軌道上、オペレーションルーム、チライの背筋が凍った。
喉の奥が震え、声にならない。
レモも目を見開く。
「くっ……誤作動じゃ……ない……」
パラガスの生命反応が消えた。
そして次の瞬間、別の警告が重なる。
エネルギー値・異常上昇
対象・ブロリー
チライは不安で震える。
「な…何これ…?」
そして、その異常値を感知したかのように、戦場のメタルクウラたちが一斉に動いた。
全機が、ブロリー一点へ向けて殺到する。
レモが叫ぶ。
「おいおい……!ブロリー一人に集中攻撃かよ!!」
チライは震える指で通信スイッチを叩きつけるように押して叫ぶ。
「ブロリー!!逃げて!!逃げて!!ブロリー!!」
だが返答はない。
通信の向こうでは、戦場の轟音だけが響いていた。
チライは、それでも叫び続ける。
「ブロリーーー!!!」
メタルクウラの群れが一斉にブロリーへ殺到し、光線が雨のように降り注ぐ。空中の一点が白く染まり、爆発が連鎖し、誰が見ても内部の者は消し飛んだと思える攻撃。
だが、その白光の中からブロリーが姿を現す。
「うあああああああああああ!!!!!」
激昂。
突撃してきたメタルクウラの胸部を、ブロリーの拳が貫く。
背後から迫る一体を、裏拳で粉砕。
両側から同時に掴みに来た二体を大の字に広げた手の平から、気功波を放ち吹き飛ばす。
正面から光線を撃ちながら突っ込んでくる群体。
ブロリーは避けもせず、その攻撃をくらいながら突っ込み、拳、蹴り、一発で次々と粉砕して行く。
チライはブロリーの生存に安堵しつつも不安が拭えない。
「…な…なんなのこの力……ブロリー…!」
オペレーションルームに異常値感知の警報が鳴り響く。
金色の光が弾け、金属の外殻が次々と砕け散った。
ブロリーは圧倒的だった。拳が振るわれるたびに衝撃波が走り、メタルクウラが空中で粉砕されていく。金属片が雨のように降り注ぎ、空が光の破片で満たされる。
メタルクウラの群れはブロリーに引き寄せられ、その隙にコアコンピューターへ向かう道が開いた。
この作戦の目的、ただの殲滅ではなく、量産の根源、その施設をを破壊する事。
ムスターは驚愕しつつも叫んだ。
「な、なんて力だ!!……けど……今だ!コアへ行くぞ!」
声は戦場の轟音にかき消されそうになりながらも、確かに仲間へ届いた。
ブロリーは、理性を失い、ただ目の前の敵を破壊し続けている。
ムスターは、決断した。
「奴が引きつけているうちに、僕たちでやろう!」
ハムムが頷き、アカッゴが震えを抑え飛ぶ。
三人は金色の嵐から離れ、地下へ続く裂け目へと飛び込んだ。
背後では、ブロリーが咆哮を上げ、その声が戦場全体を震わせていた。
ハムム、ムスター、アカッゴの三人は、地表へと降り立った。
地表は赤熱し、クレーターが無数に広がり、吹き上がる熱風が砂を巻き上げている。その中心、コアコンピューターへ続く巨大な裂け目が口を開けていた。
だが、そこにも立ちはだかる影。
アカッゴが震える声で言った。
「……戦闘力、空中の個体以上……!」
ハムムと、ムスターも理解した。
「今日中に仕留めないと、どんどん強くなる可能性があるってことか…」
「僕たちだけじゃ、この数に対抗するのは無理だ……瞬間移動を駆使して滑り込む!」
ムスターが叫んだ。
「アカッゴ!あれをやる!」
ハムムは頷き、アカッゴへ視線を向けた。
「フォローたのむ!!」
アカッゴは即座に反応した。
「了解……!」
少女の体が光り、気が最大まで引き上げられる。
防護壁を最大出力で展開しメタルクウラを阻む。
その隙に、ハムムとムスターが左右へ跳んだ。
二人は地面を蹴り、左右対称の奇妙なステップを踏み始める。
腕を伸ばし、腰を落とし、まるで踊るように、しかし正確に。
二人の声が重なる。
「フュージョン!!はっ!!」
光が爆ぜ、二人の体が重なり、一人の合体戦士が誕生した。
高度な気のコントロールを有する者だけが可能な合体術。
その戦士はアカッゴへ向けて親指を立て、満面の笑みで叫んだ。
「サンキュー!アカッゴ!ハムスター参上!!もうなんの心配もないぜ!!」
誕生した合体戦士の能力は凄まじく上昇する。だが何故か、性格がお調子者になってしまう欠点があった。
ハムスターはポーズを決め、地上を守るメタルクウラへ向き直った。
「さぁ行くぞ! コアをぶっ壊す!!」
ハムスターとアカッゴがコアへ向かおうとしたその時。
轟音とともに、金色の光が一直線に地表へ突っ込んでくる。衝撃波が周囲を薙ぎ払う。
「うおおおおおおおお!!!!」
空中のメタルクウラを全滅させたブロリーが、そのままの勢いで地表へ降り立った。メタルクウラが反応し、ハムスターを無視してブロリーへ襲いかかる。
だが、ブロリーの拳が振るわれるたび、金属の外殻が砕け、メタルクウラが破壊される。
ハムスターはその光景に呆然とする。
「な…なんなんだ…あいつ…」
アカッゴは、これがサイヤ人というものかと恐怖する。
ハムスターは拳を握りしめ、叫んだ。
「と、とにかく!あいつが引きつけているうちに、コアへ行くぞ!」
アカッゴは頷き、二人は金色の嵐から離れ、地下へ続く裂け目へと走り出した。
地下へ続く裂け目を抜け、アカッゴとハムスターはコアコンピューターへ向かって走っていた。すると、またしても通路の奥から複数の金属の影が姿を現した。
ハムスターは構えを取り気を高める。
「来たな……! ここは突破するしかない!」
アカッゴも構え気を集中させる。
三人が同時に戦闘態勢に入った、その瞬間だった。背後から、空気が裂けるような轟音が迫ってきた。アカッゴが振り返るより早く、金色の光が通路を貫いた。
「うあああああああああああ!!!!!」
ブロリーだった。
金色の暴風が一直線に突っ込み、メタルクウラの群れを次々と粉砕していく。ハムスターとアカッゴは構えたまま固まる。ブロリーは止まらない。通路の奥へ突っ込み、メタルクウラを破壊しながらさらに進んでいく。
「え…?」
残された二人は、ただ呆然とその背中を見送るしかなかった。
ハムスターとアカッゴ、二人は一瞬呆然と立ち尽くすも、ハムスターは気を取り直して言った。
「…と…とにかく、僕たちはコアを破壊する!」
アカッゴは深呼吸し、震える手を握り直した。
「…はい…!」
ブロリーが通路の奥へ突っ込んでいったあと、アカッゴとハムスターは再び走り出した。だが、通路全体が震え始めていた。
アカッゴとハムスターは、ブロリーの気の流れを感知する。
ハムスターは、アカッゴを制し足を止めた。
「まずい……コアどころじゃない……!!!」
通路の奥から、脈打つ異常な巨大なエネルギー、不気味な圧力が空気を押し潰していた。
ハムスターはアカッゴの腕を掴んだ。
「アカッゴ、脱出する…!」
アカッゴは怯えて頷く。
ハムスターの瞬間移動。
二人が現れたのは、軌道上で待機していた母船。
突然の出現に周囲の隊員たちが驚く。
アカッゴは震える声で言った。
「エネルギー……暴走……」
ハムスターは地表を映すモニターを指差した。
「見ろ……!」
金色の光が爆発した。
コアコンピューターがあると見られる地下区画が光に飲み込まれていく。
金色の爆発が地表を貫き、コアごと周辺の施設を完全に消し飛ばした。
母船の隊員たちは言葉を失い、ただその光景を見つめるしかなかった。
金色の爆発が収まったあと、地表には巨大なクレーターが残り、その中心でブロリーが荒い息を吐いていた。
アカッゴは震えながら解析する。
「エネルギー…が……まだ上昇中……」
ハムスターは驚愕する。
「あいつ…鎮まるのか…?」
コアを吹き飛ばした後も、ブロリーは無茶苦茶な破壊を繰り返していた。
船内に緊急アラートが鳴り響く。
地表のコアが消滅し、ブロリーが暴走状態にある。その報告が次々と飛び込んでくる。チライとレモも、その情報を聞いた瞬間、顔色を失った。
チライは端末を掴み、震える声で言った。
「ブロリーが……暴走……?……暴走って何の事……!!?」
レモも驚く。
「おいおい……マジかよ……作戦成功ってことだよな……?」
チライは不安に駆られ、端末の通信画面を開き、ブロリーの個人チャンネルへ接続を試みる。
「ブロリー!聞こえる!?返事してよ!!」
通信は雑音しか返さない。地表の映像には、金色の光をまとったブロリーが、荒い息を吐きながら立ち尽くしている姿が映っていた。
チライは叫ぶ。
「お願いだから……返事して……!」
レモも息をのんで見守る。
「何が起こってんだ……」
通信は沈黙したまま。
ただ、地表のブロリーの気だけが、さらに高まり続けていた。
チライの声をかけ続ける。
「お願い……聞いてよ……ブロリー……!」
そのやり取りを、近くにいたハムスターが聞いていた。
彼はチライを見つめ、静かに問いかけた。
「君、あの人と親しいのか?」
チライは驚いたように瞬き答えた。
「…ああ、大切な仲間だよ…!」
ハムスターは言った。
「それなら、なんとかなるかもしれない」
チライは目を見開いた。
「どういうこと!?」
ハムスターは説明する。
「僕の術の補助で、スピリットに語りかければ……届く可能性がある」
チライは首をかしげた。
「スピリット? なんだかわかんないけど……方法があるなら協力して!」
ハムスターは頷き、手を差し出した。
「わかった。じゃあ僕につかまって。瞬間移動をする」
チライは意味が分からない。
「瞬間移動……?」
だがチライは迷わなかった。
「あいつを助けられるなら、なんだってやる!」
チライは、ハムスターのの手をしっかりと掴む。
アカッゴも補助のために同行する。
瞬間移動が発動する。
チライ、アカッゴ、ハムスターの三人は、地表の巨大クレーターの縁に立っていた。熱風が吹き上がり、地面はまだ金色の余熱で赤く染まっている。
その中心に、ブロリーがいた。
金色の光をまとい、荒い息を吐き、破壊力を持つ暴風が荒れ狂っている。
アカッゴが全開で防御壁を出力する。
チライは思わず息を呑んだ。
「ブロリー……」
その声は震えていた。
恐怖ではない。心配と、焦りと、どうしようもない想いが混ざった声だった。だが、ブロリーは反応しない。ただ、荒い呼吸を繰り返し、次に何を破壊するかもわからない危険な状態だった。
ハムスターはチライの肩に手を置き告げる。
「今から術を展開する。君とブロリーのスピリットを繋げる」
チライは頷く。
「スピリットって、よくわかんないけど……それで届くなら、やって!」
ハムスターの周囲に淡い光が広がり、空気が震え始める。
「行くよ……スピリット・リンク!」
チライとブロリーが光で繋がる。
チライは震える手で胸を押さえ、金色の暴風の中心に立つブロリーを見つめた。
「ブロリー……聞こえる……?」
スピリット・リンクの光が揺れ、チライの声がブロリーの心へ流れ込んでいく。
暴走の中心で、ブロリーの動きがふっと止まった。
金色の光がわずかに揺らぎ、荒い呼吸が一瞬だけ弱まる。
チライはその変化を見逃さなかった。
胸の奥が熱くなり、堪えていたものが一気に溢れ出す。
「ブロリー……聞こえてるんだろ……?」
声が震える。
「さあ…!一緒に帰ろうぜ……!」
言葉が途切れ、喉が詰まり、それでも必死に続けた。
「作戦は成功だ…!お前のおかげでな…!」
チライの目に涙が浮かぶ。
「もういいんだ……!こんなとこで暴れてないでさ……!」
声が震え、涙が落ちる。
「うまいもんでも食いに行こうよ……!好きなもん腹いっぱい食えるぜ……!お前の稼ぎだ……!」
アカッゴは歯を食いしばり、防御壁を維持していた。
ハムスターは術を維持しながら、アカッゴへ声をかけた。
「アカッゴ、防御壁を解除してくれ」
アカッゴは驚き、振り返った。
「それは……危険すぎます!この距離で壁を外したら……!」
ハムスターは言った。
「スピリットをより深く届けるには、遮るものがないほうがいい。彼女の声を完全には届けなくてはならない」
ハムスターは続けた。
「君の壁がなければここまで来れなかった。でも今は…彼女の声に賭けるしかない」
アカッゴは震えながら覚悟した。
「…わかりました…」
防御壁がゆっくりと消えていく。
空気が一気に重くなり、暴風が身体を叩きつける。ブロリーの気が直接肌を刺すように押し寄せてきた。
チライは涙を拭いもせず、ブロリーへ向かって一歩踏み出した。
「そうだ…!オーブン買いに行こうぜ!でっかい最新式の奴をさ…!」
ハムスターの術が光を強め、チライとブロリーのスピリットがさらに深く繋がっていく。アカッゴは震えながらも、その光景を見守るしかなかった。
チライはブロリーの瞳を真っ直ぐに見据えた。
涙で滲んだ視界の向こうで、ブロリーもまた震えながらチライを見返していた。
その時。
暴風に巻き上げられた金属片が、弾丸のように飛んできた。
チライの腕を深く切り裂く。
「うぐっ……!!」
鮮血が飛び散り、チライの体が一瞬よろめく。
だがチライは倒れなかった。
痛みに顔を歪めながらも、ただブロリーだけを見つめ続けた。
チライの腕から大量の血が流れ落ちる。
ブロリーの瞳が大きく揺れた。
「あ……ああ……チライ…!」
ブロリーの金色の光がふっと消えた。
髪が黒へ戻り、瞳の光が弱まり、全身の力が抜けていく。
そして、そのまま気を失った。
巨大な体が前のめりに崩れ落ちる。
アカッゴは震えながらも、落下するブロリーを必死に受け止めた。
「う……うう……近づくの……怖い……」
小さな体で、暴走していた怪物を抱きとめる。
ハムスターは術を解き、深く息を吐いた。
チライは血の流れる腕を押さえながら、ブロリーの名を呼んだ。
「……よかった……戻ってきてくれ…たんだな…」
暴風は止み、地表に静寂が戻った。
チライ、アカッゴ、ハムスター、そして気絶したブロリーは、母船の医療区画に移動した。医療スタッフが一斉に駆け寄り、チライの深い腕の傷を見て顔色を変える。
「この人の治療を!急げ!」
チライは担架に乗せられながらも、視線だけはブロリーから離さなかった。
「……ブロリー……」
ブロリーは別のベッドに運ばれ、巨大な体を静かに横たえていた。
黒髪に戻り、呼吸は荒いが安定している。
医療区画の外では、銀河パトロールの隊員たちがざわついていた。
「おい……あいつか……?」
「暴走状態でコアを消し飛ばしたって……」
「目覚めても大丈夫なのか……?」
誰もが恐怖を隠せず、ブロリーの眠る部屋を遠巻きに見ていた。
合体の解けたハムムとムスターはその視線を感じ取りため息をついた。
「……まあ、気持ちはわかるけどね。あれを見たら、誰だって怖くなる」
応急処置を終えたチライは、包帯を巻かれた腕を押さえながらも、
医師の制止を振り切って医療区画を飛び出した。
「待ちなさい!まだ安静に…!」
「後で!今はあいつのとこ!」
痛みと出血で足がふらつき眩暈がする。それでもチライは走った。
ブロリーが眠る部屋の扉を開ける。
大きな体が静かに横たわり、黒髪が枕に広がっている。
チライは駆け寄り、震える手でブロリーの手を強く握った。
「ブロリー……!」
ゆっくりと、ブロリーの瞼が開いた。
「……チライ……」
チライは目を潤ませながら笑った。
「良かった……! 正気なんだね!」
ブロリーは弱々しく頷き、握られた手に力を込めた。
「チライ……無事で……よかった……」
その言葉に、チライは泣きながらブロリーの胸に顔を埋めた。
「バカ……!心配させんなよ……!」
医療区画の外では、銀河パトロールの隊員たちが戦々恐々とその様子を見守っていた。
「……本当に大丈夫なのか……?」
「暴走したら、また……」
「…あの女が暴走を鎮めたって……?」
誰も確信は持てなかった。
だが、絶望的に思えた作戦を成功させたのもまた、彼の力あっての事だと理解していた。
ブロリーが目を覚ましたあと、チライはその手を強く握りしめたまま、涙をこぼした。
「パラガスさん……死んじまったんだな……」
その言葉に、ブロリーの瞳が揺れた。
チライは続けた。
「お前がずっと……たった二人きりで過ごしてきた大切な家族だもんな……
お前がああなっちまうのも……しかたないさ……」
ブロリーの喉が震え、声にならない声が漏れた。
「……父……さん……」
チライは泣いた。
「まったく…!この世界ってのは…!なんでこう…!つくづく…!悲しく出来てるんだろうな……!!!」
父の死を、これ程までに悲しんでくれる人が自分以外にも居る。ブロリーにはそれが嬉しかった。
チライは涙を拭い、ブロリーの手をさらに強く握りしめた。
「でもな!」
その声は震えていたが、芯の強さがあった。
「今はお前は一人きりじゃないだろ!」
ブロリーは驚いたように目を見開いた。
チライは涙をこぼしながら笑った。
「私がいる!レモがいる!!パラガスさんの事だって、私たちが覚えてる!」
ブロリーの瞳が潤み、震える手でチライの手を握り返した。
「チライ……」
チライは鼻をすすり、優しく言った。
「だからもう……あんなムチャはすんじゃねえぞ!」
ブロリーは小さく頷き、涙をこぼした。
「……うん……もう……しない……」
その言葉に、チライはようやく安心したように息を吐いた。
そして、ブロリーの手を離さずに寄り添い続けた。