更新が不定期すぎますけど頑張っていきまーす
ナザリック地下大墳墓 第九階層 ロイヤルスイート
至高の四十一人に与えられた個室の一つ。
その中央、豪奢な寝台に一体の魔物が伏せていた。
どうしよう。
どうすればいい。
しかしそのモンスターの内心は荒れていた。
わかってはいる。
あの日、外に出て空の美しさからふと出た
「世界征服なんて面白いかもしれないな」
という一言。
勢いのままに冗談めかして言ったその一言。
だが隣にいたデミウルゴスは違った。
その一言は計画になり、理念になり、
いつの間にか“当然の未来”になった。
ナザリックのNPCは、至高のお方に対して世界をささげるのは当然だというように動いている。
気付けば計画書が積まれ、
気付けば根回しが済み、
気付けば実行案が出来上がっていた。
カルネ村侵攻案の最終認可書類が回ってきたとき、心臓があれば止まっていたかもしれない。
(私は、そこまで考えていない)
それでもNPCたちは疑わない。
自分が彼らより賢く、深慮遠謀で、
すべてを見通している存在だと。
……困る。
ベットに伏せていてもどうしようもない。
柔らかすぎる感触。
かつての世界の自分には縁のなかった贅沢。
そこに身を預けつつ、近くから
映るのはカルネ村。
外は夜なのであろう。空は暗く、そして家々には月明かりに照らされている。
夜。
家々の灯り。
煙突から立ちのぼる煙。
家から漏れる温かい笑い声。
元の世界と違い、この村は不便だ。
だが――なぜか落ち着く。
鏡を操作し、一軒の家へ鏡を向ける。
質素な木造の家。
そこには四人の家族がいた。
父親。母親。
そして金髪のおさげをした姉と赤髪の妹。
夕食を前に笑いあっている。
(………………。)
目がそらせない。
母親が、皿を差し出しそれを姉妹が元気よく机に運んでいく。
湯気の立つおいしそうな料理。
(オムライス………………。)
ふと、記憶が走る。
あの世界ではほとんど手に入らない卵とご飯。
不格好な形。
『失敗しちゃったけど』
そう言って笑った母の顔。
「…………」
胸の奥が軋む。
――精神安定。
感情が霧散する。
骨の体には血も涙もない。
鏡では、四人が食卓を囲んでいた。
父親が笑っている。
(……私は何をしている)
他人の家を盗み見る。
人として最低だ。
だが視線は離れない。
カルネ村を見つけてから、これが日課になっていた。
侵攻すべきだと進言する者は多い。
地上拠点に最適。
政治的にも利用価値が高い。
正しい。
理屈は正しい。
(だが)
もし自分が関われば。
あの笑顔に、ひびが入る。
自分が触れれば、世界は変わる。
鏡を閉じる。
転移から一週間。
恐怖公と隠密部隊による周辺調査は順調だ。
近隣都市エ・ランテル。王国。帝国。地図は揃いつつある。
だが、自分は一歩も外へ出ていない。
ノック。
「モモンガ様、執務のお時間が」
「ああ」
感情を切り替える。
少なくとも、彼らの理想でなければならない。
骨の頬を軽く叩き、立ち上がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ナザリック地下大墳墓 第十階層 執務室
「なるほど。リエスティーぜ王国はここ数年で目覚ましい発展をしたと。」
「はい。詳しくはこちらの報告書に。」
玉座の間には、私の他に秘書としてのアルベド。
そして、目の前には王冠をかぶったゴキブリがいた。
それは儀礼がかった丁寧な仕草で私の執務机に書類をおく。
アルベドは微笑みながらも、虫の王からわずかに距離を取っている。
「恐怖公いつも助かっている。そなたの、虫が各地を調べることで様々な情報を得られている感謝する。」
「いえいえ、モモンガ様に支えることこそ、我がのぞみ。」
と、返される。
本当に整った所作だ。
恐怖公が、出ていくの見送った後、渡された報告書を読む。
書類に目を通す。
王国。前王のランポッサ三世が急死して以降、若き王子が実務を担い、立て直したとある。
(優秀な王か……)
もし会えればこの現状を相談できるやもしれない。
いや、さすがに無理か。
ここ一週間で、多くの情報が集まった。
付近の国の情報も大方、調べ上げ、ここから先はいざどのように動くかを決めなければならないフェーズに入ってくる。
「モモンガ様、緊急でご相談したいことが。」
執務室入り口から声がかかる。
声質的にセバスであろう。
「入れ。」
「は。」
と、扉が開かれる。
扉が閉まると同時に臣下の礼をする。
「突然の入室申し訳ありません。」
「かまわん。要件は?」
と、一週間でようやく慣れてきた魔王のロールを意識する。
「は、ナザリック周辺のダミーの山付近に冒険者と思わしき影が。」
「………………。」
………………。
冒険者???
まさか、あそこまで隠したのにばれたのか?
マーレが手を抜くことはありえない。
「どのような姿をしていた?」
「全員女性のようです。3人おり、一人は大柄の女性。身長の低い女性とロングヘアの金髪の女性です。またトブの森方面に二人。仮面をつけた女性がいます。」
「モモンガ様。討伐のご指示であればすぐに。」
「まて。」
と、止める。
どうしよう。アルベドやる気になってるし…。
内心パニックになるのを自覚しつつ、対処を考える。
攻撃。いやだめだ。
えっと、大柄の女性と、仮面の女性………………。属性盛りすぎじゃないか。そんなことはいい。
仕方がないので落ち着くためにも恐怖公が持ってきたレポートをめくる。
あ………………。
「セバスよ。」
「は。」
「もしかしてその冒険者は、このような姿をしていなかったか?」
と、ページの一枚を見せる。
そこには、王国アダマンタイト級冒険者、青の薔薇
と書かれたページがある。
「は、その通りです。」
あぶなかった~。
恐怖公のレポートに助けられた。
いや、そんなことより。そのページを読み込む。
最上級冒険者。この世界でトップ。
この世界の実力がわからない以上安易な排除は危険。
沈黙。
アルベドが一歩出る。
「討伐のご命令を」
「待て」
自分の声が、思ったよりも冷静に響く。
ではどうするか?
ナザリック全勢力であれば叩き潰せるかもしれない。
正直、実戦経験がない以上何が出てくるのかわからない。
また、最上級冒険者が死んだとなれば王国にばれると、ここに何かがあることがばれてしまう。
であるならば。
「歓迎する。私が出向く」
空気が凍る。
「モモンガ様、自ら……?」
アルベドの瞳が揺れる。
「最上級であれば、この世界の情報を握っている可能性が高い。敵対よりも、まずは観測だ」
理屈は通る。
有無を言わさず、私は執務机から立ち上がった。
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