乙宗家で未来、梢、花帆の三人で作曲をしてから二日後。トレーニング室にDOLLCHESTRAの二人の姿があった。
「こうやってこうなって、こうなって」
綴理は、考えた振り付けを踊っていた。
「で、こうなって」
「な、るほど、それで〆ですか?」
しかし、さやかの表情は良くなかった。
「から、こうやってこう」
「えーっと!」」
「感想募集中」
綴理の振り付けが悪い訳ではない。悪い訳ではないのだ…
「沙知先輩に贈る曲の振り、なんですよね」
「そう」
「そう、ですね。ひとつひとつの振りに想いが感じられて、積み重ねたものが表現されているような気がします」
「きっとこずもめぐもみくも、伝えたいことはいっぱいあるからね」
「とはいえ…んー…正直に言うと、あまり纏まりがないような…」
「やっぱり?ボクもそう思う。でも、どれも外せないんだー。どうしたらいい?」
さやかが感じた違和感は、綴理も感じていた。
そして、その解決案をなんとさやかに聞く事にした。無茶にもほどがある。
「っ、どうしたらいい!?ええ~っと、それは…!!」
「…あの、これってでも、二年生から沙知先輩に贈る曲、っておっしゃってましたよね?」
「うん」
「わたしに話して良かったんですか?」
「うん、だってボクの全力を出さないといけないから」
「そ、そうですか。ではわたしも、一助になれるよう粉骨砕身努力しなければいけませんね」
綴理の言葉を聞いたさやかは、覚悟を決めた。
「んー…僭越ながら、やっぱり振りが多すぎるのと、どれもばらばらなのが気になります」
「でも、多いのは、1個も落としたくないんだ。全部、思い出だから」
思い出に対して特にこだわりを持つ綴理にとっては、ひとつでも外すなんて選択肢は無いに等しい。
「それは」
「だから、そうだね。さやの言う通り、ばらばらなのをどうにかできればいいね。1本のリボンがほしい」
「…それはつまり、この振りをまとめるための軸のようなものでしょうか」
「うん。気持ちを詰め込んだプレゼントの…1番大事な見た目の部分」
「…分かりました。お手伝いできることがあるなら、なんでも言ってください」
「ありがと、さや、じゃあ、行こう」
「はい、…ぅ、え?どこにですか?」
綴理の唐突の発言に困惑するさやかだったが、二人は学校の外へと出ていくのであった。
******
二人の姿は、金沢市内にあった。
「向こうの方だ」
「綴理先輩、赤信号です、危ないですって」
綴理は、周りが見えてなくて、赤信号なのに飛び出しそうになった。
それをさやかが止める。
「あ、ごめん。止まるべき」
「はい、止まるべきです。学校出てからずっと空見上げて…どこ行こうとしてるんですか?」
さやかが綴理に聞くと、綴理は空を見上げた。
「雨降ってるとこ」
「…雲、追いかけてたのかあ…」
綴理の言葉で、さやかも気付いた。
「…雨、降ってるとこ。そっか、そういうことですか。ちょっと待ってくださいね。今、金沢全体の天気を…」
さやかは自身のスマホで天気予報を検索する。
「見つけました!雨の降っている場所。小雨ですが…きっと、行く価値はあります」
「ほんと?よし、行こう」
「でも…ふふ、綴理先輩が、沙知先輩と楽しくお話するようになって、本当に良かったです」
「そうだね、さやのおかげ…本当に」
「…元通りになったのなら、それが一番素晴らしいことかと思います」
さやかがそう言うと、綴理は首を横に振った。
「元通りじゃあ、ないんだ。昔のボクは、ろくにお礼も言えない子だったから…」
綴理はそう言って、昔の事を思い出す。
それは、未来、梢、綴理、慈の四人が入ってしばらくしてからの話。
「ねえ、さち」
「ん、どうしたんだい」
「言われた通り、スクールアイドルクラブに入ったよ。あとはどうやったら、ボクはスクールアイドルになれるの?」
「んーんーん」
「スクールアイドルっていうのは、自分がスクールアイドルだと思えれば、みんなスクールアイドルなんだけども…」
「?」
「そもそもキミ有名人だろ?外部のダンスクラブ含め、引く手あまただろうに、どうしてスクールアイドルクラブを選んでくれたんだい?」
「みんなでやりたいし」
「みんなで…なるほど。…孤高の存在として持ち上げられていた裏側…なんで、仰々しいことを言うつもりはないけれども…」
「?」
「キミはもう、いつでもスクールアイドルで良いんだぜ?」
「んー…だとボク、たぶん今『ス』だから」
「スクールアイドルの『ス』ってこと!?み、道は厳しいねぇ!?」
「スクールアイドル見習いのスだよ」
「道は果てしないねえ…でも、そうだねぃ、こういうのは、ぱっと出来るものでもないか。あるいは…ひとつひとう、積み重ねていく他ないのかも…」
「さち?」
「安心したまえ、綴理。キミはこの3年の間に、必ずスクールアイドルになれる」
「ほんと?」
「ああ、まず、その一歩目は…」
『あたしとーーDOLLCHESTRAをやろう』
そして、時は現在に戻る。
******
「あ、降ってきた」
綴理が思い出に浸かっていると、自身の額に雨粒が当たった。
「今日この辺りは、少しだけぱらつくみたいです。とはいえ、傘がないので、入りましょうか」
さやかが指差す先には、もうお馴染みの所だった。
「入る…あ、そっか、この辺って」
そう、スクールアイドルクラブにとっては、馴染みのある近江市場だった。