「……実は、その官僚の男の人――」

 

――そうして、真夜からこれからマスターとなる予定の官僚男性の事情をあらかた聞いた深夜は、理由を理解すると同時に真夜同様に顔を曇らせていた。

 

「ああ……まあ、確かにそれは……()()()()()()()、かな」

 

そう呟きながら、深夜は()()()部屋の隅にある()へと視線を向ける。つられるようにして真夜も深夜の視線の先を追い、()()を見つめる。

 

そこには洋風タンス(チェスト)があり、その上には一台の写真立てが置かれていた。

その写真立てに入れられた写真は()()()()であり、そこには今よりもまだ幼いころの深夜と真夜、そして父であり四葉の当主である元造の他、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が一緒に写っていた。

どこにでもあるごくありふれた家族写真であり、そこに写る真夜たちも皆幸せそうな笑顔を浮かべたほほえましい光景がそこにあった。

そんな家族写真を一緒に見ていた【偽物(フェイカー)】が口を開く。

 

「そう言えば、キミたちのお母さんも確か数年前に……」

「うん……」

 

そう小さく頷く真夜の視線は家族写真に写る()()()()母親の顔から離れることはなかった。

しかし、脳裏ではかけがえのない母親の事を想うと同時に、母とはまた別の人物の顔も真夜は思い浮かべる――。

 

 

 

 

――それはあの忌まわしい台北での一件で自分を命がけで助け出してくれた――。

 

 

 

 

 

――魔法師であり、転生者でもあるという……自分に【偽物(フェイカー)】という、大切な存在(英霊)を遺してくれた、男の顔であった。

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