間桐慎二のGrand Order 作:見てみたかった小説
「……相談、ですって?」
慎二が精一杯の虚勢を張って口にした言葉に対し、遠坂凛は冷ややかな、それこそ氷点下まで凍りついたような眼差しを向けた。
「おあいにく様。こっちには、あなたに相談しなきゃいけないことなんて何一つないわよ、間桐くん。……というか、わざわざ自分から足を引っ張られに行く趣味はないの」
「なんだと……っ! 足を引っ張るだと、この僕がか!?」
慎二の顔が屈辱で真っ赤に染まる。反論しようとする慎二を、凛はさらに理詰めで追い詰める。
「当然でしょ。あなたの魔術師としての技量は知れているし、そっちの自称サーヴァントさんは、気配こそ奇妙だけど、流れている魔力はハッキリ言って大したことないわ。そんな二人と組んで、こっちに何のメリットがあるっていうの? リスクしかないわ」
「黙れ! 遠坂、お前……僕を馬鹿にするのもいい加減にしろッ!」
怒りを滲ませ、言葉の応酬を激化させる慎二と凛。一触即発の空気の中、二つの影が全く同じタイミングで、それぞれのパートナーの前に割って入った。
「「まあまあ、そこまでにしなよ(そこまでにしろよ)」」
藤丸立香と衛宮士郎。
示し合わせたわけでもないのに、二人は全く同じタイミング、同じような仕草で制止に入ったのだ。
(……なんなのよ、こいつら。妙に似てるわね……)
(……なんなんだよ、衛宮のやつ、藤丸と似たような動きしやがって……)
凛と慎二は毒気を抜かれ、釈然としない思いで自分を止めた相手を見た。
そこで凛の視線が、改めて立香の着ている服に釘付けになった。
白と黒を基調とした、機能的でありながらも見たこともない意匠。先ほどは「変な服」としか思わなかったが、魔術師の目で見れば、そのデザインは驚くほど未来的で、繊維の一つ一つに高密度の術式が組み込まれた凄まじい「礼装」であるのがわかった。
「……ちょっと、あんた。その服、ただのコスプレじゃないわね」
凛は立香を上から下まで凝視し、小さく舌を巻いた。
「驚いたわ。かなりの代物じゃない。……いいわ、一般人っていうのは撤回してあげる」
「あはは、ありがと。これ、結構丈夫なんだ」
立香が照れ臭そうに笑うが、凛の分析は止まらない。
「礼装は一流。でも、やっぱり本人の魔力は底辺。……改めて言うけど同盟を組みましょうって話でしょ? そうやって懐に入って、漁夫の利を狙うつもりなんじゃないの?」
「ぐっ……」
図星を突かれた慎二はぐぅの音も出ない。だが、立香はここからが本領発揮だった。彼女は何百という癖の強い英霊をまとめ上げてきた経験をフル回転させる。
「そんなに疑わないでよ、遠坂さん。同じ高校に通ってる気心知れた者同士、助け合ったほうがいいでしょ? 同級生だし!」
「知れてない、知れてない。少なくとも、こっちは間桐くんのことなんてこれっぽっちも信頼してないわよ」
凛が突っぱねるが、立香はグイグイと交渉し、士郎にもアピールし、さらには情にまで訴えかける。そのあまりの押しに、凛の鉄壁の拒絶がわずかに揺らぎ始めた。
「……俺は、元々賛成だ。慎二とは腐れ縁だし、協力できるならそのほうがいい」
士郎が立香のペースに巻き込まれ、肯定的な意見を出す。
「ちょっと、士郎まで……! ……ああもう、わかったわよ! 『同盟』を組むかどうかは別として、とりあえず話を聞くくらいはしてあげるわ!」
凛はとうとう根負けしたように吐き捨てた。そして坂の下から登校してくる生徒たちの声が聞こえ始め、周囲が騒がしくなりだす。
「……人目がつき始めたわ。細かい話は放課後ね。場所はまた連絡するわ。それじゃ」
「ふん……。最初からそう言えばいいんだ」
慎二は勝ち誇ったような顔をしながら、凛と士郎が離れていくのを見送ろうとした。
「あ、慎二くん!」
不意に、手を取られ立香に呼び止められた。
「なんだよ、藤丸。話はついただろ。僕はこれから学校なんだ」
「うん、それはいいんだけど……。あのさ、この辺で、大きな図書館とか、無料で長時間、時間を潰せるところってないかな?」
慎二はポカンとして聞き返した。
「……はあ? なんでそんなこと聞くんだよ。お前、サーヴァントだろ? そこらの屋根の上で偵察でもしてろよ」
「えー、だって霊体化できないからただの不審者になっちゃうし。何より……」
立香は恥ずかしそうに、けれど堂々と宣言した。
「……私、単純にお金が一円も無いんだよね」
「…………」
慎二は天を仰いだ。
この聖杯戦争、勝てない。
自分の英霊(?)は、宝具もなければ、霊体化もできず、おまけに一文無しの本当にただの居候なのだ。
「……知るかよ! お前の面倒なんて見てられるか!」
慎二は立香の手を振り払い、足早に立ち去ろうとした。しかし、その時。まだ少し離れたところで足を止めていた凛と士郎が、無言でこちらをジッと見ていた。
特に士郎の目は「慎二、女の子を無一文で放置するのか?」という非難に満ちていた。
「…………ッ、チッ!!」
慎二は屈辱に震えながら、財布から千円札を三枚、乱暴に引っ張り出した。
「ほらよ! これで適当にメシでも食って、図書館にでも行ってろ! 場所は坂を下りてすぐだ! 絶対に問題を起こすなよ!」
「わあ、ありがとうマスター! さすが太っ腹だね!」
立香は三千円を握りしめ、満面の笑みで手を振った。
その様子を見ながら、慎二は重すぎる足取りで校門へと向かった。
結局慎二はイライラしながら放課後まで過ごすのだった。