感覚遮断TS落とし穴と股間の剣   作:なほやん

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『腰の奥で、何かが弾けた。』

 

 「誰かー!!」

 

 私の叫び声は虚しく、白樺の林に消えた。

 部活帰り、みんなと別れて歩いていたら、道に開いていた穴に落ちた。

 

 そこまでは、まあいい。歩きスマホをしていた自分が悪いだろう。

 だが、下半身の感覚がない。脊髄とかを打ったのではないかと、拙い知識で心配する。

 

 スマホは落ちた拍子に飛んだらしく、少し先の地面に転がっている。

 手を伸ばす。指先があと数センチのところで空を掻く。届かない。

 

 母さん、心配してるだろうな。

 

 誰も通らないような田舎住みであることを、これほど恨んだことはない。

 目の前を通るのは、キタキツネかエゾシカぐらいだ。

 

 どれぐらいの時間が経っただろう、ふっと、感覚が戻る。

 

 なんとか穴から這い出る。

 スカートよし、ローファーよし、剣よし。

 

「剣?」

 

 腰に、謎の剣が下がっている。

 

「え?」

 

 わけがわからない。

 何もわからない。

 落ち着け、幕田風香(まくだふうか)、十六歳。

 

グルルルル!!!

 

 ほら。隣のクマも一緒に叫んでる。

 

 は?

 

クマ!?!?

 

 やばい!

 なまらやばい!

 

 咄嗟に、剣を抜く。

 無我夢中でそれをクマに向けて振るう。

 

 瞬間。

 

 腰の奥で、何かが弾けた。

 

 根元から幹を駆け上がるみたいに熱い塊が、腰の芯を突き抜けて、背骨を這い上がって、腕を伝って、切っ先から(ほとばし)った。

 白い光の奔流が、クマの頭上を通過して——

 

 その向こうの——大岩が、割れた。

 

 目がチカチカする。膝が震えて、力が入らない。

 轟音のあと、沈黙。

 どこかで、カラスが一声だけ鳴いた。

 

 目が合った。クマと。いや——あいつが見ていたのは、私じゃなく剣だった。

 クマは、踵を返して走った。

 

「は、え? は?」

 

 もう何が何やら。

 腰を抜かして座り込む。

 

 と、座り込んだ尻に何かがあたる。

 ポケットを触り、中身を取り出す。

 

「なにこれ……?」

 

 それは、小さな革表紙の手帳だった。

 

 無造作に途中を開く。読めない。

 

 Fair is foul, and foul is fair.

 None of woman born shall harm Macbeth.

 Is this a dagger which I see before me?

 Out, damned spot! Out, I say!

 What's done cannot be undone.

 

 蔦が絡まったような見たことのない文字がびっしり詰まっている。

 日本語でも英語でもない。

 

 いや……一ページ目だけが光っている。

 

 急いでページを捲る。第一行。

 ——読める。

 

 『汝がこれを読む時、我はすでに冥府の客であろう。』

 

 私の下半身が、遺書を遺していた。

 





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