5連続出走だ! ダービー!!   作:首領ドラコ

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最終話 異国の地にて

 スズカがレースに出走できるまでに回復したのは、翌年の4月のことだった。それと同時にクソ面倒な処理を終わらせた俺達は、満を持してアメリカに逃げた。日本に未練がないと言えば嘘になるが、しばらく戻ることはないだろう。

 

 

 これは一時的な遠征じゃない。俺とスズカは本格的にアメリカで活動することになる。留学生という扱いだが、日本からアメリカへ渡るウマ娘は少ないので、ロクに整備されていないガタガタの制度を乗りこなした結果だ。もちろん理事長にも協力してもらった。

 

 

 再びレースに出られるまでは本当に長かった。異国の地にたった二人で乗り込んだのだ。慣れないこともあったが、俺達はマネーパワーで大抵の問題を解決してきた。海が近い場所に家を借りて、夕方には買い出しのついでに二人で散歩する。それが何日か続いた頃にはそれなりに現地に適応していたと思う。

 

 

「あー米が食いたい」

「その……まだこっちに来て二週間ですよ」

 

 

 晩は俺の部屋に集まって料理をする。といっても俺の部屋はスズカの隣だけど。自炊なら栄養バランスを管理しやすい上に、好みの味に作り上げることができる。ピザとステーキには三日で飽きた。

 

 

「明日はレースだろ。今日は早めに寝ろよ」

「はい。おやすみなさい」

 

 

 結局のところ、アメリカに来たのは逃げだ。日本に置いてきたいくつかの問題は根本的には解決していない。

 

 

 この先スズカが全力を出して走ることはないし、あの景色にたどり着くことも二度とないだろう。脚が治っても見えない傷を負ったままだ。

 そして俺はスズカ以外のウマ娘を担当することはないし、できないだろう。それくらいのことをやらかしたのだ。トレーナーを続けられるだけでも十分だと思う。

 

 

 俺達は幸せにはならなかったけど、不幸にもならなかった。二人で傷を舐め合うように、手を取り合って生きていく。そんな結末が意外としっくりくるのだ。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 サイレンススズカは窮地に立たされていた。約六ヶ月ぶりの復帰戦は外国で初見のレース場。しかもコースはダートだった。

 

 

 アメリカではダートのレースが主流であり、その規模や格は芝のそれを遙かに凌ぐ。サイレンススズカは芝専門のウマ娘として活動するという選択肢もあった。それでもダートを選んだのは本人の強い希望である。

 

 

 気がかりなのはプリン頭のことだった。浴びせられる批判から逃げるようにアメリカへ来たのはいいが、いずれは名誉を回復させたいとサイレンススズカは考えている。

 

 

(私は……勝って証明する……)

 

 

 サイレンススズカはその方法を一つしか知らない。レースで勝てばいいのだ。勝っているうちは文句を言われない。味方が勝手に増えていく。世の中の問題は爆走することで全部解決する、とサイレンススズカは経験から知っていた。そしてダートで勝つことが栄光を掴む条件である。

 

 

 つまり勝てばいい。いつも通りのことだ。例えどんなに自分が不利でも、負ける理由にはならない。不甲斐ないレースをすれば批判の材料を与えてしまうことになる。だからこそ、この一戦目は必ず勝たなくてはいけないのだ。

 

 

 慣れない環境で、それでもスタートを成功させたのはサイレンススズカの意地だった。その勢いのまま先頭を進む。何もかも普段と違うレースの中でも、サイレンススズカの行動はシンプルだ。スタートから先頭に立って、そのまま突き進む。

 

 

 序盤に距離を稼ぎ、中盤にその差を広げ、終盤でリードを守り切る。

 その様子を見たファンは、いつまでも変わらない走りに安心感を覚えた。わざわざ日本から駆けつけたファンは数知れず。サイレンススズカの復帰戦ということでレース自体の注目度も尋常ではない。

 

 

(脚が軽い……)

 

 

 そんな思いを知ってか知らずか、サイレンススズカは加速し続ける。久方ぶりのレースで彼女の心を占めていたのは得も言われぬ充実感。頬に当たる風の強さが、景色が溶けながら流れていく様子が、どれも懐かしい。

 

 

 感じていた重圧(プレッシャー)など置き去りにして、サイレンススズカはレースをエンジョイしていた。日本にいた時に比べれば格段に遅くなっただろう。しかしそんなことを嘆く余裕はないくらい、走ることは楽しい。

 

 

 そうしてサイレンススズカは逃げ切った。変わらぬ強さを見せつけて。

 

 

 かつてのサイレンススズカは、際限のない速さを求めていた。先の見えない旅の果てで、掴んだ答えはすぐに手放してしまった。

 

 

 それに比べれば、誰かのために走ることなど造作もない。たしかにサイレンススズカは遅くなった。それでも構わないと思えるようになったのは、彼女にとって大切なものがもう一つ増えたから。

 

 

(勝って証明する……私達が過ごした時間を、努力を。誰にも否定されないように)

 

 

 あの1年間は、サイレンススズカにとって宝石のような日々だった。二度と戻ってこないもの。その光を頼りに、この先何十年も走り続けることができるのだろう。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ここ2年足らずで、アメリカのトゥインクルシリーズの勢力図は大きく塗り替えられた。日本からやってきた先頭民族。レコードホルダー。大陸間弾道ミサイルSUZUKA。

 

 

 仰々しいあだ名が指しているのはたった一人のウマ娘だ。彗星の如く現れた新たなスターは、瞬く間にトゥインクルシリーズを席巻した。幾度となくGⅠを戦い抜いて未だ無敗。怪我の一つもなく突き進むその姿に、現地のファンは魅了された。

 

 

 最強のウマ娘が異国からの刺客なのはいかがなものか。それを言ったファンは別のファンに真顔で問われた。「じゃあアレに勝てるのか」と。最初から最後までずっと先頭。戦術も駆け引きも存在しない究極のパワープレイは、アメリカでも普通に通用した。

 

 

 否、以前の栄光を塗り替える勢いで、サイレンススズカは勝ち続けた。日本で無敗だった最強のコンビはアメリカで猛威を振るうことになったのだ。日本で最高峰のレースを勝ち続け、故障を経て海外へ飛んだがそれでも負けなかった二人である。

 

 

 誰もが理解を放棄した。とりあえず、強い。それだけは確かだ。

 

 

「──意外と早く戻ってくることになったな」

「流石に……少し緊張しますね」

「俺だってそうだよ」

 

 

 アメリカの地で最強を手に入れたサイレンススズカは、ジャパンカップに出走するために帰国することになった。日本とアメリカのトゥインクルシリーズを荒らしたコンビが、まるで取りこぼしたレースを回収するようなノリでやってきた。

 

 

「リベンジ、だな。秋天の続きをやってる気分になる」

「今度は勝ちますよ。勝って、無事に帰ってきますから」

 

 

 遠回りになったが、また続きから始めよう。ゲームでも史実でもない二人の物語を。

 

 




完結しました。最後までお付き合いいただきありがとうございました!
評価や感想がモチベーションになって最後まで書き切ることができました。本当にありがとうございます。

作者の活動報告にあとがきらしき文章があるので読みたい人はどうぞ。

今日がスズカさんの誕生日ということで、キリよく終わりたいと思います。誕生日おめでとう!
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