間桐慎二のGrand Order 作:見てみたかった小説
衛宮邸の広い広間。畳の香りが微かに漂う和室に、本来なら殺し合わなければならない四人と一人が集まった。
「……悪いな、今お茶淹れるから。適当に座っててくれ」
士郎が台所へ向かおうとすると、立香は「あ、私も手伝うよ」と、当然のようにその後を追いかけた。
「いいよ、藤丸。座ってろよ。一応、客なんだし」
士郎は立香に対して、朝のやり取りを経てすっかり打ち解けたのか、同年代の友人に接するような自然なタメ口で応じた。
「ううん、こういうの慣れてるから。……ほら、お盆持って。お茶菓子はこれでいい? 冷蔵庫に何かあるかな」
「ああ、それ。あと戸棚に煎餅があったはずだ。……助かるよ、藤丸」
まるで以前から一緒に住んでいたかのように、二人はテキパキとお茶の準備を進める。そのあまりに自然な光景に、居間に残された慎二と凛は、言葉にできない居心地の悪さを感じていた。
やがて、立香がお盆を持って戻ってきた。彼女は慣れた手つきで、凛、セイバー、そして士郎の前に茶を置いていく。最後に慎二の前にお茶を置くと、彼女はそのまま慎二のすぐ隣、肩が触れそうなほどの距離に腰を下ろした。
「はい、お待たせしました、マスター」
「……ッ、おい! 近いよ、離れろって!」
慎二はびくりとして身体を硬くした。普段は「慎二くん」と呼んでいる彼女が、この場では自分を立てるように「マスター」と呼んだ。その響きに、慎二は言いようのない優越感を覚える。
「えー、だってマスターの隣が一番落ち着くんだもん」
立香は暢気に微笑んでいる。慎二は咳払いを一つして、無理やり威厳を取り繕った。
「ふん。……まあ、僕の傍を離れないというのはサーヴァントとして正しい姿勢だな。褒めてやろう」
慎二はお茶を啜り、ようやく気分を良くした。だが、そんな穏やかな空気を凛の声が切り裂く。
「……ねえ、間桐くん。そろそろ本題に入りましょうか」
凛は一口もお茶を啜ることなく、立香を真っ直ぐに見据えた。
「まず、間桐くん。あんた、なんでそんな……魔術師ですらない女の子を連れてるの? 朝も言ったけど、その服がかなり高度な『礼装』だってことはわかってるわ。でも、それを着ている本人の魔力は、お世辞にも戦えるレベルじゃない。……まさか、その礼装だけでサーヴァントを相手にするつもり?」
凛の冷徹な問い。慎二は鼻で笑い、手袋越しに右手の令呪を愛でるように触りながら、不敵な笑みを浮かべた。
「……ふん。遠坂、お前には理解できないだろうな。魔術回路の数だの、歴史の長さだの、そんなちっぽけな物差しでしか価値を測れないお前には。こいつの実力をこれからお前らに嫌というほど見せてやるよ!」
慎二は勢いよく言い放った。……言い放った瞬間、彼の脳裏を冷たい汗が伝った。
(……待てよ。そういえばこいつ、具体的に何ができるんだ?)
家事と節約と配膳以外に、こいつが何ができるのか、一言も聞いていなかった事実に今更ながら気づいたのだ。剣が使えるのか? 魔術が使えるのか?
そんな慎二の沈黙を、凛が鼻で笑おうとしたその時、立香が静かに口を開いた。
「魔術師じゃないっていうのは、その通りかな。私自身の魔力は、士郎や遠坂さんに比べたら全然大したことないし。流石に、この礼装だけでサーヴァントを正面から相手にするのは、私には無理だよ。……あはは、まともにやり合ったら、一瞬で負けちゃうと思う」
「な……ッ!?」
慎二は飲んでいた茶を吹き出しそうになった。自分のサーヴァントが、敵の目の前で弱音を吐いた。これ以上の屈辱があるだろうか。
「お、おい藤丸! お前、何を言って――」
「でもね、マスター」
立香は慎二の慌てぶりを宥めるように、穏やかな声で続けた。
「私にできるのは、マスターを支えること。この礼装の機能と、私が今まで見てきた『戦い方』を合わせれば……せめて、マスターが望む場所で一緒に戦えるくらいには、頑張れると思うんだ。……そうじゃなきゃ、わざわざ同盟なんて持ちかけないよ」
「勝利に導く」といった傲慢な言葉ではない。けれど、その「戦える」という静かな一言には、数多の修羅場を潜り抜けてきた者だけが持つ、重い真実味が宿っていた。
その「圧」のない、けれど確固たる眼差しに、セイバーが微かに息を呑んだ。戦力外であることを認めながらも、戦場に立つことへの躊躇いが一切ない。その矛盾した強さが、セイバーには不気味ですらあった。
「まあ、藤丸がそう言うなら何か考えがあるんだろ。慎二もそんなに慌てるなよ。せっかくのお茶、冷めるぞ」
士郎がいつもの調子で、立香を全面的に信頼しているような言葉を投げた。
「……ッ、う、うるさい! 言われるまでもない! 聞いたか遠坂。こいつは謙虚なんだよ。不可能なことを可能にする……それが僕の選んだサーヴァントだ!」
慎二は士郎に毒気を抜かれつつも、立香の不思議な自信に縋るように、知ったかぶりで胸を張った。内心では(『戦える』ってなんだ! 早く詳細を教えろよ!)と叫んでいたが、顔には絶対に出さない。
夕闇が深まる衛宮邸。
自分のサーヴァントの能力を今初めて小出しに聞いたマスターと、微笑みを絶やさない謎の少女。
そんな奇妙な面々による「相談」が、本格的に始まった。