間桐慎二のGrand Order   作:見てみたかった小説

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マスターとしての自覚

窓の外が白み始め、時計の針が朝の6時を回った頃。

部屋の蛍光灯の下、慎二のデスクの上にあるノートは、もはや単なるメモ帳ではなく、人類史の結晶とも言える「禁忌の書」へと変貌を遂げていた。

 

立香が知る限りの英霊、神霊、その見た目から性格、宝具の性能、そして彼女だからこそ知り得る「弱点」に至るまで。慎二は一睡もせず、それらすべてを書き記し、自身の明晰な頭脳へと叩き込んでいった。

 

「……ふぅ。これで、お前の知る『全戦力』は把握した」

 

慎二は充血した目をこすりながらも、その表情はかつてないほど鋭く、そして喜悦に満ちていた。

自分の指先が、この膨大な伝説のすべてを支配している。その充実感が、徹夜の疲労を忘れさせていた。

 

しかし、慎二の視線はあるページで止まった。

 

そこに書かれているのは、神霊や超一流の英霊たちの名だ。彼は真剣な眼差しで立香を見据えた。

 

「おい、藤丸。一つ確認だ。……お前はさっき、召喚して戦闘がないなら5分程度と言ったな。だが、それはどのサーヴァントを呼んでも同じなのか?」

 

慎二はノートの特定の名前を指差した。

 

「例えば、この『アキレウス』や『ヘラクレス』。……あるいは、この『伊吹童子』なんて化け物だ。こいつらは、さっきまでのハサンたちとは格が違いすぎる。サーヴァントが強力になればなるほど、維持するための燃費……つまり消費魔力も跳ね上がるんじゃないのか? そうなれば、維持できる時間はもっと短くなるはずだ」

 

慎二の指摘に、立香はハッとしたように目を丸くした。

 

「あ……そう言えば、そうだね。カルデアにいた時はバックアップが凄かったからあまり意識してなかったけど……今の慎二くんの魔力だけで呼ぶなら、強力な子ほど、現界した瞬間に全部持ってかれちゃうかも」

 

「やっぱりそうか」

 

慎二は顎に手をやり、深く考察に沈んだ。

 

「……だとすれば、強力すぎるサーヴァントは『無し』だな。呼び出した瞬間に魔力切れでお前がぶっ倒れる可能性がある。そうなれば、その瞬間に僕たちは無防備なマトだ」

 

慎二は冷徹に、そして慎重に判断を下した。

彼はペンを手に取ると、ノートの「強力な英霊・神霊」のカテゴリーに、迷いなく大きな『×』を書き込んでいった。

 

「アキレウス、ヘラクレス、神霊クラス……こいつらは除外だ。宝具一発撃って終わりならまだしも、召喚した瞬間にガス欠になるリスクは冒せない。……いいか藤丸、僕たちは『最強』を呼びたいんじゃない。僕たちの魔力で『確実に1分間戦える』駒が必要なんだ」

 

「……慎二くん。すごいね、そこまで考えてくれるなんて」

 

「当たり前だ。お前を無駄死にさせないのが、軍師である僕の仕事だからな」

 

慎二は×印をつけたリストの横に、『禁じ手:使用厳禁』と注釈を書き足した。

最強の駒を捨てるという決断。それは、かつての「力」にのみ固執していた慎二には到底できなかったことだ。今の彼は、自分自身の限界を理解し、その中でどう勝つかという「本物のマスター」の思考に辿り着いていた。

 

「よし。主力はやはり、燃費が良くて小回りの利くハサンや、防衛に特化したレオニダス級だな。……これなら、僕の魔力でも確実に300秒……いや、戦闘になっても60秒は持たせられる」

 

慎二は充実感に満ちた顔でノートをパタンと閉じた。

自分の魔力が基準となり、歴史上の英雄たちが選別されていく。この「選ぶ」という行為そのものが、慎二に自分こそがこの戦いの中心にいるという強い実感を与えていた。

 

「藤丸、お疲れ様。……少し休んでおけ。あとのシミュレーションは僕が頭の中でやっておく」

 

「慎二くんも休まなきゃダメだよ?」

 

 

「ふん、僕は大丈夫さ。……今、最高に気分がいいんだ。自分の力が、これほど明確に戦いに直結してるんだからな」

 

朝焼けの光が部屋に差し込み、蛍光灯の光を薄めていく。

 

最弱の自覚と、それを補うための緻密な知略。

 

慎二は、自分自身が立香という「最強の剣」を研ぎ澄ます「最高の鞘」であることに、これまでにない誇りを感じていた

 

 

立香は慎二を労わるような笑みを浮かべて部屋を出て行った。

 

パタン、とドアが閉まり、部屋に静寂が戻る。

朝の光が机の上を白く照らし、一晩かけて作り上げた「禁忌のリスト」を鮮明に浮かび上がらせていた。

 

「……さて」

 

慎二は再びノートを開いた。

疲れはピークに達していたはずだが、不思議と眠気は感じなかった。

むしろ、このノートを開いている間だけは、自分がこの世界の中心に立ち、歴史上の英雄たちの生殺与奪を握っているような感覚に浸れた。

 

「レオニダス一世。テルモピュライの防衛。召喚から1分間は、たとえゴルゴーンが相手でも確実に足を止めさせれる……」

 

慎二は呟きながら、書き込まれた特徴を一つ一つ頭に叩き込んでいく。

どの英霊を呼び出し、どのタイミングで令呪を切り、どの瞬間に藤丸を回収して撤退するか。

 

幾通りものシミュレーションが彼の脳内を駆け巡る。

 

(……僕が、やるんだ)

 

かつて、間桐の家で自分は「予備」ですらなかった。魔術回路を持たない出来損ないとして、祖父からは透明な存在のように扱われてきた。

だが今、このノート一冊に記された情報は、遠坂凛の魔術知識も、衛宮士郎の持つセイバーの武勇も凌駕し得る「猛毒」だ。

 

藤丸立香という、あまりにも危うく、けれど膨大な神秘を抱えた少女。

彼女をこの世界に繋ぎ止めているのは、他でもない自分自身の、あのか細い魔力なのだ。

 

「ハハッ……」

 

慎二は、自分の指先がノートの余白に記された『伊吹童子』や『アキレウス』といった名前の横の『×』印をなぞる。

最強を切り捨て、最善を拾う。

この冷徹な判断こそが、自分を「ただの子供」から「真のマスター」へと変えていくのだと、彼は確信していた。

 

「……牛若丸……呂布……ガウェイン。全部だ。全部、僕の采配で動かしてやる」

 

窓から差し込む朝日は次第に強まり、慎二の顔を明るく照らし出していく。

 

充実していた。

 

自分の力が、自分の存在が、かつてないほど明確な「意味」を持ってそこに在る。

 

慎二は充血した目を細めながらも、憑りつかれたような真剣な表情で、再び一ページ目からノートを読み返し始めた。

 

彼にとって、この地獄のような聖杯戦争は、人生で初めて手に入れた「自分自身の戦場」だった。

 

慎二は1階に降りて電話を手に取ると、手早くダイヤルした。相手は衛宮士郎だ。

 

「……あ、士郎か? 僕だ。ああ、悪いけど今日は学校を休む。……あ? 体調が悪いわけじゃないよ。昨日の今日だろ、作戦の詰めが必要なんだ。遠坂にもそう伝えておけ。いいか、僕がいない間に勝手に動いて死ぬんじゃないぞ。じゃあな」

 

一方的に告げて通話を切ると、続けて学校の事務局にも連絡を入れ、体調不良という名目で欠席の届けを出した。一通りの事務連絡を終えた慎二は、大きく伸びをした。

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