私は悪い子ほらほら撃って   作:息抜きのもなか

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|・)チラ つ =o
ここで前回の後書きを見て見ましょう。次回は3月頭とか言ってた馬鹿が通ります。


ゲヘナへ

 動き出してからまずやったことは、ブラックマーケットで作った銀行口座に自分のお金を送金することだった。ヴァルキューレ時代の貯金は吹けば飛ぶような金額なので凍結されても困ることはないのだけど、それでも先立つものはあった方が良い。

 もともとブラックマーケットを調査した時に作った口座があったので、それに学校で作った口座に入っていたお金を全部流し込んでいく。

 ブラックマーケットの銀行なので後ろ暗いところはあるけれど、それでも学籍の無い生徒にとっては口座を作れるという時点で御の字である。そもそもブラックマーケットで銀行口座を作らないといけない時点で作る側も相当な訳ありだから、文句を言えるような立場にないというのもある。

 

「あ、もう口座凍結された。仕事早いなあ」

 

 貯金を移し終えて証券口座の方を確認しようとしたところで、ログインしたら『この口座は凍結されています』とシステムメッセージが表示された。銀行の口座の方に戻るとさっきの今なのにこちらも凍結されているあたり、ギリギリでなんとか事なきを得たようだ。

 こういうとこだけ早いから、守るべき市民にうだうだ言われたり変態が潜り込んで離反したりするんだよ。後者はさすがに私以外にはいないかもしれないけど。

 しかしこの対応の速さを考えると、もしかすると私の送金で通知か何かが飛んでしまったのかもしれない。ログインしたことでこちらの現在位置の座標は割れてしまっただろうし、ブラックマーケットとはいえSRTや単独制圧できる化け物が来る可能性があるので移動は必要である。

 

「あ、それで言えばスマホ持ってる時点でアウトか。新しいのに替えないと」

 

 そう言いながらスマホのメモにタスクとして入れようとして、違う違うとコンビニで紙のメモを買って書き記していく。

 ネットさえあれば全てどうにかなる良い時代ではあるが、しかしそれは改ざんや追跡、情報漏洩のリスクも隣り合わせである。最終的に一番信用できるのが紙の書類、というのは皮肉なものだなと思わないこともない。

 メモを買った足でスマホを売っている店がないか探しながら歩き出す。

 歩いていると制服故かチラチラどころかガン見されることが多いが、気にせずに歩き続ける。

 ヴァルキューレがブラックマーケットに個人で潜入するときは大抵が別の学校の制服に扮して入ることが多く、制服で入るときは大人数で一斉捜索や捕獲作戦を展開するとき以外にはないからである。

 因縁を付けられてボコボコにされることも多いので、制服でうろつくなと厳命されていることもあって、一人でブラックマーケットを歩くヴァルキューレ生はよく目につくのである。私としては因縁を付けて撃ってきてくれるぐらいが丁度いいので、全然ウェルカムだったのだが、今日ここにいる人たちは警戒している者たちが多いのか手出ししてくる人はいなかった。

 何も起きないことにしょんぼりしつつも、カイザー運営の携帯会社を見つけて入店し、適当に安いスマホを購入する。銀行もカイザーローンなので、口座管理のアプリと連絡用のツールが使えればそれでいい。

 

「ありがと。あと、このスマホ下取りに出せる?」

「構わんが、お前、ヴァルキューレの生徒じゃないのか? 我々はヴァルキューレであろうが防衛室であろうが取引をするが、上から何か言われないのか?」

「ああ、そのこと? いや、実は昨日ヴァルキューレを裏切ってきたんだよね。内部の情報をばら撒きながらヴァルキューレの制服姿でうろつく裏切り者って、最高に面白いと思わない?」

「はは! 愉快な奴め! 気に入った。飛ばしのものも数点見繕ってやろう。あと、それであれば本使いの物はシムの入っていないものにしておけ。必要なとき以外にネット接続にしないことで、場所の特定がされづらくなる」

「ああ、そゆこと。ありがとね、助かるよ」

 

 スマホの購入を完了し、店内で必要なアプリの移動やアカウントの更新やメアドの入れ替えを終えてから店を出る。

 社会から外れた者にとって、準備するべきものはそう多くない。

 さてこれからどうしようかと、自身の欲望を満たす術を考えながら歩き出す。

 

「マーケットガードとやり合ったところで面白味もないし多勢に無勢だし、その辺の不良に喧嘩を売ってもいいんだけど、どこの自治区にするかな?」

 

 ブラックマーケットを根城にする必要はないとはいえ、銀行をブラックマーケットに置く以上はマーケットガードとの衝突は避けておきたい。ブラックリスト入りして出禁と銀行口座凍結なんてことになったら動きづらくなるので、やはりマーケットガードに喧嘩を売るのはナシである。

 であれば、ブラックマーケット外で不良に喧嘩を売ったり、問題を起こしてその自治区の治安維持組織を引っ張り出したりするのが手っ取り早いか。

 そう考えるとやはりまず思い浮かぶのは、ゲヘナだ。

 不良が多く、普通の生徒であっても血の気が多い。風紀委員では手が足りておらず、ヴァルキューレの出動回数も多い。その治安の悪さは、何もしなくとも歩いているだけで撃たれることもあるほどだ。

 それに、今の生徒会と風紀委員会は代替わりをしてから生徒を矯正局に入れなくなった。捕まえても風紀委員の牢に閉じ込めるだけで、矯正局へ突き出される心配もない、犯罪者の天国である。

 ヴァルキューレに会ったら、こちらには喧嘩を売っておこう。ヴァルキューレ共通で私が悪い子だと認識されれば、日常がスリリングになることが確約される。出会い頭で銃撃戦、なんて日々になれば最高すぎる。

 そうと決まれば善は急げ。私は意気揚々とゲヘナ行きの電車に乗り込んで、輝かしい未来に胸を躍らせた。

 

 

 

「は?」

 

 気が付いたら、牢屋の中だった。

 全身が満遍なく痛みを訴えてこれも中々悪くないと思うのだが、しかし痛みの種類としてズキズキはあまり心地好いとは言えない。

 理由は明確で、熱量を感じないから。

 弾丸を発射する際の熱や皮膚と接触した摩擦熱、そして着弾の衝撃とエネルギーで発する熱。

 私が被弾した際にそれらが重なるあの一瞬。あの瞬間に起こる痛みが、私の愛する痛みである。取っ組み合いや殴り合いの喧嘩も悪くはないけど、弾丸と比べてしまうと瞬間風速に欠ける。圧力が違うんだよ、圧力が。

 ああでも面で来るものでも手榴弾は例外。

 爆発物はその外側の容器が飛び散るからね。小さな破片の集合体を喰らってると形容してもいいかもしれない。これは私的にかなりポイントが高いのだ。

 これら一つ一つのダメージは大きくはないけど、手榴弾が与えるダメージの要素を抽出すると小さな破片の集合体+爆炎+衝撃波のトリプルコンボが出来上がる。

 役満だねこれは。

 それはさておき。

 

「違う。これは違うな」

 

 ゲヘナに入ってからのことを思い出す。

 どうやらゲヘナではその治安の悪さからヴァルキューレ生も二人以上で動いているらしく、一人で歩いてるヴァルキューレ生が珍しいのか因縁を吹っ掛けられた。

 それに応戦しているうちに風紀委員が来て、そっちにも鉛玉をぶち込んでやれば大混乱。

 面白いことになってきたと気持ちを昂らせていたところで、騒動の収拾にやってきたゲヘナの風紀委員会、その委員長である空崎ヒナと会敵した。

 そこまではよかった。味方だと思っていたヴァルキューレ生から被弾して、あの化け物の間抜け面を拝めたことも。

 だが、彼女がこちらを敵だと認識した瞬間に、私はゲヘナという場所が辛うじて秩序を保っている理由を痛感させられた。

 

「愉しむには、強さが要る」

 

 一瞬だった。ほんの一瞬の幸福。でも、満たされるには刹那の時間すぎて物足りない。

 彼我の実力差は果てしなく、戦闘は成立しなかった。

 すぐにノックアウトされてしまった私は、自分の趣味を楽しむ間もなく豚箱行き。強い強いとは噂で聞いていたが、ここまでだとは思っていなかった。

 こんなんじゃ、足りない。

 ゲヘナは良い所だ。すぐに問題が発生して、すぐに銃撃戦が勃発する。

 だけど致命的な問題としてここには空崎ヒナがいて、私は彼女の相手にならないほど弱い。

 

「ここで遊ぶには、レベル上げが足りてないね」

 

 そんなことを考えていたら、隣の牢屋が爆発した。

 驚いてそちらを向けば、私の牢屋の壁の一部も崩れていて、大きな穴が開いている。やや低めの高らかな笑い声には聞き覚えがある。最近温泉開発部の部長になった、ゲヘナ随一のテロリストのものだ。

 逃げられる。

 そう判断した私は手持ちの荷物を確認する。

 ヴァルキューレとはいえ他校の生徒。その持ち物を没収するのは都合が悪かったのか、はたまた荷物の没収も行わない方針なのか、どちらかはわからないが、事実として私の荷物はここにある。

 それ即ち、ここから逃げることに何の障害もないということ。

 爆発の混乱に乗じて、外に出る。

 風紀委員の詰め所近くでヴァルキューレの制服というのは少しばかり目立っているが、それでも捕らえられていた側だとは思われなかったのだろう。風紀委員とすれ違っても、特に見咎められることもない。

 その足のまま一旦ゲヘナの郊外まで出ようとしたところで、曲がり角でヴァルキューレ生とぶつかりそうになった。

 

「おっとごめんよ」

「わ、すみませ……ッ!」

 

 突然言葉を切ったので何事かと思えば、その警官帽の下には見慣れた顔が見えて。

 その今にも殴り掛かってきそうな形相に、私は笑みをこぼすしかない。

 

「あなた、脱獄してきたの!?」

「矯正局じゃないんだから、そんなに驚くことでもないでしょ? しかもここはゲヘナだよ? 日常茶飯事だと思うけどね」

 

 相変わらず隙だらけ。

 まだまだ私の事を割り切れていない彼女に対して、そのお腹にハンドガンの弾を装填されている分だけ叩き込んで理解させる。

 脱獄って言葉が出る辺り、私が風紀委員に捕まったことは知っていたんだろうね。たぶん一人で歩いていたことを見るに、私が捕まったことで確認として呼ばれたんだと思う。

 それでもやっぱりゲヘナでは不用心だし、私に対する警戒もまるで足りてない。

 

「犯罪者を目の前にしたら、まずはあいさつ代わりの鉛玉が基本だよ? 突っ立って話すなんて、まったく学ばないよね、アヤノちゃん」

 

 本当は撃たせてあげたいんだけど、今は風紀委員会の詰め所からちょっと距離を取りたいから、また今度お願いするね。

 蹲って苦しげな表情でこちらを睨んでくるアヤノちゃんをちょっと羨ましいなと思いつつ、私は彼女に背を向けてその場を離れる。

 少し歩いたところで、背中に衝撃。

 この弾の感じはアヤノちゃんのもの。模擬戦で何度も浴びたから、よく知っている。

 でもこんな甘っちょろいのじゃ、私は満たせないし、足も止められない。

 もっともっと、もっともっともっともっともっともっともーーーーーっと気持ちを込めて、溜め込んで溜め込んで溜め込んだ最高の一発を、いつかもらえることを期待して待っていよう。

 きっと彼女は、極上のメインディッシュになるはずだから。

 感情的で馬鹿真面目で正義感が強い彼女のことだ。きっと私という悪い子(ヴィラン)を倒す最高の主人公(ヒロイン)になってくれる。

 

「待ってるよ。その時までに私もちゃんと、強くなるからね」

 

 相手の攻撃で気絶しないようにするには、もっと身体を鍛えなきゃ。

 頑丈になってたくさん弾を受けられるようになれば、私はもっと高みへ行ける。

 でも、それだけであの風紀委員長の弾を受けれるかな。才能の差は努力で埋まるかな。

 ブラックマーケットに戻って情報収集をしてみよう。愉しむためならなんだってやってやろう。じゃなきゃ、ヴァルキューレを辞めた意味がないからね。




現在の時系列は本編開始より少し前です。
先生も途中で絡むと思いますが、この子の性質上相容れませんし、先生が来る頃には手遅れにしようと思います。シリアスにはならないです(本人は)。
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