ある日、試合前の球場に白猫が入り込んだ。

某所のワンライ企画で書いたもので、お題は「猫」「プロ野球」です。

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本編

 満員の球場に、突如白猫が侵入した。

 

「おおっと、トラブルが起きているようですね。審判が白猫に近づいていきます」

「まったく、どこから入ってきた? ほら、こっちに来なさい」

 

 抱えようとした審判に対し、肩に飛び乗る白猫。頭を尻尾ではたき、にゃおうと笑う。両手で捕まえようとするも、更に飛んで今度は頭へと登っていった。

 

「こ、このっ! おとなしくしなさい!」

「なんと審判、捕まえられません! 白猫の技術に、あっけなく翻弄されています!」

 

 審判を振り払い、マウンドへと進む白猫。ボールをくわえて、駆けていく。慌てて追いかけるピッチャー。

 

「こ、こら! ボールを触っちゃいけません! 返しなさい!」

 

 叫ぶピッチャー、くわえたボールを頭を振って飛ばす白猫。グローブを構えて受けようとしたピッチャーの視界が、真っ白に染まる。

 

「今度はピッチャーを弄んでいます! 顔面にへばりついたかと思いきや、ボールまで回収してしまいました! もはやこれは、真剣勝負と言っても過言ではありません!」

 

 続いて前足でドリブルを仕掛ける白猫。ライトまでまっすぐに進んでいく。途中にいるセカンドが、ゆっくりと、しかし確実に飛びかかろうとする。

 瞬間、猫は右側にボールを投げる。飛ぼうとするセカンド。合わせて左側に跳ねる白猫。

 

「なんと、セカンドを見事に抜かしてしまいました! ここまでくると、一体誰が止められるというのでしょうか! 困ったハプニングですが、私は期待が止まりません!」

 

 ボールだけでも回収しようと進むライト。ボールの前に立ち、腰を落とす。そこに、横から一条の光が走る。

 

「グローブに収まるべきボールを、猫が奪い去ってしまいました! まさに独壇場! 誰も手足が出ません! ただの白猫に、プロが敗北してしまうのでしょうか!」

 

 そのまま白猫の快進撃は続く。センターを抜き、レフトを抜き、ショートまで抜き去ってしまう。あるときはボールを上に投げ、またあるときは地面に反射させ、見る者を驚嘆させるテクニックを連発していた。

 

「再び白猫がマウンドに戻っていきます! 主であるピッチャーの代わりに、一体何をするというのでしょうか!」

 

 マウンドの頂点に立った猫は、飛び上がり、全身をしならせてくるりと一回転する。そこから、マウンドに向けてボールが飛ばされていった。

 

「なんと、空振り! 猫が投げたボールを、打ち返せません!」

 

 顔を撫でながら、バッターに向けてにゃおうと笑う猫。満足したように、球場から去っていった。

 

「これは、投球の奥義だ……!」

 

 そうこぼすピッチャーの言葉は、誰も聞いていなかった。

 

「突然の乱入者でしたが、去ってしまえばあっさりとしたものでした。さて、皆が試合の準備を進めていきます!」

 

 その日、翻弄されたピッチャーによる完全試合が成し遂げられた。だらりとしなる右腕から放たれる、抜けるようなストレート。それで何度も打者を三振にして。

 ヒーローインタビューにて胸を張って語られたことは、後々まで語りぐさになる。

 

「あの猫のおかげで、ピッチングの極意をつかめました」

「なるほど。まさに猫の魔球といったところでしょうか」

「はい。あの猫には、一生感謝するでしょうね」

 

 そのエピソードがきっかけで、投手の決め球には名前がつけられた。

 白猫にあやかった、飛び猫(シャブラン)と。

 数世代先まで、研究が続けられる必殺技。その始まりの日は、長く語られることになるのだった。


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