メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー   作:斎藤 晃

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無理矢理にコメディー要素を入れました。


メティーのアトリエ 迷宮の楽園(アンダー・リゾート)支店 期間限定オープン!

 翌日、僕達は採集を始めた。正直言うと寝不足だったし、いつもよりも早く目が覚めてしまっていたけれど、それ以上に僕は今回の採集に、冒険に興奮してしまっていた。

 簡素な朝食を口の中に放り込み、初めて大きな街に来た小さな子供のようにワクワクしていた。

 

「ベルのやつ浮足立ちすぎだろ…。」

 

「誰でも最初にここに来れば興奮してしまうでしょうが、ベルさんの理由は別なのでしょう。」

 

 僕のことを周りがヒソヒソ話しているのを尻目に、僕は皆の準備が終わるのを今か今かと待っていた。そして、皆の準備が終わるのと同時に、僕はつい森に向けて走り出そうとしてアーシャに首根っこを掴まれて倒れ込んでしまった。

 

「落ち着け。お前1人で先走ってもなんにもならんぞ。」

 

 アーシャは僕を足で地面に押し付けて注意をしてきた。反論しようと思ったけど、皆が呆れた顔で僕を見ているのに気づいた。それを見て、どれほど浮かれてしまっていたのかに気づき、恥ずかしい気持ちになった。

 

「あ、ありがとう、アーシャ。」

 

 僕は仰向けに倒れたまま深呼吸をして心を落ち着かせようとした。アーシャはそんな僕を見て肩を踏みつけていた足をどけて、ため息を吐いた。

 

「皆さん申し訳ありませんでした。」

 

 僕は立ち上がって頭を下げて謝った。皆、僕に仕方ないなあ、という視線や言葉を向けてきたけど、僕のことを許してくれた。

 

「ベル君も冷静になったことだし、出発しましょうか。」

 

 アリーゼさんの言葉で僕達は森へと向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい! キノコも木の実も高品質だし、特性も凄いのが付いてるよ!!」

 

 僕は森の中で見つけた素材に驚愕し、興奮していた。これまで世界中を旅してきて色々な特性を持つ素材を見てきた。レアな特性も見てきた。それに比べると、ここにあるものは遥かに劣るのは間違いない。

 

 でも、これまでダンジョンで見てきた特性の中で最も凄い物が次々と見つかっているのだ。その上で、これまで見てきた素材よりも遥かに高品質なものも少なくなかった。

 

 地上で取れる素材の中で、僕が見たことがある最高品質のものはせいぜい60くらいだった。

 

 先生やお母さんたちはもっと高品質のものを持っている可能性はあるけれど、僕が手に入れたものの中では信じられないものばかりだったのだ。

 

「このキノコって毒キノコだよな? これも素材になるのか?」

 

「それって回復アイテムの材料になりますよ。」

 

「マジ?」

 

「毒キノコで回復アイテム作るって…。」

 

 オニワライタケ*1を持ったライラさんの疑問に僕は簡潔に答える。オニワライタケは栄養剤の原料だ。栄養剤自体は使用すれば、採取できる素材の品質を上げたりと便利な道具だけど、回復アイテムの材料にもなるのだ。それに中和剤としても使えるので、重宝する中間素材でもある。

 

「トーンも高品質だし、アイヒェやキーファも凄い!」

 

 もう語彙が死んでしまっているのを自分でも自覚していたけど、凄い凄いと叫ぶばかりになっていた。

 

「いや、たしかに凄い特性がついてるのは分かるけどよ。その草がそんなに凄いのか?」

 

「ヴェルフは裸眼じゃ詳細がわからないからそう言えるんだよ。このトーンについてる特性は、“全能力ブースト”だよ。基礎アビリティを15ずつ上げることができるんだ。」

 

「…マジで?」

 

「それにこっちの“うに”には、パラメーター+5%が付いてる。基礎アビリティが5%上昇する特性なんだ。」

 

「うに? それって栗じゃ…。」*2

 

「これはうにですよ? 栗はトゲの数が2800本で固定*3だけど、うにはトゲの数がバラバラだけど4の倍数*4になってるんですよ。」

 

「本当にこれって栗じゃなかったの!?」

 

「ええとたしか私の魔力が900ですから、それの5%だとすると、上がるのは45!」*5

 

栗とうにの違いを語っていると、リューさんの言葉に皆がざわめいた。お母さんたちが持っている特性に比べるとささやかなものだけど、僕にとっては凄い宝物に等しい特性だった。

 

「こっちには野綿花があるので、これでモフコットという1段階上の布素材が作れます。より強力な防具が作れるんです!」

 

 僕の言葉にヴェルフとセシルさんが歓声を上げた。2人にとっては新しい素材を扱えるのは何よりも楽しみなのだろう。

 

「おいベル、鉱石だ、次は鉱石を探しに行こうぜ!」

 

「それよ! もっと凄い武器を作れる金属を作ってよ! 次の武器の構想はもう出来てるのよ!」

 

 2人とも新しい素材にワクワクしているようで、次は金属だと声を上げてきた。僕も新しい金属を作りたかった。

 

 順当に行けば、次に見つかりそうな鉱石はライデン鉱かクプルフ鉱だろうか。

 

 それらが見つかれば、シュタルメタルかシルヴァリアを作れるようになり、より強力な武器や防具を作れるようになるはずだ。

 

「おい、装備用の素材採集もいいが、まずはエリキシル素材だろう。“万能厄除け香”の材料を得るのが主目的だぞ。」

 

「「「あっ。」」」

 

 アーシャの言葉に僕達はつい間抜けな声を上げてしまった。あまりにも高品質な素材に目を奪われてしまって、本来の目的を忘れてしまうところだった。

 

「それで、エリキシル素材ってどんなのがあるんだ?」

 

 ライラさんに尋ねられたけど、これまでエリキシル素材と呼べるものは確認できなかった。18階層で至るところに生えている水晶を、最初は精霊結晶だと思っていたけど、結局はただの水晶だった。これはこれで使い道はあるけど、“万能厄除け香”に使える素材はまだ見つけていなかった。

 

「今のところ見かけてないです。エリキシル素材は竜素材や鉱石があるんですけど、地上でもかなりの希少素材なんですよね…。」

 

 実際、これまでエリキシル素材が取れる場所はエルソスの遺跡とその周辺の森くらいしか僕は知らなかった。遺跡周辺には、昼は太陽の粉と夜は星の粉が取れる砂地があったので重宝していた。それ以外に有望な採取地はなかったので、大抵の場合は錬金粘土を原料にするしか無かった。

 

「錬金粘土か、粘土ってことは水辺かなぁ…。」

 

「なあに、私たちの水浴びしてるところをそんなに見たいの?」

 

 僕の呟きにアリーザさんが僕をからかってきた。リューさんだけはそんなアリーゼさんをたしなめていたけど、ライラさんとセシルさんは僕をからかう気まんまんなようだった。

 

「あーあ、ベルってば人畜無害そうな顔をしてむっつりだったんだな。」

 

「男って皆そんなんばっか。」

 

「何でそんな話になるんですか!」

 

 からかわれていると分かっていながら、僕は必死に抗議した。一通り僕をからかって気が済んだのか、アリーゼさんたちと共に水辺へと向かった。

 

 ただ、そこには既に先客がいて水浴びの真っ最中だったようだ。リューさんが先行して水辺に向かっていてくれたおかげで覗きの冤罪を被ることはなかったけど、しばらく採集ができないことには変わりなかった。

 

「ロキ・ファミリアってもう帰ってきてたのね。」

 

 どうやら、水浴びをしていたのはロキ・ファミリアらしかった。そんなロキ・ファミリアの人達からは少し気になることを聞いていたと言う。

 

毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)にやられた人が多いみたいね。」

 

凶狼(ヴァナルガンド)が特効薬を買いに地上に向かったらしいが、結構時間はかかるよな。」

 

 どうも、毒のあるモンスターにやられてしまった人が多く出たらしく、かなり危険な状態なのだと言う。無事な人たちが遠征の疲れを取るべく水浴びをしていたらしいけど、特効薬でしか治せない強力な毒のためにできることはほぼ無いのだとか。

 

「そこでベルくんの出番よ。2大派閥の片割れに恩を売るチャンスよ。それに、恩を売ればいざという時にベル君たちの助けになるはずよ。特に、錬金術の秘密がバレそうになったときとか。」

 

 アリーゼさんは、僕の錬金術がバレた時に、誰かが僕を誘拐するのではないかという不安が拭えないらしい。その時に助けになるために助けようということらしかった。

 

 

「そよ風のアロマに“毒を治療”を付けたらいけると思いますけど。」

 

 そよ風のアロマは、冒険者になる前に何度か挑戦していて、1回だけ調合に成功していた。以前だったら調合するのに躊躇しただろうけど、今の僕なら作れるはずだという自信があった。

 

 そして、アリーゼさんの提案に従い、採集を一旦打ち切ってそよ風のアロマを作るべくアトリエテントへと戻っていった。アトリエテントにはリリが留守番として残ってくれていて、ソファーで寝転がっていた。予定よりも早く戻ってきた僕らに、リリはソファーから飛び起きて、僕に駆け寄ってきた。

 

「どうしたんですか。帰ってくるのは夕方くらいとばかり思ってました。」

 

 尋ねてくるリリにロキ・ファミリアに関する話をしながら、錬金釜の前に立つ。先程採集した素材の中から自然油を取り出し、まずはピュアオイルを調合する。メモ用紙として、ゼッテルを持ってきててよかった。

 

 そして、ピュアオイルと各種素材を混ぜ合わせて調合していく。“毒を治療”の特性が付いたトーンも入れて、そよ風のアロマを作っていく。本来なら半日くらいかかる作業だけど、触媒と錬金スキルを駆使して半分以下の約6時間で目的のものを調合することが出来た。

 

 僕が調合している時間は、他の皆は引き続き採取をしてもらっている。アーシャは採取についても一応の知識はあるので、皆の手伝いをしてもらって、僕の補助というか護衛にはリューさんが付いてくれることになった。リューさんは戦闘はできるけど、こういった採集は苦手らしい。*6

 

「よし、出来た!」

 

 早速メリクリウスの瞳でそよ風のアロマの出来を確認する。品質は驚異の90超えで、効果も殆どが最高レベルのものが発現していた。特性は、“毒を治療”と“回復量増加+”だ。

 

 そう、とうとう僕は2段階目の特性を得ることが出来たのだ。この分だと、他にも+のついた特性は他にもあるだろうし、++の付いた特性もあるかも知れない。

 

 そんな事を考えながら、出来上がったそよ風のアロマをリリとリューさんに見せた。リューさんは僕のことを驚いた顔で見つめてきた。

 

 

「これが毒を治せるそよ風のアロマですか。外見はメーテリアさんの作ったものとほとんど同じですね。しかし、調合するところを初めて見ましたが、魔力の光や粒が周りに広がって、とても美しい光景でした。」

 

「う、美しい…? そ、それはともかく、お母さんの作ったもののほうがもっとすごいですけどね…。それでも、生命力と魔力を回復して、気絶も回復させて毒を治療する全体回復アイテムだから、冒険で使う場面は多いと思います。」

 

「ベル様、それってオラリオ中の薬剤師を敵に回すことになるのでは?」

 

 

 リリの言葉は否定できなかった。神様の口利きで、『青の薬舗』で委託販売をする際にミアハ・ファミリアのナァーザさんにリフュールボトルの性能について説明した時には、酷く取り乱していたし。どうも、生命力と魔力*7を同時に回復する回復アイテムは、まだオラリオにはなかったらしい。

 

 その上に、デニッシュとかハニーシロップとかを見せたものだから、「私って才能ないのかな…。」なんて言って落ち込んでしまい、励ますのが大変だった記憶がある。

 

 一般的なポーションって酷く不味いらしいので、僕の作ったアイテムはそれに比べると美味しい上に、生命力も魔力も回復できる画期的なアイテム*8として、現在では結構いい値段でたくさん売れているらしい。タケミカヅチ・ファミリアの人たちも、毎回買っていたらしいけど今じゃ手に入れるのも難しいとこぼしていたくらいだし。

 

「アーデさん、それは今更な話です。私たちは7年前からこの回復アイテムを知っていましたし、幾度となく助けられました。私たち以外にしても、既に一部の回復アイテムはオラリオに出回っている。私たちが後ろ盾になったことで躊躇する者が多いだけで、既にベルさんの秘密を暴こうと虎視眈々と狙っている人は数多くいることでしょう。」

 

 リューさんの話に、僕はヒエッと悲鳴を漏らしてしまった。あまり騒ぎにならなかったので、そこまで問題は無いと思っていたけど、アストレア・ファミリアの皆のお陰で表面上は平穏だけだったなんて…。

 

「ベルさん、気に病む必要はありません。これは私たちが望んだことでもある。あなたは多くの人を救う回復アイテムを作れる、尊敬できるヒューマンだ。胸を張って生きるべきだ。」

 

「はい!」

 

 リューさんの言葉に僕は大きな声で返事をした。僕は人に悪く言われる筋合いはないのだ。他人が作れない回復アイテムを作れて何が悪い。それを売って何が悪い。文句があるのなら、自分が作れるようになればいいだけなのだから。

 

 

 

 

 その後、採集から帰ってきた皆を迎えて、アリーゼさんにそよ風のアロマが完成したことを伝えた。アリーゼさんは、僕にもロキ・ファミリアの野営地に来てほしいらしい。夕食の用意をしていた僕は、さっさと料理の調合を終わらしていった。

 

 

「おいおい、錬金術で料理まで作れるのかよ…。」

 

「パンとかお酒とかも作ってるのに今更だと思いますよ。」

 

 

 僕がちゃちゃっと錬金術で作った料理の数々をテーブルに並べているのを見て、ヴェルフだけじゃなく他の皆も驚いた表情をしていた。アーシャは元から錬金術で作った料理を旅の間食べ続けていたし、リリもヘスティア・ファミリアに入って以降はこの事を知っていた。ヘスティア・ファミリアでは基本的に料理は当番制なのだ。

 

 調合を終わらして、全ての料理をテーブルに並べ終わったのを確認して、僕はアリーゼさんとともにアトリエテントを後にした。

 

 

 

 しばらく歩いて、ロキ・ファミリアの野営地へとたどり着いた。2大派閥の片割れに相応しく、多くのテントが並び立ち人の数も多かった。だけど、テントの数に比べると人数は少ないように思えた。

 

「やあ、紅の正花(スカーレット・ハーネル)。」

 

 僕達に声をかけてきたのは、ロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナだった。二つ名は勇者(ブレイバー)で、レベル6のオラリオ最高峰とも言われる冒険者だ。

 

「君が言ってた治療薬は出来たのかい?」

 

「ええ、このベル君が作ったのよ。」

 

 アリーゼさんが僕の肩に手を置いて僕のことを紹介してくれた。以前にフィンさんとは会ったことがあったけど、こうして面と向かって話をするのは初めてなので、緊張してしまう。

 

「この間ミノタウロスに勝った内の1人か。」

 

「本業は錬金術士よ。いろんなアイテムを作って私たちを助けてくれてるの。ほら、祝福のワインやデニッシュとかの回復アイテムがあるじゃない。あれもベルくんが作ってるの。」

 

「祝福のワインとデニッシュと言えば、オラリオ中の薬剤師が作ろうとして1人も成功しなかったというあれか! それをこの子が作ったというのか。それは期待できるな。」

 

 いつの間にか、エルフの女性がフィンさんの隣に立っていた。確か、この人は九魔姫(ナイン・ヘル)の二つ名を持つリヴェリア・リヨス・アールヴさんだったはずだ。ロキ・ファミリアの三巨頭の1人だ。幹部2人に挟まれた僕はつい震えてしまった。

 

「そこまで緊張されると困ってしまうな。」

 

「ベル君、緊張するのも分かるけど、まずは患者さんたちのところに行きましょう。」

 

 アリーゼさんの言葉で、僕達は毒に侵された人たちが寝かされているというテントに向かった。患者の人数が多いために、幾つものテントに分散して寝かされているようだった。

 

 それを聞いて、僕は少し考え込んでしまう。今回僕が作ったそよ風のアロマは5回分あるけど、念の為に患者を一箇所に集めてもらったほうがいいかも知れない。効きが悪かった場合、複数回使わなくてはならないかも知れないからだ。

 

 それを2人に説明すると、患者を一箇所に集めてくれるということだった。しばらく待っていると、ロキ・ファミリアの団員たちが患者たちを集めてくれた。

 

「それでは使います。」

 

 円形に並べられた数十人の患者の中心に立った僕は、そよ風のアロマを使用した。僕を中心とした円形の光の輪が広がり、地面から光が立ち上った。光の粒が幻想的な光景を作り出し、思わず僕も見惚れてしまうほどだった。

 

 それを見たロキ・ファミリアの人たちがざわめきを漏らしていた。

 

 

「これは範囲回復アイテム? あの時にメーテリアが使っていたあれか!」

 

 

 リヴェリアさんがこの光景を見てそんな事を呟いているのが聞こえた。お母さんが以前この人にそよ風のアロマを使ったことがあるのだろうか。それに加えて、周りにいるロキ・ファミリアの人たちも、口々に感想を言っているようだった。

 

 そよ風のアロマを使い終わった僕は、近くにいる患者の1人の男性へと近づいた。顔色はさっきよりも幾分良くなっているようだったけど、毒が治療できているかはまだ判断がつかなかった。

 

 このそよ風のアロマには、生命力の回復と継続回復に加え、魔力と気絶の回復もできるように作ってある。回復量も、“回復量増加+”の特性を付けているので、かなりのものになるはずだ。

 

 しばらく顔色を観察していると、男性の団員は目を開けた。どうやら意識が戻ったらしい。上半身を起こすと、何があったのかよく分かっていないようでしばらくぼんやりとした後、周りを見渡し始めた。他の人達も体を起こして同じようなことをしている。

 

 

「ライアス、身体は大丈夫か?」

 

 

 フィンさんが最初に起きた男性に向かって声をかけた。ライアスと呼ばれた人は、「俺は毒に侵されたはずでは…。」と呟いていたが、毒の影響は完全になくなったのか立ち上がって体を動かし始めた。

 

 

「身体が軽い。毒を受けた時の苦しさも痛みもない。」

 

 

 不思議そうにフィンさんに対して答えたライアスさんは飛び跳ねて見せて、毒から回復したことを見せた。

 

「凄まじいな…。特効薬でなければ治らないはずの毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒を治してみせた。それもこんな大人数を1度に。」

 

 

「皆、毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒に侵されていた者たちは無事治療することが出来た。それを成したのは、ヘスティア・ファミリアのベル・クラネルという少年だ! 彼は未だレベル1というが、これほどの偉業を達成した凄まじい錬金術師だ。仲良くしろとは言わない。だが、彼に尊敬と感謝をして貰いたい!!」

 

 

 フィンさんが集まっていた人達に向かってそんな事を大声で演説すると、その人達は次々と拍手をし始めた。

 

 

「すごいやつだな!」

 

「お前は俺達の英雄だ! オラリオ一の薬師だ!!」

 

 

 僕を褒め称える声を聞こえてきて、僕は照れてしまった。多分僕の顔は赤く染まっているだろうことは想像できるほどだった。

 

 

「さあ、新たなる英雄を歓迎する宴を開こう!」

 

 

 フィンさんのそんな言葉を皮切りに、ロキ・ファミリアの宴会に僕達は参加することになってしまったのだった。

 

 

 

 

「祝福のワインに、お菓子まで持ってきてくれたのか。至れりつくせりだな。」

 

「ただの菓子ではない。全てポーション同様の回復アイテムだ。これを食べてしまうと、不味いポーションを飲むのが馬鹿らしくなってくるほどの代物だな。*9

 

「祝福のワインじゃと! ロキがご執心のあれを此奴が作っているとはのう。」

 

 

 僕はロキ・ファミリアの幹部に囲まれて居た。今回のロキ・ファミリア訪問のために、僕は祝福のワインの他にマフィンやおまんじゅう*10を持ってきていたのだ。

 ロキ・ファミリアに恩を売るという目的なので、遠征帰りにはお酒や甘味が喜ばれると思って作ってきていたものだったのだけど、僕の思惑通りに進んでいた。

 

 

「ところで、お母さんとはどんな関係なんですか?」

 

「何も聞いていないのか?」

 

 

 リヴェリアさんは僕の疑問に答えてくれた。7年前に、オラリオでは闇派閥という破壊と殺戮を振りまく危険な連中が勢力を広げていたらしい。その最中に、お母さんたちがオラリオにやって来てロキ・ファミリアやアストレア・ファミリアと協力して、闇派閥を退治したのだと言う。

 

 たしかに、7年ほど前にお母さんとレジーさんが居なくなった時が1週間ほどあった覚えがある。あの時にそんな事をしていたのかと、衝撃の事実を今になって知る羽目になるとは思っても見なかった。

 

 

「闇派閥にアルフィアというやつが居ての、そいつはメーテリアの姉だったそうだ。姉を止めるためにオラリオにやって来たが、最後まで奴はメーテリアの言葉に耳を貸そうとはせずに死んでしまった。」

 

 

 ガレスさんの言う、アルフィアという名前は何度も聞いたことがある。お母さんをそう呼んで罵倒する人が何人かいたのだ。最近ではそんな人は居なくなったけど、お母さんにそんな秘密があったなんて。

 

 そう言えば、昔お母さんが教えてくれたことがあった。お母さんにはお姉さんがいて、その名前がアルなんとかって名前だったはずだ。今までその事を忘れてしまっていた。

 

 

「私はメティーさんたちに協力して、アルフィアを翻意させようとしたけど駄目だったのよね。メティーさんがあれほど落ち込んでる姿を見るのは本当に辛かったわよ。今は何とか立ち直ってるみたいで、ホッとしたわ。」

 

 

 アリーゼさんもその場にいたらしい。自分の姉が目の前で死ぬなんてどれほど悲しいことなのか想像もつかない。アーシャやイクセルが死んでしまったら、僕は立ち直れる気が全くしなかった。

 

 

「暗い話はこれくらいにしておいて、と言いたいところだけど、ロキ・ファミリアに知ってほしい話があるのよね。」

 

 

 アリーゼさんは急に話を変えて、例のモンスター化の呪いについて話し始めた。その話を聞いて、ロキ・ファミリアの三巨頭のみならず、周りにいた人たちも衝撃を受けたようだった。

 

 

「幸いメティーさんの作った薬のお陰でセシルは無事治ったけど、ベル君も作れるようになるべきだってことで、材料探しの為に18階層まで来たのよ。それと、ディアンケヒト・ファミリアの戦場の聖女(デア・セイント)も治療薬の開発を始めてるみたいよ。」

 

「まだ使えそうな素材は見つかってないですけど。」

 

 

 僕達の話に絶句するロキ・ファミリアの幹部たち。特にアイズさんは顔が青ざめるほどのショックを受けているようだった。

 

 

「それで、私たちに協力してほしいのよ。ベル君は知っての通り凄まじい腕の錬金術士でしょ。私たちがヘスティア・ファミリアの後見をしているとは言え、ちょっかいを掛けてくるファミリアが出てこないとも言えないから。」

 

「それくらいお安い御用さ。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。オラリオの平穏を守るためにベル・クラネルの力は必要だということが分かったからね。」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

 

 僕は頭を下げて助力をお願いした。それに対して、ロキ・ファミリアの人々は快く引き受けてくれた。

 

 こうして、僕のロキ・ファミリアでの役目は終わり、宴会が終わると僕達の野営地に帰った。相変わらずヴェルフと2人で、普通のテントの中で寝ることになったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあさあ、メティーのアトリエ迷宮の楽園《アンダー・リゾート》支店、期間限定オープンだよ!」

 

 

 翌日、僕は何故かお菓子を調合し続ける羽目になっていた。ライラさんのお客を呼ぶ声を聞いた僕は多分虚ろな表情をしていると思う。

 

 

「なんで冒険者になってまでお菓子を作る羽目になるんだよ! お菓子屋が嫌で冒険者になったっていうのに…。」*11

 

 

 全ては、ロキ・ファミリアの人たちが恩を返すと言って、僕達の野営地に何人かやって来て手伝えることはないかと訪ねてきたのが発端だった。皆と相談したうえで、素材の採集の手伝いをお願いすることになり、その間に僕は調合に専念することができるようになったので嬉しい限りだった。

 

 どうも、フィンさんの指示で手伝いに来たらしかったけど、彼女たちはとても真剣に僕達の手伝いをしてくれた。その御礼として、僕は彼女たちにお菓子を調合して振る舞ったのだけど、その匂いに惹かれてか更に多くの人が集まってしまい、いつの間にかお母さんのお店の臨時支店という触れ込みでお店をすることになってしまっていた。

 

 

「何やってるんですかライラさん!」

 

「いや、ここまで大事になるとは思ってなかったんだ。すまないな。」

 

 

 アリーゼさんとライラさんが、ついポロッとお母さんのお店(メティーのアトリエ)のことを喋ってしまったばかりに、多くの女性冒険者たちが押し寄せる事態になってしまったのだ。それだけお母さんのお店が有名になったということなので、嬉しいけど忙しすぎて辛かった。

 

 

「さあ、材料が無くなったのでもう終わりです! 閉店です!」

 

 

 そんな事を言って僕は閉店を宣言したけど、彼女たちも流石は図々しい冒険者だった。何処からか材料になりそうな素材を持ってきては僕に渡してくるものだから、延々とお菓子を作る羽目になってしまっていたのだ。断りたいけど、彼女たちの期待のこもった目を見ると断る勇気は僕には持てなかった。

 

 

「はぁ、…今日一日だけですからね。」

 

 

 仕方なく、僕は一日中お菓子を作り続ける羽目となり、女性冒険者たちはダンジョンでは味合えないはずの極上の甘味に舌鼓を打ったのだった。もちろん代金は貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなハプニングはあったものの、無事に18階層での採集を終えた僕達は地上へと戻ってきた。目的のエリキシル素材自体は見つからなかったけど、錬金粘土の材料となる各種粘土を大量に手に入れることが出来た。

 

 だけど、錬金粘土を作るに当たって新しい問題が出てきた。神秘の力カテゴリの素材の不足だ。

 

 神秘の力の素材は、ミスティックハーブと三つ子トーンを採取できていたけど、その数は少なかった。全部で10くらいしか採取できなかったのだ。今まで採取してきた分も含めても30にも満たなかった。

 

 30個という数は結構あるように思えるけど、僕がこれから目指すのははるか高みにある薬“万能厄除け香”だ。いきなりの調合は無理だから、少しずつ高難易度のアイテムを作っていってから挑戦するつもりだ。

 

 そして、これから僕が作ろうとしているアイテム類は、エリキシルや神秘の力の素材が大量に必要になってくるのだ。

 

 だから、僕は決意した。今度は絵を描ける人を見つけようと。残念だけど、知り合いには絵を描くことが趣味の人はいなかったし、画家にツテもなかった。

 

 そんな時に、ミアハ・ファミリアのナァーザさんに『青の薬舗』に来て欲しいということを、リリを介して言われた。

 

 そこで、ある人との再会がこの問題を解決する糸口になるなんて、この時の僕には想像もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ザールブルグシリーズに出てくる毒キノコ。

*2
アトリエシリーズ定番のやり取りである。栗に見えるけど栗とは似て非なるもの。決して栗ではない。

*3
現実のムラサキウニのトゲの数である。

*4
フィリスのアトリエ、リディー&スールのアトリエより。

*5
5年前から2年前までダンジョンに潜れなかったため。

また、アストレア・ファミリアの全員が生き残ってるので、復讐の鬼にはならなかった。

ランクアップしていないのは、偉業が足りないため。

*6
独自設定。

*7
オラリオでは体力と精神力と呼ぶ。

*8
なお、疲労回復アイテムはそもそも存在しなかったので、ベルはオラリオで唯一無二の薬剤師という認識が持たれている。

*9
ポーションは身体にかけて使ってもいい。

*10
どちらもアーシャのアトリエより。回復アイテムで、特性は”あまい”と”かわいい”。

*11
冒険者になりたかった理由第2位である。第1位は女の子との出会いを求めて。




 思いついたことを全部書こうとしたらかなり長くなりました。もっと簡素に書きたいのに!
 冒険者は基本ならず者なので、絵を描ける人は少ないと思います。需要も少ない可能性があるので、絵描きはオラリオには少ないかも?
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総合評価:1885/評価:7.78/短編:8話/更新日時:2026年02月01日(日) 12:34 小説情報


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