葬送のフリーレン ~ 鋼の英雄の物語 - Path to Stahl - ~   作:rvr75_raiden

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■イントロダクション

■ 独自キャラクター

- シュタアル(Stahl) : 主人公。シュタルクとフェルンの間に生まれた長男。16歳。まっすぐな性格の青紫の髪と三白眼が特徴の青年。出力不足で魔法はいまいちだが剣技と努力で補う。
- ルーエ(Ruhe): フェルンの教え子兼仕事上の秘書。20歳。黒髪ロングヘアと黒い瞳を持ち、師匠ゆずりの冷静な性格のようで内面は激情家。魔族の呪いを受けておりシュタルクとフェルンに救われた過去を持つ
- ティアフォート(Tiefrot):シュタルクとフェルンの間に生まれた長女でシュタアルの妹。15歳。赤い髪と真紅の瞳を持つ。魔法の才能は母譲りの天才。
- エリシア(Elyssia):シュタルクとフェルンの間に生まれた次女でシュタアルの妹。11歳。感情豊かで素直な幼い頃のフェルンそっくりな女の子。まだ制御出来ないが予知の異能を持っている。
- エアフォルク(Erfolg): シュタルクの教え子兼参謀。ルーエの兄。25歳。黒髪の青年。シュタアルの兄弟子にあたり弟妹達を見守る。斧技を学んでいる。
- ティシュレー(Tischlerei): シュタルクお抱えの技術職人。300歳~? 街の建築からシュタアルの武器と道具まで何でも作る人。頑固だが……子供達には甘い。
- アストル(Astrum):シュタルクとフェルンの間に生まれた次男でシュタアルの弟。1歳。エーラ流星が降る年に生まれた子。兄姉に溺愛され中。

■ あらすじ

シュタアル、ルーエ、フリーレンの3人による盗賊団撃退から始まる、ヴェノムの騒動から1週間が過ぎた。
ルーエは様々な事情で一月程の入院と休暇が必要となったが、シュタアルは早くに全快し、しばらくは平和な日常が帰ってきたのだった。




街の営みと彼の日常 ~ His Gentle Days and the Town's Rhythm ~【幕間1-2】

■日々是修行


 

中央諸国クレ地方 戦士の村のあった地

 

「痛つぅぅぅぅ……」

 

まだ朝焼けの薄明かりの中。外ハネした青紫の髪と三白眼の青年の名はシュタアル。

魔王を倒した勇者パーティの1人、伝説の戦士アイゼン。義理の祖父でもある彼から「(アイゼン)を超える鋼」と名付けられた。

そんな彼は家の外にある薪割り場で斧を振るう。

戦斧ではない木材用の斧だ。と言っても薪割り用ではない、木を切り倒す様な斧。

 

「代わろうか? まだ辛いだろ」

 

薪を台の上に置いた父のシュタルクが言ってくる。

伝説の魔法使いフリーレンと共にオレオールまでの旅をした前衛、今では大陸を代表する戦士の一人。

 

「いや、まだ行ける」

「わかった、無理するなよ」

 

大ぶりの斧を振り下ろして割る。

実に非合理的なことを理解したうえでの修行の一環。

力任せに振り下ろしたところで当たらないし。当たったところで「斬れない」。

正しい姿勢で振り下ろし力をコントロールしなければならない。

 

シュタルクは「加減を間違えると”砕いちゃう”んだよ」と言っていた。

ちょっと何を言っているのかわからない。

 

現在16歳のシュタアルがこれに成功したのもつい最近のこと。

 

彼が痛みを訴えるのは未だ、細かい筋肉痛が治っていないから。

 

一週間程前、シュタアルは街に被害を出す賊の討伐に志願しフリーレン達と共にこれを討ち果たした。

しかし、表向きの賊の組織はカモフラージュで、シュタルク達に恨みを持つ男の傀儡の者達。

背後で糸を引いていた魔族まで出てきて命懸けで限界を超える戦いをすることになってしまった。

 

そんなシュタアルはまだ本調子に戻っていないのが現在の実情だ。

 

「父様ー、兄様ー。朝ご飯が……うっ、汗臭!!」

「……さすがに、言い方酷くない?」

 

本調子が出なくとも、これだけ元気なら十分だろうと通常生活に戻っていた。

医師は「もうちょい我慢して入院していろ」と言っていたが……

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「濡れたタオル持ってきました。拭いてください」

 

と、シュタアルは妹のティアフォートが持ってきたタオルを受け取る。

燃えるように赤い髪、真紅の瞳を持つ少女ティアフォート。

彼女はシュタルクとフェルンの間に生まれた長女で、シュタアルの妹に当たる。

不器用な兄と一線を画す異才の魔法使い。

そう言っても差し支えないほどの才能を持つ少女。

 

ただし

 

「さあ、兄様。

 その汗だくになったタオルと上着を私に寄越してください。

 処分します」

「どうして処分するの? 洗濯したら良くない?」

「兄様が知る必要ありません。さあ、早く」

 

ある時期を境に一風変わった妹になってしまった。

朝から汗を拭いたタオルとシャツを持っていこうとする我が妹。

 

「後で母さんに渡すから、遠慮しとく……」

 

シュタアルが断るとティアフォートはむっすーと頬を膨らませていた。

 

そんな折

「フェルンに怒られる前に汗流しに水風呂いくぞー」

とシュタルクから声が掛かった。

 

こうしてみると日常が戻ってきたんだなと落ち着く。

 

「父さん、まって」

「兄様っ、せめてタオル!」

「ああ、もうっ。はい、これ!」

 

急ぎ足で父を追いつつ、妹にタオルを手渡すと彼女は嬉しげにそれを受け取った。

取り立ててなんということもない家族の風景。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「シュタアル、お前、最近背中の筋肉結構ついたなー」

 

風呂場で、頭を洗っていると背後からシュタルクが声をかけてきた。

 

「そう? 自分だとわからないや」

「まあ、見れないからな……」

 

成長したと言われて悪い気はしないのだが、シュタアルとしては今はあまり喜びは出来ない。

先日、全力で戦った結果、魔族に敗北を喫してしまった。

 

あと一歩踏み込めていたら……相手の情報を知っていたら……

そんな後悔に意味はない。足りなかったから負けたのだ。ならば前に進むしかあるまい。足りなかったその一歩を。

 

水風呂に浸かったシュタルクは嘆息しながらも苦笑する。

 

「まあ……ルーエの前で格好つけるためにはもうちょい頑張らないとな。まだルーエのほうが強いし」

「うっさいな!!」

 

……なんにしても、とにかく、頑張るしかないのだ。

 

■今の家族と今日の予定と明日の自分


 

汗を流し、風呂から上がったシュタアル。

居間に戻った時に見たのは朝食の食事の準備を終えたフェルンの姿。

母は待ち時間の合間にアストルにミルクを飲ませていた。

 

シュタアルには二人の妹、ティアフォートとエリシアがいる。昨年、ここへ弟のアストルが加わった。

まさかの、15歳差の弟。夫婦喧嘩の末に一人増やした両親には言葉もないが……

 

両親が仲が良いことに不満はない。弟も可愛い。そうであるならば良し。

と、自分をねじ伏せ……いや、納得させた。

 

「さてと」

 

フェルンはゲップをさせたアストルを抱き上げ、シュタアルの方に向かってくる。

 

「了解。アストルおはよー」

 

シュタアルが手を差し出すと、フェルンはアストルをシュタアルに渡してくれた。

 

「ありがとう、お願いね」

 

特にコメントもなくアストルを受け取る。

フェルンは、エプロンを結び直しながらまたキッチンの方へ向かった。

 

「ティア、エリシア、お皿を並べて」

「わかりました」

「はーい」

 

父のシュタルクは、割った薪をキッチンや風呂場に運んでいる最中。

「毎朝慌ただしいよな」

腕の中のアストルにそう話しかけると「あー」と笑いながら返事をしてくれた。

 

我が家の朝のローテーションと言うやつだろうか。

 

「こういう時に弟の面倒を見るって役割ってどうなんだろ?」

 

働いているような働いていないような……

とは言え、出来ることで母の負担を減らすのは重要なことだ。

 

「フリーレン起こしてくるか」

 

腕に弟を抱いたままシュタアルは寝坊の家族を叩き起こしに向かった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「今日どうするんだ?」

 

朝食も落ち着こうと言う頃合いに掛けられたシュタルクの言葉。

シュタアルはうーんと首をひねる。

 

「朝は学舎に寄ってから調べ事して、工房でティシュレーさんに預けたものの状態聞いてから……

午後は街でバイトして夕方に姉さんのお見舞いかな」

 

今日の予定を父に伝えると

「そっかー、忙しいんだな」

と、反応をした。

 

彼の姉弟子であるルーエは一ヶ月ほどの安静を言い渡されている。先の戦いで無理をしたから……という建前。

実は立て続けに解除し他封印術の再調整も兼ねている。

 

元々フェルンの片腕として働き過ぎな部分はあった。彼女にとってはちょうどいい休暇だ。

とは言え、当人は退屈そうなのでシュタアルは足繁く病室に通っている。

 

妹達も異なる時間で顔を出している様子だが。

 

「シュタアル」

 

そんな折に、横から会話に割って入ったのはフリーレン。

 

「なに?」

「何度か聞いたけどさ。今日明日の話はさておき、この先はどうするの?」

 

会話を黙って聞いていた母のフェルンも眉が少し動く。

 

「う"……」

「ここの学舎も卒業したし、そろそろ考えておきなよ。

 フェルンやシュタルクの若い頃と違って君にはたくさんの選択肢がある。

 慌てて決断するものでは無いけど君の今の時間は唯一無二だ」

 

もちろん何も考えてない訳ではない。

 

ーー英雄と讃えられる両親を超える

 

これは幼い頃に立てた誓いだ。違える事なく突き進み続けるべき命題だ。

だがシュタアルの人生はそれでは成り立たない。

 

何が?そりゃ将来とか収入が。 

 

冒険者になると言うのは一つの手だ。

しかし、実際のところ冒険者は結果論的な職業。

冒険者になる事が目的でなるものではない。

 

勿論「名を上げる」といって冒険者になる人まで否定する気はない。

だが、両親が領地運営というお堅い職業をしているのだ。

何の信念もなく「冒険者になる」などと言えばなんと言われるやら。……おもに母から。

 

無理を通して冒険に出るとしても、そこには芯の通った理由が必要だ。

シュタアルには現状それがない。

 

「シュタアルも俺の仕事の手伝いしてくれると……俺とエアフォルクは嬉しいけどな」

「まあ、手伝うのは良いけど」

 

シュタアルの様子にシュタルクは苦笑いしながら続ける。

 

「エアフォルクが『妹のことを想うとシュタアルにはちゃんとした職を』ってめちゃくちゃ言ってくるのよね……」

「……父様」

その言葉に反応したのは妹のティアフォート。

鋭い目つきでキッとシュタルクを睨んだ。

「いや、他意は無いよ!エアフォルクはそう思っているってだけで……

 ただお父さん的にもシュタアルは何処まで考えてるのか気になるなぁ……って……」

 

妹と父の意図が読み取れず「なんの話?」とシュタアルは返すと。

 

「兄様は気にしなくて良い話です。ところで今日のお見舞いは私も同行して良いですか?」

 

妹が何故かお見舞いに同行すると言ってきた。

 

「良いけど、なんで?昼間エリシアと一緒に行ってるんだよね?」

「……あわよくば何か起れと思っている勢力が多いので牽制です」

「なんじゃそりゃ?」

 

よくわからないけれど、妹は謎の勢力と闘っているらしい。

 

「シュタアル」

 

と、そこまで黙っていたフェルンが口を挟んだ。

その声にシュタアルは「うぐっ」と肩をすくめた。

 

「以前からも言っていますが進学の件、真剣に考えましたか?」

 

そう、母のフェルンは最終的な選択肢に口出しをしないものの進学を薦めている。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

ティアフォートとエリシアはすこし早めに魔法協会の学舎へ向かった。

今日は、エリシアが教室の準備当番だそうだ。ティアフォートも基本エリシアに合わせて出る。

 

アストルを抱っこしながら、自分も仕事に出る準備を進めるフェルン。

 

「これは?」

 

……というところで、リビングのテーブルを見て気付いた。折角作ったお弁当が忘れられている。

ちょうど出かける直前のシュタアルを見かけたフェルンは声を掛けた。

 

「シュタアル。学舎の蔵書庫へ行くのであれば、これを届けてくれますか?」

「なに? ああ、なるほど」

 

ウサギや猫や犬の可愛良い刺繍のポーチを見て一目で理解したらしい。

 

「エリシアのお弁当ね。わかった。ついでに渡しておくよ」

「よろしくおねがいしますね」

 

そう伝えると、行ってきますと手を降ってシュタアルは駆け出した。

 

「……シュタアルはもう出ちゃったか。途中まで一緒に行こうと思ったのに」

 

背後から領主様の制服に着替えたシュタルクが出てきた。

なんだかんだと、我が子に関わりたがる夫を見て苦笑する。

 

「シュタアルももう16歳ですからね。あんまりベタベタすると嫌がられますよ」

「え……何それ、淋しい……。普段そんな素振り無いけどなぁ」

「優しいのと……自己評価が極端に低い子ですから。反抗期でもずっと素直なんですよ。誰かに似て」

 

シュタルクはうっ……という表情をする。

 

「俺のせいみたいに言わないで……」

「私とシュタルク様の子ですから」

 

そんなフェルンに、シュタルクはところでと切り返す。

 

「今朝の朝食の時さ。妙に突っかかったけど、どうしたの?

 ちょっとフェルンらしくないなって」

「……ああ。そうですね……少し。あの子の目が。迷っているように見えたんです」

 

シュタルクはフェルンの言い方に「そっか」と頷いた。

 

「あの子はもっとたくさんのものを見るべきだと思いました。

 私達はたくさんのものを重ねました。それはすごく幸せなことですけど……

 昔のように気軽に旅には出れません」

「……うん」

「でも、今のあの子だけに当てのない旅などさせられません。これは私の弱さです」

「……俺は強さだと思うけどな。フェルンの。お母さんとしての」

 

シュタルクから不意打ちに、一瞬フェルンは言葉をつまらせる。

しかし、すぐに持ち直した。

 

「……だから、せめてあの子には––」

「――フェルン。判ったよ。判った」

 

そう言ってシュタルクはフェルンの肩を抱く。

 

「フェルンの気持ちは判った。

 だからあんまりフェルンだけであいつに厳しく当たること無いよ。

 フェルンが嫌われたら元も子もない」

 

そんな抱き寄せてくるシュタルクにフェルンは少し体重を寄せる。

 

「……はい」

「ま、あいつはそんなことで家族を嫌うこと無いけどさ」

 

照れながらそうフォローするシュタルクに、フェルンは

 

「そういう所も、誰かにそっくり」

 

そう言って笑った。

 

■学舎と進学と


 

『最終的判断はシュタアルに任せます。

どんな答えを出すにしてもその意味を正しく見極めなさい』

 

母から聞かされた言葉は耳がタコになるぐらい聞いた話。

 

「それぐらい分かってるさ……」

 

独り言を呟きながら向かっているのはクレ地方に建てられた魔法協会の学舎。

ここでは初等から中等部迄の修学が可能になる。

 

魔法協会の開設の学園であるため、魔法使いとしての勉学になる。……が、必ず魔法使いになる必要はない。

さらに、初等部はほぼ一般教養を教えるものだ。

 

本格的なものは高等部からとなる。

 

高等部はオイサースト以外にも聖都や帝都クラスの大きな都市にも存在する。

聖都は魔法教会と聖教会の合弁の学校。魔法も学べるが実態は聖職者の育成がメインだ。

帝国内の学校は魔法協会とは出自が異なる軍向けの学校だ。しかし、協会の学生の交換は無い訳ではない。

 

いずれも、より高度な道が待っている。

そこに答えがあるのかシュタアルには判らない。

 

「やっぱり魔法協会本部のオイサーストは遠いよ、母さん……」

 

シュタアルは学舎の入り口に立ちながら呟いた。

卒業証を提示したシュタアルは入場門を潜る。

 

「シュタアル兄様!」

名を呼びながら此方に走ってくるのは妹のエリシア。

 

父譲りの朱い瞳に母譲りの紫の髪。最近伸ばし始めた髪は今では腰の辺りまで到達している。

ここまで来るとさすがにシュタアルも思う。完全に小型化した母だ。

それでも掛け値なく可愛いと思ってしまうのは、感情豊かな表情ゆえだろうか。

 

いや、母の容姿に問題は全くないのだが……

真顔が素っ気なさすぎる母とティアに影響されなくて本当に良かった。

嬉しそうに笑う妹をみて、兄はしみじみ思う。

 

「忘れ物なんてお前らしくないミスだな」

「ごめんなさいです。準備当番で慌てて出ちゃいました」

 

「ほれ」と言いながら妹の頭にお弁当箱を乗せた。

エリシアは受け取りつつ、「いじわるしないでください」と頬を膨らませた。

リアクションとしてははなまる賞をあげたい。

 

「ありがとうございます。シュタアル兄様。

 このあと書庫に行くんですか?」

「あー。ちょっと調べ事があってな」

「わかりました!また帰ってから」

「勉強頑張れよ」

 

エリシアは拳で小さく「頑張ります」のポーズをとってから教室へと戻っていった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「おっちゃん、書庫使うよ?」

 

シュタアルが声をかけたのは学舎の担当司書。彼は紅茶を飲みながら本を読みふけっていた。

 

「シュタアルか……良いぞ。借りる場合はちゃんと申請しろよ」

「わかってるよ」

 

学舎の書庫は生徒と卒業証を持っているものであれば自由に使える。

誰にでも開放……というわけではない。これは魔導書もそれなりの数あるためだ。

 

「卒業してもここに足繁く通うのはお前ぐらいだよ。そんなにいろいろ知ることがあるなら進学しないのか?」

「うーん、まだちょっと考え中……やっぱ遠いし。

 それを乗り越えて魔法使いになるべきなのか良く分からんし……」

 

司書は「そうか」と言いながらも本を閉じてシュタアルの方に向き直った。

そのまま立ち上がり、小さな脚立をシュタアルのところに持ってきてくれた。

 

「まあ、お前の親じゃないからとやかく言わんが後悔無いようにな」

「わかってる。今日はなんかそんな話ばっかりだよ」

「みんなお前の将来を心配してるんだよ」

 

シュタアルは苦そうな表情をしつつ、脚立に登って目的の本を取った。

『太古の神話・獣の書』と描かれた書籍。

 

「俺ってそんなに頼りない?」

「いいや……逆さ……」

 

意図をつかみきれなかったシュタアルは「何?」と聞き返したが

 

「まあ、読書の時間を楽しむんだな。静かな方が良いだろ?俺はあっちに行ってる」

 

司書はそのまま手を降って自分の席に戻っていった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

シュタアルが手に取ったのは「太古の神話・獣の書」。この本の他にも、神の書、魔法の書、神器の書などいくつかある。

フリーレンが生まれるよりも前の話の神代の時代のことが書いてある。

 

正直そこまで凄い本でもない。歴史書というよりは浪漫よりの本だ。

正しいのかどうかすらわからない伝聞系の書籍。

 

「竜……黒い竜……終わりの竜……」

 

色々調べてみているのだがなかなか目的のものが見つからない。

伝承の竜はいるが……目的のものとは名前が一致しない。

シュタアルの姉弟子のルーエの体に混ぜられたもの、黒極龍アートルム。

彼女は現在、ルーエという個人と太古の竜という2つの魂が混ざりあった状態だ。

そして、その存在のせめぎ合いに苦しんでいる。

 

どうにか……助けたい。力になりたい……

どうしても失いたくない……

 

色々調べているが具体的な情報は手に入らない。

無論、その竜の特性を知ったところで、どう救えば良いのかも分かる訳では無い。

しかし、何も知らないよりは良いだろう。

 

「神代を知る者……どうしてもそこに行き付くか……」

 

心当たりはたった1人。

話をする手段は皆無では無いが……簡単でもない。

だが、それで話を聞けたとて、解決するのなら母が既にどうにかしている。

 

「どうすりゃいいんだか……」

 

気がつけば長時間を読みふけっていたのか昼のチャイムが鳴り響いた。

 

「もう、こんな時間か……昼食食べにかえるか」

 

■工房と相棒


 

シュタアルは学舎を後にして一度家に戻ることにした。

 

その後に行く予定の工房は街にも受付がある。しかし、本命は自宅の近くの炉のある工房だ。

昼食を摂ってから向かうことにしている。

 

「お帰りなさいませ、シュタアル様」

「ただいま、ライニさん」

 

ライニは母と交代で家に来てくれている。彼女はアストルのお世話をしつつサンドイッチを用意してくれていた。

受け取ったアストルを抱っこしながらライニの用意してくれた昼食を摂る。

 

「この後、工房に向かうと伺いました」

「うん。預け物の整備がそろそろ終わるって聞いて」

「そうですか。それはよう御座います。道具は主人を写す鏡、大事になさってください」

 

食事のお礼を言った後そんな会話を軽くしてから工房へと向かった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

村の再建時にここに住み着いたという工房のドワーフ達。

工房長となるティシュレーは祖父アイゼンの古い友人だ。シュタアルにとっては生まれた時からお世話になっている。

 

幼少の頃遊んでいた積み木のおもちゃ。現在シュタアルの扱う武具や戦闘時に着ている耐刃防具等々。

シュタアルの装備品はほぼ彼らが作ってくれた物だ。

そして……

 

「借金……また増えたかな」

 

しょんぼり顔でしみじみと呟く。

注文を増やす自分も悪いが、どんなに頑張っても工房への借金が減らない。

というのもある日を境に母のフェルンからの厳命が下ったから。

依頼費用は自分で払うことになってしまった。

勿論タダで作らせて良い訳が無い。

 

「ティシュレー爺さん!」

「おお、来たかシュタアル」

「俺の道具の整備だいたい終わったって聞いて……何やってんの?」

 

ティシュレーは片目に拡大用のレンズを付けている。

それを覗きながら、小さなアーティファクトのような物をいじっていた。

 

「シュタルクの尻拭いだ。

 慎重に扱えっつったのに力任せにやりよってからに」

「父さんの……?」

 

その奥では他のドワーフ達があくせくと走り回っている。

大きな筒状の物の分解と組み立てを並行でやっているようだ。

 

どこかで見たような……という辺りで思い出した。ヘカトンケイル3体を一撃で切り裂いたやつだ。

 

「あれだ!なんとか兵装ナントカカントカ!」

「対極竜兵装フェルダムシュトライタクト!

親子揃ってうろ覚えか!」

「名前長えよ」

「お前の親父の第一声もそれだったわ」

 

ティシュレーは弄っていたアーティファクトの蓋を閉じて、弟子のドワーフに渡す。

 

「3番口に取り付けろ」

「了解しやした」

 

やり取りを見送ったシュタアルはそんな事よりと仕切り直す。

 

「俺の剣と装備品は?」

「あっちだ」

 

ティシュレーの指差した先にあったのは立て掛けてある剣。

今はシュタアルの愛剣である『機剣レーヴァテイン』。

元々無銘のまま渡されたが先日の戦いの最中、機能解放と共に名付けた。

 

似合う名前を自分で考えた。

と言う訳ではなく、不思議と頭に語りかけられた気がした名前を採用した形だ。

それを聞いたフリーレンは「厄災の杖」を冠する神剣の名前だと言っていた。

しかし、一方では「運命を切り開くモノ」という意味もあるらしい。

 

―― 人の作った ”機剣レーヴァテイン” は人の運命を切り開く剣だ。

 

この剣の名前を聞いたフリーレンはそう言っていた。

言葉の意味は失われた神話上のお話であり真偽はよくわからない。それでも……

 

「おかえり、レーヴァテイン」

 

呼びかけると剣は僅かに震えて持ち主の再会を喜んでくれている。

……ような気がした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「力を使ったらしいな」

 

レーヴァテインを魔力で包み格納した時にティシュレーがそう声をかけてきた。

 

「あー。スロットに刺した封魔鉱みたいなやつの事?」

「……いつかは、お前に必要な力だと思って付けた。

 ……が、まだ早いと思っていた」

「……助けられたよ。爺さんありがとう」

 

礼を述べるといつもの調子で顔をそらしながら「ふん」と答える。

こういう時は、照れてる反応だ。いい歳して素直じゃない。

 

「日に一回だ」

「うん?」

「お前の魔力量だと日に一回が限度と思っておけ。

 複数回打ちたきゃルーエの嬢ちゃんやお前の妹クラスの魔法使いを頼れ。

 数時間の身体的接触をして魔力のバイパスしたらなんとかなる」

「とんでもないことシレッと言わないで……」

 

そう言えば、先日は2回使ってた……

その後、気を失ってしまって良くわからないのだが……

 

「その封魔鉱は空になると持ち主の魔力を吸い続ける。

急激な吸収を起こさんように加工はしとる。しかし、無理をすると安全弁すら壊れて吸い尽くされるぞ」

「え?俺気絶してたけど壊れてたの?」

 

目を丸くしてそう聞くとティシュレーは「阿呆」と返してきた。

 

「無理したらの可能性の話と言っとろーが!

 いや無理はしとったが……何というか親子揃って……まあいい!」

 

気を落ち着かせるためか木製のマグにお茶を注いでいる。

普段ビールを継いでいるはずだが……

2つ持って来たうちの片方をシュタアルに渡して来た。

 

「今回はそこは無事だったから安心せい。

 お前が気絶したのは魔力が急チャージされとる最中に大ダメージ食らったからだ。

 更にはルーエの嬢ちゃんに回復魔法かけ続けるとかいう阿呆なことまで」

「言い方酷くない?」

「さもありなんだ。お前の母親が聞いた時にどれだけ心配したと思っとる」

 

ごもっとも過ぎて返す返事も思いつかない。

はい、わたくしめは親不孝者です。

 

「誰もお前を責めんのは、ああしないと2人共助からん買ったからだ。

 ルーエの嬢ちゃんも相当な無茶をした」

「……」

「だがお前はそろそろ両親の気持ちを理解してもいい年頃だ。大切にしろ。何より自分の身をだ」

「……わかった。ありがとう」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

何か言いたげな様子で帰ろうとしないシュタアルにティシュレーは嘆息した。

 

「で、今日は何の悩みだ。

ルーエの嬢ちゃんの見舞いなら一張羅を着ていけ。土産に薔薇の花束と指輪のアクセサリーもついでに用意しろ」

「違えよ!何でだよ」

 

的外れ(?) なアドバイスに思わず姿勢が崩れてツッコんでしまった。

 

「じゃあとっとと話せ。わしらも仕事があるし、お前もこの後借金返す為のバイトだろう?」

「……」

 

返す相手はアンタだよというジト目で返事をする。しかし、借金をしているのは事実なので仕方ない。

肩の力を抜いて、ティシュレーにきいてみることにした。

 

「俺……強くなれるかな?」

「何故儂に聞く? アイゼンかシュタルクに聞けば良かろう」

「いや……それはそうだけど……」

 

お茶の入ったマグをテーブルに置いたティシュレーはフッと笑った。

 

「お前に作ってやったその剣だ」

「??」

「そこに全てが入っとる」

「……どういう事だよ」

 

姿勢を変えたティシュレーはいつになく鋭い目つきでシュタアルを睨む。

 

「そいつは人の手で作った本物の剣だ。

 神が作ったとか、女神に賜っただとか、馬鹿げたデタラメの一切ない。……本物だ」

 

ティシュレーは教会だと叩き出されそうなことを平然と言う。

だが、所在のあやふやな奇跡ではない。今ここに存在し、磨き抜いた業と技術にこそ真理。それが、彼ら技術者の誇りなのかもしれない。

 

「まあ……そりゃぁ……」

「この地で果てた戦士達の残した鋼。魂と血の染みた土。最強の魔法使いの灯した炎。最強の戦士が打ち据えた鉄。そして儂らの技術」

「……」

 

ティシュレーはシュタアルの心臓の辺りを指差しながら告げる。

 

「それが全て入った本物だ」

 

シュタアルは再びレーヴァテインを顕現させてその刃に視線を落とす。

剣が欲しいと頼んだあの時……そんなことになっていたなんて思いもしなかった。

その重さを知った今、美しい刀身には不安気な表情をする自分の顔が写っていた。

 

「それに関わった全員がお前のために動いた。

 儂らはその剣がお前に相応しいと思って送った。

 その意味を決して違えるな」

 

「そっか……そうだな」と笑ったシュタアルを見届けたティシュレーは立ち上がる。

 

「これから作業の続きだ、お前もさっさといけ!」

 

と言いながらあっちへ行けとばかりに手を振る。

 

「爺さん」

「何だ?」

「ありがとう、また頼むよ」

「ああ、またいつでも来い」

 

そう言った職人気質のドワーフは奥の作業部屋へと戻って行った。

 

■街の営みと金策と


 

「シュタアル、4番テーブルに紅茶とたまごサンドイッチを」

「はーい。了解で~す」

 

工房を後にしたシュタアルは街の喫茶店でアルバイトをしていた。

冒午後から夕方までの時間帯で、週に2度程のシフトで働いている。

 

教会のすぐ近くにあるテラスのある喫茶店だ。教会にも面したいい立地のせいか比較的人の出入りは多い。

 

一般的に短期で効率のよい金策といえば、険者向けの討伐依頼がメジャーだ。

危険度に比例して金額も上がる。しかし、クレ地方は母フェルンの出した条例により未成年は受注禁止となっている。

シュタアルがやれるケースは修行の一環でフリーレンが受注し、同行する場合だ。

一応臨時収入にはなるので、シュタアルとしては積極的に参加したい。

がしかし、フリーレンがそこまで頻繁にやるわけでもない。

 

というわけで、シュタアルの金策はもっぱらアルバイトである。

 

「今日……お客さん……多いね、シュタアル君」

「そうだな、盗賊騒ぎが収まって人の出入りが戻ったからかな?」

「大騒ぎだったもんね」

 

シュタアルと話しているのは喫茶店の店主の娘、名はクララという。

看板娘ではあるのだが。少し引っ込み思案な部分もあるシュタアルの元同級生だ。

 

(本人は何も言わないけど……

 解決したのはシュタアル君が何かしてたんだよね)

 

ある時期から交易の道で盗賊が出るという話が出た。

それからここ数ヶ月は街に人の出入りが少なくなっていた。

商品の流通や人の出入りも滞り、嘆願を出し続けた結果は1週間前の騒ぎになる。

 

まさか巨大生物がこの街に攻めてくるだなんて思いもしなかったが……

領主のシュタルク様やフェルン様がそれらを撃破したのは街の全員が知るところだ。

 

その一方で風の噂に聞いていた話。立場故にその英雄の二人が動けなかったとき。

魔物達を使役していた盗賊の討伐に出た者も別途いるという。

 

その騒ぎの最中に街から姿を消し他人物。

事態収集後に医院に数日入院し、こうしてバイトに戻ってきた一人の青年。

彼の特性を知る旧友としては察する所は余りある。

 

「シュタアル君、……身体とか調子はもういいの?」

「ん……?ああ、もう大丈夫だよ。ありがとうクララ。参っちゃうよなバイト中の怪我なんて」

 

判りやすい嘘だ。

それでも、屈託なく笑うシュタアルの笑顔にクララは少し安心する。

 

(少し元気無かったって聞いたけど大丈夫みたい)

 

彼は、入院をしていた事やあの日街にいなかった理由を話したがらない。

きっと余計な心配を周囲にかけたくないだろうとは思うけれど真相はわからない。

 

……あと、近くにある教会の医院の窓をチラチラと見ている。

 

(たぶん、ルーエさん……だよね? かなり重症だったって聞いたけれど)

 

街の中でも有名な人だ。フェルン様の直系の教え子であり、街の運営でもその手腕は高く評価されている。

黒髪の魔法使い。常闇夜の黒令嬢。鉄血の秘書官。とまあ、呼ばれ方は色々……

立ち振舞やその教養の高さからどこかの貴族出身のではとも噂される。

だが、自分のような町娘にとっては縁遠い話すぎてよくわからない。

 

「シュタアル君は、このあとルーエさんのところに行くの?」

「……え!? あ、うん。ちょっと顔を出してくるよ」

 

窓を見つめ呆けていた所に声を掛けると、慌てたのがおかしくてクララは苦笑した。

 

―― 16~17歳にもなってくると人によっては恋人なるものを作り始める。

 

かつての同級生の間でもそういう話はちらほら聞く。

学舎にいた頃は浮いた話の一つもなかった彼も最近は変わったのだろうか?

 

なお、クララは縁がなかった。お店をやっている両親のためを思えば……どうするべきだろう?

 

「シュタアル! 裏から材料取ってきてくれ。卵と肉とパンだ、あと紅茶の葉と黒豆もな」

「全部じゃん! わかった取ってくる」

 

店主の声がかかりシュタアルは厨房から奥の倉庫へと向かっていった。

力仕事は彼がいる時は積極的に任せている。見た目からはありえないぐらいに力があるのだ。

 

彼はぱっと見が筋骨隆々としているわけではない……

が、店の服に着替える時に偶然見てしまった。中肉中背に見える服の内側は鍛えられた筋肉がついている。

プニッとしてそうな場所がない……ミシッとしてる。詰まってる。鍛え上げられた鋼……ってかんじだろうか?良くわからないけど。

 

初めて見た時は思わず息を呑み、目を覆ってしまった……

いやエッチでもなんでもないんだけどなんとなく。

 

「おいー、クララ、お前……」

「ん? どうしたの、お父さん?」

 

シュタアルが倉庫へ行った後。カウンター内にいる父がこちらに声をかけてきた。

 

「せっかく二人で接客やってるんだから。なんか……こう……もっと……頑張れよ……」

「お父さん!!」

「いやいやいや、領主様の息子だからって話じゃねーぞ。学舎に通ってたときからお前がだな……よく話題に出してたろ。困ってた所助けてくれたって。

 シュタアルがアルバイトしたいと面接に来た時。これは女神様がくださった最高の機会だと思ったんだがな……」

 

こうして父は、とにかく茶化してくる。

 

「シュタアル君がバイトしているのウチだけじゃないから!!

 あと……何回も言ってるけどそういうのじゃないって!!」

「いや、でもお前、あいつがシフトに入ってる日いつもソワソワ――」

「お父さん!!」

「だってぇ……」

「本当に……そういうのじゃないんだよ……ずっと前から知ってる……判ってるの……

 シュタアル君は……」

 

やはり自分には縁遠い話なのだ……

 

ふと、入店のベルがカラコロと鳴った。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「んん?」

倉庫で頼まれた材料を取っていると、ふと何かの気配を感じた。

気配……というより魔力を感じる。

 

「ああ、そういやそろそろ時間的にそんな頃合いか」

 

学舎の午後の講義も終わり、学生が街に戻ってくる頃合い。

要するに……

 

「おーい、シュタアル、材料出したら早速お前さんの客だ」

「はーい。すぐに出ます」

 

多分……妹たちだ。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「さあ、兄様、私達はお客様です。兄様の接客スキルを駆使して存分にチヤホヤしてください」

 

開口一番に赤い瞳を輝かせ、含ませ気味に微笑むのはシュタアルの妹のティアフォート。

 

「……喫茶店はそういう店じゃねえんだよなぁ……」

 

可愛い妹のために有りもしない指名オーダーで客席まで出てきたシュタアル。

彼は伝票と筆を持ちながら微妙な表情で受け答えする。

 

「エリシアは何が良い?ホットミルクか?ティアが奢るぞ」

 

一緒に来ていたエリシアにそう声をかけると、彼女は少し困った顔で

 

「自分のお小遣いで出します。ホットミルクコーヒーをください」

 

まだ小額な金額でしかもらえないのになんてお利口な妹の鏡……

などと自分が奢るといったわけでもないのにシュタアルが感激していると

 

「私は兄様のツケで紅茶を」

「ツケはねえよ! なんで俺だよ! ちゃんと払えよ!」

 

妹の注文にケチを付けていると店主とクララの視線を感じる。

そっと振り返ると「本当に仲いいなコイツら」という生暖かい笑顔で見ていた。

 

「学校が終わって姉さんの見舞いか?」

「はい、先程行ってきました。今はその帰りです」

 

そっかそっか、ご苦労さま。とエリシアの頭を撫でると「子供扱いしないでくださいー」と頬をふくらませる。

頭を撫でる行為事態は嫌がらないのだが複雑な心境なお年頃らしい。

 

「姉さんはどうしてた?」

「はい、元気そうに……、本当にお元気そうに……仕事してました」

「……はあ?」

 

安静にしろと言われているのに……

と思っているとため息を付きながらティアフォートが答える。

 

「さすがに仕事に穴を開けすぎて逆に不安になると言って……

 エアフォルク様から道具を取ってきてもらって仕事をしていました。逆にちょっと楽しげでしたよ」

「……あの人、全然安静にしてないじゃん」

 

額に手を当てていると背後から声が掛かった。

 

「きっと街のことが大切なんだと思うよ」

 

後ろからやってきたクララだ。

先んじて紅茶とホットミルクコーヒーを持ってきてくれたらしい。

「伝票頂戴ね」と言われて、彼女に渡す。

クララは持ってきたトレーを交換に渡してくれた。

いつも仕事ぶりをみてるけど、気が利く娘だなと感心する。

 

「シュタアル君、ルーエさんのこと……心配なんだね」

「あー、いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 

不意に目の前に広がった優しげな笑顔に驚いて目を泳がせていると

背後から熱線で刺すような視線を感じた。

 

「兄様、飲み物が冷めてしまいます」

「へいへい……」

 

クララは「ごゆっくり」と言いながらカウンターの方へと戻っていった。

 

「兄様、随分と仲がよろしいようですね」

「……元同級生だよ。普通だ」

「へー、ほー、そうですか。

 普通の同級生はあんなに温かな笑顔を真正面から向けてくれるのですね。

 私も同級生の男子にそういう風にやったほうが良いのでしょうか?」

「いや、……お前が……男子には止めたほうが良いんじゃないかな~」

 

曖昧な回答をすると半分不満がある様子で此方を見てくるティアフォート。

まあ、此の妹がこういう反応をするのは割といつものことだ。

ある程度自身の容姿を自覚しているあたりが本当に厄介ではある。

 

「クララさん、優しい人ですね」

 

というのは、ホットミルクコーヒーを飲んでいるエリシアのコメント。

クララが手を降ってくれるのでエリシアも笑顔で手を振り返していた。

 

「まあ、兄様が……妙に人受けがいいのは別に良いのですけれど……

 多重の不純異性交遊は父様と母様の顔に泥を塗ることになります。ご注意ください」

「俺、そんな事したことないよね!というか、女の子とお付き合いしたこともないよ!」

「どうだか……」

 

ちなみに、お手伝いのライニさん曰く。

『シュタルク様とフェルン様は本人たちが爵位を固く受け取りません。

 しかし、お二人の血族こそが伝統ある戦士の一族の直系です。シュタアル様はその血筋の嫡男です。その意味、ご理解ください』

とのことだ。さすが、貴族に長年仕えてきた人だけあって発想が高貴すぎる。

 

つまり、もういい年なんだから恋人ぐらい作れってことらしい……

 

『シュタルク様とフェルン様の御子息であればすぐに見つかります。許婚を探しましょう』

と昔、ライニさんと父でちょっとした議論があったらしい。

以前父から「止めたけど良かったよね?」と言われた。知らんがな。

 

「みんなして、大げさな話を……」

 

北側諸国の三大騎士に名を連ねるオルデン家はさておき。ウチは普通の家だ。たぶん……

頭を抱えていると、エリシアが割って入ってくる。

 

「でも、シュタアル兄様が優しい人だって。お友達もたくさん知ってるの凄いことだと思います」

「……そうかな?」

「兄様、まさかエリシアと同じ年頃の娘まで……」

 

やり取りにティアフォートは引いた表情を見せる。

 

「ちげぇよ!」

「おい、シュタアル」

 

背後から近づいた店主がシュタアルの頭にトレーを載せてきた。……がシュタアルはそれを右手で受け止めた。

トレーの上にはホットコーヒーが乗っている。危ねぇ。

 

「シュタアル……妹が可愛いのは判ったからそろそろ他の接客も回れ」

「……はい」

「では、兄様お仕事頑張ってください。終わる頃にまた来ます」

 

いつの間にか注文のドリンクを飲み干した二人は手を振って店を出ていった。

 

■教会と祈りと


 

『いつもありがとう、またお願いね』

『給料に色つけるからシフト2倍にしてもいいか?』

『お父さんッ!!』

 

喫茶店の親子のやり取りを見届けた後、シュタアルは正面の教会へ向かった。

 

「兄様!!」

 

入口前で手を振るのは、シュタアルの妹のティアフォート。どうやら本当に同行するようだ。

 

「待たせたな」

「いえ、私も……いま来た所です……。行きましょう!」

 

いい笑顔でデートに遅刻したような演出をされてシュタアルは表情を歪める。

「阿呆か」と頭に手を置き粗めに撫でる。

するとティアフォートは「止めてください髪が乱れます!!」と抗議してきた。

 

「お前も俺と同じで、髪型整えらんないだろ」

「失礼な、これでもおしゃれになるようにセットしてるんですよ」

「へいへい」

 

歩き出すと「もぉー、兄様ちゃんと聞いて下さい」と頬を膨らませて後に続いた。

 

「そのままルーエの病室に行くんですか?」

「んにゃ、寄り道してからな……姉さんにも言ってある」

「寄り道……?」

 

ティアフォートは首をかしげた。

「共同墓地に行く。エンダムの墓参りだ」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「共同墓地か……やっぱり、少しだけ淋しい場所ですね」

 

教会は縁者により埋葬される通常の墓地と、無縁者用の共同墓地がある。

平和な地ほど共同墓地の比率は低くなる。父シュタルクと母フェルンが収めるクレ地方は比較的平和な方だ。

それでも必要となるのはヴェノムの様な者が現れ命を奪われる者が出るからだ。

 

「エンダム……俺、頑張ったよ」

 

シュタアルは墓の前で膝をついて祈る。

 

「兄様……これを。多分、1週間ぐらいは持つと思います」

 

ティアフォートは魔法で構成された小さな花束をシュタアルへと差し出した。

「ありがとう、ティアフォート」

 

フリーレンの花畑を出す魔法の応用だろう。我が妹ながら器用なもんだ。

 

「あの日、兄様が救えなかった人達って……」

「ここには骨も遺品もない。神父さんが四方手を尽くして名前だけ調べてくれた。

 エンダム以外の人達の名前、初めて知ったよ。みんな、家族も残ってなかったって」

「……ご家族の方々も被害に?」

 

ティアフォートの疑問にシュタアルは頭を振る。

 

「分からないんだ。もう今となっては、あそこにいた人達がなぜ人質にされたのかも分からない……」

「そう……ですか……」

 

ティアフォートの反応に失言だったなと少し後悔した。これは妹が聞いて気分のいい話でもない。

 

「名前がわかっただけでも良かった。こうして……墓参りもできるしな」

「兄様……」

「さて、ルーエ姉さんのところに行こう」

「兄様!」

「バイト先でケーキも用意してきたんだ。お前の分もちゃんと貰ってきた」

「聞いて下さい兄様!」

 

ティアフォートは後ろからシュタアルの腰にしがみつく。

 

「私はその場に居られませんでした。事の顛末は後で知ることしか出来ませんでした。

 優しい兄様が目の前で人の死に向き合ったこと。どれほど辛かったかなんて想像もできません」

「……ティア」

「でも、一人で抱えないでください。

 父様も母様もフリーレン様も私もエリシアも、アストルも居ます。

 兄様一人で抱えることじゃないんです」

 

いつも不遜で生意気で、兄のことをからかってばかりのティアフォート。

それでも、いつも愛おしく想えるのは、こういう娘だからだろう。

素直じゃないが、いつも誰かの痛みに寄り添ってくれる。優しい妹なのだ。

 

「ありがとう、ティア。俺は大丈夫だよ」

 

ティアフォートは言葉もなくシュタアルに後ろから抱きついたまま動かない。

泣いているわけではない。ただそうしていたい気分なのだろう。

 

「まったく……」

 

呟いたシュタアルはティアフォートが落ち着くまでそのままでいることにした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「兄様!そんなに走らないでも」

「いや、もう面会受付時間終わっちゃうから」

 

医院の面会受付時間は夕刻の鐘が鳴るまでだ。

元々バイト上がりだからちょっとギリギリぐらいだった。

それが晴れて超ギリギリとなってしまった。

理由は推して知るべし。

 

「そもそも面会は許されるのですか?」

「一応、受付通れば後は何とでもなる。姉さんは個室の病室だし」

「泊まる気ですか?ルーエの部屋に」

 

ジト目で見てくる妹。ぎりぎりになったのは誰のせいだよ。

 

「いや、ほどほどの時間で帰るよ。一応」

「えっち。個室で何をするつもりですか」

「何もしないよ!なんでだよ!」

 

という、変なやり取りで医院の受付に入ったら生暖かい目で見られてしまった。

違うんだ……

 

■ルーエとエアフォルク


 

さすがに連日来ると手続きも道も覚えてしまう。

勝手知ったる何とやら。

 

「姉さん、シュタアルだ。面会に来たよ」

 

ドアをノックすると、中から声がかかるわけでもなくドアが開いた。

 

「シュタアル。随分遅かったな。ティアもよく来た」

「エアフォルク兄さん。来てたんだね」

 

ドアを開けたのはルーエの兄、エアフォルクだった。

黒髪で長身、精悍な顔つきの人物。

父シュタルクの教え子の戦士であり、共に街を支える執務官。

民衆に好かれる代わりに、事務仕事が苦手な父シュタルク。

父がやりくりできているのはエアフォルクの手腕によるところが大きい。

 

「ご無沙汰しております。エアフォルク様」

「昼にもあっただろう。そんな堅苦しい呼び方は止めてくれ」

「お断りします。この喋り方は私のポリシーですので」

 

にっこり笑うティアフォートにエアフォルクは苦笑いで応える。

 

ティアフォートは人見知りが激しいうえで猫かぶりだ。

知らない人には、外面を良くしたうえで反応すらしない。

そういう意味では、エアフォルクは比較的好感度が高い方だろう。

 

「シュタアル様。ティア様。来てくださったんですね」

「姉さん。遅くなってごめん」

 

エアフォルクの後ろからルーエが嬉しそうに声をかけてきた。

返事をしながらその姿を覗き見たが……

 

「えぇ……」

「まあ、そういう反応しますよね」

 

シュタアルの呆然とした声にティアフォートが付け加える。

 

ルーエの病室はもう病室と言うより執務室のような状態だった。

「ちょっ。ルーエ姉さん、安静にしないとダメだよ。

 昨日までベッドで寝ていたのにどういう豹変っぷり!?」

 

シュタアルは頭に手を当てて部屋に入る。何となしに束になった書類の1枚目を覗き見た。

ヴェノム率いた賊の被害にあった村の支援に関する計画が書かれている。

 

「こんな戦いもあるんだな……」

 

そう言うと、後ろから頭に手を置かれた。

ガシガシと撫でてくるのはエアフォルクだ。

 

「あまり言ってやるなシュタアル。やるべきことは見えているのに何も出来ないのは結構辛い」

「そんなもんかな……」

「無理にならないように、俺も気にしている。医師たちに了承も得ている。心配しないでも良い」

 

そんなやり取りを見たルーエは珍しく膨れていた。

 

「兄さん。いい加減に子供扱い止めてもらえますか?」

 

そう言われたエアフォルクは苦笑いを浮かべる。

 

「そうだな。すまない。シュタアルとティアの前だからな。ルーエもいい大人であらねば」

「兄さん!!」

「ははっ。悪い悪い。お茶を淹れてこよう。しばらく待っていてくれ」

 

朗らかに笑いながらエアフォルクは部屋を出ていった。

 

「姉さんも、そういう顔する時あるんだね」

 

という言葉に、べぇと舌を出していたルーエは慌てて手で口をふさいだ。

 

「……見ました?」

「そりぁ……むしろ目の前でやられてどうして見てないと」

「ッッ!!」」

 

手元にあったシーツで顔を隠すルーエ。

まるで少女の様な反応にシュタアルは思わず頭をかく。どう反応したものやら。

素直に「可愛い」というべきなのか?いや、なんか拗れそうな気がする。

 

『兄様。わかってますよね……』

 

という言葉を発していないが、分かる。

背後のティアフォートの視線と何故か抑えてない魔力が怖い。

シーツからちらっと顔を出して、視線だけこっちに向けてくるルーエ。

なんなのその反応!?

 

「……あの、ルーエ姉さん。とにかく無茶しないでね」

「……無茶ではありません、普段ならこの3倍は捌いてます。療養中のスローペースです」

 

それって療養中?

いや、たしかに身体は全快しているんだろう。

本来治療の叶わない腕の再生すら、自身で対応しているのだから……

 

「……俺も手伝えたら良いんだけど」

 

どんな形でも良い。力になりたい。

 

「これは私の仕事です。シュタアル様は自分のことを頑張ってください」

 

だから。もっと……成長しないといけない。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「ルーエ。ここ。計算ちょっと間違っているわ」

 

ティアは手に取った書類を指差しながら指摘する。

 

「えっ、あ……本当ですね。ありがとうございます。ティア様」

 

ティアは微笑みつつもルーエに書類を渡した。

 

「無理すると、らしくないミスしちゃいます……。今日はもうお休みにしませんか?」

「……そうですね。少し休憩をとります」

 

あっさりと、ルーエの休憩の妥協点を生み出したティアフォート。

シュタアルは唖然とした表情で見つめていると。

 

「兄様。私はいずれ母様を手伝おうと思います」

「……え?」

「わたし。この場所が好きですから。

 だから、兄様がどう思おうと構いませんが……全部背負い込もうとする必要はありません」

 

どうにも、周りに悩み事が筒抜けて参る……

 

「そういえば、伺いましたよシュタアル様。進学するかどうかを迷っていると」

「えっ、いや、まだ全然決めてないけど。……ルーエ姉さんはどう思う?」

「そうですね……」

 

そこまで会話したところで

 

「エアフォルク様、お茶を淹れるのにも時間をかけ過ぎですね。様子を見てきます」

「うん?分かった。周り暗くなってきてるから気をつけてな」

「心配し過ぎですよ」

 

ティアフォートは苦笑しながら部屋を後にした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「エアフォルク様はいつまでそこに突っ立っているつもりですか?」

 

部屋を出た扉のすぐ近く。

お茶を淹れていたエアフォルクが立っていた。

 

「気付いていたのか……気配は殺していたのだが」

「ええ。完璧だと思います。全くわかりませんでした。

 兄様も気付かないぐらいです。さすがですね」

 

エアフォルクはまいったと白旗をあげたような表情。

 

「ティアは気付いたのだろう?」

「ルーエと兄様の事に関して行動が予想しやす過ぎるのです」

「君には本当に敵わないな」

「エアフォルク様に言われたくありません」

 

ティアフォートはトレーの上のティーポットに手をかざした。

 

「長話が終わるの待ってたら冷めてしまいます」

 

彼女は苦情を述べつつも魔法で温め直す。

 

「ありがとう。君はもっと、シュタアルとルーエの事に干渉してくるのだと思ったよ」

 

その言葉を聞いたティアフォートはぴくりと眉を動かした。

 

「ええ、面白くはありませんとも。

 今すぐにでも後ろから抱きついて、締め落として邪魔したいぐらいです」

「……方法が君らしいな」

「ですが私は兄様の心情も理解しています。

エアフォルク様、確かに私は小娘です。

それでも最低限の情緒と言うものを理解しているのです」

 

自身を小娘と呼びつつ、立ち位置を理解する少女。

中々に末恐ろしさを感じつつも重ねて問いかける。

 

「なるほどね。

ティアはシュタアルがここを出ていくことについてどう思ってるんだい?」

「兄様の決める事です。必要なら行くべきでしょう。

 ここでするべきことがあるなら辞めるべきです」

「……君は凄いな」

 

エアフォルクの感嘆の籠った言葉に。

 

「兄様にとって、世界で最も理想の妹を自負しておりますので」

「……違いない」

 

そんな言葉にエアフォルクは苦笑しながらも完全に白旗をあげた。

 

■真実


 

「――というわけで、シュタアル様の将来の夢に応じて決めるべきだと思います」

 

というルーエの言葉にシュタアルは思う。

 

色々アドバイスもらったけど全然頭に入ってこない!!

いや、なんというか。この地を離れて遠方に行くことにコメントほしいなぁ……

……大丈夫なのか、大丈夫じゃないのかとか。……姉さんどうなの?!俺いらないの!?

シュタアルは笑顔のルーエの前で悶々と考え込む。

 

「……シュタアル様?」

「えっ、あ、うん。そうだね。ありがとうルーエ姉さん」

「はい、参考になれば良いのですけれど」

 

ごめんなさい、全然参考になってない。

雑念入り過ぎの自分が全面的に悪いことは理解している。

 

「……あの、ルーエ姉さん。俺進学しちゃうと……この街からいなくなるわけで……」

「はい?」

「姉さんは、それでも平気……」

 

確信的な質問を勇気を出して問いただそうとした瞬間。

 

「お茶。沸きましたよー。兄様。お茶飲みたいですよね!!」

「––ッ!?」

 

ちょっと待ったぁ!!という勢いで開いたドア。

流れる動作でティアフォートがトレーを持って入ってきた。

エアフォルクは微妙な表情で後から入ってきた。

 

「兄様が買ってきたケーキも切りましたよー」

「……ティアフォート。お前、本当に……」

「あら、どうしましたか兄様。なにか不都合でも?」

 

ふふん。という顔はいかにもわざとさを感じさせる。

 

「ケーキ、買ってきてくれたんですね。ありがとうございます」

「うん。バイト先で……最近良く売れてるやつ。その店の娘が友達で、取り置いといてくれたんだ」

「……はあ。同級生の女の子………ですか。

 もしかして、すぐ近くの喫茶店の」

 

ちょっと考え込む仕草をするルーエ。

 

「あ、そうそう。最近ちょっとバイト入ってて」

「……あの可愛らしい感じの?」

「え……うん……お店はオシャレだよね……」

「……お嫁さんにしたら幸せになれそうと巷で噂の!?」

「……ねえ!お店の話してたよね!?」

 

ケーキを見ながらゴゴゴゴゴと怪しい空気を醸し出すルーエ。

後ろでエアフォルクがクククと笑っている。

 

「……ルーエ姉さん、なんか怖いんだけど」

「言ってやるな、シュタアル。

 あと、ルーエも、もう少し大人の態度で流せ。

 シュタアルの顔を見れば何も無いことは一目瞭然だろう」

 

ルーエはキッとエアフォルクを睨みつけてから、大きくため息を付いた。

なんとなく、溜め込んでいた緊張感がしぼんでいったように見える。

 

「……そうですね。すみません、シュタアル様」

「はい……なんだったの今の?」

 

なんかめっちゃ怖かった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

各々にケーキを食べ終わるかという頃合い。

 

「……さて、シュタアル。すこし真面目な話をしよう」

 

エアフォルクの声色がいつものトーンに戻り、真剣な表情で語りかけてきた。

 

「ルーエの呪いのことを、当人から聞いたそうだな。

 そして、俺が来ている時に聞きたい話があると聞いた」

 

――そう。約束していることがある。

 

『話すと長くなるので……今度説明しますが。

 私を呪った魔族との戦いの末に致し方なく……という事情です』

『……』

『私はとある事情で細かい部分まで話せないので、今度兄さんが居る時に説明しますね』

 

「ああ。そうだ。兄さん、姉さん。俺は聞かなきゃならない」

 

どうして、そんな事がおきた。

何が目的でそうなった。そして、その真実になにか、解決の糸口はないのか。

 

何より。家族の苦しみを知らずに居ることが。

自分でも許すことが出来ないらしい。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「兄様、エアフォルク様。母様から返事です」

 

話は長くなるので帰りが遅くなる。その旨をティアフォートから自宅へ連絡を飛ばした。

距離も近いからか使いの鳥は返答をすぐに持ち帰ってきた。

 

「『大人のエアフォルクが全面的に責任を持ち、二人を安全に連れ帰るように』とあります」

 

フェルンの返答にエアフォルクはやれやれと言った表情を返す。

 

「わかった。サインはこちらで書いて返そう」

 

紙にサラサラと返事を書き、その内容をティアフォートへ渡した。

それを鳥の足に括り付けたティアフォートは「お願いね」と言って飛び立たせる。

 

「いいなぁ、使い魔……」

魔力出力に余裕のないシュタアルには到底操れない。大抵契約も成立しない。

 

「……いつか、縁がありますよ」

と慰めるのはルーエ。苦笑いの表情には難しいだろうなという感情が見て取れる。

 

「さて、了承も取れた。何から話そうか。ティアフォートも一緒に聞くんだな」

「はい、そうさせてもらいます」

 

わかった。という表情でエアフォルクは頷いた。

 

「ルーエの呪いのことか。概要をフリーレン様から聞いたということは、経緯が知りたい。そういうことだな?」

「うん。俺は、ルーエ姉さんがどうして呪われたのか知りたい」

 

エアフォルクの質問に真っ直ぐな瞳で頷いた。

 

「私に掛けられた呪いの経緯は。私と兄さんが何故シュタルク様とフェルン様に救われたかを話す必要があります」

「そうだな。そして、ルーエが話せないのは経緯を伝聞系でしか知らないからだ。

 直接、顛末まで見ていたのは俺ということになる」

 

「うん……」

 

シュタアルにも覚えがある。二人を連れ帰った父シュタルクと母フェルンはボロボロで……

シュタアルとティアフォートに笑顔を見せてくれたけど。何処か悲しげなものを感じた。

 

知らなければならない。

 

「シュタアル。これは救いのない悲劇だ。惨劇だ。唯一の救いは俺達二人が残ったこと。それだけだ」

「うん……」

「その事実が、いかにシュタルク様とフェルン様を苦しめたか。今のお前なら分かるだろう。覚悟をして聞いてくれ」

 

そう語るエアフォルクの表情は真剣そのものだった。

 

「わかった」

 

そして、エアフォルクは語り始める。彼ら兄妹の終わりと始まりの物語を。

 

~ 街の営みと彼の日常 <His Gentle Days and the Town's Rhythm> FIN and to be continued ~

 

 




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