間桐慎二のGrand Order   作:見てみたかった小説

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穂村原学園トリオ

私立穂群原学園へと続く長い坂道。朝の空気は澄んでいるが、まだ登校時間には少し早く、周囲に生徒の姿はまばらだった。

 

慎二は、隣を歩く藤丸立香との距離を不自然なほど開けながら、苛立ちを隠せずにいた。

右手の黒い手袋。

それは昨日ようやく手に入れた「本物のマスター」である証だが、隣を歩く少女の存在が、その自尊心に拭いきれない不安を混じらせる。

 

(……一体、何なんだよこいつは)

 

慎二は横目で立香を盗み見た。白と黒を基調とした、見たこともない奇妙な制服のような服。

手ぶらでのんびり歩く姿は、どう見てもただの一般人だ。

霊体化が出来ず魔力供給も不要。

明らかに外れで最高のサーヴァントだなんて到底思えないが、時折見せる鋭い眼差しが、彼女を単なる「無能」と切り捨てることを躊躇させていた。

 

「おい。お前、うちの制服じゃないだろ。目立つから学校の中には入ってくるなよ。近くの公園かどこかで適当に時間を潰してろ。いいな?」

「はーい。わかってるって、マスター」

 

立香の気の抜けた返事に眉をひそめつつ、木々の合間を抜ける人気の少ない角を曲がった、その時だった。

 

前方に、見慣れた二人の人影があった。

遠坂凛。そして、なぜかその隣には衛宮士郎が並んで歩いていた。二人は深刻な面持ちで声を潜めて話し込んでおり、その雰囲気は明らかに日常の風景から浮いていた。

 

「……なんだよ、あの二人。なんで衛宮が遠坂と一緒にいるんだ?」

 

慎二は不快そうに声を上げ、二人との距離を詰めた。いつものように士郎を小馬鹿にしてやろうとした瞬間、慎二の足が止まった。

 

「あ、慎二。おはよう」

 

士郎がいつものように手を挙げた。その右手の甲。昨日までは何もなかったはずの場所に、不自然な包帯が巻かれている。

 

「……衛宮。その手はどうしたんだよ」

 

慎二の声が低くなる。嫌な予感が、心臓を冷たく撫でた。士郎は一瞬だけ躊躇い、隣に立つ凛の方をじっと見た。凛が小さく頷くのを確認すると、士郎は意を決してその包帯を解いた。

 

そこには、慎二が昨日ようやく手に入れたものと同じ――いや、それ以上に鮮烈な輝きを放つ、三画の令呪が刻まれていた。

 

「…………嘘だろ」

 

慎二の頭の中が真っ白になった。

自分は間桐の血筋にありながら、あんな屋敷で屈辱に耐え、ようやく手に入れた力なのに。魔術の「ま」の字も知らないはずの士郎が、なぜ、自分と同じ「選ばれた者」の側に立っているのか。しかも、遠坂という「正解」を隣に連れて。

 

「あは、あははは……! 冗談だろ、衛宮! お前みたいな出来損ないがマスター!? 笑わせるなよ!」

 

慎二は狂ったように笑い、自らの手袋を脱ぎ捨てて令呪を突き出した。

「見ろよ! 僕だって選ばれたんだ! そして僕のサーヴァントは――」

 

慎二が隣の立香を指そうとした。だが、それより先に凛が冷たく遮った。

 

「その子はサーヴァントじゃないわ。どこからどう見ても、ただの人間よ。間桐くん、あんた一体何を連れてきたの? 聖杯戦争に一般人を巻き込むなんて、魔術師として最低だわ」

 

専門家に「ただの人間」と断じられ、慎二の顔が屈辱で歪む。

だが、その時。立香が「えっ」と短い声を上げ、その場に凍りついた。

 

(……嘘。あの女の子、イシュタル……? いや、エレシュキガル? それにあっちの男の子は、あの千子村正にそっくり……!)

 

立香の脳裏に、カルデアで共に戦った擬似サーヴァントたちの姿が過る。顔立ちも、纏う空気も、驚くほど似ている。混乱を押し殺し、彼女は一歩前に出た。

 

「いいえ、遠坂さん。私は慎二くんのサーヴァントだよ」

 

立香は真っ直ぐに凛を見据えて言い放った。魔力はない。威圧感もない。けれど、その言葉には、数えきれないほどの「英霊」を導いてきた者だけが持つ、重い真実味が宿っていた。

 

「は? な……あんた、何を言って……」

 

凛が毒気を抜かれたような顔をする。そんな中、立香は慎二の袖をぐいと引き、耳元で切迫した声を出す。

 

「……ねえ、慎二くん。小声で聞いて」

「なんだよ、今それどころじゃ――」

「あの二人、ただものじゃないよ。……信じて。今の私たちじゃ、あのペアに正面から挑んでも勝ち目はない。……ねえ、なんとかして『同盟』組めないかな?」

 

「はあぁ!? お前、何を言って――」

 

慎二は耳を疑った。よりによって、見下していた士郎と、鼻持ちならない遠坂に頭を下げろというのか。

 

「ふざけるな! 誰がそんなこと……!」

「落ち着いて、マスター」

 

立香が「マスター」と呼んだ瞬間、彼女の瞳から温度が消え、戦場を知る者の冷徹さが宿った。

 

「……勝ちたいんでしょ? だったら、今はプライドより『生存』を選んで。あの二人は、きっと味方につければ最強の盾になるから。お願い、マスター。信じて」

 

「…………っ」

 

慎二は言葉を失った。立香の提案は、彼にとって最大の屈辱だ。

しかし、士郎の隣に立つ凛の圧倒的な風格と、立香が注視する士郎の底知れなさを前に、慎二の心は激しく揺れ動く。

 

「……ちっ。……おい、衛宮、遠坂」

 

慎二は顔を真っ赤にしながら、絞り出すような声で言った。

 

「……話がある。あっちへ来い。……『相談』してやってもいいぞ」

 

プライドの高い少年と、現実的な少女。

二人の奇妙な戦略が、士郎と凛という「正道」のマスターを巻き込んだ。

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