間桐慎二のGrand Order   作:見てみたかった小説

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牛丼の値段

放課後、校門の近くで待っていた立香は、慎二の姿を見つけるとパッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。

 

「おかえり、慎二くん!」

 

「……声がデカいよ。離れろって言っただろ」

 

慎二は周囲の目を気にして顔をしかめるが、立香は気にせず、懐から千円札二枚と小銭を差し出した。

 

「はい、これ。残りの二千五百円、返すね。ありがとう本当に助かったよ」

 

「……は? 五百円しか使わなかったのかよ。昼飯はどうしたんだ」

 

慎二は拍子抜けした。てっきり全部使い果たすか、足りないと言い出すと思っていたのだ。

 

「牛丼一杯食べれば十分だよ。図書館は本もたくさんあって楽しかったし。……本当はね、私がバイトでもしてお金を用意できたらいいんだけど、今はこういう立場だから……。ごめんね、慎二くんにお金出させちゃって」

 

申し訳なさそうに、けれど誠実に笑う立香を見て、慎二は毒気を抜かれた。

バイトをするサーヴァントなんて聞いたこともないが、こいつは本気で「居候として申し訳ない」と思っているらしい。

 

「……ふん、当然だ。お前がバイトなんてしたら、僕の管理不足を疑われるだろ。……金は受け取ってやる。一円でも無駄にするなよ」

 

ひったくるように金を受け取ったが、慎二の心中は複雑だった。明るく振る舞い、自分を「マスター」として立て、律儀にお釣りを返すこの少女のあり方に、これまでにない調子の狂いを感じていた。

 

そこへ、校舎から出てきた士郎と凛が合流した。

 

「それで……これからどうするの? 立ち話で済むような内容じゃないわよ。場所、どうする?」

 

凛が腕を組んで尋ねる。慎二は鼻を鳴らした。

 

「喫茶店でも行けばいいだろ。僕が奢ってやっても――」

 

「店で話せるような内容じゃないだろう」

 

士郎が慎二の言葉を遮り、真剣な面持ちで提案した。

 

「俺の家に来ないか? あそこなら広いし、人目も気にしなくていい。……夕飯の準備もできるしな」

 

「はあ!? 衛宮、お前の家だと?」

 

慎二は露骨に嫌な顔をした。士郎の家には中学の頃から何度も通っているが、今の自分は「偉大なる間桐のマスター」なのだ。そんな自分が、士郎の世話になるような形になるのは我慢ならなかった。

 

「……いいんじゃない? 衛宮くんの家」

 

立香がひょいと横から口を出した。

 

「遠坂さんの言う通り、今は秘密を守るのが一番だし。何より、衛宮くんの家って……なんだかすごく、守りが固そうな気がする。歓迎してくれるなら、そこが一番安全だよ」

 

「……あ、やっぱりわかる? 藤丸さん」

 

士郎が感心したように言う。凛も渋々といった様子で頷いた。

 

「癪だけど、衛宮くんの家は無駄に広いし、結界も最低限は張ってあるわ。外で『聖杯』なんて単語を出すよりは百万倍マシね」

 

「ちょっと待て! 僕の意見はどうなるんだよ!」

 

「はいはい、慎二くんも行こう。マスターがいないと話し合いにならないでしょ?」

 

立香に背中をグイグイと押され、慎二は「離せよ! わかった、行けばいいんだろ!」と叫ぶしかなかった。

 

こうして衛宮邸へと向かって歩き出した一同だったが、いつの間にか立香は慎二の隣を離れ、先頭を歩く士郎のすぐ横に並んでいた。

 

「ねえねえ衛宮くん! 衛宮くんのお家って和風なの? それとも洋風? ここから遠いの?」

 

「ああ、古い和風の屋敷だよ。ここからは歩いて十五分くらいかな。そんなに遠くはないぞ」

 

立香の矢継ぎ早な質問に、士郎は嫌な顔一つせず、むしろ明るく答えていく。

 

「へぇ、和風! いいなあ。あ、そうだ、衛宮くんって趣味は何?」

 

「趣味? うーん、壊れた機械の修理とか、あとは料理かな。これと言ったものはないけど」

 

「修理に料理! 完璧じゃん、職人さんだね!」

 

「ははは、そんな大層なもんじゃないって」

 

明るく笑い合いながら歩く二人の後ろ姿。同じような赤系の髪色、そしてどこかお節介でお人好しな空気感。あまりにも自然に波長が合っているその光景を、少し後ろから歩く凛と慎二は、呆れたような表情で見つめていた。

 

凛が頬杖をつくような仕草で、隣の慎二にボソリと呟く。

 

「……ねえ、間桐くん。あいつら、実は生き別れの兄妹か何かなの?」

 

慎二はいつもなら「ふざけるな」と一蹴するところだったが、今ばかりは深い溜息と共に頷かざるを得なかった。

 

「……奇遇だな。僕も今、全く同じことを考えていたところだ」

 

「でしょ。あの似た者同士な空気感、何なのよ……」

 

「……知るかよ。類は友を呼ぶってことだろ」

 

慎二は吐き捨てるように言ったが、目の前の「兄妹のような二人」が醸し出すお節介な温かさに、自分のトゲトゲした苛立ちが少しずつ削られていくのを感じていた。

 

夕暮れの街を歩く四人と一人。

最悪の出会いから始まった聖杯戦争は、赤髪の少女という「異物」が衛宮士郎という「お人好し」と化学反応を起こしたことで、慎二の予想もつかない奇妙で賑やかな方向へと加速し始めていた。

 

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