葬送のフリーレン ~ 鋼の英雄の物語 - Path to Stahl - ~   作:rvr75_raiden

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■イントロダクション


■ あらすじ
ヘリヤとの試合をきっかけに起きた事件から数週間。しばらくは騒がしくも平穏な日々が続いていた。
一方でシュタアルに接触してきたのが聖騎士アーデルだった。

「見習い、だよ。まだ正規の聖騎士じゃない。改めてよろしく。
 クレ地方からやって来た、英雄シュタルクとフェルンの子、鋼の英雄シュタアル」
「君は……有名人だよ。聖都シュトラールの老人たちからね。君の故郷にも近い場所だから、将来気を付けた方がいい」

彼の去り際、シュタアルの持つ機剣レーヴァテインと脳裏に響く声は警戒を示す。

―― シュタアル……あれは、魔剣だ。
―― 彼は、魔剣ダインスレイヴに魅入られている……

一抹の不安を残しながらも、シュタアルのクレ地方への帰省申請日が目前へと迫る。

■ 独自キャラクター

原作葬送のフリーレンに登場しない2次キャラクター

- シュタアル(Stahl) : 主人公。シュタルクとフェルンの間に生まれた長男。17歳。まっすぐな性格で、青紫の髪と三白眼が特徴の少年。出力不足で魔法はいまいちだが剣技と努力で補う。クレ地方に残したルーエと家族以上恋人未満な状態。
- ルーエ(Ruhe): 過去にシュタルクとフェルンに救われ、現在はフェルンの教え子兼仕事上の秘書。21歳。黒髪ロングヘアと黒い瞳を持ち、師匠ゆずりの冷静な性格のようで内面は激情家。幼少の頃に魔族の呪いで神代の竜の因子を身体に埋め込まれている。勢い余って進学直前のシュタアルに相互所持の契約を交わしてしまう。
- エイル(Eir):ゲナウとメトーデの娘。16歳(もうすぐ17歳)。生真面目な性格。高等魔法学校同学年内では総合成績第1位であり模範生とされている。7年前に、シュタアルと出会い、彼に勇気をもらった少女。しかし、事故の中で相互に存在の記憶を失っている。
- ヘリヤ(Herja): ユーベルとラントの娘。17歳。挑戦的な性格。エイルに次ぐ第2位の成績。彼女の場合は学内公式戦を繰り返しており戦闘成績無敗の序列1位を誇る。エイルとともに7年前にシュタアルと出会っている。ただ一人その時の記憶を残している。
- ティアフォート(Tiefrot):シュタルクとフェルンの間に生まれた長女でシュタアルの妹。15歳。赤い髪と真紅の瞳を持つ。魔法の才能は母譲りの天才。
- エリシア(Elyssia):シュタルクとフェルンの間に生まれた次女でシュタアルの妹。11歳。感情豊かで素直な幼い頃のフェルンそっくりな女の子。まだ制御できないが予知の異能を持っている。
- エアフォルク(Erfolg): シュタルクの教え子兼参謀。ルーエの兄。25歳。黒髪の青年。シュタアルの兄弟子にあたり弟妹達を見守る。斧技を学んでいる。




帰還と歓迎の狂騒曲(前編)【幕間3】~Homecoming and the Welcome Rhapsody 01~

■黒翼の魔法使いとランチの時間


 

北側諸国 オイサースト

 

帝国と並ぶほど魔法で発展し、人で賑わう都市オイサースト。テラスのあるおしゃれな喫茶店に座るシュタアルは困惑していた。

 

「どうした。好きなものを頼んでいい。娘や妻が『この店はなかなか美味い』と言っていたぞ」

 

全く笑顔もなく、襟を正し、皺ひとつない制服は大陸魔法協会一級魔法使いの証。

実家の母が着たことがあるわけではないが、持っていたのを見たことがある。その柄によく似ている。

 

「え、あ、はい。何にしようかなぁ」

 

そんな男、一級魔法使いゲナウ。魔法協会屈指の強い魔法使いだ。

来週に迫る帰省に向けてお土産をと街を歩いていたところ声をかけられた。

 

(なんで……どうして、こんなことに?)

 

どうして、こんなおしゃれな喫茶店のテラスで一級魔法使いと向かい合って座っているのか。いまだに理由が分からない。

青紫の外はねした髪と三白眼の瞳を持つ青年、シュタアルはとにかく言葉に甘えてお昼の注文をすることにした。

 

『森の木こりとウサギの踊るロールケーキ』、『花畑の熊さんの作った蜂蜜パンケーキ』……etc。

 

メニューの名前に目が滑る。その隙間からちらっと正面を見ると、表情一つ変えないゲナウがたたずんでいる。

 

(なんなんだこの状況)

 

「じゃあ、この『海辺のローラおばさん特製の海鮮パスタ』ってやつで……」

 

誰だよローラおばさん、と思いつつもおずおずと頼むと「わかった」と頷いたゲナウは店員を呼んだ。

 

「彼に『海辺のローラおばさん特製の海鮮パスタ』を一つと、そうだな……では私は『森の木こりとウサギの踊るロールケーキ』にしよう。

 食後に紅茶を二つ。彼にはミルクと砂糖も一応つけてくれ」

 

可愛らしい制服の店員さんは「承りました」と注文を復唱し、バックルームへと下がっていった。

『ロールケーキを食べるんだ……木こりとウサギが踊るやつ』という言葉にできない感情を抱えていると、何かに気づいたように。

 

「妻から勧められた。娘を理解したいなら、そういったものを知っておけと」

 

娘……そう、娘だ。シュタアルの友達である同級生、エイル。

 

―― 『私も!……私も……シュタアルの事……その……大好き!……友達として!!友達として大好き……なんだけど』

 

”お友達”で、長いブロンドの髪、蒼い瞳のエイル、彼女の父親が目の前の一級魔法使いゲナウなのだ。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「突然、声をかけてしまって申し訳なかったな。一度、会話の場を持つべきだと思った。娘と妻の会話で君の名前を聞かない日はないよ」

「そ、そうですか」

 

なんでだろう。水の入ったグラスを掴む手が震える。

だって目の前の人、全然笑わないんだもの。

 

殺気や攻撃の気配とは異なる、よくわからない圧。これは……少し前に同じ一級魔法使いのラントからも少し感じた気配に似ている。

だがシュタアルも理解している。一度会わなければならない人物だ。

なぜなら、シュタアルのオイサーストの高等学校の進学推薦はこの人物の名義によるものだからだ。

 

父と母と関わりがある人物だ。父のシュタルクから『立派で、優しく、いい人だ』という短評を聞いたことがある。

 

「エイルは学校でどうしている? 娘は毎日嬉しそうに弁当を作っている。とても幸せそうだ」

 

突っ込んでほしくなかった話にいきなり触れて、飲んでいた水が気管に入ってむせるところだった。

 

「あ、はい。俺が、一人暮らしで、不摂生だとだめだからって、栄養バランスとか考えてくれて、大変ありがたく……みんなに優しい”友達”です」

 

全然回答になってねぇ〜と内心突っ込んでいると、ゲナウは「そうか……」とだけ答えた。

 

「………」

「………」

 

ゲナウが逸らした視線の先では小さな鳥が戯れ、可愛らしい鳴き声を響かせている。

 

(会話ぁぁぁ)

 

“お友達”のお父さんと一緒におしゃれな喫茶店で何を話せばいいというのだ。そんなトークの引き出しには何の準備もない。

今思いつく限りで、強いて言うなら「オイサーストのおすすめのお土産って何ですか?」ぐらいか。

 

何か会話のきっかけを……と、うろたえるシュタアルだったが、それを遮ったのはゲナウのほうだった。

 

「このような場で話す機会を持ったのは理由がある」

「え、はい……」

「来週から数名の生徒で短期間だが聖都シュトラールの高等学校へ向かう話が出ている。それは知っているか?」

 

高等教育を行う機関というのは大陸内でも珍しい。大都市にしかない。帝都アイスベルク、魔法都市オイサースト、聖都シュトラールが有名だ。

それぞれ特色はある。聖都シュトラールは女神教会の総本山。女神の魔法を使える僧侶や聖職にかかわる人間の育成機関。

 

「ラヴィーネ先生から聞きました」

 

正直無縁な話として流し聞きしていた。エイルのように高度に女神の魔法を併用できる生徒は、他人事ではないかなとは思っていたが。

 

「先方から指名が来ている」

「はあ……」

 

まあ、最優秀であり女神の魔法も使える美少女だ。彼女に指名は来るだろう。となると、お弁当はしばらくお預けかな?

ぼんやりとそんなことを考えながら聞いていると――

 

「君だ、シュタアル。聖都シュトラールの学園側から来訪を指名されている」

「はぁ?」

 

つい先ほどとは同じ言葉を全く違った口調で言うことになってしまった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

ゲナウにとって事情がどうあれ、大人の事情に学生身分の人間を巻き込むのはいつだって本意ではない。

 

編入したばかりの生徒であるシュタアルにとって、いきなり短期間の交換留学は負担が大きい。

ついでに言うと、シュタアルは学内で何ら実績を持たない――と言うことになっている。

 

と言いつつ実態は――

来訪日には特待生権限の追試で本来なら落とすはずの試験に合格し、遺跡からオイサーストまでの40kmにおよぶ魔物が大量にいる山道を単独で踏破している――

通学日には、突然発生した実験生物の逃亡追跡から派生した雷鱗のドレイクを撃破し、原種の成竜をエイルと共に学生二人で討伐した――

学内で同世代の序列1位であるヘリヤと試合し、事実上彼女を下している。さらにその後発生した問題を彼は解決している――

 

これは全て対外に向けて伏せられている。不祥事のもみ消しと言われても仕方ないが。

実績としては異常としか言いようがない。この少年を守るためには表に出せない。

 

彼を預かるにあたり、フリーレンやフェルン一級魔法使いからの嘆願でもある。

まさに、このことが、協会からの要請を断りづらい理由でもある。全て、把握したうえでの要請だ。

 

『目を離すと、際限なく無理をする子だ。教育機関であるなら、その気持ちを踏まえつつ。最後の一線を守ってほしい』

 

(抑え込むことも逆効果となると実に厄介な子だ)

 

存在するだけで、娘がみるみる変わってしまった。よく笑うようになった。

今まで仲良くできなかったというユーベル一級魔法使いの娘の名前まで、頻繁に聞くようになった。

エイルは妻のメトーデに負けないほどの華やぎを日々見せるようになった。

 

ゲナウとしては、喜ばしい。しかし、正直言っていろいろ納得できない点もある。

この少年はエイルのナイトと言える人間ではない。娘が最上ではない。そういう少年だ。

だが、エイルは選んでしまった。

更に言うと、妹のリーンも『優しいお兄さんでした』と言っている。

 

「俺が指名される事情が全然分からないんですが?」

 

目の前では不思議そうに眉を歪める少年の顔が見える。

 

かつて、ゲナウの故郷を滅ぼした魔族と対峙した時に出会った彼の父とよく似ている。

人類の仇敵の大魔族でも突出した単独戦力を持っていた血塗られた軍神リヴァーレを討った人類の英雄シュタルク。

 

『俺はあんたがいい奴に見えるよ。

 こんなになっちまった村をまだ守ろうとしている。俺にはできなかったことだ』

 

ふと彼の言葉が脳裏をよぎり、ゲナウは苦笑を漏らした。

 

「負担になるかもしれないが、君に頼みたいことがある。

 断ってくれても構わない、学園と協会で協力し、責任をもって私が何とかしよう――」

 

ゲナウの苦笑を見たせいか、きょとんとした表情を見せたシュタアルだったが、

無茶を聞いた彼の返答は、

 

「わかりました」

 

という肯定の言葉だった。

 

ちなみに、『森の木こりとウサギの踊るロールケーキ』は……美味と言えば美味だった。

しかし、ゲナウが食べるには少し甘味が強すぎるように思えた。娘たちが好きなのはこういうものなのか……と頷きながら食べた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

その日の夜、シュタアルは明日の準備をしながら今日の事を振り返る。

 

ゲナウがシュタアルへと告げた内容。それは聖都シュトラールの学園が何故かシュタアルを指名してきた事。

シュタアルが雷鱗のドレイクを撃破したことやヘリヤの起こした事件を把握していること。そしてシュタアルがクレ地方から来たことも知っているということ。

あとは、エイルとヘリヤの事もそれなりに伝わってしまっているという話。

 

(エイルと、ヘリヤの事もか……)

 

シュタアルとしては隠匿していないが、ゲナウの表情から軽々しく言いふらしていいことではないのだろう。

そして、エイルの魔法というのは、もしかすると女神教会の教義に触れるかもしれない。

白翼の魔法。女神を思わせるその姿が何を象徴するかと言えば……

更にヘリヤも魔族による接触と教唆を疑われている。まったくそんなことはないのだが。

 

『体のいい脅迫だ。何の関係もない。乗るべきではない。だが、私は君に願うしかない』

 

必ずしも、そういう判断を下すとは限らない。ただ、そんなカードを持っている。これはそういう話。

 

「俺が行けばいい話だよな」

 

部屋の片隅に置いた女神のぬいぐるみの頭を撫でながら、ひとり呟いた。

そう、これは故郷であるクレ地方の街から、オイサーストよりずっと近い聖都に行くだけの話。

何も迷うことはない。

 

『来週帰省すると言っていたな。そこから聖都へ向かう手続きをしよう』

 

まあ、何とかなるだろう。実家に近いし……と、考えつつ、今日ゲナウと一緒に買ったお土産を眺める。

議論の末に結論に至った、木彫りの熊とか竜とかの置物。これが、実家の面々へのお土産として刺さることを祈りながら眠ることにした。

 

■聖都シュトラール短期留学


 

翌朝の通学途中――

 

「シュターアル!おはよ!」

 

気配もなく飛びついてくる感触と聞き覚えのある声。その瞬間に女の子特有の甘い匂いと柔らかい感触がした。

 

「なっ、ヘリヤ?!って、痛たたたたた!ルーエ姉さん!これは違う」

 

シュタアルの首筋にある姉弟子ルーエの咬み痕に宿る相互保持の契約。これは、シュタアルが他の女性を強く意識するとペナルティが課せられる。

結果的に、このようなちょっとした助平心に反応してガシガシと首筋が痛んでしまう。

 

「……ヘリヤ止めなさい」

 

最近の朝のよくある光景。シュタアルの隙を見てはヘリヤが飛びつき、ルーエの咬み痕に悶絶しているところをエイルが魔法で引きはがす。

少し空気は変わった気はする。ヘリヤもそこから妙なことをしなくなった。

 

「えぇー。シュタアルは朝のハグとか必要でしょ」

「やめろ、つってるでしょ。ねえ、シュタアル。必要なの?朝のハグとかいうもの」

 

エイルも怒らなく……なった?なったはず。先日のような街中でのヘリヤとの魔法による喧嘩をしなくなった。

 

「いや、朝からそんなに過激なのは、いいかな……別に」

「だそうですよ」

 

エイルは若干瞳に光がない感じでヘリヤを詰める。

 

「ねえ、エイル。知ってる?シュタアルが痛がるのって、興奮したって証拠らしいの」

「何が、言いたいのかしら?」

 

そんな、普通の朝の風景に聞き馴染みのある男子生徒の声が聞こえる。

 

「よぉ、シュタアル。不景気な顔してるなぁ」

「おはようヴィッツ」

「にぎやかだねぇ……そろそろ、教室に移動したほうがいいと思うよ」

「ああ、ライゼ……そうするよ」

 

編入初日から声をかけてくれた二人の男子生徒のヴィッツとライゼ。

今でも二人は妙な詮索をせず、友達でいてくれてありがたい。

 

「じゃあ、シュタアル。先に行ってるぜー。二股野郎は地獄に落ちろー」

「やめなよヴィッツ。選ぶ勇気が出ないだけなんだ。察してあげなよ」

 

最初より辛辣な言葉は、より仲良くなれた証拠だと思いたい。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

その日の朝礼で、ラヴィーネ教師が伝えた言葉は教室をざわつかせるのに十分だった。

 

「というわけで、シュトラールへの短期交換通学に関して一名が決定した。シュタアル、お前だ」

 

ゲナウの言葉に了承した翌日、即断されていたようだった。手続きする必要すらなかった。

隣で「聞いてませんけど?」という顔をしたエイルが、ペンを机に落として転がす。

 

「今回、アーデルも同行する。枠も数名しかない。折角の見聞を広げる機会だ。無駄にするなよ」

 

中庭でたたずむ白銀の聖騎士、僧侶と騎士を兼任する彼は魔法の概念を学びにオイサーストに来ている。

その顔立ちと立場から女生徒に人気を一手に集めるアーデルの話に、女生徒たちは色めき立った。

 

しかし、その黄色い声援を無視した二名の女生徒の「聞いていない」という視線がシュタアルに突き刺さる。

 

確かに言ってない。だって先日聞いたばかりだもの。と、思いながらもしょんぼりする。

ゲナウが娘のエイルに直接伝えていないことを意外に思いつつも、女神教会が切ってきたカードを考えるとしかたないとも思えた。

 

「じゃあ、午前の講義も気合入れて行けよー」

 

講義時間の開始を告げて、ラヴィーネは教室から出て行った。

正面にいたヴィッツとライゼが「聞いてねーぞ」という顔をしている。

「俺もわかんない」という顔を返すと、二人ともため息をついてから苦笑いをする。

 

隣のエイルを恐る恐る覗くと……女神のような微笑みでこちらを見ていた。

でも目が笑ってない。かなり怒っている。「あとで話がありますよ」という表情だ。

 

更に背後から突き刺す気配に視線を向けると、親指を立てて背後を指しているヘリヤが見える。

「あとで面を貸せ」と言わんばかりだ。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

午前の講義が終わったお昼休み。ヴィッツが食堂に行こうぜと声をかける前にシュタアルは襟首をエイルに掴まれた。

 

「ごめん。食堂は明日行こう」

「……生きて帰って来いよ」

「体には気を付けてね」

 

一体何をされる想定だ? さすがに……危ないことはないよね?

 

教室を出る途中。ドアの近くで腕を組んで待っていたヘリヤが合流した。

エイルの魔法で微妙に宙に浮かされているので、されるがままに引き摺られるしかない。

シュタアルを掴んだ反対の手には、少し大きめのお弁当が入った巾着袋が握られていた。

 

「屋上へ行きます」

「入っちゃダメなんじゃ?」

「私が開けるわ」

 

ヘリヤは確かに平然とやるだろうが、エイルがそれを咎めない。怖い。

 

階段を上った先にある屋上への入口の扉は、普通の施錠などヘリヤの前では無いも同然だった。

ノブを握ってひねると、普通に開く。無言で外に出ると、ヘリヤは外から鍵を閉めた。

誰も来るなと言うことだろうか。

 

同時にエイルの魔法が解かれて自立したシュタアルだったが、二人の少女がじりじりとにじり寄ってきて後ずさる。

身長差がある女の子二人。わずかに見上げながらにじり寄ってくると……胸元がものすごく視界に入る。

意識するとルーエ姉さんのペナルティが落ちるので、シュタアルはギュッと目を瞑りながら顔をそらした。

 

「あの……エイルさん、ヘリヤさん……聞いて?」

「そうね。話を聞くためにここに来たのだから。話してくれる?」

「シュタアル。どうして、そんな大事な事相談してくれなかったの?私たち、お友達だって……」

 

背後の壁にぶち当たり、これ以上下がれない。

ぐいぐい迫ってくる四つの膨らみにシュタアルは壁に張り付くしかない。そして、見られない。

 

学園の制服は割ときっちりしたものなのでそんなに扇情的な要素はない。

ヘリヤは相変わらずスカートにスリットを入れたりしてアレンジしているが。

しかし、扇情的な要素がないからこそ意識してしまう。そして、いよいよ咬み痕がギリギリと痛んできた時――

 

シュタアルの顔の両サイドを、弾丸のようなものが素通りした。

当たる角度ではなかったので避けずにそのままの姿勢で耐えたが、目を開いた結果、それが二人の右手と左手だと分かった。

シュタアルを逃がすまいと二人の少女が壁に手をついた状態だった。聞いたことがある、壁ドンというやつだ。

しかも両サイドからだ。シュタアルには縁がなくて把握していなかったが、男がやるものだと聞いていたのだが。

 

「ねえ。シュタアル。約束してくれたよね。私の前からいなくならないって。どうして?」

「いや……そういう意図は全く……」

 

ヘリヤの問い詰めに対して、回答になっていない返事をしてしまった。

 

「シュタアル。私……迷惑だったかな……?」

「そんなことは、全くないんだけど……」

 

エイルのもう一方の手にあるお弁当に視線を向ける。彼女のお弁当が毎日おいしい。

おいしいのだが、なんで毎日食べているのだろうという疑問もある。まるで、今のライフラインが彼女頼りのようだ。

なお、先日ようやくお弁当代を受け取ってくれて、シュタアルの中の溜飲も少しだけ下りた。

 

「とりあえず、話すから……この体勢、何とかならない?」

 

すごく近くて落ち着かない。と、言いたかったのだが。

 

「だめ」

「このまま話して」

 

ダメらしい。

 

■彼の帰省事情と彼女たちの追跡事情


 

「なるほど……先日のドレイク討伐の情報がシュトラールに漏れて興味を持たれた……」

「そ、そうらしいです……」

 

嘘ではない。言いにくいことは真実で覆い隠すのが鉄則。

 

「それにしても、編入してひと月の生徒を指名だなんて……」

「ですよね、俺もそう思います」

 

本当に、どうなっているんだろうか?

先日話しかけてきた聖騎士アーデルも妙なことを言っていた。

彼とはあれから会話はしていないが、当然今回のことに無関係ではあるまい。

 

「シュタアル。気になったんだけどさ。……どうして了承したの?」

「うぐっ!」

 

相変わらずヘリヤは確信を一直線に貫こうとする。でも言えないものは言えないのだ。

 

「あの、シュトラールって移動の途中に実家があってね。一回顔見せに帰省する予定だったし、都合がいいかなーって」

「へー、ふーん、ほーん、そうなんだー」

 

信じてくれているのかどうか微妙な反応のヘリヤ。一方でエイルは実家というキーワードに反応した。

 

「前に言ってた人に、会いに帰るの……?」

「えっと、それは……はい。心配してたので……顔見せないとちょっとまずそうな感じで」

「そう……」

 

その言葉で二人は壁ドン状態を解いてくれた。

何か納得はしてくれたのかとも思ったが、瞳の奥にあるものは「ただで済むと思うなよ」という炎が燃えている。

 

「納得してもらえました……か?」

「「ええ、とても」」

 

その後、屋上で食べたランチはどんな味だったか覚えていない。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

光陰矢の如し。あれよあれよと短期留学の手続きは進み、シュトラール行きの前の連休となった。

オイサーストとクレ地方にある、魔法協会が設立した学舎の間では転移の魔法装置が結ばれている。

それを使って実家に帰るのだが……

 

「どうして……エイルとヘリヤが、遠出するようなスタイルで来ているんですか?ラヴィーネ先生、見送り?」

「え、おまえ、聞いていないの?」

「何を?」

 

背後には平静な表情を崩さないエイルと、不敵な笑みを浮かべるヘリヤがたたずんでいる。

 

「残りの枠は二人が略奪……いや、希望者の実績をベースにするとこうなって……

 お前と同じ経路でシュトラールに行くことになった。クレ地方の宿泊に関しては学園側で手配済みだ」

「聞いてないっ!」

「もともと、大っぴらにする話じゃなかったからなぁ……お前ら、シュタアルに何も言ってないの?」

 

ラヴィーネの質問に、輝く他人行儀モードの笑顔でエイルが答えた。

 

「はい、先生。とてもプライベートな話でしたので。クレ地方に関しては、伝説の魔法使いフリーレン様がお住まいの地として一度伺ってみたいと思っていたのです」

「右に同じでー」

 

いや、ウソだろ!と断定する材料はない。ついでにウソだと言及したところで状況は悪化する未来しか見えない。

 

「……らしいぞ。学園側としても人材は申し分ない。今回私は同行できねーが現地にはカンネが監督で行くことになった。安心しろ」

「……はい」

 

いや、今問題はそこではない。

いずれにしろ女神教会はエイルとヘリヤの事情を把握している。

カードは切らず交渉に出してきた。それに乗ったので、彼女たちはもう来ても来なくても状況は変わらない。

 

(ブラフかもしれない脅し。いっそ、交換学生という公の立場を持たせた方が安全ってカウンターか)

 

幼い頃に祖父ハイターの墓参りで行ったことはあるのだが、今回のシュタアルへの指名にしても今になってなぜ突然なのかという気もする。

しかし、直面する問題は二人がクレ地方に来る気満々なことだ。これは大変まずい。

 

「何か言いたいことでもあるの、シュタアル? お願いがあるなら聞くよ。シュタアルの地元だものね」

「ないけど……攻撃魔法は使わないでね……」

「へえ、そんなことでいいんだ……大らかな街ね。わかったわ」

 

本当に、ついてくる気のようだ。何故か下腹部の大事なところがキュッと締め付けられる感じがした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

中央諸国 クレ地方

 

「お母さま!シュタアル兄様が今日帰ってくるんですよね」

「……ええ」

 

朝食の準備中にフェルンに問いかけてきたのは次女のエリシア。フェルンをそのまま幼くしたような容姿の少女。

瞳の色だけ少しシュタルクのような紅が混じっている。

 

朝から鼻歌交じりでご機嫌なのは先の彼女の言葉の通りだ。兄が休暇に帰ってくるのを、久しぶりに会えるのを楽しみにしている。

とにかく、およそ反抗期というものを感じさせない少女は何のひねりもなく家族が好きだ。シュタアルがオイサーストへ旅立つ日も随分寂しがった。

数日は姉であるティアフォートにべったりだったくらいだ。

 

「何か、気になることでもあるんですか?」

「いえ、今日の夕食をどうしようかと考えていただけです」

「そうですか!私ティア姉さまとフリーレン様を起こしてきますね!」

 

そう言って駆けていくエリシアの明るさに反してフェルンの表情は複雑だ。

 

『―― そういうわけで、聖都シュトラールに短期だが交換学生という形でシュタアルが選ばれた。

 あと……件の二人の娘がクレ地方にまで行く。まあ、なんというか。歓迎してやってくれ。普通でいい』

 

という唐突な連絡。

どこから突っ込んでいいやら。まず前者は本当に苦情を言いたいぐらいの唐突さだ。

魔法協会側の都合もあったらしいが、シュタアルが了承してしまった。

 

聖都はフェルンが領主という立ち位置になってから何度か訪れたことはある。

人が集まる場所だ……ハイターがフェルンを預かったときに人里から離れた理由も良く分かった。

 

昔は、養父のハイターが所属していた女神教会の荘厳なる総本山だと、それぐらいに思っていた。

だが内情は普通の国と変わらない。しいて言うなら王の一族というものが存在しない組織だ。

教皇、枢機卿、司教、司祭と言った階位をめぐるパワーゲームがないとは言い難い。

 

近年は安定していた。が、シュタアルを指名した理由は気になる。

 

そしてもう一つは物凄く頭が痛い。もう、家族の血の成せるアレな事態としか言いようがない。

 

――『シュタアル当人にその気はギリギリないつもりらしいけど……うちの学校のツートップは

  落ちたぞ。もう止まらん。そっちで受け入れてやってくれ』

 

「フェルン。巻き割り終わったぞー。早めに準備してシュタアルの出迎えに行こうか」

 

その血の最たる原因となる人物が、全くあっけらかんとした表情で居間に戻ってきた。

フェルンはため息をつくと夫のシュタルクは怪訝な顔で「え、何?」と反応する。

 

「シュタルク様……本当に……いったいどういう因子なんですか?」

「何?なんの話?」

 

フェルン自身もある意味ではそれに引き寄せられたところはある。

もちろんそれだけで選んだわけではないと自負しているが。

 

「嵐が来ます」

「いい天気だけど……?」

 

ティアフォートは最近はなんだかんだと安定はしている。兄離れもできたと信じたい。

そして、一方の愛弟子が大人の余裕で応対してくれることを祈るしかない。

 

■竜の姫と二人の戦乙女


 

「ルーエ……今日はシュタアルが帰ってくるんだが、どうだ?もう少し明るくしないか?」

 

シュタルクの教え子でもあり領地運営の参謀でもあるエアフォルクは虚無のような表情を浮かべて朝食をとっている妹に話しかける。

ここ数日心ここにあらず。時々思い出したかのように薄く笑いだすので滅茶苦茶怖い。

 

しかし、彼女の黒髪はいつも以上に艶を見せ、過度に飾らない程度に身なりを整えている。

要するに、帰ってくることに対してそれなりに準備はしているということだ。

 

(シュタアル……君を想って手紙は読んでないが。何を書いた?)

 

職場では、最近新人として現場入りしたティアフォートが……歳にしてあり得ないパフォーマンスを出してくれている。

学舎を卒業した翌年に職に就く……領主フェルンの娘としては疑いようもない才覚だ。

おかげでルーエの様子がおかしいことは見逃されているが……

 

「とにかく。二日ほど滞在するから、よく話し合うんだ」

「ええ、兄さん。話し合います。じっくりと……」

「……平和的に、だぞ」

 

弟弟子に祈るしかない。とにかく『うまくやれ』ということを。

たとえ、篭絡した学友を伴って帰ってくるのだとしても上手くやれ。

それだけで守られる平和がある。冗談抜きに。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「じゃあ、開けるよ」

 

学舎の転移装置。これを転送元のオイサーストから受けられるようにフリーレンが発動の準備を進める。

 

「お願いします。フリーレン様」

「シュタアル兄さまと久しぶりに会えます。楽しみですねティア姉さま!」

「そうね。楽しみね」

 

その様子を見たシュタルクは隣にいたエアフォルクに耳打ちする。

 

「なんかフェルンとティアとルーエの空気が変じゃない?」

「……変も何も。シュタアルが学友を伴って帰ってくることは聞いているでしょう」

「え、あ、うん。友達ってどんな子だろ?」

「どんなも何も、同級生の女子学生ですよ……」

「そうなんだ。隅に置けないな」

 

シュタルクの反応にエアフォルクはため息をつく。

背後ではルーエが全く表情を変えない様子でたたずんでいる。真顔と微笑みの中間の表情だ。

 

「家族がそろうんだからもっと笑顔で迎えたいよなぁ、アストル」

 

末の弟アストルはシュタルクが話しかけたことで嬉しそうに笑う。

シュタルクとしては、これぐらいでいいよなぁと思うのだが。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「つながった。行けるぞ」

 

というのは装置の起動を知らせたラヴィーネの声。

 

「ありがとうございます。じゃあ行ってきます」

「おう。行ってこい。フェルンやフリーレンにもよろしくな」

 

実家に帰るのに「行ってきます」というのは変な感じだなと思うが、それに応えてくれるラヴィーネがいるからどこかこそばゆい。

 

「では、私たちも行きますかー」

「そうですね。ラヴィーネ先生。父や母には到着後に連絡しますと」

「分かった、言っとく」

 

エイルとヘリヤの会話を横目にシュタアルはゲートへと一歩を踏み出した。

なんだかんだと利用回数も増えてきたので、手慣れたものになった。

昔は歩いて移動していたフリーレンや両親の時代に比べると、本当に便利なものだ。

 

もちろん膨大な魔力を必要とするので、一般的に使えるものではないのだけど。

周囲の風景が光に溶けてまた収束する。見慣れたつくりの部屋が見えて――

 

「ただいま……母さん、父さん」

「おかえりなさい、シュタアル」

「シュタアル兄さま!!」

 

妹のエリシアがシュタアルへと飛びついてきた。それを受け止め、笑顔で答える。

 

「おっと。ただいまエリシア。ティアも」

「おかえりなさい、兄様……」

 

久々に顔を見た家族たちに声をかけた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

感動の家族の再会。そんな場における最大のミッション。それは――

 

――『次の帰省時にはどのようなことが起きたのかを、明確に、詳細に、真実を、シュタアル様の口から、お伺いしたく』

 

姉弟子ルーエの懸念の払拭!!

 

「父さん、エアフォルク兄さん、姉さんは?」

「いや、いるぞ。そこに――」

 

しかし、ルーエの姿が見えない。不思議に思って父に問いかけた瞬間。

 

――ドンッ――

 

という空気の振動音が鳴った。

気を抜いていた……とはいえ、シュタアルにも知覚できないスピードで何かが押し寄せ――

 

「え!? どわっ――」

 

勢いよく、押し倒された――。

 

「シュタアル様っ!!」

「何ぃ!? なんなの?何事!?」

 

尻もちをついた状態のシュタアル。慌てて状況を確認しようとして――すぐにそれが不要だと気づく。

シュタアルを押し倒した黒い影、それは確認するまでもない。

 

小さく安堵の息を吐いて、細い腰と、なだらかな肩に手を乗せる――

 

「ただいま、姉さん。なんかごめんね――」

「シュタアル様。会いたかったです――」

 

会った瞬間に問い詰められる可能性も危惧して覚悟していたが、どうやらそうではなかったようだ。一気に肩の力が抜ける。

 

が……ふと、思い出した。

そうだ……これは……多分拙い。いろいろ拙い。大変危険だ。

 

なんせ――

 

背後で転送装置が光っていた。いわゆる転送発動の魔力光だ。

フリーレンの「ようこそ、クレ地方へ」という言葉と共に光が徐々に収束して現れたのは、二人の可憐な美少女だった――

 

「へえ、シュタアル。その人が――」

「……ご家族との再会の時間は大事だろうと……思っていたんだけど。ねえ、シュタアル――」

 

エイルとヘリヤは、見下すように転送装置の上に立っていた。

 

■ご挨拶がまだでしたねという話


 

シュタアルにしがみついたルーエをフリーレンとフェルンが引っぺがして、体裁を整えた。

なんせ客人が来ているのである。ドタバタはできない。

 

「お騒がせして申し訳ありません。こちらは夫のシュタルクで、私はフェルン、この地の代表をしており、シュタアルの母です」

「フェルンが言っちゃったけど、こちらはシュタアルのお父さんで、一応この地の領主ということになっているシュタルクです……って、君たちは?」

 

シュタアルの連れてきた学友にどことなく見覚えがあるシュタルクにフェルンが耳打ちをする。

 

(シュタルク様、7年前のオイサーストに行った時の子達です)

(え、そうなの……見違えたな。というか、え……再会したの?記憶とかは……?)

(話によると、思い出したとかそういう話ではないようですよ)

(そうか……なんかいわゆる奇縁ってやつだな)

 

そんな様子を見て何かに気づいたのか、ヘリヤが一歩踏み出した。

 

「フェルン様、シュタルク様、ご無沙汰しております。7年ぶりですし、あの時はろくに挨拶もできておりませんでしたが、ユーベルとラントの娘のヘリヤです」

 

普段の態度はどこ吹く風の行儀良さでヘリヤがシュタルクとフェルンに挨拶をする。

その様子を目を見開いてみていたのはエイル。この手の作法でヘリヤに後れを取るなんて、全く予想すらしていなかったからだ。

 

「ヘリヤさん、覚えていますよ。あの時はありがとうございました」

「いえ――」

「――あの! フェルン様、ご高名はかねがね。父と母より伺っております。私は――」

「エイルさんですよね?もしかすると事故で覚えていないかもしれませんが、知っていますよ。またシュタアルとお友達になってくれてありがとうございます」

 

そんなフェルンの言葉にぱあっと明るい表情を見せたエイルは、胸をなでおろした。

 

「休み明けすぐにシュトラールに行くって聞いてるけど、それまではゆっくりしていってくれよ。

 宿は取っているって聞いたけど、大丈夫?うちの部屋とかあるけど」

 

シュタルクの言葉に、ヘリヤが「え、良いんですか?じゃあお言葉に甘えて」と言いそうになったところを、エイルが手で口を押さえた。

 

「流石にそこまでお世話にはなりません。学園と協会側で手続きしていますから、大丈夫です」

「そっか。しっかりしているなー。じゃあ君たちの判断に任せるよ」

 

そこまで言ったシュタルクは少し残した仕事もあるからとエアフォルクと共にその場を後にする。

見送ったフェルンは「こんな場所で立ち話は何ですから……移動しましょうか」と言って、二人を一度協会学舎の来客室へ案内した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「あの、お茶です」

 

と、ティーカップを持ってきたのはフェルンとよく似た髪色の少女だった。後ろにはティーポッドを持った、シュタルク同様の赤い髪の少女が立っていた。

 

「ありがとうございます。シュタアルさんの妹さんですか?」

「はい……シュタアル兄さまの妹のエリシアです。こちらは私の姉さまの――」

「ティアフォートです。お見知りおきを」

 

エリシアはとても愛らしい笑顔で迎えてくれるのだが、何故かティアフォートはそっけない。そういう性格なのだろうか?

 

(ティア姉さまっ!)

 

とエリシアがたしなめると、ティアフォートは声色を変えて「クレ地方の街へようこそ〜、楽しんでいってくださいね!」

と言いながら紅茶を注いでくれた。警戒心が強い子なのかもしれない。

 

そして――目下、エイルとヘリヤが最も気になるのは、正面に座るフェルンの後ろに控える黒髪の女性。

先程思いきり、シュタアルに抱きついていた女性だ。今はかなり冷静な表情をしているが……先ほどはそんな雰囲気ではなかった。

 

テーブル隅の席に小さく腰かけているシュタアルは、何故か汗をだらだら流している。

 

「先ほどお伝えした通り、大陸魔法協会より伺っております。短い間ですがお二人を食客としてお預かりしますので、困ったことがあれば私に何なりと――」

という形で始まったフェルンの受け入れの説明。概ねこの街の仕組みと施設の場所の説明を聞いた二人は……

 

「あの、そちらの方のご紹介を……」

 

と、エイルは、黒髪ロングヘアの女性へ視線を移す。その瞬間、フェルンの瞳にちょっとだけ不安の色が見えた。

 

「そうですね、こちら私の教え子の――」

とまで言ったあたりでその女性はフェルンの肩に手を置いた。

 

「フェルン先生。そこは自分で」

「……わかりました」

 

祈るようなため息をついたフェルン。多分……事情を把握されてしまっているのだろうとエイルは察する。

 

「初めまして。私はフェルン一級魔法使い兼領主代行の教え子であり、秘書も務めております。

 シュタアル様とは10年来の姉弟子を兼ねた家族付き合いをしております。ルーエと申します」

 

いわゆる営業スマイルでエイルとヘリヤを見つめるルーエ。

 

「ご学友として、私のシュタアル様がお世話になっていると伺っております。

 姉弟子として深くお礼申し上げます」

 

いい笑顔でそう告げるルーエに、空間には見えない電撃が走った。フェルンは右手で顔を抑え、シュタアルは汗が止まらない。

 

エイルも笑顔で固まっているところでヘリヤが立ち上がる。

 

「お姉さん、ですね……私、学園では一度、シュタアル君とお手合わせをさせていただいてから深い”お付き合い”をさせていただいています。

 ヘリヤです。握手しませんか?私たち仲良くなれると思うんですよね」

 

背後でシュタアルが慌てて「友達、友達って意味ね!」と補足しているがヘリヤは完全に無視している。

そんな様子にエイルも慌てて立ち上がり――

 

「あの、私も……学園ではシュタアルさんといい”お付き合い”をさせていただいています。趣味でお料理もしていて……

 シュタアルさんにはお弁当を食べてもらって、料理の感想を参考にさせていただいているんです」

 

そう言ってエイルも握手の手を差し伸べた。

なおも、シュタアルは「友達!友達付き合い!」と必死に訴えている。

順に握手を交わすルーエも、エイルも、ヘリヤも全員が笑顔の状態から眉一つ動かさない。

 

ただ、母のフェルンが「シュタアル……後で話があります」と呟いたので、シュタアルは「はい」と答える以外に手段がなかった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「エイル。あんな啖呵切って良かったの?」

 

一度部屋を出て宿泊施設へと移動を始めたエイルとヘリヤ。

隣を歩くヘリヤは、至極ご機嫌である。エイルとしては結構不安もあるのだが……

 

「……あなたは、本当にご機嫌ね」

「知らなかった状況が一つ明らかになった。これは目標に一歩近づいたってことよ」

「何の目標よ」

「私の楽しい未来」

 

この揺るがなさは見習うべきなのだろうと思うが、それでも気になってしまうのは転移直後に見た光景だ。

シュタアルは優しい顔をしていた。心から安堵したような。

 

「本当に大切な人だったんだ」

「シュタアルがあの場で嘘を言ってたのなら私は今すぐにでも押し倒しに行くけど」

「やめなさい。未成年でえっちなのはだめ!っていうかご家族いるでしょ!」

 

どこまで本気かわからない彼女の言葉を遮り、目的地の宿泊施設に到着した。

 

■その血が成せる業


 

久しぶりの暖かなはずの自宅。正面に母と父が座る。

けれど空気はピリついている。原因は明らかだ。

 

「シュタアル……いくつか言いたいポイントがあります。重要なことから。

 聖都シュトラールへの短期留学。これを急遽了承したことの説明をしなさい。

 私は貴方の監督責任を放棄したつもりはありません」

「はい」

「二つ目。お客様を連れてきたこと自体に不満はありません。むしろ歓迎すべきでしょう。

 ですが……貴方が一か月あまりでどういう状況になったのか……理解していますか?

 いえ、これはもはや叱っていいのか何なのか……」

 

とフェルンは隣を睨むとシュタルクの背筋が曲がる。

 

「なんで俺を見るのー?」

「なんか、竜に襲われたり、試合を申し込まれたりして。一生懸命に何とかしようとして……守らなきゃって……」

 

少し離れた位置のソファーに座るエリシアが「シュタアル兄さまらしいです」と喜んでいる。

その隣では頬杖をついたティアフォートがため息を漏らす。顔に「やっぱりなー」と書いてあるようだった。

 

「7年前、オイサーストの件で私たちも軽率でした。子供たちが友達として交友関係が広がればと素直に思っていたのです。

 だというのに、そんなに、あの娘たちの人生に深く突き刺さっているとは……」

「友達なんだけど……」

「シュタアル」

「はい、ごめんなさい!!」

 

机の上に置いた両手に頭を乗せて深いため息をついたフェルン。

 

「ルーエとのこと、どう思ってるんですか」

「姉さんは……大切な姉さんだ」

「あの子達は?」

「大切な友達だ」

 

顔だけを回転させてシュタルクを睨むフェルン。

 

「なんで俺を見るの?シュタアルは悪いこと言ってないと思うよぉ」

「そうですね、悪くありません。タチが悪いです。いったい誰の因子がこうさせたのでしょうか。

 どうして止まらないんでしょう。どうして止められないのでしょう。力不足を感じます……」

「とりあえず、フェルン落ち着いて。折角家族そろったし、楽しくね」

 

フェルンは胸の奥から再度深いため息をつき、胸元で手のひらを握りしめた。

 

「痛い、痛い、痛い!叩かないで、フェルン。どうして!?」

「納得いきません。どうしてですかシュタルク様」

「わかんない!なにもわかんない!どうして俺が叩かれるの!?」

 

突然始まった母が父をポコポコする癇癪(?)のようなもの。

 

「あの……母さん?」

「聖都シュトラールへ行くのはあの子達を守るため……と推察します」

「うっ……」

 

一級魔法使いとして知っている話もあるのだろう。

ポコポコをやめないままフェルンは言葉を続ける。

 

「守ると決めたのなら、守り切りなさい……それはそれとして、守ることの意味をもっとよく考えなさい。

 母として、ルーエを泣かせる結果は断固認められません。これはあなたが選んだ道です」

「ずっと……そのつもりなんだけど」

「うすうす判っているはずです。あなたの頑張り方がとんでもない方向へ向かっていることを……」

 

母の言葉にムッとしたシュタアルは「間違ってるっていうの?」と答えると

隣のシュタルクはポコポコを手で止めながら苦笑した。

 

「間違ってねーよ。でも助けられた方が受ける気持ちはお前はもうちょっと考えた方がいい。

 差し伸べられた手に手を伸ばすことは……その人生観を変えることもある。

 二人の女の子がお前の手を取ったんだ」

 

その言葉を聞いたフェルンはより一層ポコポコを激しくする。

 

「シュタルク様。分かっていてすっとぼけていたんですか?」

「いや、でも、悪い事じゃないかなーって」

「悪くないけど、無意識はある意味悪いんです!」

「ごめんて。でもシュタアルらしいなぁって」

 

そんな両親のやり取りをなんとなく見ていると、玄関から感じ慣れた気配が近寄ってくる。

 

「兄さんと、姉さんだ」

 

どうやらルーエとエアフォルクも来たらしい。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「シュタアル。申し訳ない。こちらが大人げなかった……この通りだ。来訪した客人に対しての態度ではなかった」

「ちょ、エアフォルク兄さんやめてくれ!頭上げて!」

 

エアフォルクが頭を下げているのは他でもない。ルーエがエイルとヘリヤに対して喧嘩腰の自己紹介をしたため。

こっぴどく叱られた様子のルーエがしょんぼりしている。珍しい。

 

「シュタアル様。申し訳ありません。シュタアル様の可能性を摘みたくないという理由を私自ら裏切っていました……」

「いや……そんなことは……」

 

あるかないかでいうと、日々咬み痕が痛いので何とも言い難いところだ。

シュタアルもそれが嫌という話ではない。

 

「お二人には私から謝罪したいと……

 でも、シュタアル様のリンクが切れてしまったことが、思ったよりショックで……」

「……ッッ!!」

 

忘れていた懸念事項が突然再浮上しシュタアルは言葉に詰まる。

 

――先日のヘリヤとの試合……というか妙な事件の後、ふさぎ込んだヘリヤを医務室に連れて行ったら別の意味で襲われた。

――魔法でベッドに拘束され、服を脱がされ、馬乗りになられ、挙句。

――咬み痕にかかる契約を一時的に破壊され、危うくヘリヤに変な意味で食べられそうになった。

――大事な一線を超えちゃう!と思った瞬間、窓ガラスを突き破り突入してきたエイルに助けられた。

 

(言える訳がないッッ)

 

ルーエは両手を祈るように握りしめながら語り始めた。

 

「シュタアル様にも様々な事情があったと……理解はしています。でもこうして私の下に帰ってきてくれました。ご学友を連れて……」

「ね、姉さん……?」

「事前に手紙も返してくれました。『まったくやましいことはない』と文面に添えておられました。やましい事の有無は聞いていなかったのに……」

「あの……聞いて……」

「それでも、ちょっとびっくりするぐらいかわいらしい女の子を堂々と二人も連れて帰ったシュタアル様が『お友達』と言い張るのです。私は……これを信じたいと思います」

「事情が……」

 

結局これはいったい何の尋問なのだろう……?そう思ったときにエアフォルクから助け船が出た。

 

「ルーエ……腹に据えるほどに心配だったという訴えは十分すぎるほど伝わった。もうやめないか」

「伝えたい気持ちはあと10倍あるんですけど……」

「そんなに伝えると、シュタアルが重さで圧死してしまう」

 

気持ちで圧死ってするんだろうか? いや、するかもしれない……とか思っていたらエアフォルクが耳打ちしてきた。

 

(シュタアル……君から手紙を受け取ってからとにかく不安定だったんだ。

 真実を話すか……一晩ドロドロに甘やかすかどちらかで頼む)

 

現在、テーブルに座るシュタアルの正面にはルーエとエアフォルクがいる。他のみんなはソファーに移動している。

凝視するオーディエンスに落ち着かない。一晩ドロドロに甘やかすってどういうこと?ハグでいいの?

もはやイメージすらできない。

 

「あの、とりあえず……話せることだけ話すから、聞いてもらえる?」

 

隠し立てしても仕方ない。洗いざらい吐いてしまおうと、シュタアルはため息をついた。

もちろん、ヘリヤの試合後の襲撃の詳細は伏せるけれど……

 

■嵐の晩餐会


 

「わかりました……」

 

というのは、一通りの事情を聴いてくれたルーエの言葉だった。

 

「二人とも、7年前のオイサースト訪問時に会っており、シュタアル様とエイルさんは記憶を失っている。

 エイルさんはドレイク討伐の折に信頼を得て再度交友を……ヘリヤさんはその時のことを覚えていて……心の脆弱性を突かれて何者かに乗っ取られたところを救助」

「そ、そんな感じです」

「先日のリンク切断は、医務室の中で治療中にヘリヤさんが呪いの類と思って一時的に破壊してしまったと」

 

ルーエは腕を組み、咀嚼するように目を瞑り考え込んでいる。

胸元で組んだ腕の上に自己主張強く乗る二つの大きなふくらみが呼吸で揺れるので目が離せない。いや、そうじゃなくて……とかぶりを振る。

 

「わかりました。シュタアル様を信じましょう」

 

下がった溜飲に、シュタアルは胸をなでおろした。

 

「良かったー」

「あとは当人たちにもそれと無く聞いてみますね」

 

前言撤回、ダメだ、口裏をなんとか……嘘は言ってないが意図的に飛ばした部分が……

と、悶々と考えているとフェルンがパンパンと手を叩いた。

 

「そこまでにしましょう。シュタアルの友人であるお客様が二名いらしているのです。夕食の準備に取り掛かりますよ」

「はい、お母さま!」

 

フェルンの後を追って、エリシアはキッチンの隅にかけてあった少し小さいサイズのエプロンを手に取った。

 

「シュタアル兄さま、どうですか?」

「……うん。可愛いよエリシア」

「そんなにストレートに言われると照れちゃいますね……」

 

恥ずかしそうに赤くなるエリシア。それを見たのかティアフォートが立ち上がる。

 

「あー、私も……手伝おっかな」と言ってもう一つの赤いエプロンを手に取って付けた。

ちらちらとこっちを見てくる紅い髪の長女。

 

「なんで、エプロンに ”Eiserne Jungfrau(鉄の乙女)" って書いてるの?」

「……言うに事欠いてそんなセリフしか出ないんですか、愚鈍な兄様は!?」

 

その言葉と共に顔の真正面に小さな炎が巻きあがったので、シュタアルは防御魔法を展開しつつ紙一重で回避した。

 

「危ないってば!いや似合ってるよ。ティアも可愛い」

「最初から世界で最も美しい妹だと認めればいいものを」

「望みが高えよ。エリシアの前でよく言えるな」

 

シュタアルの言葉にティアフォートはいつものドヤった表情で告げる。

 

「エリシアは世界で最も愛らしい妹です」

 

何が違うんだと突っ込もうとしたがもう面倒なのでやめておくことにした。

なんとなしに懐かしいやり取りに自然と調子が戻ってきた感じもある。

苦笑していると、ティアフォートは「それ位の感じが兄様らしいと思いますよ」と言って手伝いを始めた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

宿泊用に取った部屋に荷物を置いたエイルは周囲を見渡してぽつりと漏らした。

 

「一部屋なんですね……」

「ダブルベッドじゃなくてシングル二人の部屋だから良いじゃない」

「ダブルベッドであってたまるものですか……」

 

眉を寄せて嫌そうに答えるエイルにヘリヤは肩に手を置いてすり寄ってくる。

 

「えー。私はエイルを抱き枕にして寝るのは悪くないんだけどぉ?」

「あなた、最近距離が近くありません?何なんですか?」

「そう?前から私たちってこんなもんでしょ?それに、予行演習。多分必要になるから。

 ルーエさんに対抗するためには、絶対私たちが一緒にベッドで寝る必要があるから」

「本当に何を言ってるの?」

 

一か月ほど前、本気で戦った相手に何を言っているのだこの女は……と、蔑んだ目つきでエイルはヘリヤを見つめる。

 

「何その視線?冷たいなぁ……あら?」

 

何かに気づいた様子のヘリヤ。反射的に周囲の状況にエイルは限定範囲の探査魔法を飛ばす。

そして気づいたのは、シードラットのようなものが窓辺でノックしていたことだった。

 

「……使い魔でしょうか?手に何かを持っているようです」

 

そのシードラットが持っていたのは1枚の手紙だった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「エイルお姉さん、ヘリヤお姉さん。クレ地方までようこそ」

 

シードラットの持ってきた手紙に書いてあったのは夕食のお誘いだった。

 

「お邪魔します……」

「こんばんは。素敵なお家ね」

 

シュタアルの二人目の妹というエリシア。シュタアルの母であるフェルン一級魔法使いの美貌の遺伝子を一身に受けた可憐な少女。

つい後ろから抱擁して撫で回しそうになる謎の衝動に襲われ、実妹リーンの「お姉ちゃん!」という顔を思い出して踏みとどまった。

 

「シュタアル兄さまのお友達が来るというので、母様と一緒に準備しました。楽しんでくれたら嬉しいです」

「へぇー、楽しみだなぁ。ところでエリシアちゃんだっけ?ヘリヤお姉さんじゃなくて『お義姉ちゃん』でいいからね」

「そうなんですか?」

「ダメに決まってるでしょ」

 

不思議そうな顔で小首をかしげるエリシア。

 

「普通で良いんですよエリシアさん」

「わかりました。じゃあ、こちらです!」

 

エリシアに案内された先。そこには領主用のローブからエプロン姿に着替えたフェルンと私服に着替えた領主シュタルクが待っていた。

 

「いらっしゃいませ」

「はい……お招きに預かり……あの、良いのでしょうか?」

「二人はシュタアルの学校の友達なんだろ?じゃあ、両親としては遠方から遊びに来てくれた二人を歓迎しないと」

「御義父様、御義母様の心遣いに感謝いたします」

 

おずおずと質問したエイルの隣で、ヘリヤがスカートの裾を持ち上げて挨拶をした。

 

「っっ!! ヘリヤ、貴女という人は!!また、そういう」

「あら~淑女のたしなみでしてよエイルさん」

 

喧々囂々とする二人を見て「シュタアルの友達は仲いいんだなぁ」と喜ばしげにうなずくシュタルクと

「今のやり取りをそれで割り切るんですね……」と言いたげなフェルン。

 

テーブルの上には豪勢な料理が並んでいる。隅っこにはシュタアルが小さくなって座っていた。

正面には、黒髪をポニーテールにまとめたルーエがいる。彼女はなぜかエプロンドレス姿で座っている。

 

(なぜメイドスタイル……まさか、あれがシュタアルの趣味?)

 

そんな完全正解を一目で見抜いていたのだが、エイルに真相は知るべくもない。

 

「こんばんは、エイルさん、ヘリヤさん、是非お二人とお話がしたく。こちらへどうぞ」

 

メイドスタイルのルーエに案内されたのはシュタアルの両サイド。

怪訝に思いつつも座ると間にいるシュタアルはますます小さくなった。

 

(シュタアル、これは……どういう事??)

 

エイルが小声で問いかけると、申し訳なさそうにシュタアルが答える。

 

(先日、ヘリヤとの試合の後のことについて……説明を求められております)

 

「あの事か……」と、おおよその状態を察したエイル。向こう側にいるヘリヤの笑みが深くなったのを見ると彼女も察したようだ。

腹を割って……目の前の人物と相対するにはいい機会なのかもしれない。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

にぎやかな食卓に美味しい食事。料理に舌鼓を打ちつつもエイルは注意深く観察する。

 

当たり前と言えば当たり前だが、晩餐中の話題はオイサーストの学校の様子が中心だ。

ルーエの問い詰めは……微妙に核心を突いたものはそれほど出てこなかった。

考えてみれば、家族全員でいる場所で……と考えると、本当に当たり前の話。至って平和な……

 

「そうなんですね。エイルさんもヘリヤさんも大きなトラブルで」

「はい……そうですね、私はドレイクに襲われたところを共闘して。ヘリヤは――」

「私は危険な魔法を研究していた局員の暴走に巻き込まれて、止めてもらって感じかな」

 

ヘリヤの試合で発生した事件。成果に目のくらんだ研究者の暴走、それ以上の情報は伏せられている。

両親のゲナウとメトーデは何か知っている様子だったが、伝えられないのには理由があるのだろうとは思っている。

 

「そうですか。学生の生活とはいえ……様々なことが起きるんですね、意外です」

 

ルーエの感想にヘリヤはニヤニヤしながら答える。

 

「誰かさんが、呼び込んでるのかもねぇ、ねえシュタアル?」

「……その誰かさんってまさか俺の事?」

「それは、そうかもしれませんね。クレ地方にいた時からトラブルに事欠きません」

 

至って笑顔で受け答えをするルーエ。曖昧な受け答えでいまだ汗が止まっていないシュタアル。

よほど、あの日のことへの言及が怖いらしい。確かにあの日はヘリヤの攻勢もありいろいろあった。だが……

 

『俺は……故郷のクレ地方に、助けたい人がいる。俺の助けを……待たせてる、大切な女性がいるんだ!』

 

エイルとヘリヤを前にそう啖呵を切った事実は目の前の人物に対して素直に伝わってもいいと思うのだが。

相変わらず、不器用な生き方しかできない青年にエイルは苦笑する。

 

そんな晩餐も一通り終わったので、手を叩いたフェルンがエイルとヘリヤに声をかけてきた。

 

「そういえば、お風呂も沸かしてあります。この後、お二人もどうですか?

 温泉好きのフリーレン様の注文で、かなり大きな造りになっています。今日はお疲れでしょう」

「流石に……そこまでは」

「私はお言葉に甘えようかなぁ……ルーエさん、一緒に入りません?」

「ヘリヤ!?」

 

初めて訪れた、男の子のお友達の家でお風呂までいただく。そんな状況に流石に遠慮をと思ったが。

 

「私たち、仲良くなれる気がするんですよね。どうです?

 女同士、背中を流しながら、腹を割って話しません?」

 

晩餐会の会話が消化不良だったこの娘は、どうしても決着をつけたいらしい。

 

「ええ、良いですよ」

 

すっと立ち上がった。ルーエと。

 

「え、ちょ、ルーエ姉さん?ヘリヤも?何言ってんの?」

 

そんな彼女のリアクションに顔を蒼くさせたシュタアルが印象的だった。

 

■湯舟と竜の腕


 

「兄様……浴室行きの廊下の前で何をソワソワと?」

 

問い掛けの言葉通りの行動をしているシュタアルに声をかけたのは妹のティアフォートだった。

 

「いや、今、ルーエ姉さんとエイルとヘリヤが入っていてね……それで……」

「兄様……ちょっと、ダメですよ。変態度が過ぎます」

 

ティアフォートの遮る言葉が強烈過ぎて「え、なんで?」という顔をしていると

 

「お風呂から上がった女性の匂いを堪能したあと、湯舟のお湯を飲もうと待ち構えているなんて……兄の解釈が違います」

 

血を分けたはずの妹はとんでもないことを言いだした。

 

「いつもの事だけど、お前何言ってんの?」

「お風呂のお湯って飲んで大丈夫なんですか?」

 

というのは後ろからやって来たエリシア。

ティアフォートの言った言葉を額面通り受け取ってて怖い。

 

「いや、ダメだと思うよ……流石に。飲んじゃダメだよエリシア」

「しかし、兄様は、それでも飲みたかったんです……わかってあげてエリシア」

「そうなんですか?」

「やめろぉ!ちげぇよ!!飲まないよ!」

 

というあたり、ティアフォートは「はぁ」とため息をついた。

「事情を分かり切っている」という表情が鼻につくが、実際は分かっていそうで文句が言いづらい。

 

「兄様がルーエに隠した事実を御二方に語られそうで怖い……そんなところですか?」

 

正面から笑顔でゾルトラークを撃ち抜いてくるティアフォート。

弾道予測を許さない芯を捕らえた精密射撃に言葉も出ない。

 

「な……おま……全然……全然、そんな……そんなこと……そんなのないから!」

 

いや、出たけど、ダメだこれ。と、シュタアルは内心汗だくになる。

 

「なるほど……隠していることなどないと……。仕方ありません。

 エリシア、兄様は忙しそうなので私たちはお部屋でテーブルゲームしましょうか、協力型のやつ」

「本当ですか!?やります!」

 

嬉しそうにティアフォートに飛びついて喜ぶエリシア。

 

「では兄様ごきげんよう」

 

そんなエリシアの手を引いてその場を去ろうとする我が妹。口元は明らかに冷酷な笑みを浮かべている。笑っている。

 

「ぐっ……!!」

 

くやしい!具体的に言うとヴェノムに負けた時に匹敵するほどに!

だが、ここで好機を見逃したら、退路は……

 

父から脈々と受け継いでしまった伝家の宝刀。

膝をつき、手は美しく添え、額は掠る寸前の高さで固定し、背筋は地面と平行に伸ばす姿で――

 

「ティア様!お願いします!助けて!姉さんの怒髪天が……天を突く前に……事態を収拾する知恵を!お兄ちゃんを見捨てないで」

 

なんでだろう。なんでこんな奥義を継承してしまったんだろう。どうしてだよ父さん。

そんな疑問しかない。そうは思うのだが、シュタアルは奥義を発動せずにはいられなかった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

ヘリヤは決断力を持つ少女だ。彼我の戦力差を分析し、どのように攻略するかを決め、刺せる弱点は徹底的に突く。

不可能なら撤退を試み、反撃のチャンスが生まれるまで待つ。父と母から教わり、今まで徹底してきた。

 

だが――

 

「私ってさ、一般的には大きい方に分類されると思うの」

「はい?」

「形は自信があるの。ママもきれいだし、崩れないように……いつ見せても大丈夫なように身体には細心の注意を払って来た」

「……ちょっとよくわからないのだけど。何を言ってるのヘリヤ?」

 

身体を洗ったヘリヤが見るのは先に湯船につかったルーエとエイル。

 

「浮くのね……それ」

「それって?」

「分からないならいいわ……久々だわ。単純な敗北感。本当に7年ぶり」

 

ルーエとエイルのつかる湯舟に浮かぶ4つのふくらみ。いずれも、大きく美しく、非の付け所がない。

 

「それで……他者を廃して、腹を割って話したいこととは?

 巧妙に外部からの干渉を排してまでなんですよね?気づきにくいほどですが、音声が漏れないようにしていますね。

 これは……女神の魔法ですね。エイルさん?」

「……」

 

シュタアルの姉弟子であり、フェルン一級魔法使いの教え子でもある、大陸魔法協会にとっての禁忌の存在とも呼べる魔法使いのルーエ。

その理由は入浴直後にすぐにわかった。右腕が明らかに人のそれではない。異質な魔力と異形の見た目。だが、エイルもヘリヤも不思議とそれが歪だとは思わなかった。

 

――美しい。およそ人のそれではない、黒の竜鱗に覆われた右腕。

 

だが委縮する訳にはいかない。エイルも相応の覚悟で臨んだのだ。

エイルの心の中にいる白翼の魔法は、このことに関して退くことを許さない。存在意義であると訴えている。

 

「分かってほしい。と思いました」

「何を?」

「私たちは……ルーエさん、貴女からすると、突然来た簒奪者のようにみえているのかもしれません。

 積み重ねた時間は……きっと違うのでしょう。私たちは数か月を共に過ごして……絆で結ばれた女性たちに見えているんじゃないですか?」

 

ルーエは答えない。表情からは肯定の意思も否定の意思も読めない。

エイルとルーエの様子にヘリヤはゆっくりと湯船に入りつつ……

 

「エイルは回りくどいなぁ……」

 

不敵に笑いながら背筋を伸ばした。

 

「ルーエさん。私から、貴女の一番欲しがってた情報を上げる」

「何を教えてくれるのかしら?」

「シュタアルの様子見てわかっちゃった。ずっと気にしているんでしょ?そのことでシュタアルを問い詰めているでしょ。その圧力で」

「……」

 

ヘリヤはゆっくりとルーエへとにじり寄ってくる。

そんな中、瞳を覗き込むだけでもヘリヤは理解できる。格上の魔法使いだ。魔法使いとしてだけでも格上。

だというのに何か別の力まで感じる。本来なら逃げるべき存在。だから面白い。こんな裸で何も持たない状態で言わずにはいられない。

 

「あなただって分かっちゃった。どんな思いで付けたのかも読み取っちゃった」

「何の話を言っているんですか?」

「あのシュタアルの咬み痕の魔法的な接続を一時的に切断したのは私なの」

 

―― 大きく見開かれたルーエの瞳が、一瞬だけ血のように赤くなった。

 

二人の会話を聞いていたエイルにはそう見えた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「つまり兄様は……試合後、ほとんど精魂尽き果てたところの隙を突かれ、組み敷かれ、ルーエの契約を一時切断されたと」

「はい……その通りです」

 

腕と足を組んで椅子に座るティアフォートと、ちょこんと隣に座っているエリシア。そして地面に正座するお兄ちゃんという謎の構図。

 

「で、それ以上何かされたんですよね?」

「危うく……なんか、いろいろ初めての扉を開けられそうになったところをちょっとした乱入騒動でグダグダになって助かりました……」

 

まるで汚物を見るような表情で兄を見下ろすティアフォート。

軽蔑の視線がつらい。エリシアがあまり内容を分かってなさそうなことだけが救い。

 

「で?」

 

結局何がどうなって今に至るのか?という理由の説明を求められる。

そこまでつまびらかにしないとダメなんだろうか?だが、支援を求めるためには致し方ない。

 

「その……『人生を捧げたって良いって思ってる大切な人がいる』っていって――」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「―― シュタアルは……『人生を捧げたって良いって思ってる大切な人がいる』と言って……私たちを止めました。ルーエさん。それは貴女の事ですよね?」

 

ルーエとヘリヤの会話に飛び込むように割り込んだエイルはなりふり構わず告げる。

「ネタばれはよくないなぁ……」とヘリヤはぼやきながらルーエの迫っていた体を後ろに引く。

 

ルーエは瞳の色を元に戻しつつ、若干、顔と……右腕の一部を赤くして……咳払いをする。

小声で「まあ、そんな、ことは、あることも……あるんですけど、人生を捧げるなんて……大げさな……」とブツブツぼやいている。

 

「要するに……」

 

指先に魔力を集中し、ひとすくいほどのお湯を持ち上げたヘリヤは、指先ではじいてルーエに飛ばした。ルーエは当然のようにそれを、一枚発生させた防御魔法で防いだ。

 

「――小娘だと私たちを舐めないで欲しいわ。時間と理屈じゃない。そんな簡単に割り切れないし諦めもしない」

 

ヘリヤは不敵な笑みを崩さず、ルーエを正面にとらえて宣言した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

『けれど、私とシュタアル様が抱えるもの、これから得るもの、出会う人、きっと様々あると思います。

 今は吊り橋に乗った勢いで関係を結んでは、それらの可能性に蓋をしてしまう恐れがあるのです』

 

かつて、ルーエが竜の本能に暴走し、シュタアルに助けられたのちに彼に告げた言葉。

保留を言い渡したのは自分。この結果を呼び込んだのは、半分は自分の責任。

 

真剣な瞳で見つめるエイルと、挑戦的な目つきで見ているヘリヤ。

 

契約のリンクが切れた時の事態も大体わかった。シュタアルが言葉を濁す理由も察しはついた。

「人生を捧げてもいい」と言ったことを伏せていたのを含めて……深くは問い詰めないことにしよう、とため息をつく。

伝えられない思いも含めて、それはシュタアルなりの矜持なのだろう。

 

そして、目の前の少女たちは口にしたことを成し得る子達だ。

おそらく、お風呂の外で悶々としているであろうシュタアルは、ルーエとの関係を軽んじなくても、彼女たちを軽視出来る性格でもない。

 

「あなたたちの言い分は判りました……それでどうするのです?」

「……どうもしません」

 

ルーエの問いに応えたのはエイルだった。

放棄のような言葉だが、その瞳はルーエを捕らえて離さない。

 

「ただ、知ってもらいたかったんです。軽い気持ちで関わっているわけではないと」

「シュタアルの意思は尊重するわ。でも私は私の意思で行動する。貴女の想いも、貴女”へ”の想いも私には関係ない。私たちの意思は揺らがない。それだけ」

 

全て織り込み済みで全力で関わる。そう告げてくる二人の少女にルーエは小さく両手を挙げて降参のポーズをとり、嘆息する。

 

「なるほど……どうにも……」

 

右手を天井にかざすと、黒々とした……部分的に赤くなっているのはまだ己の感情制御が未熟故――そんな竜の鱗の腕が視界に入る。

 

「シュタアル様は面倒な女ばっかり引き寄せますね」

 

そんなルーエの言葉にヘリヤは噴き出した。エイルも苦笑いをしている。

 

「聞いた限りだと……貴方も大概よね」

 

不遜にもとれる少女の言葉に一つの確信を得たようにルーエはうなずいた。

自分が傍にいてあげられない期間。彼女たちのような存在がシュタアルの”味方”であってくれるのだ。そこに不満はない。

それ以上のことは、これまでに築いた絆とこれからの努力で補うべきだ。関係性を未確定にした自分の責任。

 

「さて、聞くべき話は聞けました。そろそろ上がりましょう。のぼせますし、いつまでも占領するものでもありません」

 

そう言ってルーエは湯舟から立ち上がる。

二人の少女も「そうですね……」と言って彼女に続いた。

 

■戦士の奥義と膝枕


 

お風呂から上がり、軽装に着替えた三人が戻ってきたときに、彼女たちを出迎えたのは――。

 

「申し訳ございませんでしたぁぁ!」

 

と膝をつき、床に手を添え、背筋を水平にし、額を床すれすれの位置で固定したシュタアルの姿だった。

三人はあっけにとられてその様子を見守ったが、特に動きはなかった。とりあえず、近くにいたティアフォートに視線を向けると――

 

「おおそらく兄様が隠していた内容を話されていたのだろうということで、

 兄様の真摯な気持ちを態度に表したいと素直に謝ったらどうですかと言ったらこうなりました」

 

再びシュタアルに視線を移したルーエは彼の前に屈み込んだ。

 

「シュタアル様……顔を上げてください」

「はい……って、ぶっ!!」

 

顔を上げた瞬間、逃げ出そうとしたシュタアルの頭を、ルーエはがっしりと掴んだ。

 

「薄着で申し訳ありません」

 

物凄い勢いで抵抗するが、ルーエの竜鱗の腕の効果でシュタアルは全く動くことができない。

ルーエは顔の真正面に、そして胸元が見えるような角度で強制的にシュタアルの頭を向かせる。

後ろでティアフォートがため息をついて「兄様はむっつりですからね……」とぼやいていた。

 

そんな状態に、エイルとヘリヤもかがんで様子を見に来た。風呂上がりの状態で。

 

「――っっ!!――っっ!!」

 

言葉なき必死の抵抗を試みながらも、顔が真っ赤になっていく。

いよいよ何かの臨界が来たような雰囲気になった瞬間、ルーエはその手の力を抜いた。

すると後ろにいたティアフォートが指を弾く仕草をし、シュタアルの眉間で魔力が弾ける。

 

――パァン!――

 

という小さな破裂音と共に、シュタアルはひっくり返ってゴロゴロと転がった。

 

「今の反応に免じて、これで手打ちにしましょう。シュタアル様」

「そ、そうですか……」

 

少し鼻血が出ているのは、先の魔法のせいか別の理由かもしれない。

 

「あの……三人とも湯冷めするから、上にもう一枚着て……」

「そんなことより、シュタアル。お風呂上がりの美女三人に言う言葉はないのー?

 体を洗って、髪も洗った直後なんだけどー?」

 

隙のない動きで一気にシュタアルの隣に滑り込んだヘリヤが、シュタアルの腕を取った。

 

「ひぃ!姉さん違う……!あ、良い匂い……」

「ちょっと、ヘリヤ!やめなさい!」

 

とか言いつつも逆サイドからはエイルが腕を取って引っ張ってくる。

真正面からはルーエがやって来た。

 

「シュタアル様。先ほどの質問には私も興味があります。どうなんですか?」

「お願いだから、上着を着てぇ……」

 

お風呂上がりの3人に3方向を阻まれ、迫られたシュタアルは……

 

「あふ……」

 

鼻血を出しながら意識を失った。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

本来はシュタアルの帰りを送らせるのが当然なのだが、この状態となってしまったので結局エイルとヘリヤはルーエに送らせることになった。

まあ、個人戦力で言えば、この三名に対抗できる存在はほぼいないのだが……客人を夜道に放置するわけにはいかない。

 

現在、何とも言えない顔で我が子を膝枕しているフェルンと、その隣でうちわで仰いでいるシュタルクがいた。

 

「お風呂上がりの三人に囲まれて鼻血を出して倒れたかー。なんというかシュタアルらしい気もするけど」

「免疫力の低さはいったい誰の血筋なんでしょうね?」

「なんで俺を見るの?」

 

一応、ルーエの溜飲は下りたらしい。

だから受け入れるというわけではないだろうが……まあ、少し前よりは安定するだろう。

きっと……そうなるはずだ。せめて時々会いに行くくらいは許してあげたいのだが、彼女の立場上難しいだろう。

 

「まあ、シュタアルは……顔に似合わず真面目で誠実だし。大丈夫だよ」

「だから頭痛いんですけど。全部シュタルク様のせいです」

「なんで俺のせいなの?」

 

今年で17歳、来年からは実質大人の一員として数えられる歳だ。

そして、シュタアルも己の人生の選択を迫られる時が来るだろう。

フェルンとシュタルクは出会い、共に旅を続けた。この子たちは互いに共鳴と反発を繰り返しながら、いったいどんな物語を紡いでいくのか?

 

「こうして、甘やかせる時間も少しずつ少なくなっていくのかもしれませんね」

「そうだな。大人の仲間入りすると頭を撫でて甘やかす機会も少なくなるし」

「シュタルク様はこの地で領主になってからのほうが、膝枕となでる機会が増えましたけどね」

「……抵抗するとフェルンが怒るじゃん」

 

しょんぼりした顔でボソッと反論を漏らしたのは、一家の大黒柱でクレ地方領主のシュタルクだった。

 

「何か言いましたか?」

「何でもありません……」

 

こうして夜は更けていく。シュタアルが帰省の間、しばらくは賑やかになりそうだ。

 

~ 帰還と歓迎の狂騒曲(前編)-Homecoming and the Welcome Rhapsody 01- to be Continued ~

 




ご意見等はコメント欄かマシュマロまたはXまで。

第4部はもう少しお待ちください。
3部が平和だったのでもう少し殺伐としたいです。
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