男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴 作:陽波ゆうい
「ふぅ……なんとか無事に帰って来れたな」
誰にも見られないよう、女子寮へ。
ネリネ様の部屋の一角にある使用人部屋に入ることに成功した。
文面で見たらヤバい行為だけど……訳あって、今はここが俺の住むところになっているのだ。
それに忍足で入ったのではなく……朝のうちに窓の鍵を開けておいたので、素早く身を滑り込ませて入った。
チート能力である無限魔力を存分に使うためにも訓練をしていたから、運動神経には自信がある。
でも、これから毎日この状態なのかぁー。
「入ること自体はなんとかなるけど……誰かにバレたら終わり。女性優位のこの世界だと、より社会的に終わるよなぁー。ああ……メンタルの方が持つ気がしない……」
最悪の結果ばかり考えてしまうので……そもそもの出来事を思い出す。
『1年生専用の男子寮の1部屋だけ……実は、内装工事が長引いていてなぁ。今年の男子は奇数で入学してきたと聞いている。だから……1人だけは、現時点で部屋が用意できていないことになる』
寮父さんの言葉を思い出す。
確か、内装工事が長引いているって言っていたなぁ。
最低、寝るところがあればいいからまた明日どれぐらい掛かるか確認をしてみよう!
「とりあえず、今日はゆっくりするかー。こんな設備が整った綺麗な部屋に住めることも無いしな。着替えて……と」
ブレザーを脱いだタイミングでコンコン、と扉がノックされた。
この部屋をノックできる人物は……ただ1人。
俺のことを女子寮に招き入れた女子生徒のみ。
「フェイ様……いらっしゃいますか?」
「あ、はいっ。いらっしゃいます……!」
透き通る彼女の声に思わず、背筋が伸びて。
上擦った声も出てしまった。
「……今度はいましたか。入ってもよろしいでしょうか?」
「ど、どうぞ……!」
そこまで会話して……ガチャリと扉が開いた。
ネリネ様も今戻ったのか、制服姿のままであった。
「フェイ様、おかえりなさいませ」
「あ、はい……。ただいま……です?」
「ふふっ。何故、疑問系なのですか?」
「い、いやぁ……ちょっと緊張してしまって。あはは……っ」
緊張するのも無理はないだろっ。
だって相手は、公爵家のネリネ様。
容姿端麗で高嶺の美女なのだから。
「私相手に緊張することはないと思いますよ?」
「いやいや、緊張しますよっ。誰だって……!」
「そうでしょうか? まあ、周囲の男は緊張してくれた方が良いかもしれませんね。言い寄ってくる男が多いですから。でも、全部断っています。興味ないですからね」
ネリネ様はなんでもない、普段通りといった口調で告げた。
この一連の流れが日常茶飯事なんだろうなぁ。
男女比3:1で女性側が言い寄られることが多いとはいえ……自分の好きな人は自分で決めたいよなっ。
「そう……フェイ様以外の男には微塵も興味はありませんから」
「え?」
ネリネ様はこちらに近づき……俺の横までやってきて動きを止めた。
ネリネ様の表情は……何故か険しくなっていた。
「……? スンスン……」
「ネ、ネリネ様……?」
に、匂い嗅いでる!? 俺、なんか匂うの!?
「……っ。甘い香りがする……」
「っ!?」
耳元でそう呟かれ、ビクッと反応してしまう。
何も悪いことしてないはずなのに。
「フェイ様? 放課後は真っ直ぐ帰って来られなかったようですが……どこかへ寄り道でもしていたのですか?」
「よ、寄り道……そうですねぇ」
寄り道というか、強制的に連れて行かれたというか……。
さっきまで生徒会長であるアザレア様のところにいた。
何も変なことはなかった。
ただ、普通にお菓子食べて話して終わりだった。
ただ、アザレア様の名前を出すとより怪しまれるに違いないので……。
「周りの目もあって、女子寮にはすぐに戻れないと判断して……お菓子を食べながら時間を潰していたところでしたっ」
俺はそう答えた。
あくまで、女子寮に戻れないからお菓子を食べながら時間を潰していた。
納得のいく回答だろう。
「お菓子……ですか。そうですか。……そうですか」
「は、はい」
「お答えいただき、ありがとうございます」
ネリネ様がそう言う。
これはもう話を掘り下げられないやつだ。
助かった……と、思った瞬間。
「でも、その代わり」
「うん?」
「先にシャワーを浴びてくださいね」
「……え?」
「いいですね」
「え、あの……」
「……いいですね?」
「は、はい……!」
ネリネ様の有無を言わせぬといった圧に、俺はこくこくと頷く。
やっぱり、俺の身体の匂いが気になったのだろう。
今日は汗をかくほどの運動はしてないけどなぁ。
◆◆
自室に戻ってきたネリネは、静かに息を吐いた。
「……お菓子、ねぇ。そっちだけだったら、どれだけ良かったか」
目を細めて鼻に手を添えて……不機嫌に呟く。
「フェイ様の服に、身体に纏わりつく甘い香り……香水の。他の女の香り。教師はありえない。同じクラスメイトもありえない。なら、外の女……? けれど、男女比3:1で女は無闇に男に近づかないから……」
そこで言葉を区切ったネリネ。
ふと、窓の外を見つめた。
「この学園の生徒で、フェイ様の知り合いが女の可能性がある……?」
そうして思い出すのは、フェイと再会したあの日の会話の1つで……。
『もしかして、差出人不明の花束を送ってくださったのは……ネリネ様ですか? あの花たちすごく綺麗で、今は俺の部屋に飾ってあるんです!』
わざわざ学園合格の花束を贈った人物がいる。
そして……今回、女物の香水がフェイの身体に纏わりついていた件。
同一人物か……もしくは、他に2人いるのか?
「……どちらでも不快ね。でも、いいわ。挑発にはちゃんと答えてあげないと。私とフェイ様はもう結ばれていると……見せつけないと」
◆◆
夕食時になる。
俺とネリネ様は一緒に食事を取っていた。
「ん! 美味い……!」
料理を口にしてすぐに声が漏れる。
肉汁溢れるハンバーグの味は絶品。
付け合わせのサラダやパンも丁寧に作られており、美味しい。
ちなみに、食事を運んできたのはネリネ様の使用人だ。
俺のことを見ても、さほど驚いてなかったことから……存在は知らされているのだろう。
「ネリネ様、本当にありがとうございます。部屋だけじゃなく、食事まで用意してもらって」
「フェイ様に喜んでいただけたなら何よりです。遠慮なさらないでください」
ネリネ様はふわり、と上品に笑う。
さっきよりも……機嫌が良いように見える。
やっぱり、シャワーに入って俺の匂いが気にならなくなったんだな。
「そういえば、フェイ様のクラスでも選択授業の説明はありましたか?」
「ありましたね。みんな、魔法学を選びそうですけど」
絶対女の子目当てでな。
「フェイ様は何を選ばれるのですか?」
「俺も魔法学ですね」
「そうですか」
やっぱり、そうだよなぁー。
まあ、ネリネ様の場合は真面目な理由でだよな。
「これからの私は守られるのではなく、
ネリネ様は凛とした表情で言う。
男女比3:1の世界では、数少ない女性はそれはそれは丁寧に大切に扱われる。
けれど、それに甘えるつもりはない。
自分の力で、自分の意思で、誰かを守れるようになりたい。
そんな1人の女性として生きる強い意志を感じた。
さすがネリネ様だ。
俺も見習わなければいけない精神だな!
「フェイ様」
「うん?」
「授業では、私とペアを組みましょうね」
一拍、置いて。
「……絶対に、ね?」
その笑みは品があって、綺麗で、見惚れるものがあって。
そして……とても逆らえそうにない圧を感じたのであった。
お待たせいたしました。
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