「誰かー!!」
私の叫び声は虚しく、白樺の林に消えた。
部活帰り、みんなと別れて歩いていたら、道に開いていた穴に落ちた。
そこまでは、まあいい。歩きスマホをしていた自分が悪いだろう。
だが、下半身の感覚がない。脊髄とかを打ったのではないかと、拙い知識で心配する。
スマホは落ちた拍子に飛んだらしく、少し先の地面に転がっている。
手を伸ばす。指先があと数センチのところで空を掻く。届かない。
母さん、心配してるだろうな。
誰も通らないような田舎住みであることを、これほど恨んだことはない。
目の前を通るのは、キタキツネかエゾシカぐらいだ。
どれぐらいの時間が経っただろう、ふっと、感覚が戻る。
なんとか穴から這い出る。
スカートよし、ローファーよし、剣よし。
「剣?」
腰に、謎の剣が下がっている。
「え?」
わけがわからない。
何もわからない。
落ち着け、
「グルルルル!!!」
ほら。隣のクマも一緒に叫んでる。
は?
「クマ!?!?」
やばい!
なまらやばい!
咄嗟に、剣を抜く。
無我夢中でそれをクマに向けて振るう。
瞬間。
腰の奥で、何かが弾けた。
根元から幹を駆け上がるみたいに熱い塊が、腰の芯を突き抜けて、背骨を這い上がって、腕を伝って、切っ先から
白い光の奔流が、クマの頭上を通過して——
その向こうの——大岩が、割れた。
目がチカチカする。膝が震えて、力が入らない。
轟音のあと、沈黙。
どこかで、カラスが一声だけ鳴いた。
目が合った。クマと。いや——あいつが見ていたのは、私じゃなく剣だった。
クマは、踵を返して走った。
「は、え? は?」
もう何が何やら。
腰を抜かして座り込む。
と、座り込んだ尻に何かがあたる。
ポケットを触り、中身を取り出す。
「なにこれ……?」
それは、小さな革表紙の手帳だった。
無造作に途中を開く。読めない。
Fair is foul, and foul is fair.
None of woman born shall harm Macbeth.
Is this a dagger which I see before me?
Out, damned spot! Out, I say!
What's done cannot be undone.
蔦が絡まったような見たことのない文字がびっしり詰まっている。
日本語でも英語でもない。
いや……一ページ目だけが光っている。
急いでページを捲る。第一行。
——読める。
『汝がこれを読む時、我はすでに冥府の客であろう。』
私の下半身が、遺書を遺していた。
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