葬送のフリーレン ~ 鋼の英雄の物語 - Path to Stahl - ~   作:rvr75_raiden

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■イントロダクション

■ 独自キャラクター

- シュタアル(Stahl) : 主人公。シュタルクとフェルンの間に生まれた長男。このお話では10歳。素直な性格の青紫の髪と三白眼が特徴の少年。魔力出力控えめで身体能力と創意工夫で補う日々。
- エイル(Eir):ゲナウとメトーデの一人娘。9歳。魔法協会屈指の両親を持つ少女。生真面目な性格だが、それ故に思い悩みやすい。誕生日が近いが我儘で困らせたくはないと欲しいぬいぐるみを父に言えずにいる。
- ヘリヤ(Herja): ユーベルとラントの娘。10歳。自由奔放な性格であり、身近に自分に合わせられる子が居ない特異性に退屈さと言う名の孤独を感じている少女。シュタアルの偏った能力に興味を持つ。
- ヴィダル(Vidar):ユーベルとラントの息子。8歳。姉のへリヤに振り回されつつも常にフォローをする少年。父と同様に理屈屋でちょっと皮肉な口調が目立つ。隠匿系の魔法が得意。
- 千里眼のヴィゾール(Visor): 魔族。全身が包帯で包まれた不気味な見た目。何かを探す目的で協会に恨みのある魔法使いを集めて騒ぎを起こそうとしている。

■ あらすじ

魔法協会からある日届いた召集令。これに声が掛かったのはクレ地方のフェルンと付き添いでシュタルク。帝国領近郊からユーベルとラント。オイサースト内からはゲナウとメトーデ。
ゼーリエからは、次世代の魔法使い達を見たいと彼らの子供も同伴することになる。
オイサーストへは転移ゲートで来たシュタルクとフェルン、そして2人の子のシュタアル。しかし、転移中のふとしたトラブルでシュタアルは転送先で準備中だったエイルを押し倒してしまう。
謝罪することも叶わず、そのまま頬を打たれ、エイルは逃げてしまい、シュタアルはフェルンから謝罪と仲直りを命じられる。

翌日、両親達が謁見の間で話をしている裏でシュタアルはエイルに謝罪を試みる。しかし、彼と同様にオイサーストに訪れていたユーベルとラントの娘のヘリヤに声をかけられる。
彼女のちょっとした悪戯に対して、100%の形で応えてしまったシュタアルはヘリヤに気に入られると同時にエイルを再度怒らせてしまう結果となる。

結局時間切れとなってしまい、それぞれの思惑と感情が拗れあったまま……彼らはゼーリエへの謁見の間足を踏み入れるのだった。




魔法都市と巡り合わせの輪舞曲 中編 〜Spiral Waltz of Oisaast〜【幕間1】

■生きた魔導書と呼ばれるもの


 

魔法協会の謁見の間の最奥の玉座に座る人物。

神話の時代から存在していると言われる生きた魔導書ゼーリエ。

その姿を初めてみたシュタアルの感想としては、当人が聞けば不貞腐れそうだが……

『フリーレンによく似ている』だった。

うまく説明できないがそう感じた。

もちろん見た目は言うほど似てないのだが、見ているとどうしても思い出してしまう。

 

「遠方からわざわざよく来てくれた」

 

玉座に頬杖をつきながらゼーリエは少年達に声をかける。

現在この場には……

 

シュタルクとフェルンの長男のシュタアル

 

ゲナウとメトーデの一人娘のエイル

 

ラントとユーベルの子供のヘリヤとヴィダル

 

何もまだ魔法使いの資格も持たない子供達が並んでいた。

 

ブロンドの髪と白いシルクのローブを着たエイルは一歩前に出て膝をついて応える。

 

「ご無沙汰しておりますゼーリエ様。

 本日は未熟な我々に謁見の場を頂きましたことーー」

 

「ーーエイル、かまわん楽にしろ。

 立礼でいい。現状私はお前達の教師でも上司でもない」

 

そう言って薄く笑うゼーリエにエイルは躊躇った。

 

「しかし……私達は……」

「エイル」

 

そう強く言われるとエイルも従うしかない。

しぶしぶ彼女は立ち上がった。

 

一歩下がった彼女を見たもう一人の少女ヘリヤは小さな声で「まっじめ〜」と呟く。

 

エイルはそんなヘリヤと目があったが何も言わずに正面に向き直った。

 

(……ちょっと怖いんだけど!)

 

そんな二人の少女の間に立つことになっていたシュタアルは内心怯える。

今し方、ようやく名前を知ったエイルともう一人の少女。

ここに来るまで会話もしないと思ったら仲が悪いのだろうか。

 

だからといって、両端に立ってピリピリするのはやめてほしい。

 

「直接顔を合わせるのも初めての者もいるか。私がゼーリエだ」

 

簡単な自己紹介をしたゼーリエにヘリヤが反応した。

 

「えーと、ゼーリエ……様?

 私達ってそもそもなんで呼ばれたの?」

 

敬意のない口ぶりに斜め後ろにいたヴィダルが「姉さん!」と小さい声で抗議をあげる。

しかしゼーリエはあまり気にした様子もなく、続ける。

 

「お前が、ユーベルとラントのところのヘリヤか。いい度胸をしている」

「どーいたしまして?

 それで、どうしてなの」

 

ヴィダルは「だめだこりゃ」とでも言いたげに顔を抑えている。

 

「まあ、強いて言えば、一級魔法使いに選出したお前たちの親から産まれた子供達の資質を見てみたかった。

 エイルの方は、何度か見ているからある程度は知ってはいるが……

 日々鍛錬は怠っていないようだ。その歳で大したものだ」

 

そう言われたエイルは少し照れた様子だったが恭しく頭を下げた。

 

「私は?」

「お前は、魔法はどこで教わった?」

「パパとママから、あとは帝国内の学校で勉強したりとか」

「帝都ではないのか?」

「危ないから駄目って」

 

「ほう」と目を細めるのは彼女の様子に関心を示したのだろうか。

 

「それでそこまで鍛えたのなら大したものだ」

 

と言われて、少女は「どーも」と納得したようだった。

 

「で、お前が……フェルンのところの子供か……」

「え、あはい。俺は……」

「構わん。フリーレンから手紙越しに聞いている」

 

そう言われたので黙ったが、フリーレンから聞いているならなぜ指名したのかと思わないでもない。

 

「何故お前を呼んだのか?という顔だな」

「ええ、まあ……身内に色々いると自分が魔法使いとして呼ばれた理由がわからなくて」

 

母のフェルンとフリーレンは言うに及ばず。

風邪で来なかった妹のティアフォートは母譲りな才能で掛け値なしの天才だ。

さらに、姉弟子も凄まじい勢いで上達していくのを見ている。

何故俺がここに、と思わないほうがおかしい。

 

「お前が考えている以上に、私はお前にも期待している」

 

と、言われるとドキッとしてしまうが……

いや、おかしいだろうと考え直す。

 

「わからないか……例えばシュタアル。お前は20m先の的を魔法で打ち抜けるか?」

「え、あ、はい。一応」

 

「そう、それは普通の魔法使いが一般攻撃魔法を使っていれば簡単なことだ」

 

そう言われてシュタアルはちょっと嫌そうな顔をした。

ゼーリエはそれをニヤニヤ眺めているが2人の少女は少し不思議そうな顔をする。

「シュタアル、そこの2人にお前のやり方を教えてやれ」

「うっ……、その……魔力の球体を作ってですね…」

 

聞きなれないプロセスにエイルの頭の上にはてなマークが上がっている。

 

「こう……ぎゅと固めると……消えにくくなるんですよ。だから、それを右手で持って……」

 

「え……まさか……?」

ここまで来れば答えはわかる。そして、噴き出す一歩手前の表情をしたヘリヤが、先を期待するように問う。

 

「こう、投げる……」

投擲のポーズを取ったシュタアルの様子に、その場が一瞬静まり返った。

 

「ぷっ!……あはは!魔法を投げるの?!すごいわ!」

シュタアルの説明が期待通りだったのかヘリヤがお腹を抱えて笑い出した。

 

「……撃ち出さないの?」

という素朴な疑問はエイルのもの。

 

「……普通に撃つと届かないんだよ」

シュタアルはひどく気まずそうに答える。

 

そこまで黙って聞いていたゼーリエが、補足するように説明し始めた。

 

「魔法の遠当ては、魔力総量、魔力出力、魔力制御それぞれをバランスよく持つことが必要だ。

 まあ20メートルでは遠当てにもならんが……シュタアル、お前はそれが一般攻撃魔法では出来ない。

 だが結果だけを見ると、お前は目的を達成している。

 今の協会にこれを評価する基準はないだろうが、私は評価してもいいと思っている」

「う……」

 

魔法使いのトップがそう言うなら喜んでいいのだろうか、シュタアルは少し顔を赤らめた。

 

「今のお前の教師……正規の魔法使いではない者が教えているな。

 おそらくフェルンやフリーレンはそんな方法を思いつかない」

「まあ、はい……ある意味手段を選ばない人です」

「その教えは大事にしろ。お前の人生を左右するぞ」

 

『どんなに弱くても力は力であり、それは手札だ』と教えてくれた人物が遠回しに褒められて、少し嬉しかった。

 

「はい……」

「ただし……だ。

 そこにいる三人がお前の説明を疑問に思ったのは至極当然の反応だ。

 さっきも言った通り普通の魔法使いにとってそれは造作もないことであるのも事実。

 励め。考えろ。お前の目指す到達点はそこにはないだろう」

「……」

 

そうして子供達と話し終えたゼーリエは、今日の本題を切り出し、彼らに一つの提案をした

 

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

謁見の間を後にし、父と母が待つ場所へと向かう途中

 

「特待生枠……」

 

ゼーリエから告げられた言葉をエイルは反芻する。

現在オイサーストに設立されたばかりの、引退した一級魔法使いレルネンが運営するオイサースト高等魔法学校。

そこに、特待生の枠を設けるという。

もちろん彼女たちの年齢的には少し先のことだが……

優先申し込み資格を彼らに用意するということだ。

 

特待生となれば様々な優遇措置があるが、中でも上級魔法使いの指導を受けられるのが大きい。

彼女にとって両親は優れた魔法使いだが、個別指導となると、忙しい両親にはなかなか難しい。

 

活用するべきだろう。

 

他の面々はどう受け取ったのだろうか?

特にあの少年は……シュタアルはなんとも言えない顔をしていた。

 

「来るのかな?」

 

なぜか気になった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「姉さん……」

「何?」

「ゼーリエの最後に言ってたこと、どう思う?」

 

ヴィダルが言っていたのは特待生のことだろう。

 

「面白そうだわ」

「そう……」

 

少女の瞳には確信めいた予感があった。きっとまた巡り会う。

今は遠くても、いつか必ずその機会は訪れる。

ならば最速で最短距離を行き、その権利を掴み取るのが良いだろう。

 

「パパとママに相談かな。私が居なくても大丈夫だって」

「駄目とは言わないだろうけど……」

「ヴィダルはどうするの?」

「姉さんを放ってはおけないでしょ……まあ、同時に進学はできないけど」

 

「新しい環境は……楽しみね」

 

その言葉を聞いたヘリヤは、いつものように挑発的な笑みを浮かべた。

 

■蠢くもの


 

オイサーストから5km程離れた場所にある隠れ家。

髪を後ろに縛った背の高い奇妙な男。彼は現在ヴェノムと名乗っている。

 

雇い主から言われた、千里眼のヴィゾールという魔族への協力のために各地から集めた魔法使い崩れ達。彼らは大小様々な協会に対する恨みを持っている。

 

ヴィゾールの依頼はとにかく協会で騒ぎを起こせということだ。

騒ぎに乗じて何かを探したいらしい。こいつはこいつで雇い主から何かを依頼されて動いている。

 

それぞれの望みのために集まった魔法使い崩れ達。

要求は様々だ。協会管理の遺跡の開放、占有している魔法の権利の放棄、魔法協会が抑えているアーティファクトの譲渡などである。

 

ヴェノムにとってはくだらないことだが、彼らは真剣だ。だからこそ価値がある。

 

(十分に踊ってもらおう)

 

集めた魔法使い崩れに渡したのはヴィゾールの用意したアーティファクトのようなもの。

これを使って、騒ぎを起こしてもらう。キーは1級魔法使い達の子供達。

 

「というわけで皆さん、作戦はいかがですか?」

「これは、本当に大丈夫なんだろうな」

 

男たちが心配しているのはアーティファクトの方。

ヴィゾールが作ったそれは魔族の魔法が封じられたもの。

 

「さっきテストしたでしょう? もう一度自分たちに使ってみてはどうですか?

 あ、魔力のチャージ代は次からいただきますよ」

 

「ぐ……」

 

先ほど実演した際、見事に捕縛されたのだ。文句はあるまい。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「ヴェノム」

「はいはい、なんですかー?」

 

男に声をかけてきたのは包帯だらけの見た目の魔族のヴィゾール。

 

「先にも言ったが、お前は目立つなよ」

「わかったといったじゃないですかー。信用ないなぁ……」

 

ヴェノムはヴィゾールの忠告に興味なさそうに手を振って答える。

 

「……今回クレ地方から件の魔法使いが来ている。お前の腕を切り落とした連中だ」

「へえ……」

 

ヴェノムの口調の温度が僅かに下がった。

 

「お前のそれはまだ馴染むのに時間がかかる。今しゃしゃり出ても負けるだけだ」

「……そうかよ」

 

男が忌々しげに言うのは、一度敗北した相手、英雄シュタルクへの恨みがあるためだ。

そして、その家族たちにも随分とやられた。

 

「お前はお前の仕事をしろ。私の邪魔をしてくれるな」

 

腹立たしいが、まだ準備は終わっていない。復讐は深く刻み込まねばならぬ。

 

「あれから5年ほどかァ……今日来ているのもいつかのクソガキかな?」

 

そう言いながら男は感慨深げに空を見上げた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「おい、信頼できるのか?」

 

そう言ったのは魔法使い崩れのローブの男の一人。

彼らが着ているのはオイサーストでは比較的一般的に利用されている魔法使いのローブだ。

 

「木を隠すなら森。

 魔法使いの多い都市ではあの連中が行動するより俺たちのほうが適しているということだろう。

 信頼する必要はない。利用させてもらおう」

 

そんなことを相談している。脳天気なことだ。拮抗する力もないのに権利だけを主張する……

 

(平和とは恐ろしいねぇ)

 

別の部屋から、伝えた作戦通りオイサーストへの移動準備を始めた男たちを覗き、ヴェノムはため息をついた。

 

「さて、荷馬車の準備でもしますか」

 

男たちを運搬するため、ヴェノムも準備を始める。

5km も歩かせると魔法使い崩れの連中はバテかねない。

 

■それぞれのご家庭事情


 

ゼーリエの謁見から戻ったその夜。ゲナウとメトーデは居間で話をしていた。

 

「魔物を操る連中か……」

「ええ、フェルンさんやシュタルクさんたちの報告からも、ある程度そのような技術を使う者が出る可能性はあると」

 

ゼーリエから受けた報告は各所から集めた情報を元にしたもの。

人の歴史にない類の魔法を使った妙な現象。人を害するはずの魔物を操る者。

あるいはそれを提供する勢力。

 

「なんにしても、見つけ次第排除して情報を収集するだけだ。後の世代に残すわけには行かない」

「そうですね……、あら……」

 

ふと何かに気づいたメトーデ。そして、その様子を見たゲナウも気配を察した。

 

「エイル……どうした?」

 

扉からこちらを覗いていた娘に声をかけた。先程までの話を聞いていただろうか?

軽々に漏らしていい話ではないが、信頼できるものの範疇では各人の判断に任せるというのがゼーリエの方針だ。

 

「どうしたの……?」

「……、あの相談したいことがあって……」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「高等学校の特待生枠。ですか」

「はい」

 

その話を聞いたゲナウはレルネンの計画していた次世代の魔法使いの育成の報告書を思い出した。

 

「なるほどな……」

 

オイサーストの高等魔法学校自体が、非常に優秀な人間を集める育成機関となっており、オイサーストの島に数年前から併設された施設となっている。

 

「エイル、お前はどうしたい?」

 

ゲナウは娘の目をまっすぐ見て問う。

少女はわずかに俯いた後、こちらを見つめ返してきた。まっすぐで力強い眼差しだ。

 

「私……行きたいです」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

ドアをノックする音に返事をすると入ってきたのはミルクティーを持った母のメトーデだった。

 

「お母さん」

「少し……どうかしら?」

 

ドア越しに聞いてくる母を部屋へと招いた。

 

「ああいうことなら、お父さんにはっきり言えるのね」

「……」

 

そう言われたらそうだ……どうしてだろうか。

メトーデはゆっくりとベッドの隣に腰掛けてきた。そのままそっと抱きしめてくる。

いい匂いがする。

 

「あれはあなたの覚悟で、わがままじゃないですものね。お父さんとお母さんのため?」

「……」

「お父さんもお母さんも、貴女がしたいのなら賛成するわ。

 でも、もう少し誰でもないあなたの望みで進んでほしいの。

 今はわからなくていい。それだけは心の片隅においておいて」

「はい……お母さん」

 

そう答えると、メトーデは優しく微笑んで頭を撫でてきた。

そんな状態で母の体温を感じていると「ところで……」と声のトーンが変わる。

 

「あの子はどうするの?」

 

脳裏にピシッと言う音がなった気がした。そう言えば、あの後結局全く会話をしていない。

 

「客観的に見るとシュタアル君、可哀想だったわ」

「だって……あの人……失礼だし……変だし……えっちだし……」

 

その言葉にメトーデはくすくすと笑い出した。

「あなたがそう言いながらも、なんとなく気にしている様子はよく伝わるわ」

「気にしてません! 付き纏ってくるから」

反論するも、メトーデはなお嬉しそうに笑っている。

 

「きっと、あなたとお友達になりたいのよ」

「友達……」

「道案内をしようとしてくれたこと。すごく嬉しかったからありがとうって伝えておいて欲しいって」

 

そう言ったメトーデは「そろそろ時間ね」と言って立ち上がった。

 

「転移ゲートの再チャージまでまだ数日ここには滞在するそうよ」

「……はい」

「もう少しお話してもいいと思うわ。折角の機会だもの。

 シュタアル君だけじゃなく、ヘリヤちゃんだったかしら彼女ともたくさんお話してみなさい。

 お友達はあなたと違う色んな考え方を教えてくれるわ。もしかしたらお父さんにお誕生日のプレゼントおねだりする方法も知っているかも」

「……それは魔導書でも――」

 

いいかけた言葉をメトーデは人差し指をエイルの口先に添えて止めた。

「まだ日はあるから、もう少し考えてみなさい。お父さんはきっと待ってるわ」

そう言ってメトーデはドアを開けて部屋を出る。

 

「おやすみなさいエイル」

「おやすみお母さん」

 

母を見送ったエイルはそのままベッドに横になった。

「お友だちか……」

 

確かにそれは、自分とは異なるものだ。

彼らはどう生きているのだろう? 自分の果たすべき使命と願いと、我儘と同折り合いを付けているのだろう?

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

ラントとユーベル一家の宿泊施設は、オイサーストにある貸家一軒を丸ごと借りたものだ。

管理も行き届いており、ベッドも柔らかく、ヘリヤはそこそこ気に入っている。

 

「というわけで、中等部ぐらいからこっちに来て特待生枠を狙うわ」

 

ヘリヤは威風堂々と両親に宣言する。

 

「んー。私はいいけど?あなたはどう?」

「……分かるけど……君達はどうしてそんなに行き急ぐの……」

 

頭痛が痛いという風体でトレードマークのメガネを抑えるラント。

そんな夫を見たユーベルはニヤニヤ笑う。

 

「目的に一直線て方法、私は好きだわ」

 

そうだろうなとラントは思う。一級試験と特権授与が終わると、彼女はゼーリエから受けた任務とともに真っ先にこちらへ来た。

今にして思えば、当時からずっとそういう指針で生きているのだろう。

 

「……反対はしない、しないけど色々準備させて……無計画に娘を一人生活させられない」

「心配性ね……私達もついでにオイサーストに移り住む?」

「任務あるでしょ」

「分身体の単身赴任という手が」

 

出来なくはないが、長期の場合は維持する魔力コストが無視できない

 

「父さん、母さん、僕も行くからそれでいい?

 寮に入る形なら僕らだけでも生活できると思うし。ヘリヤ姉さんも、僕の中等部進学までせめて待ってよ」

 

と、折衷案を投げてきたのはさっきまで黙っていたヴィダル。

 

「……わかった、その方針で前向きに検討するから……取り敢えず二人共離して」

 

ねーねーねー、としがみついていた二人を一旦引き剥がす。

配慮してくれるヴィダルがいて助かる。「ありがとう」と頭を撫でると

 

「いいよ、姉さんは……僕が面倒を見る」

 

ヴィダルはそう小さく呟いた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「――って、ゼーリエ様が」

 

本日言われたことをざっと両親に説明するのはシュタアル。

高等学校や特待生については、そういう制度があるとだけ伝え、ゼーリエから受験資格を与えられたことは伏せた。

 

こういうものは嘘をつくとすぐにバレる。

何故だかわからないが父と自分の嘘は母に一瞬でバレるのだ。

 

つまり、本当のことの一部で隠蔽する、という方法だ。

 

「……なるほど」

 

どうやら話自体はそのまま受け取ってくれたようでシュタアルは安堵する。

 

今日出会った大人達や同年代の子達を見て、シュタアルが出した結論は

「高等学校行っても場違いすぎる」というのがシュタアルの見解。こういうのはティアフォートが行くべきだ。

 

というわけで、いったんパス!というのが少年の結論。

なお、この行動が数年越しに巨大な落雷を呼ぶことになるのだが、それはまた別の話。

 

「ゼーリエ様、お前の努力を褒めてくれて良かったな」

 

頭の上に乗ってくる温かな手は父のもの。

 

「そうですね。私やフリーレン様ではあまりその発想には至りませんでした」

 

フェルンから出た言葉はゼーリエ様の言った通りだ。

というか、そもそも二人は投擲だとその距離が届かない。

放物線を描くように投げれば届くかもしれない、という程度だ。

 

「でもその先に目的の到達点はないって」

「シュタアル、あなたの目的は代替手段で似たようなことをすることではないはずです。それを理解していれば自ずとわかってくると思います」

「うーん……」

 

ゼーリエも母も少し抽象的な言い方をするのでシュタアルは頭を捻る。

その様子にシュタルクはそっと助け舟を出した。

 

「俺は魔法使いじゃないから実際の所は分からないけど、お前には常識的な概念を破壊して欲しいんじゃないかな。

 魔力的なハンデがあってもいろいろな手段があって、魔法を諦める必要はないっていう」

「そうなのかなぁ……」

 

努力はしている。何が出来ないのではなく、出来ることで何をするかを重視している。

だがこれは、ある種の戦士の理屈だ。それでいいのだろうか?

 

「あなた望みに必要なことを努力しなさい。きっと答えはそこにある」

「わかった……」

 

ちょっとした隠し事にチクリと痛みを感じつつも、両親の言葉を心に刻み込み、シュタアルは頷いた。

 

「さしあたっては、件の仲直りの件ですね。どうなりましたか……?」

 

やはりそこを突っ込むか……と思いつつ、シュタアルは紆余曲折の末にうまくいかなかったことをたどたどしく説明するのだった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

嫌がるシュタアルを締めあげて、今日も川の字で眠る。

中央でスースーとフェルンにしがみつきながら寝息を立てているシュタアルをみながらシュタルクはぼやく。

 

「こいつ……なんでこんなにモテてるの?」

「シュタルク様がそれをいいますか?」

 

妹二人はいいとして、フェルンの教え子のルーエには随分気に入られている。

昨日今日出会ったという二人も聞く限りでは……という感じがする。

 

「俺モテた覚えないけど」

 

そういうと、膨れたフェルンはぽかぽかと叩いてきた。

 

「いた、いたた。シュタアル起きるからやめて。

 そうね、フェルンにモテてました!」

 

叩いてくるフェルンに必死のフォローを入れる。

叩くのはやめてくれたが膨れた顔はそのままだ。

 

「その言われ方は心外です。まるで出会った最初から好きだったみたいじゃないですか」

「え、そうじゃなかったっけ?」

 

というと、フェルンは流石に吹き出した。

「それぐらいの自意識持っていてくれたらもっと色々早かったと思いますよ。勘違い甚だしいですけど」

「だよね……」

 

まあ、そういう関係ではなかったからこそ、こうなったのかもしれない。

そんな、フェルンに触りたくて彼女の頬に手を添えたらその手を取ってきゅっと握られた。

不意に目を瞑った彼女の小さなサインを見落とさないよう……少しずつ顔を近づけようと――

 

「……トイレ」

 

―― その瞬間、ムクリとシュタアルが起き上がって部屋を出ていった。

当然、シュタルクもフェルンも勢いよく仰向けの姿勢へと戻った。

 

「あぶな……まあ、川の字で寝るってそういうことだよね」

「そうですね……」

 

夫婦は苦笑いを交わし、そうして夜は更けていった。

 

■君に届けと歩き出した


 

翌朝、目が覚めると父と母からキツめのハグロックを掛けられていることに気づいてシュタアルは目覚めた。

 

「……なにこれ?」

 

いや、今5歳で可愛い真っ盛りの妹のエリシアなら分かるけど……ちょっと自分は勘弁いただきたい。

……と本人は思っているのだが、実際親から見ると可愛さに大差はなかったりするのだが、この辺はシュタアル本人からはわからないものである。

 

「ふんぐ!!」

 

と言いながら必死に抜けようとすると、二人が起きた。

 

「……おはようございます」

「おはよう、父さん、母さん

 動けないから離してくれる? 特に父さん」

 

という感じで始まった朝。

用意してあった食材でフェルンが3人分の朝食を作り、それを食べてからひとまず今日の予定を確認する流れとなった。

 

「クレ地方への転移ゲート開放は魔力のチャージと準備の都合で明後日の予定です」

「んじゃ、みんなのお土産を買ったりする時間あるな」

「そうですね。お土産は買っていきましょう」

「シュタアルはどうする?」

 

……と、父のシュタルクと母のフェルンがこちらを向いて質問してくる。

昨日あんな会話をしておいてそんな振り方あるかよ……と思いつつも。

 

「俺は……とりあえず、協会に行ってメトーデさん伝いで、あの子の……えーと。エイルの場所聞いて……なんとか仲直りします」

「そうか、頑張れ。大事な人生修業だ」

 

頭を撫でてくるシュタルクだったが、シュタアルはその手を掴んで「やめてよ、髪型が!」と抵抗する。

そんな我が子に「お前は俺と一緒でセットしてもすぐこうなるだろー」とシュタルクは笑った。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「行ってきます!」

 

行くしかない! あの娘に想いを伝えるんだ! と言うとなんか違うのだが

流石に引っ叩かれた関係のまま終わるわけには行かないだろうと靴を履いて宿泊用の建物から飛び出した。

 

振り向くと母のフェルンは少し苦笑いをしながら手を振っていた。

頑張ってこいということだろう。

 

ちなみに、迷子防止の為にトレースの魔法を掛けられている。

かなり嫌がったが、保護者同伴で謝りに行くか?と言われ渋々飲んだ。

 

正面つきあたりを右手に曲がって真っすぐ行けば魔法協会だ。

メトーデさん……に場所を聞いてとにかく会うしかない!

 

そして突き当りを右手に曲がった瞬間……

 

曲がり角の死角から、にゅっと生えた手が壁から出てきて首下に腕をかけられた。

 

「うわぁぁぁぁ!?壁から腕がぁぁぁぁ」

 

腕が肩口に触れた瞬間、彼に体術の基礎を教えている人物の言葉を思い出した。

 

『相手に捕まれそうになった場合、無理に引き剥がさず、回転や高低差の変化により流れを作り、相手を巻き込むのでございます。

 それではこれより100本手本通りやっていただきましょう。』

 

結局体に染み込むまでやらされて、100本どころではなかったのだが……

 

そんな感覚に従い、触れてきた腕の掌を掴みつつ――

 

巻き込み――投げ飛ばし――顔面に――

 

「おはよっ、シュタアル」

 

掌を掴んだ瞬間聞こえたのは嬉しそうな挨拶の声。

 

同時に壁からズブズブと出てきたのは、挑発的な笑みを浮かべたヘリヤだった。

 

「姉さん……しょうもない悪戯に魔法使わせないで……これ疲れるって言ったでしょ」

「えー、面白いじゃん。ねえ、シュタアル」

 

姉と同じ様に壁をすり抜けて出てきたのは、弟のヴィダルだった。

突然現れたのは、昨日の姉弟。言葉から察するにこれは弟ヴィダルの魔法らしい。

 

「え、ちょっ……なんなの!? 顔近いよ!」

「おはよう」

 

そのまましがみついてきて、頬が重なりそうなところをシュタアルはギリギリ手を差し込んで遮った。

 

「おねがいだから、離れて……。あと、はい、おはよう!」

「……まあ、いいか」

 

と言って、彼女は突然腕を離してくれた。もう訳が分からない。

というより、気配が察知できず回避すらできなかった……

臨戦態勢でもなかったけれど、流石に不覚だった。

 

なんとも言えない顔で少女を見ると「なあに?」という表情で首を傾げている。

 

「実戦だったら、首を取られてたなぁ……って感じ?」

「ッ!?」

 

シュタアルはたじろぎながら一歩下がった。

 

「ねえ、今の一瞬で考えたよね?触れた瞬間にわかったわ。

 私の手を掴んで、どうやって対処しようか……投げ飛ばして、組み伏せて……って考えてた」

「いや、それは……」

「やっぱり、素敵。そんな風に考える所も、私の顔を見て止めたことも。そういう所、わたし好きよ」

「好きって……」

「うん、そう。好き。

 昨日、私から言いそびれちゃった。

 ねえ、お友達になろうよ。私はヘリヤ」

 

そう言って手を差し出してくる少女の顔に打算の意図は見えない。

手を取った瞬間に投げ飛ばされるという感じはしない。

 

「シュタアル……よろしく……」

「うん。しってる。よろしくね」

 

どうすれば良いんだかと頭では考える一方で ――

挑戦的で、挑発的だけど、引き込まれるように屈託なく笑う彼女に ――

 

「だから今度死合おうね!」

「……嫌だって!」

 

その感情はなんだか、うまく言葉にはならなかった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「ねえ、どこ行くの?」

「魔法協会」

「昨日行ったじゃない。用でもあるの?」

 

特に理由もなく、それがごく自然であるかのようにヘリヤはついてくる。

ヴィダルは無言で一緒についてくる。相変わらず、少しこちらを見る目が怖い。

 

「……メトーデ様……じゃなくて、メトーデさんに会って、エイルの場所を聞いて……謝る」

「なんで?」

「なんでって……」

 

ヘリヤは頬を膨らませて、何かが納得いかないという表情をしている。

 

「シュタアルが胸触ってた件?引っ叩かれたんだから、謝る必要ないでしょ。相殺」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「あと謝ってたじゃん。頭を下げて。なかなか面白かったよ」

「いや、聞いてよ……」

「更に言うなら私の胸も触ってたよね、顔で」

「ぐはぁ……」

 

相対する前からズタボロである。

理屈で詰めればそうなんだが……

 

「あのね……謝るっていうのは言葉の綾で……謝ると言うか、もっと仲良くしませんかという感じで……」

「友だちが欲しいの? 今ここに、私がいるじゃん。なにか不服?」

 

少し機嫌悪そうに言うヘリヤ。本気ではなさそうな気もするが……

 

「いや、君に不満はないんだけど……突然襲ってこなければ……」

「じゃあ良かった。ちゃんと申し込んでから攻撃するね」

「攻撃しないで……。

 そういうのじゃないんだ……」

 

とまで答えたらヘリヤは立ち止まった。

 

「じゃあ……何?」

 

彼女から覗く視線は、少し背筋が凍える感じがして驚いた。

シュタアルも一度立ち止まる。

 

「……このままじゃ駄目だ。

 嫌なことされたから、やり返したら相殺で終わりなんてそんな事ないだろ。

 そんなんじゃわかり合えない。俺とあの子はわかり合えてない。

 ちゃんと伝えて、この耳で、あの子の言葉を聞かないとわからない!」

 

「そう……」

 

というヘリヤの先ほどまでの笑顔はどこへやらという表情を見せる。

 

「……存外に、つまらないわよ。きっと。あの子が言っていることはいつも……」

「面白い、つまらないじゃない。

 その結論で良かったかどうかは、全部話を聞いて自分で決める」

 

シュタアルはまっすぐにヘリヤの方を向いてそう告げる。

 

「わかった……

 じゃあ、見せてよ。シュタアルの見たい結論ってやつ」

「……姉さん、このまま付き合うの?」

「いいの!」

「……」

 

後ろから何か言いたげだったヴィダルも押しのけて、どうやらヘリヤは最後まで付き合うらしい。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「おはようございます。シュタアル君」

「……メトーデさん。おはようございます」

 

協会に到着してから受付で取り次ぐように依頼した。

突然やって来た子供が、業務中の1級魔法使いを呼び出す……そんなことが通じるのだろうか?と思ったのだが……

 

『ああ、メトーデ様から通すようにと伺っていますよ』と先日の受付のお姉さんに言われ、促されるままに部屋に入った。

 

「どうぞ。お菓子とお茶も用意していますよ」

「……ありがとうございます。というか、知ってたんですか?」

 

そういうとメトーデはにっこり笑って答える。

 

「知っていたというよりかは……こちらに来る気配もありましたので。

 おそらくそういうことじゃないかなと」

「……」

「体にまとっているのはおそらくフェルンさんの位置をトレースする魔法ですね。

 私の方からも、場所がわかりやすかったですから」

 

全部読まれている……母とは本当に別ベクトルでとんでもない人だ。

 

「これ……魔法使える人みんなに動向バレちゃうんですか?」

「いえ、少し古い魔法の気配だったので逆にわかりやすかっただけですよ」

 

母さん……、勘弁してくれ……

 

「さて、エイルの場所ですよね」

 

目的も言わずとも把握していて、どうしたものか。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「あの子のいる場所ですか……」

「はい」

「……シュタアル君。ついに告白してくれるんですね」

「……しません」

 

隣に座って紅茶を飲みながら珍しく大人しくしているヘリヤの視線が、一瞬鋭くなったのを感じた。

なお、ヴィダルはヘリヤの後ろに隠れてしまった。シュタアルの勘だが……どんなに綺麗に隠蔽しても、多分バレている気がする。

そんなに甘い人じゃない。怒らないけど。

 

「あの、とにかく謝りたくて……」

「謝りたいのですか?」

 

メトーデは相変わらず芯を捉えたような応答をしてくる。

 

「……あの時からちゃんと話せてません。何を思っていたのか聞けてません。

 ……このまま、仲良くなる事諦めたくないんです」

 

満足そうにメトーデは微笑む。

 

「そうですか。だったらそう素直に伝えてあげてください」

 

紅茶を手にしながら柔らかくそう伝えてくるメトーデは……

似ていないのに、どこか母のことを思い出させた。

 

■光の邂逅と暗闇の箱


 

「聞いた話だとこの辺……」

 

メトーデから聞いた話を元に商店街のぬいぐるみ屋さんへと向かう。

 

「意外ってほどでもないけど、そういう趣味あったのね。魔導書ばっかり読んでると思ってた」

「女の子って、そういうの好きじゃないの?」

「私がぬいぐるみ好きに見える?」

 

そう言われると、確かに一概に決めつけてはいけない。

 

「確かに……勝手な決めつけだった。ごめん」

「シュタアルのそういう素直な所、やっぱり好き」

 

満足そうに微笑む少女は何のためらいもなくそう言ってくる。

 

「……」

 

だめだ、この子の言っていることを真に受けすぎると駄目だ。

どんどん引きずり込まれる。どういう意味で言っているのか分からないのに……

 

とにかく!冷静になれ!と自分に言い聞かせながら道を進んだ。

傍目には、言われたことに照れて顔を赤くしながら俯いている男の子の図に他ならなかったが。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

翼の生えた、青い髪の、大きなクマのような……無愛想なぬいぐるみ。昔からこの店に置いてある。

売り切れることもなく、誰も欲しがらないそれは……エイルには不思議な魅力を感じさせ、いつも見ている。大きな背中と、無愛想だが愛嬌のある表情は、大好きな人を思い起こさせて好きだった。

 

「青い髪は、ちょっと彼にも似てるかな?」

 

自分を助けようと、背中を見せた少年のことをふと思い出して苦笑する。

が、その後に二度も鷲掴みにされたことを思い出して、ムスっとした表情になった。

その後叩いた自分も悪かったが、ヘリヤにしがみついた後の反応も……なんとなく……気に入らなかった。

 

「いた!!」

 

突然背後から聞こえた声にビクリと反応してしまった。

ついつい、魔力検知を怠っていたことを思い出して後悔する。

 

「どうして……?」

「あ……えーと、あの……」

 

こちらに寄ってきた彼に質問すると、彼はワタワタと焦っている。

「落ち着けぇ」とか「こんどこそ」とか小さな声で言っているのを見てエイルはクスッと笑った。

少年もその様子を見てなんとなく落ち着いたようだ。

 

「メトーデさんからここにいるって聞いて。……何をやってたの?」

「別に……」

 

そう言って顔をそらした先には大きなぬいぐるみ。

頭をガシガシ掻いた少年は、どう話したら良いものかと迷っているように見えた。

エイル自身も迷っている。もしかすると気持ちは同じなのかもしれない。

ふいに、少年は眼の前のディスプレイにいるぬいぐるみに気づいたようだ。

 

「大きなぬいぐるみだ……頼もしそうで格好良いね。これが欲しいの?」

「……」

 

自分とは違う感想。こちらを見て笑う少年の男の子らしい意見。

彼の混じり気も誤魔化しも何も含まれていない素直な感想が、なんとなく少し嬉しかった。

 

「……うん」

「うお……結構高いな。大きいからか」

 

そうだ、今だ。言わないと。「叩いてごめんなさい」「酷いこと言ってごめんなさい」様々な言葉が頭をよぎっては消えていく……

 

「あの……」

 

少年はきょとんとした表情でこちらを見てくる。

 

「私と……お友達に――」

「―― シュタアルー、あの子いたー?」

 

背後から店の角を曲がってやって来た見覚えのある少女が視界に入り、その後の言葉が――

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

街中に潜り込んだ男たち。彼らは合図があるまで普通の村人でいるという暗示を掛けられていた。

抵抗する前にヴェノムの背後から現れたヴィゾールを見た瞬間にかかってしまったため、当人達も意識をしていない。

 

『エグいことするねぇ』というのはその様子を見ていたヴェノムの言葉だ。

彼らは現在何の悪意もなく、観光のような気持ちで商店街や魔法協会の近くをうろついている。

 

『―― 目標が接触した ―― 』

 

ヴィゾールが遠隔から知らせたその言葉と共に男たちは目を覚ます。

 

「おい……」

 

自分達はいったい今まで何をしていたのか?と思う暇もなく……

 

『―― それを使って子供を誘拐しろ。オイサーストで騒ぎを起こせ。お前達はその為に命も捨てられるだろう

―― 』

 

奇妙な声に行動を促される。それはめちゃくちゃな言いようだが……何故だろうか?

絶対に従うべきだと頭の中に浸透していく。全く逆らうことができない。

 

「……ああ、ここでこれを使えば良いんだな!」

 

目の前で3人の子供が相対している。そこへ向かって渡されたアーティファクトを――

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

一瞬、突然湧き出てきた気配を感じてシュタアルとヘリヤは振り返る。

こちらに向いた悪意。何かをしようと向かってくる男が二人。

 

「ヴィダル!すぐに離れなさい!」

 

曲がり角の途中にいた弟に伝える。

 

「ヘリヤ姉さん?!だけど……」

「良いから離れなさい!潜伏で壁の向こうに!パパとママの所に行って!」

「……ッ!!」

 

ヘリヤの剣幕に根負けしたのか、彼はそのまま後ろに飛んで背後にあった壁の向こうへと透過していった。

 

「お前ら何だッ ――」

エイルを庇うように構えたシュタアル。せめてナイフのようなものがあればと思うが、街中で子供が物騒な物を持ち歩いているわけもない。

 

「何……!?」

突然訪れた不穏な気配と、感じたことのない人の悪意。

シュタアルの背後にいたエイルは、不安をふり払うように彼の背中に寄り添った。

 

「お前たちに、恨みはないが来てもらうぞ」

男が懐から出したアクセサリのようなものが不吉な光を出している。

それを見たヘリヤは「嫌よ!」と言いながら迷う事なく一般攻撃魔法(ゾルトラーク)を打ち放った。

 

―― カッ!! ――

 

彼女の魔法と男たちが展開した魔法がぶつかり、強い光を発生させる――

しかし、少年たちのいた空間は黒いキューブに覆われ、暗闇に囚われた。

 

「おい……やった……やったぞ!」

 

魔法使いとして原理のわからないものを使うことに抵抗感はあったが、凄まじい効果だ。中身が全く透過できない。

キューブ状の空間はそのまま圧縮され、掌サイズとなってその場にコトリと落ちた。

 

監視の厳しいオイサーストの街中で誘拐に成功した!

 

「よし、持って帰るぞ。連絡係に伝えろ!協会側に脅迫の交渉だ」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

協会の建造物に比較的近い建物の屋上で、ローブ姿の男が双眼鏡を眺めながら協会の正面を見ていた。

 

『―― 騒ぎを起こせ。出来るだけ多くの者に。オイサーストの街中で子供が襲われたと、伝えろ。騒ぎを大きくしろ ―― 』

 

逆らえない声に銘じられるままに男は行動を開始する。

 

「よし、見ていろよゼーリエの犬ども……」

 

刻印の魔法を遠隔で打ち込み、子供を確保したと協会に知らせる。

その後何箇所かに打ち込めば人目につき、協会の信頼も揺らぎ騒ぎとなるだろう。

 

「へへへ……」

「ねえ――」

 

魔法を打ち込もうとしたとき、背筋の凍るような冷たい声を感じた。

『八つ裂きにされる』本能的に……そんな感覚があり、恐る恐る振り返った。

 

「随分と楽しそう。なにやるの?」

 

挑発的で蠱惑的な笑顔……その奥にあるのは……

 

「結構綿密に探したんだけどね。まあまあ上手くやるものね。あなた、メトーデとゲナウに連絡お願い」

 

ユーベルは分身体に別行動を取らせているラントに連絡を依頼する。

 

「ユーベル。協会でヴィダルと会った。ヘリヤに襲撃をかけた連中がいる」

「そう……、じゃあ……徹底的に……喋ってもらおうかな――」

 

一級魔法使いの中でも、最も敵対するべきではないと言われる女……

 

「私、決めているの。私から家族を奪おうとする奴には一切の躊躇をしないって」

 

男は、世界的にも安全性の高い街オイサーストで人生の中で最大の命の危機を感じていた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「シュタルク様!!」

「うお!何?」

 

フェルンとお土産を買いに出かけるまでの空き時間に、彼の愛斧の整備をしているところにノックもなくフェルンが入ってきた。

こういう時にマナーを重要視する妻の行動としては珍しい。

 

「……なにかあったのか?」

「シュタアルの……信号が途絶えました」

 

我が子の異常事態を告げる言葉に一瞬背中に冷たいものがゾッと走ったが……普段冷静なフェルンが珍しく……動揺している。

 

ここで自分まで混乱しても状況は好転しない。フェルンが辛い時は自分が支えにならなくては。

そう思い、一度我が子への心配と動揺を断ち切り、シュタルクは無言で立ち上がってフェルンの肩に手を置いた。

 

「フェルン、落ち着け。途絶えたのはどの辺だ。まずはそこへ行こう」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

メトーデは協会内の通路を急いで駆け抜け、夫の執務室へと入った。

 

「ゲナウさん、エイルの魔力が……」

「こちらでも、把握している。鳥を飛ばしたのだが、遠方から何者かに狙撃された。

 攻撃性は薄いが、高度な隠蔽魔法だ。視界を奪われ、街中に落ちてしまった」

「何者かが……」

 

そうしていると、ゲナウの元に通達が入った。一級魔法使いラントから、ゲナウとメトーデに連絡があると。

 

■魔法都市に響く咆哮


 

「ヴィダル……落ち着いてその時の事を話してくれないか?」

 

そう伝えるのは彼の父親のラント。傍目には、分身体なのか本体なのかはよくわからない。

一目で見分けるのはユーベルぐらいだ。彼女が言うには「うーん、なんとなく?ほら、気づいて欲しいって感じが見て取れる感じ?よくわからないけど」ということだ。

お前が理屈もわからないなら、他の人間にわかるわけないだろとゲナウは思ったがその時は特にコメントしなかった。

おそらく、常に揺るがないメトーデの感情や真意を他人が読み取りづらいという話と似たようなものだろう。

付き合ってみれば……割と彼女の感情は常に揺れている。……と思うのだが。わからないという感覚を忘れてしまった。

 

「突然、数名の魔法使いの男たちが此方に襲いかかってきて……姉さんは僕に逃げて父さんと母さんに知らせるようにって……場所はさっき伝えたぬいぐるみ屋の近くの広場で……」

「ヴィダル……ありがとう。お前は少し休め」

 

ヴィダルはその言葉を受け取ったが……キッとラントに視線を向けて告げる。

 

「僕も……姉さんを探す!!」

 

ラントは何も言わず、ヴィダルを撫でた。それは、彼の悔しさを誰よりも理解している様子だったように思う。

 

「ゲナウさん……」

「ああ、エイルも……巻き込まれたのだろうな……」

「すいません……私が見落としたばかりに」

 

冷静に答えるゲナウにメトーデは申し訳なさそうに謝罪する。

 

「謝るなメトーデ。それは私も共に追うべき咎だ。幼い子供達が犠牲になるなどあってはならない。何より――」

「ゲナウ……さん……?」

 

ゲナウの纏う魔力の気配が徐々に変わるのをメトーデは感じた。

 

「私の娘に手を出した連中に、二度とそのようなことがないように思い知らせる。

 ……それが親の覚悟というものだろう」

 

強い感情を表に出さない夫がこれほど怒っているのは久しぶりに見る。

しかし……メトーデにも痛いほどに分かる。娘へ手を出した、これは私達家族への宣戦布告だ。

徹底的に叩きのめさせてもらおう。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「ごはぁ」

 

壁に叩きつけられたローブ姿の男は体中を傷だらけにされた状態で壁に叩きつけられた。

 

「そろそろ、吐いてもらえる? 死なないように手加減が面倒なんだけど」

 

酷い言葉と言えば、あまりに酷い言い様だが……正直ユーベルが怒らないなら自分が怒り狂っていた。

そんな様子で無言で状況を見ていたラント。

 

「我々は……魔法……協会……の……横暴に……」

「指を数本飛ばせば、気持ちも変わるかしら?

 こっちは、可愛い娘が襲われたの。分かる?」

 

傷口へと杖をぶつけるユーベル。

 

「協会へ……鉄槌を……、魔導の道に……祝福を……」

 

そう言いながら懐から出した薬を男は口にする。

「……今度は何が飛び出るの?」

「あが、ががががががが」

「ユーベル。下がれ!」

 

ラントの言葉が言い終わる前にその男は不自然な体制から突然襲いかかってきた。

 

「へえ……、オイサーストで喧嘩売ってくる覚悟って感じ?」

 

ラントに抱えられた状態にユーベルが男に向かってコメントする裏で、その男は頭から壁に激突して建物の壁を壊した。

どうにも……魔法使いのできる行動ではなさそうだ。

 

「どうにも、尋常じゃなさそうだ。ユーベル。あまり舐めちゃ駄目だよ真剣にやって」

 

抱えた状態にユーベル……ラントから見ると妻の尻しか見えないが取り敢えずそう伝える。

 

「ゼーリエの警告の翌日に当たるなんて面白いわ」

 

ラントから降りたユーベルは改めて相手を確認した。

メキメキと体中の筋肉が隆起し、皮膚は黒くなり徐々に鱗のような形状を取る。

 

「まるで魔物。人間やめたの?」

「まあ、あの状態で人語話したら逆に面白いね」

 

眼球は赤くなり、口が既に人のそれというより獣のような形状へと変わっている。

 

―― があああああああ!

 

もはや人語を話す事も不可能になったその男はラントとユーベルのいる方向に突撃してくる。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

爆音と共に建物の壁を突き破り二人の人物と、魔物のような体躯の何かがでてくるのを確認したシュタルクは後ろを並走するフェルンに話しかける。

 

「あれ、なんか見たことあるんだけど!!」

「以前討伐した魔族の生み出された生物に特性が似ています。おそらく魔物混じりの……人間です……」

 

予想通りの回答にシュタルクは走りながらも納得した。

 

「やっぱりか……」

 

昨日、ゼーリエから語られた言葉。

『鮮血公のナハト……あれの残した魔法、眷属化の魔法(ヴェアヴァンシャフト)を何者かが使っている』

 

「本当に、存在自体が呪みたいなやつだな……」

「シュタルク様が叩き切ったはずですが……」

 

二人で倒したでしょ……と突っ込みたくなる所をぐっと抑えつつ

 

「言っても仕方ない。フェルン俺は加勢してくる。協会のゲナウたちに合流してくれ」

「わかりました!!」

 

シュタルクは愛用の戦斧を構えて跳んだ。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

轟音を立ててぶち破った建物の最上階を飛び出した二人は飛行魔法で相手の様子を見ている。

 

「ユーベル。ぶった切れないの?」

 

ユーベルの大体なんでも切れる魔法(レイルザイデン) というのは規格外に強力な魔法だが、ユーベル自身が切断をイメージできる必要がある。

要するに、彼女が切断するイメージを持てないものに効力が及ばない。最たるものは防御障壁だが、その他も幾つかある。

ユーベル曰く。「感覚的にそう感じてしまうからどうにもならない」ということだ。

その範囲外なら岩でもなんでもバターのように切断するにも関わらずだ。

 

「思ったより外皮硬いみたい。弾かれた。切断イメージを拒絶するってことは竜種の甲殻ぐらいの構成をもってるかも」

「強烈なインパクトでぶっ叩くしかなさそうだ」

 

―― ごおおおおおお!

 

もはや人のそれではないローブを着ていた男は手元に転がっていた瓦礫をラントに投げてきた。

 

「……」

 

投石は防御障壁で防いだものの……

 

「人の域ではないね。当たれば肉が消し飛ぶ威力だ……ユーベル?」

 

いったそばから既にいない。既に速攻を仕掛けている。

 

「外殻が抜けないなら、人間の肌の部分からやろうか!」

「まあ、そうするよね、君なら……」

後ろから追跡しつつもそう漏らすラント。

 

多重の大体なんでも切れる魔法(レイルザイデン) を真正面に放ちつつ

 

「ズタボロになってみる?」

 

そう叫ぶユーベルを他所に、男だったものは真正面でそれを受けて体中を切り刻まれながらもユーベルに突進してくる。

 

「……気合い入ってるじゃない」

「ユーベル!!」

 

男は勢いよく飛び出し背後の建物にユーベルの防御障壁ごと掴んで叩きつける。

 

―― ぐううううう!

 

「全く!!」ラントは勢いを付けてそのまま男の側面に移動して、衝撃の発生させる魔法で牽制する。

男はそのままそれを躱してラントとは逆側に逃げ、建物の天井端に立つ。

 

「まあ、そうなるよね……だけど」

 

メガネの位置を直しながらラントは指差しながら男に告げる。

 

「そこは君にとっての行き止まりだ」

 

瞬間、男は尋常ではない程の圧力を背後に感じる。振り向いた先にあったのは紅い烈風のような影。

詳細なその姿を確認する暇もなく……

 

「光 天 斬 !!」

 

股下から、脳天にかけて……天地を割く一撃を食らったそれは、そのような姿を維持することもできなくなり

 

―― が……あ……あ……

 

灰となって消えていった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

その様子を背の高い盗賊の様な姿の男、ヴェノムは双眼鏡越しに見ていた。

 

「あちゃー。やられちゃったか」

 

あれだけ派手な戦闘を協会の正面でやったなら騒ぎにはなるだろうが……

もう少しざわついてくれないとオーダーが達成できない。

 

「しゃーないなぁ」

 

プランBとして用意していた、犯行予告書を取り出し、数本の矢にくくりつけ始めた。

 

「今日はこれだけやって撤収しますかね」

 

男はよっこらせという様子で立ち上がり矢をいるのにちょうどいい場所を探し始めた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

一方で、魔法協会内にはゲナウとメトーデたちの元に他の面々が集まっていた。

 

「……すまない、意外と手強くて、確保することが出来なかった」

「いえ、夫が手加減できなかったせいです。申し訳ありません」

 

というのは、協会内にいたラントの分身体と現地に到着したフェルンの言葉。

 

「いや……仕方ない。状況は此方でも観測していた。

 魔法が効きにくい外皮を纏った化け物になったということだな」

「……有り体に言えばそうなる。笑えないな」

「対応ようしようはあるが。そうだな、シュタルクがいて良かった」

 

ゲナウのその言葉にフェルンは苦笑いを浮かべる。

とはいえ、楽観視出来ない状況故にすぐに佇まいを直した。

 

昨日の通達の通りの出来事が起きてしまった。偶然なのか仕組まれているのか……

 

「ゲナウ様!!メトーデ様、このようなものが協会内に!!」

 

先の出来事で混乱気味の協会内で、事務員の者が駆けつけてきた。

「これは……」鏃に付けられた手紙。内容は簡素なものだ。

 

「一級魔法使いの者たちの子どもたちを誘拐した。要求はわかっているだろう?」

 

という内容。わかりやすく、協会内にばらまかれたということだ

 

「とことん馬鹿にしているのかもしれないな」

 

手紙を燃やしたい衝動にかられつつもそれに耐えながらも忌々しげに呟いた。

 

~ 魔法都市と巡り合わせの輪舞曲 中編 fin to be contiued ~

 

 




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