メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
各ファミリアの時系列はバラバラです。戦争遊戯直後のものもあれば、数日経ったものもあります。
アストレア・ファミリアの場合
アストレア・ファミリアの本拠、『星屑の庭』にて、遠征に出ている主力メンバーたちに留守を任された4人は主神アストレアと共に、戦争遊戯を神の鏡を通じて見終わった所だった。
「な、な、な、一体何なんですかあれはぁ!」
セシルは、空を縦横無尽に駆けながら強力な爆弾や毒薬を叩きつけたり、城を瓦礫に変えた魔道具を見て絶叫した。ベルが錬金術で作る道具の数々が常識を超えた代物であるのは、普段から使っているアストレア・ファミリアの団員であるセシルも良く知っていた。*1
だと言うのに、今日目にしたのはそれをも超える凄まじい魔道具の数々だった。メーテリア・クラネル。ベル・クラネルの母親にして師匠。ベルよりも凄い錬金術士であることは予想していたが、あれほどまでとは誰も思っていなかったのだ。
「あ、アストレア様は、あのアイテムを知っていたのですか!」
「私も知らなかったわね。空を飛んだり、隕石を呼び寄せたりなんて。でも、強力な爆弾や回復アイテムを作れるというのは知っていたわ。」
「強力すぎでしょう…。あんなの反則じゃないですか。」
「あら、絵の中に入れることに比べるとまだマシじゃない?」
「あ……、確かに。」
セシルとアストレアが楽しく掛け合いをしている一方で、レベル1の呪符使いのウランダはベルの姿を見てうっとりとしていた。
「あの呪いって凄く綺麗だったなぁ……。あんな凄い呪いをどうやったら作れるんだろう……。私も……いつかあんな呪いを……。」
「だったら、ベル君に教えてもらったら?」
「弟子入り! 私があの子に弟子入り……?そうすれば私も……あの呪いを?」
小人族でレベル1のシャウの言葉に即座に反応した。どうやら弟子入すれば、すぐに暗黒水を作れるかもと考えて、トリップしているようだった。例え、才能があり弟子入りできたしても、暗黒水という高レベルアイテムを作るには、並大抵の努力では不可能であるのだが、その事を彼女は知らない。
「ファミリアを超えて弟子入りなんて難しくない? あ、でも、
狼人族のレベル2であるイセリナはそんなウランダの考えに慎重な意見をもっていたが、すぐにアミッドや酒神ソーマがあの親子の弟子になっていることを思い出すと、可能なのかもと思い直していた。
「そう言えば、あまり考えた事が無かったですけど、神が
シャウの言葉にアストレアは少し考えた後に、昔はよくある話だったらしいと答えた。
「神は下界に来ると全知零能になるのは知っているわね。下界に降りた神でも、一部の神は天界で持っていた権能を下界でも再現しようと努力して今日まで来ているのよ。そして、その第一歩として下界の技術を教えたのは
アストレアの言葉に息を呑む4人。つまりは、ベル・クラネルは1000年前に下界に降りた神々に、下界の技術を教えた偉大なる先達たちと同じ立ち位置にいるのだと理解したのだ。
それはすなわち歴史に残る偉大なる存在。偉人と言っても過言ではない存在なのだ。
「これから下界は騒がしくなるでしょうね。オラリオはあの子を、あの親子を中心に動き始めるはずよ。すごく楽しみだけど不安だわ。」
アストレアの言葉に、留守役の4人の眷属たちは、静かに互いを見つめ合った。時代が動く。それがどういう意味なのか、彼女たちはまだ理解しきれていなかった。
フレイヤ・ファミリアの場合
「オッタル、彼の母親に勝つことは出来そうかしら?」
「お望みとならば、最善を尽くします。」
フレイヤは、バベルにある自らの居室でオッタルに尋ねた。規格外の戦いだった。空を自由自在に飛び、毒や爆弾を叩き込んで一方的に蹂躙した上に、隕石やら栗やらを大量に召喚して巨大な城を破壊してしまったのだ。
あんなバカげた威力を持つ魔道具なぞ、クロッゾの魔剣くらいしか存在しないのではないかと言うほどの代物だった。
「ようやく彼を手に入れられるチャンスだと言うのに、私の前に立ちはだかるのね。メーテリア・クラネル。」
フレイヤは、ベルがオラリオにやってきていた頃から目をつけていた。しかし、彼は冒険者ではなかった上に家族も健在だったので、フレイヤは一応は我慢して遠目に見るだけに留めていた。
状況が変わったのは2か月ほど前のことだった。突然家を出て冒険者になったベルを見て、フレイヤは歓喜した。フレイヤ・ファミリアの門を叩くことは決して無かったのが残念ではあったが。
ベルは短いとは言え2年もオラリオで生活していたので、フレイヤ・ファミリアが色々と問題ある所だということは十分理解していた。恨むべきはフレイヤ・ファミリアの閉鎖的な環境であった。
そんな事を知らぬフレイヤはベルが冒険者になって以降、様々な試練を与えようとしたが、どれも上手くいかなかった。フレイヤは、その原因をメティーではないかと考えていた。大いなる誤解である。
それどころか、モンスター化の呪いをばら撒いているのでは、なんて疑惑すらギルドやロキ・ファミリアに持たれる始末である。完全に濡れ衣であるが、それがフレイヤに酷いストレスを与えていた。
「奴は、かつて【女帝】と共に行動していたという話があります。恐らくは黒竜を葬った件にも関わっているでしょう。」
オッタルの推測は正しかった。オラリオのファミリアは全くその件に関しては動いてはいなかった。故に、オラリオの外にあるファミリアが黒竜を滅ぼしたと推測していた。
そして、オラリオの外で活動する冒険者で黒竜を葬れそうな存在は、【女帝】しかいないとオッタルは確信していた。
だからこそ、オッタルはメティーを超えなければならないのだ。【女帝】を倒すための第一歩として、より強くなるために。それは自身の敬愛する女神のためでもあるし、【女帝】に与えられた屈辱を晴らしたいという自分の願望のためでもあった。
今から7年前、オッタルはザルドとの決闘の途中で乱入してきた【女帝】レグナントに、ザルド共々一発で地面に沈められてしまっていた。恐らくザルドはその後、【女帝】に葬り去られたのだろう。自分の超えるべき壁が【女帝】に殺された。そのため、レベル7になるのに凄まじく苦労していたし、その時のことを屈辱に思っているのだ。
今の自分は未だレベル7。レベル9の女帝に対抗できるとは思っていない。だが、彼の前に女帝とともに行動をしていた女性が現れたのだ。
しかも、その力は彼から見ても凄まじいの一言に尽きる。故に、オッタルの口から自然とある言葉が出てくるのだった。
「俺は強くなりたいです。」
「ええ。強くなりなさい、オッタル。でも、その前に私たちに濡れ衣を着せた奴らを見つけるのよ。」
「御意。」
ここに主従の目的は一致した。しかし、彼女たちはメティー達錬金術士の規格外さをまだ知らなかった。
それを知るのは、まだ先の話である。
イシュタル・ファミリアの場合
女神イシュタルは、アポロン・ファミリアの眷属たちが尽くレベル1になってしまったという話を聞いて、呆然としていた。
「ランクダウンだと!」
まるで王宮の謁見の間のような部屋の中で、眷属たちが立ち並ぶ中イシュタルは思案にふけっていた。ランクダウンしたという話が本当だとすれば、自分が現在進めている殺生石の儀式など比べ物にならない力を手に入れることになるかもしれない。
しかも、下がったレベルが1つではなく2つというのも大きかった。レベル3だった
「素晴らしい。その力を手に入れれば、あの女に一泡吹かせるどころか、ファミリアごと滅ぼすことすら出来るな。」
「では、クラネル親子を捕まえますか?」
「だが、アストレア・ファミリアが連中の周りにいるという。今は遠征で出払ってるが、後数日で帰ってくるだろう。それまでに捕まえられるか?」
「ダンジョンに潜る時もアストレア・ファミリアと一緒だというしね。」
「それにあの隕石を落とすアイテムも脅威ね。後は空を飛ぶほうきを使われたらすぐに逃げられそう。」
「オラリオ内ではおいそれと使えないだろう。ダンジョン内ではわからないけど。」
「ならば、搦手を使おう。」
眷属たちがあれこれと話し合う中、イシュタルはある決断をした。すなわち、クラネル親子に対してハニートラップを仕掛けると。
そして、息子の方のハニートラップ要員として、真っ先にフリュネが名乗りを上げた。そして、全員から白い目で見られた。誰もが失敗を考えたが、イシュタルが笑いながらそれを認めたために、残念ながら実行に移されることになった。
ロキ・ファミリアの場合
アポロン・ファミリアとの戦争遊戯が終わってから数日後、ロキ・ファミリアでは幹部たちを集めて会議を行っていた。
「それで、先日の戦争遊戯についてなんやけど。なんや、あのごっつい魔道具の数々は! あんなん反則やろうが!!」
ロキ・ファミリアの主神である、ロキは戦争遊戯でクラネル親子が使った魔道具の数々をそう評した。この評価には、集まった面々も同意らしく、全員頷いていた。
「空を飛べる魔道具を使うとあんなに一方的な戦いになるのだと理解できた。それが故に、今後はヘスティア・ファミリアは勿論のこと、ヘルメス・ファミリアの
「回復アイテムだけでなく、あのような魔道具を作れる上に、強力な爆弾までをも錬金術師は作れるのか。何でも有りとしか言えんな。」
「爆弾については、
リヴェリアやフィンの言葉は端的にあの戦いをまとめていたが、それだけでは不十分だった。それほど、メティーの使った攻撃アイテムの衝撃は凄まじかったのだ。
「あの隕石を落とす魔道具も凄まじかった。魔剣というか錬金剣の一種かと思ったけど、それにしては余りにも異様だったから違うんだろうね。」
「恐らくベル・クラネルが所属する錬金術師の一派で作られている魔道具なんじゃろう。そよ風のアロマに鳥と陽の杖に続いて、あのような物騒な代物まで作ってるとはな。」
「全くもって、魔導師泣かせの魔道具だな。あんな威力の魔法を連発するなど、私ですら難しいぞ。しかも詠唱いらずと来た。あんな物がこの世にあるなど、いまだに信じられん気持ちだ。」
そして、話題はメティーが使ったメテオールへと移っていった。巨大な隕石を落として城を破壊するさまは、彼らに凄まじい衝撃を与えていたのだ。錬金剣や鳥と陽の杖もかなりの衝撃を受けたが、メテオールはそれ以上だった。
とにかく威力も凄まじかったが、それ以上に衝撃的だったのは凄まじい速度で連発していた事だった。これを魔法で再現することなど不可能だ。詠唱が必要な魔法は、速射性や連射性においてメテオールに劣ってしまう。
魔法を持っていなくても、無詠唱で攻撃魔法が使えるようになる錬金剣と回復魔法や支援魔法が使えるようになる鳥と陽の杖に続き、威力においてすらも魔法を超えるメテオールが現れたことにより、これまでの常識が塗り替わってしまったのだから。
「ティオナ、ティオネ、
「結構渋ってたけど、アミッドから何とか聞き出せたわ。母親の方が使った魔道具の名前は、メテオールって名前らしいわ。」
「それでね、死人が出ないようにかなり威力を押さえて作ったらしいということは分かったよ。ただ、全力で作ったらどうなるのかまでは分からないって。」
「あれで威力を抑えているのか…。」
「城が瓦礫の山だってのによぉ。」
最近少しばかりふっくらとしてきた双子のアマゾネスの報告に、フィンとベートは引きつった顔で呟いた。それほどメテオールの破壊力と速射性は凄まじかった。あれほどの速度で破壊を撒き散らした物を自分たちが再現しようとすれば、一体どれほどの魔導師の数が必要になるというのか。だが、それをメティーは1人でやってのけてしまったのだ。
しかも、あれほどの威力を出せるのは、ロキ・ファミリアではリヴェリアと条件付きだがレフィーヤくらいしかいないのでは、と思えるほどのものだった。
「ベル・クラネルはあれを作れないのかな?」
「作れないらしいよ。作るのはかなり難しいんだってさ。」
「アミッドも錬金術を学び始めたばかりで、分からないことが多いし、おいそれと話せないことも多いって言ってたけど。後は、オリンピアって所にメーテリア・クラネルの師匠と姉弟子が居るらしいってことくらいかしら。」
「師匠と姉弟子ね……。正直オラリオにいなくて良かったよ。あれ以上とか想像もしたくない。」
「そんなんどうでもいい。何であんなのが呑気に菓子屋なんてやってやがる。」
フィンがメティー以外の錬金術士がオラリオにいなくて安堵した一方、ベートはメティーが何故お菓子屋なんかをしているのかと訝しんでいた。あれほどの力を持っているにも関わらず、それをひた隠しにしているのを疑問に思っているのだ。
「この世には戦いを好まない人間もいるのだ、ベート。」
「メーテリアさんと話をした限りでは、冒険者と距離を置きたがっているように感じたわね。目立ちたくないし、一般人に寄り添いたいんだってさ。」
リヴェリアとティオネの言葉に、不機嫌な顔で「ふざけんな!」とベートは愚痴を吐き捨てた。彼の価値観からすれば、強大な力を持っているにも関わらず、それを使わないのは全くもって理解不可能だったのだ。
「ただ、彼女が戦いを好まない、暴力を好まない性格で良かったよ。もし、彼女が力で全てをねじ伏せようと思っていたなら、今頃オラリオは無事ではなかっただろうしね。城は無惨な姿になったけど。」
「ケッ、あのドチビにそんな度胸はないやろ。それよか、メーテリアっちゅう奴が恩恵を持たずに錬金術を使ってたっちゅう話はホンマなんか?」
「アミッドが言うには本当みたい。それと、恩恵を受ける前に
「ベル・クラネルも同じみたいらしいわ。恩恵を授けられたのは2ヶ月前。祝福のワインが出回り始めたのは、3ヶ月前だっていうから。」
「何処まで非常識なんや、あの一家は。母親と息子は恩恵なしですんごい薬や魔道具を作れて、妹は1か月でランクアップしてしもうたやないか!
ロキは、余りにも常識外れな一家に声を荒げた。ソファーの肘掛けについ拳を振り下ろしたが、残念ながらロキに痛みを与えるだけに終わった。彼女たちはメティーたちクラネル一家の情報はある程度集めていたが、それほど活躍していなかったイクセルのことは忘れ去られてしまっていた。哀れであるが、本人が知る由もないことが幸いかもしれない。
「私としては、メーテリアが最後に使った回復アイテムも気になるがな。あのような広範囲の者たちを癒せる回復アイテムがあるとは。そよ風のアロマよりも凄まじい範囲と効果だ。
「どう見ても死んでるだろうと思える者たちまでもが、立ち上がったのは面食らったな。黒焦げになった者たちまで全回復しておったぞ。千切れた手足すら元通りだからの。」
「メテオールとやらと見た目は同じだと言うのに、落ちてきたのは隕石ではなくお菓子。しかもそれで回復するというのだから、全くもって理解不能な代物だ。」
「それに加えて気になるのは、アポロンファミリアの団員たちが皆レベル1になった事だね。多分ベル・クラネルかメーテリア・クラネルのどちらかの使ったアイテムの影響だと思うけど。」
「怪しいのはベル・クラネルの使った毒薬と思われるものだな。あの黒い光に触れた者は、見るからに動きが鈍っていたからな。」
「回復アイテムを使っても治らなかったから、回復無効の呪いも付いてるんだろう。とことん恐ろしい毒薬だ。それを治したメーテリアの回復アイテムも凄いが、流石にレベルは戻らなかったか。」
「
大半の者がレベル1になったのはベルの投下した暗黒水による影響だったが、ヒュアキントス等の一部についてはメーテリアがはたきで滅多打ちにしたのが原因であった。“魂を吸収する”の特性がついたはたきで叩きのめされた彼らは、基礎アビリティのみならず、レベルまでをもメティーに奪われてしまったのだ。
特にヒュアキントスは、戦争遊戯が始まる前から既にレベル1にランクダウンしてしまっており、戦争前のステータス更新でその事を知った主神ともども、あまりの事態に気絶したほどだった。ヒュアキントスはそれを受け入れられずにいたが、メーテリアに再び滅多打ちにされたために強制的に受け入れさせられていた。
ちなみに、アポロンファミリアの眷属たちが全員レベル1になったことが広まると、ベルはレベル1にも関わらず【冒険者殺し】という二つ名で呼ばれることになる。冒険者の血の滲むような努力を無に返す恐ろしい呪いの使い手ベル・クラネルの名は、一気にオラリオに広がっていったのだ。
のちに、それを知ったベルは咽び泣くことになるのだが、それは別の話である。ベルは未だレベル1のために正式な二つ名ではなかったのが救いだろうか。
急に幹部たちの会話は止まり視線はレフィーヤへと移っていった。以前よりもふっくらとしているレフィーヤは現在、鳥と陽の杖を使いこなすための練習をしつつ、回復アイテムの使い方についてもベルから軽いレクチャーを受けていた。それを思い出した彼らはレフィーヤならなにか知っているかもと思い視線を向けたのだった。
「ひいっ! な、なんですか、いきなり!!」
「僕たちの中でベル・クラネルと仲が1番いいのは君だからね。」
「何か聞いてないかと思ってな。」
「な、仲が良いって、スウィーティーとかのお茶の入れ方や回復アイテムの使い方を教えてもらっただけですよ! そりゃ、お茶を入れる時に魔力を通すと効果が高くなるのは思ってもみない話でしたけど。あとは鳥と陽の杖の扱い方も教えてもらっています。あれってかなり扱いが難しいんですよね。」
「ああ、たしかに。私でも扱うのが難しいじゃじゃ馬だからな。だが、使える魔法の幅が増えるために修業をするというのは良いものだと思う。」
エルフの師弟は、何かと話題の白髮の錬金術士の少年が作り出した鳥と陽の杖について話し始めた。あの杖の存在を最初知った時は、誰でも回復魔法と支援魔法が使える代物だと思っていたが、それは大間違いだった。
あの杖の本質は、魔法使いの使う魔法の拡張である。恩恵を受けたものは、最大で魔法を3つまでしか持つことは出来ない。リヴェリアやレフィーヤと言った例外も存在するが、大多数の魔法使いは3つまでしか魔法が持てないのだ。
だが、鳥と陽の杖を使いこなせば、使える魔法が一気に2倍以上になる。使いこなせるようになるまでが大変だが、その価値は確実にあるのだ。
そのため、ロキ・ファミリアではまだ数本しか持っていない鳥と陽の杖を使いまわして、使いこなすための練習を日々行っていた。まだ成果らしい成果は出ていなかったが、将来のことを考えれば止めるわけにはいかなかった。
ちなみに、アストレア・ファミリアはある程度使えるものが4人もいると知って、ロキ・ファミリアは危機感を覚えていた。ロキ・ファミリアは都市最大級の派閥だが、アストレア・ファミリアは少数であってもオラリオの未来を左右しかねない錬金術士たちを事実上独占しており、彼らの作ったアイテムを潤沢に使っているであろうことは簡単に想像できることであった。
別に敵対するつもりはないが、最大派閥の片割れとして彼女たちに遅れを取るわけにはいかなかったのだ。
「僕はそんな事を疑問にも思わずに彼の作ったアイテムを使っていた。君がベル・クラネルに積極的に尋ねてくれたおかげで、魔力を通せば回復アイテムの性能が上がる事がわかった。だから、僕たちよりも彼について詳しいだろう。何か気になることを言っていなかったかい?」
フィンに言われて、レフィーヤは視線を上に向けて思案した。ベルと話した時間はそれほど長くはなかったけど、気になることはあった気がする。
「そう言えば、エルフが苦手だって言ってましたね。何でも、旅の途中に何回か襲撃を受けたとかで。この街のエルフはいきなり襲ってきたりしないから安心したって言ってました。」
「何をどうしたら襲われるんだ…。一体、彼らは何をしていたというんだ。」
「何でも、旅の仲間に精霊がいたらしいですよ。それで、精霊を解放しろって言いがかりをつけて襲ってくるエルフがいたって。正直、精霊と旅をするなんて信じられませんけど。」
「ほう、精霊か。今では明確な意思を持った精霊など目にかかることなど無いと聞くが。稀有な経験をしているのだな。」
「ホンマかどうかわからん話は置いとけ。他には何や、無かったんかいな。」
「後は、アイズさんの種族を気にしていましたね。本当にヒューマンなのかって。」
「……どうしてそういう話になるのだ?」
「なんでもその精霊がアイズさんに凄く似ているらしいです。」
その瞬間、アイズはレフィーヤの目前まで一瞬にして移動していた。
「レフィーヤ、その精霊の名前はなんて言っていたの?」
「アイズさん? えっと、その、アリアっていう名前らしいです…けど。あれ? アリアってどこかで聞いたような…。」
アリアという名前を聞いた瞬間、アイズの姿は部屋から消え去っていた。それにレフィーヤは目を白黒させる。その一方で、リヴェリア達三巨頭とロキは、驚きを顔にしており、アイズが消え去ったのを機にする余裕は無かった。
「風の大精霊なのか…?」
「やはり、黒竜を倒したのは【女帝】か。確か、7年前にメーテリアは【女帝】とともに行動していたはず。」
「【女帝】? 誰だそれは?」
「かつてヘラ・ファミリアの団長だった冒険者だ。レベルは9。」
「レベル9!?」
フィンの言葉にベートは驚愕した。レベル9など、
「といっても、レベル9だったのは15年前だけどね。今はどれくらいまでレベルが上っているのかは分からないよ。」
「恐らくレベル10かそれ以上か。でなければ、黒竜を倒せるはずもないだろう。15年前はゼウス・ファミリアと共に黒竜に挑んで敗北したがな。」
「もしかしたら、メーテリアとやらもそれ位の力を持っているのかもしれん。」
「……。とりあえず、クラネル一家を敵に回さないように気をつけて欲しい。これは皆に徹底して周知してくれ。彼女たちと敵対すれば、恐らく僕たちでも手を焼く相手だろうからね。」
ロキ・ファミリアの団長の言葉に反対意見を言うものは1人もいなかった。彼女たちはこちらと敵対する意思は見られない。ベルに至ってはロキ・ファミリアがお得意様になっており、友好的な関係を築けていた。
部屋にいた幹部たちはこれから彼らとどう向き合っていくかに気を取られてしまい、誰もアイズが部屋を出ていったのかを気づけなかった。
そのアイズは、自分の母とも呼べる風の大精霊の居所について聞き出すべく、ベルを探すために部屋を飛び出していた。レベル6に達した驚異的なステータスに物を言わせて、オラリオの街中を隈無く走り抜け、目当ての小兎を見つけると全力で駆け出した。
そして、アイズがベルを締め上げて、自分の母の居場所を聞き出そうとするまであと少し。彼女に手加減するという理性は最早残っていなかった。
ヘルメス・ファミリアの場合
「全く、あの一派はいつもこちらを振り回してくれるね。」
ヘルメス・ファミリアの本拠地の主神室で、ヘルメスは椅子に座って団長のアスフィ相手に愚痴を呟いていた。
「あの錬金術士の一派に関わった以上仕方ないことと思います。」
アスフィはため息を吐いてそうごちた。彼らと錬金術士との関係の始まりは、5年前に遡る。10年もの時間をかけてヘラを見つけ出したフリッツ一行だったが、そこでヘラと連絡を取り合っていたヘルメスと知り合うことになった。
黒竜討伐を目的に世界中を旅していたフリッツたちは、ヘラを説得して旅の仲間にすることに成功していた。そのヘラを介して、ヘルメスと誼を持つことになったのだ。
その後、ヘルメスの頼みで各地で封印されているモンスターを討伐したり、各地の問題を解決したりと、フリッツたちは奔走することになった。これはフリッツたちにとってもメリットがあり、封印されている強力なモンスターから得られるドロップアイテムや特性は錬金術士たちを喜ばせた。
また、モンスターたちのステータスを奪うことで彼らの戦闘能力は格段に上昇していき、レグナントなどは恩恵を更新する度に自らの主神に頭痛や腹痛を引き起こさせたりしていた。
その一方で、ヘルメスたちもフリッツたちの巻き起こす騒動に巻き込まれて、苦労したり奔走することになったのだが、ここでは割愛する。
「空を飛ぶことはともかくとして、隕石を召喚したり、絵の中に世界を作ったり、人を若返らしたり、賢者の石を大量生産して湯水のように使ったり、そんなの出来るわけがないじゃないですか! 何であの人達はあんな事ができるんですか!!」
アスフィは半分涙目で興奮しながら、錬金術士の異様さを力説していった。彼女は自身をオラリオでも有数の、ひいては世界でも有数の
だが、そんな彼女をもってしても作れないアイテムを次々と作っていく錬金術士たちに、彼女は戦慄し挫折したのだった。故に、彼女は錬金術士が自分とは全く違う存在である事を深く理解した。
彼女では作れないほどの高度な魔道具を作り、まるで神の奇跡を下界で再現するかのごときアイテムを次々と生み出す彼らをアスフィは苦手としていた。彼らの技術を見て盗もうとした。再現しようとした。だが上手くは出来なかった。
それでも、錬金術士の作るアイテムの一部を再現することに成功した彼女は、非凡な才能を持つことに間違いはなかった。
しかし、彼女が再現できたのはリフュールボトルやフラム辺りまで。生命の蜜やオリフラムなどに至っては、未だ再現する糸口を見つけることすら出来ていなかった。全てはじっくりと研究する時間がないのが原因である。
更に、彼らが材料や触媒にじゃぶじゃぶ賢者の石を使う有様を見て、彼女の心は折れかかっていた。最初彼らが触媒に使っている宝石が何かを知らなかった彼女は、気軽に考えていた。しかし、その宝石を分析した結果は賢者の石だったのだ。その日、彼女の胃は死んだ。
そんな彼女を見て同情したフリッツが弟子にならないかと申し出たが、彼女はそれを屈辱と感じて、反骨心から自分のやり方で賢者の石を目指そうと奮起しているところであった。
「救世を成し遂げたのは良いんだけどね、英雄になるのを否定した末にお菓子屋を始めたり、錬金術の学校を作ろうとするのは俺としては面白くないんだよな。
「あれのせいで、私たちはあっちこっち奔走することになりましたからね…。」
「それもこれも闇派閥のせいだけどね。だけど、闇派閥っぽいイケロス・ファミリアもどうやらモンスター化の呪いのせいで滅んだみたいだけど。はぁ、アストレア・ファミリアが
ヘルメス・ファミリアは、本来は
そして、どうもイケロス・ファミリアが両方の件に関わっているのではないかと言う疑惑が出てきたが、その矢先にイケロス・ファミリア壊滅の疑惑が出てきたために話が複雑になってしまっていた。
そのために、ベルが調合した道具や装備で強化されたアストレア・ファミリアが、18階層にあるだろう
「アポロン・ファミリアとの戦争遊戯もメーテリア君のせいであっさりと終わっちゃったし、面白くないなぁ。」
「退屈なくらいがちょうどいいと思いますよ。」
アスフィは、自らの主神の悪癖に心の底から呆れ返り、ため息を漏らした。この神には自分を自由にしてくれた事を感謝はしているが、自分をこき使う上に彼の趣味に付き合わされてしまうので、辟易としていた。
「ところで、俺達ってなにか大事なことを忘れている気がするんだけど、なにか分かる?」
「さあ? 分かりかねます。」
アルテミス・ファミリアの場合
白い髪の親子を彼女は探していた。数年前、エルソスの遺跡を破壊し、封印されていた古の強大なモンスター『アンタレス』を連れ出した*2奴らの数少ない手がかりは、白い髪の親子を見たという近隣の村人の証言だけだった。
メティーたちがエルソスの遺跡の攻略したのは、ヘラからの情報提供が発端だった。ゼウスも捕まえて旅の一行に強制的に加えた彼女たちは、強力なモンスターが封印されていると聞き、その話に飛びついた。
その際に、ヘルメスに遺跡を管理しているアルテミスにきちんと連絡するようにゼウスは頼んでいたのだが、盗みの神はその事をころっと忘れてしまっていたのだ。
その結果、強力な結界を破壊するために遺跡ごと爆破して侵入した彼女たちを、アルテミス・ファミリアは何年も探し続けていたのだ。
しかし、有力な手がかりはなく半ば諦めかけていた時、その情報は舞い込んできた。
「アポロンがオラリオを追放された?」
「ええ。なんでもヘスティア・ファミリアとの戦争遊戯で敗北して追放されたとか。」
「ほう、ヘスティアが下界に来ていたのか。機会があれば挨拶しに行くとするか。しかし何をしたのだ、アポロンの奴は?」
「さあ? そして、これが本題なのですが、ヘスティア・ファミリアの眷族に髪の白い親子がいたという話があります。」
アルテミスはその報告に、座っていた椅子から立ち上がり、眷属たちに号令をかけた。
「これよりオラリオに向かう。件の親子であるか確認する。もし、奴らであればエルソスの遺跡を破壊し、アンタレスを解き放った大罪人として捕えるのだ!」
アンタレスが倒されたことを、アルテミスに伝え忘れていたヘルメスのやらかしのツケが、クラネル家に降りかかろうとしていた。
アストレア・ファミリアの場合 その2
「なあ、オレっちはいつまであんたらに着いていけば良いんだ?」
「そりゃ地上に戻るまでよ。大丈夫、あなたを人間に戻せる薬が地上にはあるから、安心して。」
「オレっちは元々モンスターなんだけどなぁ…。」
人工迷宮の偵察の帰り道で、アストレア・ファミリアは同行者を1人増やしていた。彼の名前はリド。外見はまるっきりモンスターの
彼との出会いは、
ミノタウロスは本来レベル2相当のモンスターと言われているが、この時彼女たちが戦ったミノタウロスたちはそれを遥かに上回る力を持っていた。レベル4のリオンやライラたちが防戦一方になると言うと、どれほど強かったのかは分かるだろう。
そんな時に、リドが彼女たちに加勢したのだ。実際は、アストレア・ファミリアの後を追うようにフェルズから指示を受けたからだが。
彼の加勢に驚いたものの、リドが普通のモンスターでないことが分かり、ベルが作った不幸の瓶詰めや小悪魔のいたずら*3を使うことによって、何とかミノタウロスを倒すことが出来たのだ。
そして、今に至るのである。
「ありゃー、呪いのせいで記憶が混濁して、自分を化け物だと思い込んでるのね……痛ましいわ。絶対に治してあげるからね!」
「やべぇな。モンスター化の呪いがここまで進行すると、記憶を失った上に、自身をモンスターと思い込むのか。全く、どれだけ厄介な呪いなんだ。」
「呪いが進むとモンスターそのものになってしまうとは、何とおぞましいのだ。だが、あなたの精神性は人のそれだ。不幸中の幸いというものだな。」
「は、はひぃ。オレっちは元人間。呪いのせいでモンスターの見た目になった人間ですぅ…。」*4
人工迷宮で出会った人語を話せるリザードマン、リド。彼を連れてアストレア・ファミリアは地上へと戻るべく、ダンジョンを歩いていた。
その先にあるのは喜劇か悲劇か。
それを知るものは、まだ誰もいなかった。
とりあえずこれで本編は一旦終わります。(第1章完)
この作品でやりたかったことは、
・ソーマの弟子入り
・ベル、ヴェルフ、セシルのトリオの結成
・モンスター化の呪い
・アミッドの弟子入り
・魔法の絵
・メティーが強い冒険者を一蹴する(シアのオマージュ)
でした。
フェルズが肉体を手に入れる下りは、最初の予定にはなくて勢いで書きました。
アイテム図鑑は、今のベルの力では作れないアイテムを出すために書いたので、そこまで本編には絡みません。(絡むときもある。)
なお、最後のリドのシーンを書きたいがために、モンスター化の呪いを出しました。アストレア・ファミリアが地上に連れて行ってしまい、凄い騒動になると思いますけど。(ノープラン。)
色々と伏線めいた話を書きましたが、回収できない話もあるかもしれません。その時はごめんなさい。
第2章は、この話に出でてきたファミリアとの話を書きたいです。書けたら良いなぁ。
ベル君が万能厄除け香を作れるようになるのは、もっと先になると思います。
おまけ
アイズとアリアについて(独自設定)
アリア
アリアはフリッツたちに着いていき、現在オリンピアにいます。使命を果たし終えたので気楽に余生を送っています。
なお、アイズが生存していることは知らないです。1000年前の人間だし、もう生きていないだろうと思っています。子孫がいたらいつか会いたいと思っている程度です。
アイズ
自分にとっての英雄が現れることはなく、自ら戦う機会もないまま黒竜が名前も知らない誰かに倒されたので、一時期無気力になっていました。
でも、アリアが生きている可能性を信じて行動しています。もっともオラリオから旅立つことは出来ないので、旅人や商人から細々と情報を集めている程度しかできていません。
ヘラやレグナントなど
ダンジョンの少女とアリアとを結びつける情報がないために、2人の関係について気づいていません。
アリアからは、可愛がっていたアイズという子どもがいることを聞いていたが、同姓同名の別人だと思っています。