間桐慎二のGrand Order   作:見てみたかった小説

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慎二と立香の生存戦略

間桐邸の重苦しい静寂を抜け、慎二は自室のドアを開けると、迷わず壁のスイッチを叩いた。

 

パチリ、という硬質な音と共に、天井の蛍光灯が白い光を放ち、殺風景な部屋を照らし出す。これまでは一人、闇の中で虚栄心と劣等感に苛まれるための場所だったこの部屋に、今は立香という「他者」がいる。彼女を闇の中に置いておくわけにはいかないという、無意識の配慮が慎二に指を動かさせた。

 

「……ふん。座れよ、藤丸。これから本気で作戦を練るんだ。一晩中かかるかもしれないからな」

 

慎二は椅子を引き、自分もデスクに向かった。ノートを広げる彼の横顔は、これまでになく充実感に満ちていた。

腹の底からじわじわと湧き上がってくる、熱い高揚感。

これまでの人生で一度も味わったことのない、圧倒的な「必要とされている」という実感。

 

(……僕の魔力だけが、こいつを支えているんだ)

 

魔術師としての才能がないと突きつけられ、間桐の家からも、祖父からも、「無価値」だと切り捨てられてきた日々。

 

それがどうだ。

 

今、目の前のサーヴァント(立香)は、自分自身の魔力だけが彼女をこの世に繋ぎ止める唯一の錨なのだと言った。

たとえそれが、一流の魔術師に比べればか細いものであっても。

彼女をこの地獄に留め、戦わせているのは、他でもない「間桐慎二」という存在なのだ。

 

臓硯はバックアップなど一言も言っていなかった。それはつまり、この少女の命も、これからの奇跡も、すべては自分の肩にかかっているということだ。

 

その事実が、彼の乾ききった自尊心をこれ以上ないほどに潤していた。

 

「いいか藤丸。まずはお前の力の正体……さっき言った『カルデア』とかいう場所の英雄たちのリストを出せ。どんな状況で、誰を呼ぶのがベストか。それを決めるのは僕だ」

 

慎二はノートにガリガリとペンを走らせる。

 

「……うん。改めて言うね。私の本当の力はかつて縁を紡いだ英雄たちを呼び出すこと。でも、私と慎二くんが維持できるのは通常で多分5分。激しい戦闘なら、下手すれば1分を切る。それが限界」

 

「分かってる。だからこそ、その『1分』で戦局をひっくり返す。僕たちが生き残るには、それしかないんだ。……さあ、まずは守りだ。さっき言っていた『盾を持つ子』……マシュ、だっけか。あいつを防御の主軸に据えるプランはどうだ?」

 

慎二は鼻を高くし、得意げに問いかけた。だが、立香は少しだけ申し訳なさそうに、けれど慎重に言葉を選んで口を開いた。

 

「……ごめん、慎二くん。その『盾の子』、マシュなんだけど……もしかしたら、召喚できないかもしれないんだ」

 

慎二のペンが、ぴたりと止まった。

 

「……はあ? 何を言ってるんだ。お前と縁を紡いだ英雄なら呼べるんだろ?」

 

「……あの子はね、たぶん今、どこかで生きてるんだよ。英霊っていうのは普通、過去に生きた人たちが登録されるものなんだけど……マシュは私と一緒に『今』を戦っているパートナーなんだ。私、今までマシュをシャドウサーヴァントで召喚したことは一度も試したことがなくて。ここではシステムも違うし、確実とは言えないんだ」

 

「……ちっ、使えないな。盾がいなけりゃ、僕たちの生存戦略は……」

 

「でも、レオニダス王なら呼べるよ。スパルタの王様」

 

立香が力強く頷く。

 

「あの子に負けないくらい、絶対に、何があっても守り抜いてくれる。レオニダス王なら、私の呼びかけに応えてくれるはずだよ」

 

「……レオニダス? あの『テルモピュライ』の王か。ふん、悪くない。小娘の盾よりも、よっぽど僕のサーヴァントに相応しいじゃないか」

 

慎二はニヤリと口角を上げ、ノートに力強く『レオニダス一世』と書き込んだ。伝説の王を自分の采配で動かす。その響きが、彼のプライドを激しく刺激した。

 

「いいだろう。防御はこのレオニダスに任せる。問題は、そいつを出す『1分』のタイミングだ。……いいか藤丸。お前が消えそうになったら、僕が魔力を回してやる。だから、僕が命じるその瞬間まで、出し惜しみはするなよ」

 

慎二は「消えそうになったら助けてやる」という、いかにもマスターらしい慈悲深い台詞を、酔いしれるように口にした。 

 

だが、それを聞いた立香は、困ったような、けれど穏やかな苦笑いを浮かべて言った。

 

「慎二くん。……最初に会った時にも言ったけど、私、人間だから消えないよ?」

 

「…………あ、ああ。……そ、そうだったな」

 

慎二のペンが、再び止まった。バツが悪そうな顔をして、彼は明るくなった部屋の隅に視線を泳がせた。

 

「……お前、サーヴァントのフリをしてるだけの人間なんだっけか。あまりにも落ち着いてるから、つい忘れてたよ。……ふん、分かってるよ。お前が消えないってことは、魔力が尽きた瞬間、僕はお前を抱えてでも逃げなきゃいけないってことだろう。手間のかかるサーヴァントだ」

 

慎二は毒づいたが、その表情は以前ほど暗くはなかった。

むしろ、消えてなくなる霊体ではなく、実体を持った、生身の人間。それが、自分の拙い魔力と令呪だけを頼りに、この地獄に立っている。もし自分の判断を誤り、魔力が底をつけば、彼女は消えることさえ許されず、ただ無防備な少女として「死」を迎える。

 

その事実が、慎二の中に、これまで感じたことのない種類の「責任感」と「充実」を芽生えさせていた。

 

「……ハッ。最高に笑えない冗談だ。だが、お前が消えないっていうなら、動ける状況を僕が作ってやる。お前の魔力が切れる前に、僕が安全な場所まで連れて行ってやる。……いいな、藤丸。お前はただ、僕の言った通りにその『1分』を使え。余計なことは考えるな」

 

「……うん。頼りにしてるよ、マスター」

 

立香は、蛍光灯の光に照らされた慎二の横顔を見つめた。

不器用で、傲慢で、けれど必死に自分を「繋ぎ止めている」少年の熱。

 

慎二の魔力は、相変わらず弱々しい。

けれど、その魔力が、今は確かに彼女をこの世界に繋ぎ止め、立香自身の心をも温めていた。

 

「よし……次は攻撃だ。1分で相手の心臓を貫ける、最高にエグい奴の名前を挙げろ。僕とお前で、遠坂も衛宮も、あのじじいさえも出し抜いてやるんだ」

 

「うん。……例えばね、こんな英雄がいるよ――」

 

明るい部屋の中で、ノートを囲む二人。

最弱であることを分かち合い、互いの「生」を預け合った共犯者たちの、逆転への作戦会議は、夜が明けるまで熱を帯びて続いた。

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