「あら、お帰りなさい、お兄様。」
「生きて帰ってこられたのですね、お兄様。」
聞き慣れた声。
王城、自室。
扉を開けた瞬間。
そこには、我が物顔でくつろぐ二人の妹がいた。
ラナー。
そして妹であるミラー。
二人は窓際のティーテーブルを挟み、優雅に紅茶を飲んでいる。
香りの良い茶葉。
そういった情報に疎い自身でも知っているほど、限られた店でしか手に入らない焼き菓子。
磨かれた銀食器。
そして。
その横に積み上がった、大量の書類。
「……お前たち。」
ザナックはそれだけ言って。
もう何も言う気力がなくなった。
そのまま、重たい身体を引きずるようにしてベッドへ倒れ込む。
柔らかい。
だが休まらない。
エ・ランテルまでの長距離移動。
神にも等しい存在との会談。
意味の分からない圧力。
疲れが、全部まとめて押し寄せていた。
「まあいい……。」
ぼそり。
「もう突っ込むのも疲れた。」
「張り合いがありませんね。」
「そうねぇ。」
二人はくすくす笑う。
「勘弁してくれ……。」
本気だった。
この姉妹が自分の部屋で待っている時点で、
ろくでもない話が追加されるのが確定している。
まあ、今回のところは予想はできるが…。
それを話すこと自体が、少し嫌になっていた。
「そんなことないわ。」
「そうですよ、お兄様。今回は私たちもちゃんと働いたのですから。」
しれっと返される。
視線を向ける。
ティーテーブルの端。
そこには、山積みだったはずの書類が綺麗に片付けられていた。
決裁済み。
分類済み。
署名待ちまで整理されている。
自分が不在だった一週間分。
それがほぼ終わっていた。
「……。」
ありがたい。
ありがたいのだが。
「で?」
ザナックは天井を見たまま言う。
「今度は何を企んでる。」
「あら、失礼ね。」
「私たちはいつだって王国のためですよ。」
「その言葉を信じられるほど楽観的じゃない。」
即答だった。
ラナーは小さく笑う。
ミラーは楽しそうに焼き菓子を口へ運んだ。
そして。
ラナーが紅茶を置く。
「それで?」
金色の瞳が、まっすぐこちらを見る。
「会ってきたお方は、どういう方だった?」
部屋の空気が少し変わる。
ザナックはゆっくりと目を閉じた。
やはり、本題はそれか。
思い出す。
死そのもののような骸骨の王。
だが同時に。
妙に人間臭かった存在。
王として振る舞いながら、
時折、妙に気安い空気を見せた男。
そして。
自分と同じように、
苦労しているようにも見えた存在。
「……。」
なんと言えばいいのか分からない。
神。
怪物。
支配者。
どれも間違ってはいない。
だが。
「……普通の男だった。」
ぽつり。
思わず、そんな言葉が漏れた。
一章 完
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2章出来上がり次第投稿していきます
meigetu先生の次回作にご期待ください。