間桐慎二のGrand Order 作:見てみたかった小説
「……まあ、いいわ。能力の話は一旦置いておきましょう。どうせここで全部喋るようなおめでたい奴らじゃないでしょうしね」
凛は冷めた紅茶のカップを置き、組んでいた脚を組み替えた。その鋭い視線が、慎二を通り越して立香を射抜く。
「で、結局のところ。あんたたちの目的は『同盟を組みたい』ってことでいいのね? 違ったかしら」
単刀直入な切り出し。慎二が不敵な笑みを作って答えようとしたその瞬間、隣の立香がパッと顔を輝かせた。
「おっ、やっぱり遠坂さんは話が早いね! 流石、頼りになるなあ。そう、正解! 私たち、今の状況を乗り切るために、二人の力を借りたいんだ」
「……は?」
あまりにも屈託のない、それでいて直球な称賛。
凛は、毒気を抜かれたように目を丸くした。魔術師同士の駆け引き、探り合い、腹の探り合い。そんな「聖杯戦争の常識」を、立香は天然なコミュニケーションで、いとも容易く踏み荒らしていく。
「あ、あんたね……。これは遊びじゃないのよ? 褒めたって何も出ないわよ」
「えー、でも本当のことだし。頭が良くて決断が早い人と話すのは助かるよ。ね、マスター?」
「あ、ああ……。まあ、遠坂が理解の早い奴で助かったよ。わざわざ説明する手間が省けた」
慎二は鼻を高くして頷くが、凛の方は完全に調子を狂わされて溜息をついた。朝からずっと張り巡らせていた警戒心や、魔術師としてのピリついたプライドが、この立香という少女の前ではなんだか馬鹿らしくなってくる。
「……ああもう、調子狂うわね。わかったわよ。士郎、それにセイバー。あんたたちの意見はどうなのよ。これは私一人の問題じゃないわ」
凛に振られ、士郎は腕を組んでうーんと唸った後、隣の立香を一度見て、それから慎二を見た。
「俺は……賛成だ。慎二とは腐れ縁だし、藤丸とも……なんかな、信用できる気がする。これ以上、この街で犠牲者を出したくないからな。セイバーは、どう思う?」
士郎の問いに、それまで彫像のように静まり返っていたセイバーが、ゆっくりと口を開いた。その瞳は、依然として慎二の隣に座る立香に固定されている。
「……シロウ。私はあなたの剣です。あなたが下す判断に異を唱えるつもりはありません。……ですが、この『藤丸立香』という存在。この者は嘘をついていません。そして……戦いというものを、我々以上に『知って』いる。それが剣の腕ではないとしても、です」
「……セイバーがそこまで言うなんてね」
凛は意外そうに眉を上げた。あの高潔な騎士王が、これほどまでに正体不明の少女の「経験」を評価するとは。
「決まりね。ひとまず、暫定的な協力関係ってことでいいわ。ただし、裏切りがあればその場で解消。いいわね、間桐くん?」
「ふん。裏切るのはお前らの方じゃないのか? 僕は寛大だから、衛宮の不手際くらいなら目をつぶってやるよ」
慎二が勝ち誇ったように笑ったところで、立香がふと思い出したように首を傾げた。
「あ、そういえば。遠坂さんのサーヴァントは? 姿が見えないなと思って」
「……ああ、あいつならこの家の屋根の上よ」
凛は面倒そうに天井を指差した。
「アーチャーだからね。周囲を警戒させてるわ。あんたたちみたいな『招かれざる客』が他にも来ないとも限らないでしょ?」
「屋根の上かあ。……ねえ、ちょっと挨拶してきてもいいかな?」
「はあ!?」
凛だけでなく、慎二も驚いて声を上げた。
「おい、藤丸! 何を言い出すんだよ。敵のサーヴァントに一人で会いに行くなんて――」
「だって、これから一緒に戦うかもしれない仲間でしょ? 顔も見ないで同盟っていうのも、なんだか寂しいじゃない」
立香は至極真っ当なことを言うように微笑んだ。
「ちょっとだけ、挨拶してくるだけだから。いいよね、遠坂さん? ……あ、アーチャーさん、聞こえてるかなー! 今から行くから、撃たないでねー!」
立香は縁側の障子を開けると、止める間もなく庭へと飛び出していった。
「ちょっと、待ち……ッ、ああもう! 勝手にしなさいよ!」
凛は頭を抱えた。一方で、慎二は自分のサーヴァントが敵の陣地で勝手に動き回るのをハラハラしながら見守るしかなかった。
(……あいつ、本当に僕のサーヴァントなのか!? なんで僕より衛宮の家に馴染んでるんだよ!)
夕闇の中、屋根の上で霊体化していた赤い外套の騎士は、自分を「さん」付けで呼びながら手を振って見当違いの方に挨拶している少女に、珍しく動揺した。