間桐慎二のGrand Order 作:見てみたかった小説
衛宮邸での夕食と作戦会議を終え、夜の冷気が立ち込める帰り道。
街灯の下、慎二はどこか落ち着かない様子で、それでも自分を鼓舞するように胸を張って歩いていた。
「ふん、見たか藤丸。遠坂のあの顔。結局、お前が正体不明なのが不気味で仕方ないのさ。このまま同盟を利用して、僕たちが優位に立てば……」
隣を歩く立香は、しばらく黙って慎二の様子を見ていたが、周囲にまだ家路を急ぐ人影があるのを確認すると、少し歩幅を早めて慎二の耳元に寄せた。
「……慎二くん。ちょっと、大事な話があるんだ。小声で聞いて」
いつになく真剣な響きに、慎二は足を緩めた。
「何だよ。……改まって。屋敷に帰ってから、ゆっくり聞こうと思ってたのに」
「ううん、今聞いて。……私の力の正体と、今の私たちの本当の状況について」
立香は周囲を警戒しながら、さらに声を潜めた。
「私の本当の力はね……かつていた『カルデア』っていう場所で、私が縁を紡いだ英雄たちを呼び出すことなんだ。私が一緒に戦い、絆を結んだ英霊なら、私は私の意思で呼び出すことができる」
それを聞いた瞬間、慎二の顔がパッと輝いた。
「……何だって!? それ、本当かよ。つまり、お前一人いれば、状況に合わせて何人もの英霊を使い分けられるってことか? ハハッ、最高じゃないか! それならセイバーだろうがバーサーカーだろうが、相性のいい奴をぶつければ一捻りだ。やっぱり僕のサーヴァントは最強じゃないか!」
立香は慎二の瞳を真っ直ぐに見つめ、残酷な現実を告げた。
慎二は狂喜し、勝利を確信したように笑った。だが、立香はそんな彼の期待を、静かに、けれど残酷に遮った。
「……でもね、慎二くん。それには、とんでもなく大きな代償があるんだ。凄く魔力を消費しちゃってとてもじゃないけど召喚もままならないんだ」
慎二は喉を詰まらせたように足を止めた。
「……召喚できない? どういうことだ。魔力なら、間桐のバックアップが――」
「慎二くん、よく思い出して。臓硯さんはバックアップするなんて、一言も言ってなかったでしょ?」
慎二の笑いが、ぴたりと止まった。
「今、私に魔力を流してくれてるのは……間桐の家じゃない。慎二くん自身の魔力だけなんだよ。カルデアからの通信も魔力供給も、今は一切届いてないから」
慎二の顔から、みるみる血の気が引いていく。
「……な、何だって? 嘘だろ。おじい様は、何も……何もしてくれないっていうのか? 僕の、魔力だけで、お前を……?」
「そう。だから、私の力は『今のままじゃ』まともに使えない。令呪を使うしかないの。しかも維持できる時間は、通常時で5分が限界だと考えて。……でも、もし激しい戦闘になったら魔力が一瞬で枯渇して、下手すれば1分を切る可能性もあるんだ」
「1分……!? ふざけるな、そんなの、召喚して一発殴らせたら終わりじゃないか!」
慎二は自分の右手を震えながら見つめた。魔術師としての才能が乏しく、疎外されている自分。
その自分でも心許ないほどの手応えしかない魔力だけで、この地獄を戦わされている。
バックアップなど最初から存在しなかった。その事実に、慎二は目眩を覚えた。
「……ああ、そうか。だから衛宮の家で言わなかったのか」
慎二は青ざめた顔で、搾り出すように言った。
「あそこで正直に話してりゃ、同盟の話なんてその場で白紙だ。それどころか……もし遠坂にそれがバレてみろ。バックアップもなしに、僕の魔力だけで数分しか戦えないなんて知られたら、あいつらは正面から戦う必要なんてなくなる。ヒット・アンド・アウェイで時間を稼がれるだけで、僕たちはあっさり負ける……!」
慎二は青ざめた顔で、自分の右手を震えながら見つめた。魔力も乏しく、一族からも期待されていない自分。その、心許ない魔力だけで、たった1分の奇跡を待つだけの戦いを強いられている。自分たちは、この聖杯戦争において間違いなく「最弱」なのだ。
「……ハハッ、笑えるな。最弱もいいところだ。バックアップもなしに、数分の、いや1分の奇跡を待つだけなんて」
自虐的な笑いを漏らす慎二。だが、立香はその震える彼の手を、力強く、けれど優しく包み込むように取った。
「そう、私たちは最弱だよ、慎二くん。……だからこそ、『藤丸は警戒に値しない』と思ってくれてる今だけが、私たちのチャンスなんだ。私の令呪三画、慎二くんの令呪三画。それに三本のアンプル。これが私たちの全財産。これをいつ、誰を呼ぶために使うか。私一人じゃ、正確にその『1分』をどこで使うべきか判断できない」
立香は街灯の光の下で慎二と向き合い、自分の右手を差し出した。
「慎二くんの力が無いと、私はまともに戦うことすら叶わない。……だから、助けてほしい。マスター」
慎二は差し出されたその手、そして自分を真っ直ぐに見つめる少女の瞳を見た。
自分を「サーヴァント」だと偽り、命懸けのハッタリをかましながら、この少女は自分を頼っている。
家系に見捨てられ、誰からも期待されていない自分を、唯一の希望として。
「……ふん。馬鹿だな、お前は。……僕を頼るなんて、本当に救いようのないお人好しだ」
慎二は毒づきながらも、握り返す手に力を込めた。お互い手はまだ震えていたが、そこには確かに「生き残ってやる」という執念が混じっていた。
「いいだろう、5分……いや、たったの1分だ。その刹那の奇跡をどこで、どの英霊で叩きつけるか……僕とお前で完璧にこなしてやる。あのじじいや遠坂に見下されて終わるつもりはないからな、藤丸」
「うん。……頼りにしてるよ、マスター」
夜の闇の中、握り合わされた二人の手。
最弱であることを分かち合い、本当の意味での「共犯者」となった二人の、逆転の夜が静かに始まった。