間桐慎二のGrand Order 作:見てみたかった小説
間桐慎二は、煮え繰り返るような屈辱の中にいた。
「ふざけるな……ふざけるなよ、あの糞じじいッ!」
冬木市の私立穂群原学園高等部、弓道場。放課後の静寂を切り裂くように、慎二の怒声が響く。
祖父・間桐臓硯が選んだのは、自分ではなく妹の桜だった。あんな、おどおどして、自分がいなければ何もできないはずの女に、サーヴァントという「力」を与えた。
さらに、桜に宛がわれたあの紫の女……ライダーもそうだ。慎二が真名を尋ねても明かそうとしない。自分を侮っているのだ。どいつもこいつも、魔術師としての才能がないからと僕を、間桐慎二を馬鹿にしている。
「僕だってできる……。知識ならある。魔術回路がなんだ。令呪がなんだ。間桐の正統な後継者は、この僕なんだッ!」
慎二は震える手で、臓硯の書斎から持ち出した「魔力の込められた灰」を床に撒く。
教科書通りに描いたつもりの魔法陣。不格好ではあるが、そこに込められた執念だけは本物だった。彼は信じていた。自分には聖杯を手にする資格があり、歴史に名を残す英雄を従える器があるのだと。
「……宣告するッ! 汝の身は僕の下に、僕の命運は汝の剣にッ!」
歪な呪文が唱えられる。
その瞬間、魔法陣が淡く発光し、室内を暴力的な魔力の風が吹き抜けた。
(そうだ、これだ! 見ろ、僕の才能を!)
慎二は歓喜に顔を歪ませる。
だが、風はやみ、光が収まった後に残ったのは――静寂だけだった。
そこには騎士も、巨人も、魔術師もいなかった。
「…………は?」
何も起きていない。
期待が大きかった分、反動としての怒りが爆発する。
「ああ、もう! ゴミだ! こんなもの、全部ゴミだッ!」
慎二は足元の灰をめちゃくちゃに踏みつけ、近くにあった予備の矢を床に叩きつけた。
「結局、あいつの言う通りなのか? 僕には……僕には何もないっていうのか!」
その時だった。
消えかけていた魔法陣が、先ほどとは比べ物にならないほどの輝きを放った。
「な、なんだ、今度は!?」
あまりの光量に、慎二は腕で顔を覆う。
時空が軋むような音が響き、空間に穴が開いたかのような錯覚。
そして、光の奔流の中から、一人の人物が転び出るようにして現れた。
「――っつ、わわわっ!? ちょっと、レイシフト中じゃないのに、何これ!?」
現れたのは、少女だった。
鮮やかな赤に近いオレンジ色の髪をサイドで結び、白と黒を基調とした、見たこともない奇妙なタイトな制服を着ている。どこか、慎二の知る同級生――衛宮士郎に似た、お人好しそうで、それでいて芯の強そうな瞳を持っていた。
慎二は呆然と立ち尽くし、目の前の少女を上から下まで眺めた。
「……は? お前、なんだよ。サーヴァント……じゃないよな? 鎧も武器も持ってないし、そもそも魔力が全然足りないじゃないか」
少女は尻もちをついたまま、周囲を見渡して混乱していた。
「え? ここ、どこ? カルデアじゃない……弓道場? 通信は……あ、繋がらない。フォウくんもいない!?」
「おい、無視するな! 僕が呼び出したんだ、質問に答えろよ!」
慎二の苛立った声に、少女はようやく彼の方を向いた。
彼女は慎二の顔、そして足元の踏みにじられた魔法陣を見て、状況を把握しようと瞬きを繰り返す。
やがて、彼女は立ち上がり、服の埃を払いながら、困ったような、でもどこか達観したような苦笑いを浮かべた。
「えっと……あなたが呼んでくれたの? なんだかすごく、不本意そうな顔してるけど」
「当たり前だ! 僕は英雄を呼んだんだ。世界を救うような、最強のサーヴァントをね。お前みたいな、その辺にいる女学生になんか用はないんだよ!」
少女はその言葉を聞いて、少しだけ寂しそうに、けれど誇らしげに胸に手を当てた。
「最強のサーヴァントじゃなくてごめんね。でも、世界を救うことに関しては……まあ、一応経験はあるかな」
「はあ? 何を言って――」
「私は藤丸立香」
彼女はまっすぐ慎二の目を見て、その名を名乗った。
「見ての通り、ただの人間。……それから、数えきれないほどの英雄たちの背中を見てきた、最後のマスターだよ」
間桐慎二と藤丸立香。
魔術師に憧れ、魔術師になれなかった少年と、魔術師ではなかったのに、魔術師以上の重責を背負わされた少女。
歪な召喚から始まった二人の聖杯戦争が、今、幕を開けようとしていた。