Pixivにコミケの新作の表紙を出しておきました。学マスです→https://www.pixiv.net/users/19514287
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「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!美鈴ちゃんあのプロデューサーさんと契約したのぉぉぉ!?」
「まだ、ちゃんとした返事はいただいておりませんが、はい」
先日、瑠和はあの場で返事をしなかった。自分にできることなんてほとんど何もない。それを伝えたうえで美鈴はそれを良しとした。
それが瑠和の決断を鈍らせた。
結局、瑠和は「少し考えさせてくれ」と言って茶道室から逃げ出したのだ。
「そうなんだぁ……あーあ、アタシももっとアタックしておけばよかったかなぁ…」
佑芽は瑠和を手に入れられなかったことに肩を落とす。入学した当日からプロデューサーになってほしいといっていたのだから当然と言えば当然なのだが、その様子を見て美鈴は少し不思議そうに尋ねた。
「まぁ………佑芽さんはそんなにあのプロデューサーがよかったのですか?」
「直感だけどね。当たるんだよ、アタシの直感。ところで、美鈴ちゃんこそ、なんであの人なの?」
「………」
佑芽のその質問に美鈴は少し驚いたような顔をしてから、胸に手を当てて瞳を閉じる。美鈴は記憶を辿り、少し昔の記憶を瞼の裏に蘇らせる。
「約束が、あるからです」
―プロデューサー科―
瑠和がプロデューサー科の廊下を歩いていると、前から大きめの足音が響いてきた。顔を上げると、美しくウェーブした髪を揺らしながら、見知った顔がやや怒ったような表情で歩いてきているのが見えた。
数日ぶりに会った星南だ。だがその表情は、明らかに怒っている。
「先輩、ちょっといいかしら」
こういう時の星南は割とめんどくさいというのを、約一年プロデュースしてきた瑠和はよく知っていたので少し嫌そうな顔をする。
「何の用だ」
「いいから来て頂戴」
星南は乱暴に瑠和の腕を掴み引っ張っていく。抵抗するのも面倒なので瑠和はなすがまま引きずられていく。
星南に手を引かれ、瑠和は人気のない場所まで歩かされる。辺りに人がいないことを確認すると、星南は小さくため息をついて瑠和に向き直る。
「ここでいいでしょう…………アナタ、美鈴と契約しようとしてるって本当?」
「ああ。返事はまだだが」
「私と契約解除してまだ日も浅いのにもう乗り換えってこと?」
さっきよりもよりムスッとした顔で星南は尋ねてきた。星南が不機嫌そうにしている。そんな態度をとる星南の本心に気付いていながらも、あくまでプロデューサーとして対応する。
「契約打ち切りを持ち出したのは君だし、契約を持ち掛けたのは泰谷美鈴だ。俺もこの学年で担当アイドルなしは色々まずいからな。プロデューサーとしてやるべきことをやってるだけだ」
「…………女たらし」
星南は小さくつぶやいた。
「そう、わかったわ。ところで、なんであなたが美鈴と契約したことを私が気づいたか。わかる?」
言われてみれば確かに、昨日の今日で美鈴との話が星南に伝わってるのはおかしい話だ。星南の時と違い、公衆の面前で話していたわけじゃない。そもそも二人きりで話したことを星南が知ってるのもおかしい話だ。
瑠和は話していないし、美鈴が決まってもいない話を言いふらすようにも見えない。
「…………どうしてだ?」
「私が、美鈴に契約を持ち掛けたからよ!」
「…………………なるほどな」
星南が不機嫌そうなった理由にさらに裏付けがされ、瑠和はなんとなくいろいろなことに納得ができた。
「せっかく私が目をつけていたのに、あの子、先約があるからって………だれかと思えばアナタ。もうこっちの予定がぐちゃぐちゃよ」
だが瑠和もどうしようか考えていたタイミングでのこの話だ。美鈴の誘いをちょうどいい落としどころに収めるのにも悪くないタイミングだと考える。
「だったら泰谷美鈴は君に任せるよ。僕は彼女じゃないといけない理由はない」
瑠和は顔を背けていった。その態度を見て星南は小さくため息をつく。
「………あなたって本当…」
「ん?」
「いいえ、そう言うなら、私がとっちゃおうかしら」
「好きにしろよ」
「……………知らないわよ?」
「そういうつもりはないよ。それより、プロデューサーになるのは来年からじゃなかったのか?勘違いした子が君のところに行ったっていう話は昨日聞いたけどさ」
「あら、それを気になってしまったかしら?」
それを尋ねられると、星南の眼は少し輝いたように見えて答えた。ああ、話したかったんだと瑠和は思いながら星南の話をきいてやる。
完全無欠の『一番星』と言われるが、星南は案外子供っぽい一面もある。可愛らしい一面も。そんな部分も彼女の魅力だと知りながら瑠和は特に何も言わなかった。
「おじいさまにお願いして!生徒会を私のプロデュースする子で固める特権をいただいたのよ!」
「そういうの、職権乱用っていうんじゃないか?」
―食堂―
昼休み、瑠和は食堂にいた。端の席でいつも通り、卵かけごはんを目の前にして。さっそく食べ始めようとしたとき、目の前に食器トレーが置かれた。
「相席、よろしいでしょうか」
現れたのは泰谷美鈴だった。
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
美鈴は瑠和の前に座り、食事を始める。瑠和はその様子をみながら自身も食事を続ける。
「…………それで、考えていただけましたか?私のプロデュースの件。私は、アナタがいう通り、私が快適に歩く手伝いをしていただけるだけで結構なのですが……」
妙に食い下がってる態度を瑠和は不思議に思っていた。昨日も思ったが、美鈴の性格からして自ら高みを目指すような性格だと思えなかったからだ。
それにしたって、なぜ自分なんだろうと思いながら瑠和は答える。
「…………それなら、僕じゃなくてもいいだろう」
「まぁ……いけずな人」
そんな会話をしていると、横から誰かが歩いてきた。
「それなら美鈴、アナタやっぱり、わたしのものになりなさい」
「星南」
やってきたのは星南だ。星南は瑠和の隣に座る。先刻の言葉の通り美鈴をスカウトしに来たのだろうだが、瑠和の眼から見てもあからさまにスカウトの方法が下手だ。
「あなたは特別な存在よ。美鈴。アナタが私の生徒会に入れば、私の生徒会は完全なものになる」
特別扱いするような口ぶりに、瑠和は少し眉をひそめた。瑠和からすれば無論良し悪しはあるものの、みな平等に可能性のある子はいると考えていたからだ。
「星南。嫌いだな、そういう言い方」
「あら、こっちにもあなたを口説きたい男がいるみたいね」
星南は瑠和を横目で見て笑う。口出しするつもりは特になかったのだが、つい口走ってしまった。それに気づいた瑠和は顔をそむける。
「そんなんじゃない」
「あら、美鈴が取られると思って、言ったんじゃないの?」
「だから違うって」
美鈴は瑠和と星南の距離感に美鈴はやや口元をへの字にする。出会ってからずっと瑠和は美鈴に対して、というか誰に対しても敬語だ。しかし、星南相手にだけはため口なことになんだかモヤッとしたのだ。
「申し訳ありません。私は、会長の慣れ過ぎた言い方もあまり好みではありませんね」
美鈴は食器をもって去って行ってしまった。その後ろ姿を見ながら瑠和は小さくため息をつく。
「知らないぞ」
「……あなたが煮え切らないからでしょ?」
「星南の言い方も露骨すぎるんだよ。贔屓されてると思って遠慮する生徒もいるだろ」
「先輩も、変なとこで奥手よね」
「奥手なんじゃなくて、別に求めてないだけだよ」
瑠和はあくまでも美鈴との契約をしたがっているということを否定するが、星南はそれを鵜吞みにはしようとしなかった。
「昔こっぴどい失恋でもした?」
星南の言葉に、瑠和は大きく目を見開く。少し力強く箸を置き、瑠和は立ち上がった。
「じゃあ、俺もスカウトにでも行くよ」
「いつか」
立ち上がり、去ろうとしたとき星南が口を開いた。瑠和は足を止めて横目で星南を見る。
「アナタの鼻をあかして見せるわ。私がね」
「………」
―夜―
瑠和は家に帰ると、シャワーを浴びながら一人考え事をする。
「…………乗り越えて見せるさ。世俗も、肉欲も」
『ずっと忘れられないから、こうやって自分に言い聞かせてるんじゃない?』
瑠和の背後には、再び茶髪の少女が立っていた。
「違うよ。重なるんだ。美鈴の姿が、キミの姿と。それだけじゃない。星南だって…」
『アタシに見えた?』
背後だけでなく、バスタブの方にもいつの間にかピンク髪の少女がいた。瑠和はその存在に気付くと驚き、腰を抜かしてその場にしりもちをついた。
「…………っ!俺は、学園のプロデューサーだ!俺は学園のプロデューサーだ!俺は!!プロデューサーだ!!」
自分に言い聞かせるように叫ぶ。何度か叫んだあと、顔を上げると、そこにはもう誰もいなかった。声も聞こえず、シャワーが流れる音だけが浴室に響いていた。
―翌日―
「おはようございますプロデューサー」
「…………」
瑠和が登校すると、校門前に美鈴がいた。
「ここプロデューサー科ですよ。泰谷さん」
「はい。存じております実は………星南会長のスカウトが激しいので、そろそろプロデューサーに決めていただこうかと」
どうにも、美鈴は星南になびく様子はない。星南のスカウトの下手さ加減も無論あるのだが、それにしたって星南の方には一向に向かおうとしない。
「………一つ、訪ねていいですか」
「なんでしょう」
「どうして僕なんですか」
「………………今は、秘密です」
「………」
瑠和は昨日、シャワーを浴びながら考えていたことを思い出す。
(そうだ。過去も、全部乗り越えるなら、彼女だって乗り越えなければいけない)
「わかりました。泰谷さんのプロデュース。お受けいたします。しかし、先日も言った通り、僕はサポートしかしません」
「はい。私も、それで構わないといいましたから」
―事務所―
泰谷美鈴と契約したことで、再び事務所を貰えた瑠和は、再び事務所に荷物を置き始めた。まぁもらったというより、片づけが終わらなかったので以前の事務所を再度使うことになったわけなのだが。
瑠和もまさかこんなに早くプロデュース業務が戻ってくることになるとは思ってなかった。
(泰谷さんの様子を見に行くか………)
瑠和はさっそくレッスンの様子を見に行くことにした。レッスン室前につき、扉越しに中の様子を伺う。
「………見当たらないな」
もしやと思い、瑠和は中庭に向かう。
―中庭―
「いないな」
―校門付近―
「いないな」
―校舎裏―
「………すぅ……すぅ…」
「いた」
校舎裏のベンチで、美鈴は眠っていた。予想通り、サボりだ。プロデュースするまであれだけサボっている場面に出くわしていたのだ。予想が着く。
「………まぁ、見つかってしまいました」
「またさぼりですか」
「はい。よくここが見つけられましたね」
ここは校舎裏のベンチ。学校の生徒でもあまり知らない空間だ。だが、だからこそ静かで、落ち着いてて、昼寝にはうってつけの場所だ。
そんな秘密基地みたいなお昼寝スポット。そんな場所をたくさん知ってる人が、瑠和の高校時代先輩にいた。
彼女と美鈴はよく似ている。だから彼女が好きそうな場所もわかるのだ。
「なんとなく……です」
「そうですか、よければプロデュースも一緒にサボりませんか?」
「………」
瑠和は黙って美鈴の隣に寝っ転がった。
「まぁ…………以前私を咎めなかったのは、プロデューサーじゃないから注意しない……のではなかったのですか?」
そういえば初めて会った時にそんなことを言った気がする。今はプロデューサーという立場上注意は必要だ。瑠和はそう思いつつも瞳を閉じた。
「そうでしたね。ですが、僕の役目はアナタが快適に歩くことの手伝いです。アナタを無理にレッスンに連れていくことはそれに準じないと思いましたので」
「……………まぁ……悪いプロデューサーですね。では一緒に休憩しましょう。お茶にお菓子もありますよ」
近場に置いてあったピクニックバスケットからおやつと水筒を取り出す。そんな仕草は再び瑠和に幻視を起こさせる。
「…………いただきます」
「はいどうぞ」
美鈴はマドレーヌを差し出した。瑠和がそれを受け取り、食べる様子を見た美鈴は水筒のお茶をコップに移し、まずは自分が飲む。
自分に差し出されるものだと思った瑠和は少し驚いた顔をした。その顔を見た美鈴は「予想通り」と考えた。
「飲みますか?」
「あ、はい」
「では、どうぞ」
美鈴はさっきまで自分で飲んでいたコップをそのまま差し出す。
「…………違うカップかと思いました」
瑠和は美鈴が口をつけた部分を避けてお茶を飲む。
「…………………あなたは、私を通して誰を見ているんですか?」
その言葉を言われた瞬間、瑠和は手に持っていたコップを落としてしまう。コップが落ち、お茶を地面にまき散らしたが、その様子を二人は見向きもしない。
瑠和は硬直し、美鈴はその硬直した瑠和を見続けていた。
「…………ははっ、僕が泰谷さんを通して?泰谷さんのように傲慢で、サボり魔なアイドルほかに見たことありませんよ」
「人って、自分のことになると馬鹿になる………とは本当ですね。私は「アイドル」とは一言も言ってないのですが…」
その言葉に瑠和はさらに動揺する。冷や汗が、頬を伝うのを感じた。いやそれ以上に、真横から刺さってくる美鈴の視線に瑠和は怯えていた。
「…………少し、いじわるが過ぎたようですね」
美鈴は瑠和が落としたコップを拾い、軽くハンカチで拭いてバスケットにしまった。瑠和はうつむいたまま口を開く。
「…………言葉っていうのは時に人を殺します。これは、比喩ではありませんよ」
「まぁ、怖いですね。気を付けます………………………プロデューサー。私があなたを求めた理由は二つです」
「……」
「一つは、私の隣に立って歩いてくれる気がしたから。もう一つは……」
美鈴は立ち上がり瑠和の前に来た。そして、瑠和の頬に手を添える。
「アナタのことを、私で満たしたかったからですよ、天王寺瑠和さん」
直後、瑠和の頭に鋭い頭痛が走る。いつか、同じことを言われたような記憶が瑠和の脳裏にノイズのように流れた。
「大丈夫ですか?プロデューサー」
「ああ、俺は大丈夫だよ、美鈴ちゃん」
「!」
あからさまな変化があった。そのことに美鈴が驚き、たじろいでいると、瑠和が首を傾げた。
「どうかしましたか?泰谷さん」
「いえ…………………なんでもありません。ではプロデューサー、もう少し休んでいきましょう」
さっきまでの会話がなかったことになったかのように美鈴はベンチに戻り、瑠和の肩に身を預けた。
「………今は、ただいてくれるだけで構いませんから……」
続く