葬送のフリーレン ~ 鋼の英雄の物語 - Path to Stahl - ~ 作:rvr75_raiden
■ 前回までのあらすじ
かつてオレオールへと旅をしたフリーレン一行は長い旅の末にシュタルクの故郷であるクレ地方に根をおろした。
立て直した村が街へと発展する中、シュタルクの不在中に盗賊被害が急増し、息子のシュタアルはフリーレンとルーエと共に盗賊討伐を志願する。
アジト内に潜入したシュタアルとルーエが人質を解放しようとする中、襲撃警報が鳴り響いた。シュタアルは人質達の先頭に立ち、ルーエは後方を守りながら脱出を試みる。だが、出口へと向かう道中、ヴェノムの手下やその元達の連れたオルトロスと呼ばれる魔物が立ちはだかる。
オルトロスを打ち倒したシュタアルだが、ヴェノムは部下たちを半人半魔物の姿へと変えてしまう。シュタアルは躊躇いながらも、魔物化した者たちを倒し、人質の脱出を手助けする。そして出口を目前にした時、ヴェノムが姿を現す。彼は過去に幼いシュタアルが傷つけたギフティが名前を変えた姿だった。
ヴェノムは「ハヌマン」と「ガネーシャ」という魔物を召喚してフリーレンとルーエを引き離した後、救出しようとしていた人質たちを魔物化させてしまう。シュタアルが救おうとした少年エンダムは最後の理性で自ら命を絶ち、他の人質たちも同様だった。
誰一人救えなかった絶望と怒りに駆られたシュタアルはヴェノムに挑むが、腹部に毒針を打ち込まれて敗北する。絶体絶命の状況で、シュタアルの体に宿る「戦士のシュトルツ」という意識が目覚め、ヴェノムに対峙する。シュトルツは「弟の子、シュタアルの中で彼を見守る亡霊」と名乗り、圧倒的な戦闘技術でヴェノムを押し返す。
一方、気を失ったシュタアルの意識はどこか別の場所へと沈んでいった——
■ 独自キャラクター
- シュタアル(Stahl) : 主人公。シュタルクとフェルンの間に生まれた長男。16歳。まっすぐな性格の青紫の髪のと三白眼が特徴の青年。出力不足で魔法はいまいちだが剣技と努力で補う。
- ルーエ(Ruhe): フェルンの教え子兼仕事上の秘書。20歳。黒髪ロングヘアと黒い瞳を持ち、師匠ゆずりの冷静な性格のようで内面は激情家。魔族の呪いを受けておりシュタルクとフェルンに救われた過去を持つ
- ヴェノム(Venom): 第1部におけるヴィラン。年齢不詳。背が高く、後ろ髪を縛った地味な見た目で露悪的な発言と行動が目立つ男。洗練された体術と非常に計画的かつ狡猾な手段で攻めてくる。
- エンダム(Andern):ヴェノムたちに捕まっていた母子の幼い少年。ヴェノムの策略により魔物化されてしまう。助けてくれたシュタアルを慕っていた。
■魂の目覚め
いつの頃からだろうか。自身に宿る自我に気づいたのは。
戦士の村で弟を守るために魔族と戦って死んでしまった。最強の戦士、シュトルツ。
死後、オレオールにてシュタルクとの再開を果たし、縁の結びつきで彼の妻となったフェルンとも対話した。
その対話を最後に、世界から消滅し輪廻の巡りの中に消えていくはずだった。
弟の妻のフェルンに未来への祈りと自身の記憶を託して。
今こうしている、この意思と意識は……おそらくは本物のシュトルツの魂ではないだろう。
この自我というべきものは……戦士シュトルツの記憶の生み出した仮初の人格。本物ではないただの亡霊。
それでも分かることがある。魂の奥底にある意識が強く訴えかけてくる。
弟を……シュタルクを守れ。家族を守れ。連なる命たちを守れ。彼らの行く先が希望に満ちた未来であるようにと。
✧ ✧ ✧ ✧
自我に目覚めて、最初に感じたことは、この体の主の危機を救わねばならないという使命感だった。
今だから分かる。
この体の主は……この少年は……かつて戦士たちの残した最後の希望を継ぐ者だ。
そして愛すべき弟の血を継ぐ子。甥の子。体なき身ではこの子を抱くことも、頭を撫でることもできないが……それでも守りたい。
この子は、純真な青年は、必死に手を伸ばし、誰かを救い、希望の光になろうとひたすらに努力を積み重ねる。
両親であるシュタルクとフェルンすらも救うために英雄の道へと歩を踏み出した青年。
優しい子だ。誇らしい子だ。愛しい子だ。
―― だから……守らねば………決して失わせはしない
■剣と誇り
中央諸国 リーゲル峡谷 谷の間の森の中
異常な戦力を持つという盗賊団の討伐作戦に向かったシュタルクとフェルンの子のシュタアル、フェルンの教え子のルーエ、そして彼女らの魔法の師である伝説の魔法使いフリーレンの3人。
アジトへの潜入は順調に思えたが、それはすべて仕組まれた罠であった。
盗賊の頭目をやっていた不気味な男ヴェノムは、部下の人間たちだけではなく、シュタアルが助けようとしていた人質までも人外の魔物に変えて襲いかからせてきた。
そして、ヴェノムの精神攻撃と猛攻により、気を失った彼を救ったのは ――
「戦士のシュトルツだ……
今は弟の子……シュタアルの中で彼を見守る、亡霊のようなことをやっている」
今は亡き、戦士の強い意思だった。
✧ ✧ ✧ ✧
吹き飛ばしたヴェノムの方に歩いて向かっている。シュトルツ。
「さて、獲物はどうするか……」
シュタアルはこれでも魔法使いの端くれだ。それ故に剣には杖の概念を付与し、自身の位相空間内に格納している。
これは魔力を扱えないシュトルツには取り出すことができない。
無手で戦うこともできなくはないが、それほど甘い相手でもない。
「ナイフでも奪うしかないか……」
そう言いながらも、ヴェノムを吹き飛ばした辺りの茂みに到着する。
「さて、そろそろ復帰しているだろう。出てきたらどうだ?」
瞬間、側面から射出されたトゲのようなものを回避した。
「無邪気につられて追撃もしてくれないんだねぇ……」
射出されたと思しき場所には伸ばした腕があり、しゅるしゅると収納された先にヴェノムはいた。
「君の手口はよく見ていた」
「本当に、英雄君とは思えない。
シュトルツとか名乗っていたね……聞いたことがある。随分と昔に死んだ戦士の名前だ」
「……」
「亡霊だとでも言うのかい?」
その一瞬、眼球を大きく見開いたヴェノムは両腕の爪を一気に開きシュトルツに飛びかかって来た。
シュトルツは半身で構え、身を翻して攻撃を回避する。
「丸腰でどう戦うんだい? 獲物は扱えないのかな?」
「そんなことはないさ」
シュトルツがそういった一瞬、ヴェノムの顔に一筋の傷が入った。
「!?」
「一本拝借したよ」
そう言ったシュトルツの手には先ほどまでヴェノムのスーツにかけていたナイフが一本握られていた。
「その程度のことでっ!!」
逆上したヴェノムの攻撃は激しさを増す。
相手は魔物化した腕二本の指に刃を敷き詰めた両手だ。
奪った小さな武器での対応は決め手に欠ける。
徐々に形勢が傾いてくるのを肌で感じたのかヴェノムはようやく笑みを取り戻し……
「もらったぞ!」
―― まずい……せめて、この体に合う剣があれば……
変化が起きたのはシュトルツがそう願った時だった。
✧ ✧ ✧ ✧
同時刻、森の別の場所では、ハヌマンとガネーシャと呼ばれた強力な魔物を倒したフリーレンとルーエが、別の戦いを強いられていた。
「こうも数が多いと厄介だね」
ヴェノムはアジトの外の見張りをしていた手下の者たちを全て触媒にして魔物化していた。
正常な判断とは思えない。アジトの中にいた者たちもほとんどが魔物化されていた。
誰1人として人間が残らない。盗賊団としては実質全滅したと言っていい。
だがしかし、人を触媒にした魔物は元の人間の能力も取り込んでいるのかある程度の知恵と魔力を持った厄介さを持つ、通常の魔物より手強い存在だ。
相手の攻撃がこちらの想定範囲内とはいえ、のんきに振る舞っていては命に関わる。
「フリーレン様、私が前に出ます」
「ルーエ、封印解除はもうだめだよ!」
「分かっています!!」
ハヌマンとガネーシャを抑えるためにルーエは一度、彼女の中にある封印していた力を利用した。
それは彼女自身の力ではない。異質な力。リスクのある行為。ルーエの人生を……人として真っ当に過ごさせるためには使わせない方が絶対に良い。
「……シュタアル様……必ずお傍に……どうかご無事で……」
✧ ✧ ✧ ✧
「ばっ……かな……!!」
ヴェノムは切断された腕を抑えながら叫ぶ。
確実に一撃が入るはずだった。そう思った瞬間に落ちたのは自分の腕だった。
「……これは?」
手に馴染む感触。これは自分の感覚ではない、体の主のシュタアルの感覚だ。
その手に握られているのは召喚ができないはずのシュタアルの剣。
不意に剣が振動した……ように感じた。
それと同時に伝わってくるものがある。この掌から剣に宿る魂を感じる。
「そうか……お前も、主を……シュタアルを守りたいんだな……」
シュトルツの言葉に呼応するように剣はより強く振動する。
「主を想ういい剣だ……
ならば共に戦おう。この一時、互いに力を合わせ、全力を尽くそう!」
相対するのは、半魔と化している盗賊の男ヴェノム。
相当頭にきているのか魔物化した箇所はメキメキと音を立てて形を変えている。
「ほざくなよ!亡霊!!」
「しばらく付き合ってもらうぞ!」
互いの叫びが衝突すると同時に2つの力がぶつかり合い、辺り一面にその衝撃を響かせた。
■去りゆく者と立ち上がるもの
―― 人を助けたかった。
母のように、誇り高い魔法使いとして
―― 希望となりたかった
父のように、勇気ある戦士として。
―― 幼い頃にフリーレンから聞かされた勇者の物語のように
―― 各地に散らばる、英雄譚のように
救いを求める声に答え、笑顔と幸福に満ちた世界を――
( 俺は……負けたのか?)
ぼんやりする意識の中で、シュタアルは見たこともない空間に一人いることに気づいた。
何も無い空間。その中に白い外套の剣士が立っている。
(父さんに……少しにている)
剣士がこちらを見て目があった瞬間、視界がフラッシュバックした。
✧ ✧ ✧ ✧
(こ、こは……?)
気がつけば辺り一面の風景が変わっていた。少し見覚えのある風景にも見える知らない場所。知らない村。分かることは――
(燃えている……)
燃えている。家も、木々も。正面の建物の一棟の壁が爆発するように粉砕された。
「ここが、噂に聞く戦士の村か」
そう言って現れたのは、身の丈ほどある巨大な斧を携えた……2本の角の生えた魔族。
「本来は名乗りを上げるのが礼儀だが今回は用立てが異なるのでな。
名は聞かん、全員剣を抜け。そして戦士の誇りを賭して全力で俺に抗え」
そう言った魔族の男は巨大な斧を戦士たちに振りかざした
「お前たちの目の前に立ちはだかるのは魔族最強の戦士だ」
(なん……だ……)
体の奥から恐怖を感じる。絶対に勝てない。確実に負けてしまう。
逃げようとしても、体が言うことを聞かないのは……先ほどからこの体は誰かの意思で動いているように感じるからだ。
まるで五感だけが共有されているような感覚。
体の主は、背後に向き直りかがんだ。
そこにいたのは……赤い髪の少年。
「逃げろ、シュタルク」
(これは……父さん……!? つまりこの場所は、このときは)
断片的な情報と聞いたことのある今住む村の成り立ちからわかることがあった。
戦士の村が滅んだ経緯。父がその場から逃げ去り一人生き残ったという、襲撃の日の出来事。
大魔族、血塗られし軍神リヴァーレ ―― かつて父、シュタルクが死闘の末討ったという人にとっては厄災にも等しかったモノが引き起こした惨劇。
「お前は生きるんだ」
その場で、父は……泣いていた。
怖いのか、悲しいのか、悔しいのか、あるいはその全てだろうか?
幼い頃の父はそんな表情のまま必死に走り逃げ出した。
体の主はその姿を見届け、安堵したように笑った。
これから死地に向かうというのに……ただ、その心の中にあるのは……一遍の曇り無く……
―― 愛するものを必ず護り通すという覚悟だけ。
そうして、男は剣を抜きながらリヴァーレに向き直った。
✧ ✧ ✧ ✧
燃え盛る炎の中、一人の男と大魔族の剣戟が鳴り響く。
誰一人退くこともなく、リヴァーレと戦い、打たれ、貫かれ、斬られ、一人、また一人と倒れていった。
残っているのは、シュタアルと五感を共有する男のみ。
体中が痛む。勝ち目などない。
それでもシュタアルは何も言わずその戦いを見ていた。
美しい剣筋だ……その一撃一撃がまるで自分の頭の中で描いた理想形をそのままなぞるような軌跡を描く。
「素晴らしい、このような場で、このような使い手がまだいたのだな!
だが残念だ。まだ届かぬ。そして、ここで倒れてもらわなければならぬ」
リヴァーレはそのようなことを言いながら斧を振り続ける。
体感でどれほどの時間、撃ち合ったのかも分からない。
満身創痍な男はただひたすらに、この場を去った幼い頃の父のことを祈っている。願っている。
生き残れるように。倒れないように ―― 幸せに生きていけるように。
(なんて……美しいんだ……)
剣も、業も、覚悟も、そしてその心に宿る一心なる願いも。一遍の濁りもない。
だが、それでも届かない。
「楽しかったぞ、礼を言うぞ、戦士よ。これは誇りある戦士である貴様への手向けだ」
両手で斧を掲げたリヴァーレはその姿勢のまま魔力を集中し始める。
大技が来る……もう満身創痍で立っている事がやっとの状態で、逃げることも叶わない。
それでもリヴァーレに斬りかかるが、リヴァーレの体はまるで岩のような感触で傷すらつかない。
(もう……だめなのか……)
聞いた歴史が正しければ、戦士の村で戦った者たちは全員が助からなかったと聞く。
つまり、これはそういう記憶だ。
体の主は、それでも笑っていた。
それはまるで、その後の未来を確信しているかのように……
「シュタルク……生きて、生きて、生き抜け……俺は、お前をあい――」
そこで、視界を含むすべての感覚が遮断され、全てが暗転した。
✧ ✧ ✧ ✧
何も無い空間に戻った。今見たのは記憶だ。自分ではない誰かの記憶。
だが、何故だろう……とても良く知るような、とても懐かしいような、そんな感覚すら覚える。
いまだ、たとえ届かず、敗北したのだとしてもその美しい剣戟は、想いは……その手の感覚と心に宿り続けている。そんな気がする。
「あれを……超えなければ……」
至らなければならない。超えなければならない。
これを見せたモノの意思がなにかはわからないが、シュタアルにそう望んでいる気がする。
「それにしても……ここは、なんだ? どうすれば帰れる?」
そうだ、ヴェノムの一撃によってその場は敗れてしまった。おそらく気を失っているはずだ。
だが、死んだ訳ではないようにも思える。
―― お兄ちゃん! やっと届いた!
どうするべきか途方に暮れていたとその時、聞き覚えのある声が聞こえた。
―― こっちだよ!お兄ちゃん。
それは小さな光。シュタアルの体の周りをくるくると回りながらその存在を彼に伝えようとしている。
「これは……」
そうだ、この声は聞き覚えがある。
―― 『凄い!戦士様で魔法使いなんだね』
忘れるはずがない。
―― 『お兄ちゃん、すごかったよ! 格好良かった!』
忘れようはずがない……
―― 『ワルイ……ヤツ……ヲ……ヤッツ……ケ……テ……』
「エンダム……なのか?」
そう声をかけた瞬間、周囲を回っていた光は歓喜するように強く光り輝いた。
✧ ✧ ✧ ✧
収束する光は人の形を取って、シュタアルの前に降り立った。
ヴェノムにより姿を変えられる前の姿の……助けるはずだった少年。
救えなかった、シュタアルの手で命を奪ってしまった少年。
「お兄ちゃん!ようやく会えた! うん、おじいさんありがとう。終わったらすぐ行くよ」
少年は、シュタアルには見えない何かに語りかけていた。
一体何と会話しているのかは見えないが、彼の傍になにか優しくどこか懐かしい光が見えた気がする。
「エンダム……これは、一体……何がどうなって?」
「ごめんね、お兄ちゃん。僕も難しいことが説明できないんだ。
僧侶姿のおじいさんが、時間をくれるからお兄ちゃんに話すべきことをちゃんと伝えなさいって」
「どういうことだ…… 死んでなくて……助かった……のか?」
もしかしたら、あるいは……そんな淡い希望で聞いたが、エンダムは首を振った。
「ううん、違うよ。僕はもう、死んでしまっている。
魂だけだから、僧侶のおじいさんに手伝ってもらってお兄ちゃんの夢の中に入り込めた」
「夢……そうか、これは夢の中なのか」
シュタアルは周囲の空虚な空間を見回した。確かに自分の意識の内側にいるような、現実とは違う感覚がする。
自分ではない誰かの、村の襲撃の記憶を見たときからずっと意識が心の深層に沈んでいるのだろうか。
そして、現実には甘い話などはない。小さな少年の命を救うことができなかった。
救えずこの手で、命を奪ってしまった。未だにその体を刺し貫いた感触は残ってしまっている。
シュタアルは少年の肩を掴み、膝をついて頭を下げる
「エンダム……ごめん……ごめん……俺が弱かったせいだ。俺が未熟だったせいだ。
誰も助けることができなかった……本当に、ごめん……」
いまだに思い出してしまう、眼の前、助けたかった人たちが塵に帰っていった光景。
悲しくて、悔しくて、腹の奥底から冷たい何かが体温を根こそぎ奪っていく感覚に襲われる。
「お兄ちゃん……違う……いや――」
そんなシュタアルに何かを言おうとした少年はその言葉を飲み込み、うんっと頷いてから言葉を続ける。
「―― ありがとう。お兄ちゃん」
「エンダム……どうして……!?」
「前にも言ったよね、助けてもらった人にはお礼を言えってお父さんから言われてたって。
だから、ありがとう。
お兄ちゃんは涙を流すほどに本当に僕達を救いたかったんだ」
言われて、自分が一筋の涙を流していることに気づいた。
「そう……か……あの時は何もわからなくなっていたけど……
俺は、泣きたかったんだな……」
そんなことすら見えなくなっていた。
そして、少年の目は、まっすぐにシュタアルを見つめており、そこに迷いも恨みも何もない。
「エンダム……だけど結果はお前を助けられなかった。お前の命を奪ってしまった」
「ううん、違うよ。お兄ちゃんは、僕を助けてくれた。
僕達は確かに、あの時点で助かる運命になかったのかもしれない。それはお兄ちゃんが来る前の話で、どうにもならなかった」
「……」
「でもね、確かに見たんだ。戦うお兄ちゃんを。どんなに傷ついても、僕達を救おうとする背中を。
僕達はあの瞬間に、お兄ちゃんの戦う姿に未来の希望をもらっていたんだ」
少年の言葉にようやくシュタアルは顔を上げる。
眼の前の少年は……もう体すら塵になり、世界から失われていた少年はそれでも笑顔だった。
「一緒にいたみんなも言っているよ。お兄ちゃんは、すごい人だって。僕達を想い戦ってくれていたって。誰一人恨んでなんていないよ」
言葉を受け止めきれない様子のシュタアルに少年は呼びかけ続ける……
「お兄ちゃんは、確かにあの時、あの場所で……僕らの英雄様だったんだ」
それでもあの絶望の中で心は救われていたのだと。
体を失い、魂だけになっても、その事を言うためにここにいるのだと。
「エンダム……」
「負けないで。あんな悪いやつに……負けないでよ。
お兄ちゃんにはまだ大地を踏みしめて誰かのもとに行ける足がある。
その両腕には、誰かに差し伸べることのできる両手がある」
もう、体のない、生きて何かを成すことができない少年の言葉はシュタアルの胸に突き刺さる。
……自身のこの身は、生きている。やれることがある。
「まだ負けてないよ、終わっていないんだ。お兄ちゃんはこうして生きている」
そう、終わってはいない。負けたなんて言い訳で終われない。
「僕達の英雄様は、すごく格好いい人だって、お父さんとお母さんに自慢したいんだ。だから――」
父と母のように、伝説の魔法使いのように、命がけで家族を救ったあの戦士のように――
「―― 格好いい所、見せてよ。お兄ちゃん!」
死者に報いなければならない。
未だ震える街の住人を救わなければならない。
ルーエ姉さんも、フリーレンも戦っている。村では妹弟たちも待っている。
父と母もたくさんの人を守るために頑張っている。
この身がここで、終れるはずがない
「お兄ちゃん。もう一人で立てるよね?」
少年は、笑顔で促す。
小さな救済の英雄の……再起の時なのだと。
「ああ、ごめ――
いや、ありがとう、エンダム。俺行かなきゃ」
シュタアルは、思わず出そうになった謝罪の言葉を飲み込みながら立ち上がる。
そうだ、ここまで来てくれた彼に掛ける言葉はそうじゃなかった。
「全部終わらせる。頑張ってみるよ」
それを聞いた少年は「うん」と頷いた後、体が徐々に光の粒子となって消えていく。
「もう時間みたい。間に合って良かった……僕も行くよ、僧侶のおじいさんが待ってる」
どこへ向かうのかなんて野暮なことは聞けない。ただそれでも少年の言葉が心に響いて残っている。
死者の魂がこの世に留まることはできないのだろう。
エンダムの姿が次第に薄れていく様子に、彼の存在が本来あるべき場所へと戻っていく自然の摂理を感じる。
「じゃあな、エンダム……みんなに伝えてくれ。俺は決して負けないって」
「うん。お兄ちゃん。伝えるよ……必ず」
そうして少年は光となって消えていく。
それと同時に、周囲の何も無い空間も歪んでいく。
「エンダム……ありがとう。絶対に忘れないよ」
去りゆく者に今できることは決して忘れないこと。
そして……その願いを、受け取ること……未熟な自分にはそれだけしかできない。
だから全力で頑張ると……そう心に誓った。
「自分の足で立ち上がって……戦わなきゃ。
顔向けもできないな……」
支えてくれようとした人たち、今なお支えてくれる人たち、自分を信じて待つ人たちのために。
あやふやになっていく感覚の中、その想いを胸に残し、青年は再起する。
光になった少年の霊は虚空と消えゆきながら、意識は再び現実へと引き戻されていく――
■再起の胎動
シュタアルが意識を失っている間も、シュトルツの動かす体とヴェノムの戦いは続いていた。
「どうした、最初の威勢は、どこへ行った!!」
切断された腕には一時的な仮初の触手のような腕を再生させ、それをふるいながらヴェノムはシュトルツに猛攻を仕掛けてくる。
(やはり今の状態では、倒しきれないか……)
実力を加味すれば、シュトルツはヴェノムより格上の使い手とは言える。
しかし、今の彼は記憶の断片から生じた仮初の存在であり、体もシュタアルのものだ。
生前の時ほどの力を出すことはできない。
そして、今までシュタアルの体の中で蓄積していた魔力のようなものを消費して存在している。つまり、尽きれば倒れてしまう。
無駄なことはできない。最小の動きで躱し、斬撃で返す。
相手も、シュタアルが手こずっただけはある。相当の使い手だ。
「ずっと妙だと思ったら、随分とダメージを食らうことを避けているね」
「……借り物の体なのでね」
「なら、これならどうだ」
ヴェノムは魔物化した腕を伸ばして近くの岩を腕の中に取り込んだ。
その腕を岩肌に叩きつけてから、シュトルツの方へと向ける。
「全部避けてみせろよ」
「!!」
ヴェノムは砕いた石礫を腕から一斉に放出してきた。
「くっ!!」
剣を使って岩を弾くが、幾ばくかは体を擦めた。
(すまないシュタアル!)
傷をつけてしまった事に罪悪感を抱きつつも、シュトルツは横に走りながら障害物に隠れる。
「あははは、ようやく焦りの顔が見れたぞ!
弾はいくらでもある。さあ、さあ、さあ」
ある程度、怪我を負う前提であれば腕を落とすことはできるかもしれない。
だがこの体の主が目を覚まさぬ中それをするわけにはいかない。
(どうする……)
―― !!! ――
その瞬間、体の奥底から全身へと轟く鼓動の音が聞こえた。
それと同時に、シュタアルの剣が震えだす。
それはまるで、主の帰りを歓喜するかのように、強く、強く振動を繰り返している。
「……そうか、ようやく……寝た子が目を覚ましたか」
✧ ✧ ✧ ✧
岩陰に隠れてしまった相手にヴェノムは笑みを浮かべる。
人格が変わったと思ったら、技の精度が変わり随分と手間取ってしまった。
だが、格上でも弱点を探し、それを利用して倒すというのは昔から常に実践してきたことだ。
分かればなんと言うこともない。
「さあ、亡霊の英雄様。出てきなよ。決着をつけようぜ」
そう言いながらも石礫を拾い上げて、腕に取り込み、また砕いて弾丸を込める。
近づきすぎないように、こちらが優位に立てる位置取りで少しずつ回り込んでいく。
瞬間。 凄まじいスピードの何かが岩陰から飛び出した。
だが……
「見えてるぜ、
」
ヴェノムはそう言いながら腕を構えて、石礫の弾丸を放った。
移動中、真正面から当たれば無事では済むまい。
獲った!
そう確信した。
「――
「魔法っ!?」
放った石礫は大地から隆起した土の壁によって防がれてしまった。
「悪いな!魔物野郎!」
「ぐあっ」
土壁の上から飛び出たその姿を見た瞬間、太陽の光で目がくらんだ。
相手の体が自分の横を通り過ぎると同時に石礫を含んでいた腕に鈍い痛みが走った。
「くそがっ……!!」
通り過ぎた後の方向を振り返ると顔の正面には剣の切っ先が向けられていた。
馬鹿な……、背後を取られた。こんなにあっさりと。
切っ先の向こう側。まっすぐと、こちらを見る眼光。
まるで……怒りも、恨みも感じない……こちらの何もかもを見透かしたような曇りなき眼差し。
(一番嫌いな目つきだ……)
戦場でも、今までの戦いでも数名見たことがある。
お前たちに一体何が分かる……そう思って真っ先に始末してきた。
いや、それより先ほどまでの亡霊の男はどこへ消えた?
そして、どうしてアレほどまでの憎悪に身を焼いていたのにこんな目ができる?
何もかもが気に食わない。
そして目の前の青年はヴェノムに向かって言葉をかけてくる。
「ヴェノム、こんなくだらないこと……もう終わりにしよう」
■明鏡止水
目覚めた瞬間、直感的に理解した。
誰かが戦ってくれていた。眠ってしまった自分を助けるために。
剣を握り、戦い続けてくれた人がいる。自分の中に……
本来あり得ないことなのだが……今はわかる。
剣を強く握っていた掌の感触がその強い想いを伝えてくれる。
―― 必ず守ってみせる ――
「ありがとう……
本当に、いつも誰かに支えられているな……」
今ここにはいない誰かへと呟くように礼を告げた。
「さあ、亡霊の英雄様。出てきなよ。決着をつけようぜ」
ヴェノムだ。これも、先ほどまでの戦闘の感覚が伝えてくれる。
投射する攻撃でこちらを狙っている。
「よし、行こうぜ相棒!」
そう言うと……剣は僅かに震えた気がした。
射線を取らせないように岩陰から一気に飛び出す。
「見えてるぜ、
」
(
どうやら、今まで戦ってくれた人格をそのように呼んでいるらしい。
だが、今はそんなことをかまっては居られない。
ヴェノムがこちらを狙っている。腕から何かを一気に射出するらしい。
(だったら!)
走りながらも地面すれすれまで体勢を沈ませ、イメージを固める。
『威力が出せなくても、発動するならば工夫すれば何にでも使えます。
必要なのは判断力と発想力でございます』
そういったのは、戦い方の基礎を教えてくれた人物の助言。
シュタアルが生まれる前から両親の家事などを手伝ってくれている人なのだが……
(いい歳なのにわけのわからないぐらい強いんだよなぁ…… )
そんなことを思い出して苦笑する。
―― そうだ、感情に任せず、冷静に、落ち着いて、よく見て、考えろ ――
「――
「魔法っ!?」
投射物が打ち出された瞬間、地面を隆起させて土の防壁を作り、弾丸を防いだ。
上位者が使えば地形が変わる魔法らしいが、自分にはこれで精一杯で、これで十分だ。
相手の視界から消えた状態で片手に魔力を込めた球体を作り上空へと跳ぶ。
そのまま……
「悪いな!魔物野郎!」
「ぐっ」
魔力の球体を足蹴にし、一気にヴェノムへと斬りかかった――
✧ ✧ ✧ ✧
切っ先を顔に向けられたヴェノムは心底気に入らないという顔をしている。
こんな状況でも一切ひるまないのは、ある意味流石と言える。
「くだらない……、くだらないだと……」
「ああ、そうだ。くだらない。
何かを犠牲にすることも、誰かを陥れることも、命を奪うことも、全部くだらない!」
ヴェノムは残った腕で、切っ先を振り払いシュタアルから距離を取った。
「お前、どうした……どうしてそんな目をしている?
少し前まであんなに良い目をしていたのに。
敵だぞ、本気で戦うためには相手を射殺すぐらいの殺意を向けろ」
よほど、シュタアルの今の状態が気に入らないらしい。
煽るような表情で言葉をかけてくる。
「俺はお前を恨まない」
そう応えると、ヴェノムの顔に怒りの感情が見えた。
「何故だ、人質を全員魔物化させたのは俺だぞ。
ほら、どうした!怒りを燃やせ。それはお前の力の原動力となる」
「俺は誰かを殺すために戦わない」
ぎりぎりと歯を噛み締めながら表情がみるみる変わっていく。
「じゃあ何故、お前は今俺と戦っている!」
「お前を止めるためだ。お前は街を襲う、父さんも母さんも、妹弟たちにも手をかけるのだろう。
だったらここで俺が止める。止めるために殺意なんて必要ない」
「あああああ!うるせぇぇぇ!!」
ヴェノムは残った腕を振り上げ、シュタアルに向かって切りかかってくる。
これだけ逆上していても、鋭い動きは変わらない。やはり強い。
だが ――
「お前を止めるのに必要なのは…… 守るためにすべてを受け止めて戦い抜く覚悟だけだ」
守れなかった人たち、犠牲にしてしまったもの。
もう取り戻すことはできない。それでも前に進むのであれば……
全て受け止め、誇り高く、何一つ恥じること無く、胸を張って、突き進め !!
―― そうだ、シュタアル。進め! 迷いなく、誇り高く、翔け!君のその掌は希望を掴みとる力がある!
心の中で誰かの声がそう告げた気がした。
目を閉じると、燃え盛る中の剣戟を思い出す。
あの光景にあった何かと、同調し、共鳴し、心と身体を研ぎ澄ます。
―― 淀み無く、迷いなく、掌のなかにある剣を振るう。
『痛いのは……怖くなんてないぞ……お前なんて……怖くなんてない!』
そうだ、いつかの日にもこの男に立ち向かった。あの時は力も業も何も持ち得ず、手も足も出なかった。
それでも、母を救うために、妹を守りたい一心で、それだけの気持ちだけで、それでも駆け出した。
強大な大魔族に立ち向かっていたあの戦士のように。
一心に、願いと想いを剣に乗せて、ただ真っ直ぐに ――
✧ ✧ ✧ ✧
シュタアルの放った一撃はヴェノムの触手型の腕を肩口から切り落としていた。
「あ、がぁぁぁ、このぉ!!」
まだ、終わっていないとばかりにヴェノムは上半身を反り返して大きく振りかぶり、シュタアルの方向へ踏み込んでくる。
「それも一度見た!」
後ろ髪の間から出てくるサソリの尾のような触手。
少し前に痛手を見た攻撃。危うく死ぬところだった。
それをシュタアルの腹部を貫くように槍のように鋭く突き出してきたが、その動作を見越していたシュタアルは体を反転して躱す。
「終わりだ、ヴェノム」
反転したその身で神速の一歩を踏み出したシュタアルは、ヴェノムの横を通り過ぎると共に ――
「がぁ……あ……」
サソリの尾をした触手は、3等分されてその場に散り落ちた。
全身に在った全ての魔物の部位を切り落とされたヴェノムは、よろよろとした足取りで後ろに下がる。
「これで最期だ!!」
がら空きの胴に拳を突き刺し、強く踏み込む。
「ご……ふ……」
感覚で分かる。拳を相手に当てた状態から更なる踏み込みと共に衝撃と振動を相手の体の芯に直接当てる一撃。
誰に教わったわけでもない、習ったわけでもない。
ただ、体が覚えている。
ドンッ!! という鈍い音が響き渡り、ヴェノムが後ろに吹き飛ばされた。
背後の岩に打ち据えられ、気を失ったヴェノムを確認したシュタアルは剣を格納し、空を見上げた。
「エンダム、見てたか? 勝ったぞ」
唯一、果たせた約束、『悪いやつをやっつけてくれ』そんな小さな……大切な約束。
■静かなりし~Ruhe~
ようやく、打ち勝つことができた。
息を整えながら、周囲を見渡す。
ルーエやフリーレンと合流するにも現在地がいまいちわからないため目印になるものを探そうとしたその時。
切り落とされたサソリの尾の先端がビタビタと動き出し ―― シュタアルの方へと針を向けてきた。
「―― 焼き尽くせ ――」
凛とした、鈴のように響く声が、耳に届く。
針を飛ばす前に切り落とされたサソリの尾が燃えて塵になっていく。
「ルーエ姉さん?」
声の主に心当たりがあったシュタアルは、振り返る。
「シュタアル様ッ!!」
「どわっ!!」
その顔を確認する前に、なにかに抱きとめられた。
鼻腔をくすぐるような華のような香りはおそらく彼女の手入された長い黒髪から漂う香り。
あと、柔らかい感触の体にあたっている。
「ね、姉さん……ちょっと……ねえ……」
「シュタアル様……シュタアル様……ご無事で……本当に……良かった……」
そう言うと余計に力を入れて抱きしめてくる。
どれほど心配していたのか、締め付ける強さが物語っている。
少しでも安心して欲しくて、彼女の背中に手を回して軽くたたいた。
「ちょっと落ち着こうかルーエ」
そう言いながらやって来たのは、フリーレンだった。
彼女は操作系の魔法でシュタアルからルーエを引き外して距離を取らせた。
「姉さん、ゴメンね、心配かけさせたみたいだ。でも、大丈夫だよ」
ルーエは涙ぐんでいるようで、目元を拭いながらも少し顔を伏せている。
「姉さん?」
下から覗き込むように確認しようとするとプイッと横を向いてしまった。
「え?なんで?」
「……見ないでください……今、酷い顔をしているので……」
「……姉さんの顔は、いつも綺麗だと想うけど…… ――痛っだッッ!! 」
後頭部にスコーンという良い音と共に、鈍い痛みが走った。
杖で叩かれたのだろう。
「シュタアル、今のはアウトだ。私でも分かる」
「いや、何がだめだったのさ!?」
「ほら、ルーエが何も言えなくなっちゃったじゃん。耳まで赤いよ」
「だって姉さんが酷い顔なんて、そんな事ないだろ!」
「それを今後一生ルーエにだけ言うなら良いけど多分そうじゃないでしょ、シュタアル」
もうなんで怒られているのか分からないうえ、この問答を続ける意味が見いだせず
シュタアルはルーエに向き直る。
「あの、姉さん、本当に俺もう大丈夫だから……」
「……そう……ですか」
しかし、二人には説明しないといけないことが幾つかある。
シュタアルは覚悟を決めて立ち上がりつつ座り込んだ状態のルーエに手を差し伸べた。
「あ……ありがとうございます」
「二人共、聞いてほしい――」
そうしてシュタアルは動かないままのヴェノムを睨んだ状態でこれまでのことを少しずつ説明を始めた。
✧ ✧ ✧ ✧
気を失っているヴェノムを魔法により岩に縛り付けた状態にしたフリーレンはシュタアルの話を静かに聞いてくれた。
「そう……」
エンダムを始めとして、救出しようとした人たちが全員魔物化してしまったこと。
全てがヴェノムの罠だったことを話した時のフリーレンの言葉はそんな端的な返事だった。
生まれてこの方、ずっと母と一緒に自分の傍にいてくれたフリーレン。
だからシュタアルにはそれが彼女の優しさであることは分かる。
どんな言葉を言ったところで事実は変わらず、救えなかったシュタアルに安い同情の言葉をかける必要もない。
「シュタアル様……大丈夫ですか?」
一方で心底心配そうにルーエが声をかけてくる。
「問題ない……なんて言えないけど、今は大丈夫だよ。
だから ―― 」
そう言いながら、シュタアルはルーエの方を見て応える。
「なんか、……腕を広げながらジリジリにじり寄ってこなくても大丈夫だよ?」
そう言うと、ルーエはその姿勢のまま固まった。
「……そう、ですか……?……本当に?……無理をしなくても……良いと思いますよ……?」
「はい……本当に……大丈夫。だから勘弁して……」
そんなやり取りをしていると、頭に掌が載せられてきた。
後からフリーレンが頭を撫でてくる。
「……よく頑張った。偉いぞ」
「……。子供扱いすんな……」
どうして、この人は……何でも見通したことを言うのだろう。
危うく流れ落ちそうになった涙を堪えて、シュタアルはフリーレンの手を振り払う。
「泣き言は帰ってから全部聞いてあげるよ。強がらなくて良い。君はそんな年齢じゃない。
何なら今からルーエに抱きついて胸の中で泣いても良い」
「……格好がつかないからやめて」
ルーエを見ると、「必要ですか?」という表情で首を傾げながらまだ腕を広げている。
胸元がちょっと見え……いや、行かないからね……。行かないよ………?
視線をそらして、咳払いをしつつ、一度、心を落ち着かせる。
「―― ちゃんと、帰ってから、エンダムたちの弔いをしてあげないと……」
「……うん、そうだね」
それが、残された者たちにできる最後の仕事だと想うから。
~ to be continued ~